なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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閑話:リュックサック

<ガリバー、ちょっと良い?>

 

 ぶるんぶるんと夜闇を切り裂きエンジンをふかして進むバスの中、退屈そうに窓の外を眺めていたダンテが突然声を発した。

 

 時刻はおおよそ17時ごろ、もう少しで業務終了を迎える一日で最も長いタイミング。

 

 そんな時に響く大声、よって何やら起きると判断した囚人たちは閉じていた眼を薄く開いたり、雑誌に向けて下ろしていた眼を上げたりなどの反応を返した。

 

「ん…まぁ、良いけど…。」

 

<ふと気になって。こないだは大活躍だったでしょ? その背負い鞄>

 

「え、ああ。そうだな。でもいきなりどうしたのさ?」

 

 ガリバーは常に背中に鞄を背負っている。バスの中に居るときはその限りでもないようだが…少なくとも外に出る用事がある際は必ずと言っていいほど持ち歩いている、ランタンに並ぶ彼のトレードマークだ。

 その用途は単純、ただ収納するだけ。ヂェーヴィチ協会の次元鞄のように武装能力があるわけでも、バトラーの鞄のようにさくっと入れてさくっと戻せる類のものでもない、そんな鞄。

 

 

 さて、さて。賢い読者諸君はここで違和感を持っただろうね? もちろんそれは正しい、私もあえて言っていなかったことだから。

 

 

 この鞄は入れるだけ。普通なら入れたものを出すこともできない…いわば唯一的なものに限定した超高性能の封印装置とも言えるシロモノなのさ。面白いだろ?

 じゃあどうやって出してるのかって言われそうだけど、当然普通じゃない方法を使ったのさ。

 この遺物が発見されたのはM社の遺跡、第一発見者の私がこの袋に「キビシス」と名付けた。初めて中身を覗いたら人の生首が入ってたのは印象的だった。

 余談だがその生首は今やバックパックの中で眠りについている。勝手に動いた上に目を合わせた者が皆カチコチの石像になっているのは滑稽だったが、特別面白そうなものではなく、どこにも売れなくて行き先をなくした結果だ。

 むしろ面白そうなのはこっち、その首を封印していた袋の方。ああ、背負い鞄の形状をしているのは当然私が加工したからさ。無限に遺物を、それも安全に運搬できるなんて素晴らしいじゃないか! …入れたものを出せないという致命的な欠点はあったが。

 まあ、つまり、この鞄の特異性は内部の時が止まること、中の物を誰にも出すことが出来ないこと、それから無限に空間が広がることの三つ。だからまず私は…おっと、これだから熱くなるといけない、これ以上はただの自語りになってしまう…そろそろ話を戻そうか。

 

 

<ちょっと気になったんだよね。マッチが出て、毛布が出て、折りたたみ式の椅子も出て、挙句の果てには個包装のアイスクリームまで! いったいその鞄のどこに入ってるんだ?>

 

「ふっふっふ、知りたいか?」

 

 ダンテが頷く。

 

「本当に?」

 

「こんなくだらない事に本当もクソもないと思いますが。」

 

 イシュメールの毒舌は黄金の枝を失おうとも健在で、鋭い銛のような言葉がバスの中を貫く。それでもガリバーは言葉を紡いだ。

 

「それは…。」

 

「知らん。これ何?」

 

 カロンはいたって上機嫌に真っ直ぐな夜道を突っ走っていた。決してブレーキを掛けられたわけではないが、それでも何人かが新喜劇ばりに座席から転がり落ちた真実は変わらない。

 

「お、おい…そんな焦らしといてそりゃ無いだろ!」

 

 転がり落ちた囚人、その筆頭グレゴールがズレた眼鏡を直しながらガリバーに文句を言う。しかし当のガリバーは苦笑いを浮かべながら肩を竦めるだけだった。だからこそ、その様子に不満を抱いたらしいロージャも彼への追求に参戦したのだ。

 

「そーだよランタンくん! あんまりにもあんまりじゃないの!」

 

「そ、そう言われても…あ!」

 

 流石に二人がかりは分が悪かったのか、気まずそうに目を逸らしていたガリバーが、何かを思いついたようにポンと手を叩く。それだけで不吉なものを覚えたらしいファウストがそっと武器に手を置き、我関せずだったヴェルギリウスがじろりと彼に視線を向けた。

 

「リュックの中身をひっくり返すなんて馬鹿な真似はしないと、俺はお前の知性を買っていたんだがな? ガリバー。」

 

「え、…え?」

 

 はあ〜と重苦しい溜息が前方座席から聞こえてくる。出どころは言わなくても分かるだろう。彼はヒラヒラと手を振って再び足を組んだ。

 

「それは契約…いえ、契約以前にやめてください。このバスを丸ごと吹っ飛ばしてLCと事を構えるおつもりですか?」

 

 ファウストが警戒を崩さないままガリバーに言い放った。無言の圧力が広がる。

 囚人たちはそれに屈することのない…つまりマイペースに過ごしている者もあれば圧倒されて縮こまるものもいたのだが、ガリバーの場合後者であった。

 

「ど、どうして俺がそこまで言われなきゃならないんだよ? このバッグ何!? 怖い!!」

 

「はぁ、自分のことすらロクに分かってないんですか? 逆に何なら知ってるんです?」

 

 グサッ、という効果音がどこからか聞こえてくるような気がする。思わず涙目になるほど、彼女の言葉は突き刺さったらしい。

 

「ひどい…ぐすん、シンクレアぁ慰めて〜!」

 

「え、ぼ、僕ですか!?」

 

「グレおじはPTSDだしロージャは絶対財布スる! だから今頼れるのはシンクレアだけなんだって!!」

 

 ひーんとまたしてもシンクレアに泣きつくガリバー。情けないことこの上ないあんまりな絵面だ。

 しかし泣きつかれている当の本人は、おそらく二回目ということもあり、案外冷静に対応しているように見える。

 彼が満更でもなさそうなのは気の所為でないだろう。

 

「き、か。ま、こ、な。」

 

「えっ、帰化した魔虚羅?」

 

 ちゃき、と刀に手が添えられる音がどこからか聞こえてくる。出処はもちろん良秀。最後尾から向けられる殺気に怯えたシンクレアが慌ててこっそりガリバーに耳打ちした。

 

「“既視感を感じる。毎度毎度、子供相手に情けないとは思わないのか? ”って意味みたいですよ。」

 

「辛辣!!」

 

 少なからずそう思っていないと出てこないだろう翻訳。寄る辺を失ったガリバーは泣いた。

 

「ダンテ、時間です。」

 

<あっ、うん。…あの状態のガリバーを放置しても大丈夫なの? 今日の不眠番だよね?>

 

「はい。これ以上は藪に蛇でしょう。」

 

<そっか…。これにて囚人の業務終了を承認します。>

 

 カチ、と時計の音が鳴り、カロンの手によって運転席のボタンが押されると同時に廊下の扉が開いた。

 

<じゃあガリバー、何かあったら言いに来てね。>

 

「へぁい…ぐすん。」

 

 最後に赤い時計頭がバスの廊下の向こうへ消える。ガリバーはぐいぐいと目元を拭ってそれを見送った。

 

 

 

 

 これが最初の不眠番だが、騒がしいバスの音が聞こえない静謐というものを彼はどう感じたのだろう。ガリバーは灰色の頭をガシガシと掻いた。どこかそわそわと落ち着かないように視線を巡らせて、そしてふと、とある場所に目を留める。

 

 運転席は運転手(カロン)の定位置だ。その不文律があの無法者たちに通用する道理は本来無いのだが、その立ち位置が守られているのはひとえに最強のセコムことヴェルギリウスの尽力のもとにあるのだろう。

 

 彼は運転中にも関わらずカロンに接近する者に対し、毎度飽きることもなく二つ名の元にもなった眼光を容赦なく浴びせかけるのだ。何か理由があれば別だが、気まぐれに寄ろうとすれば“面談”が開始することは目に見えている。

 

 だから当然この席に近寄る愚か者など居ないのだが、不眠番という特殊な状況下であれば話は別だ。ヴェルギリウスとて人間であり、睡眠を必要とするのだから。

 

「……ちょっと、座ってみようかな?」

 

 腰にゆらゆらと幻燈のようなカンテラをぶら下げて、ぎぃ、と音を立てて座る。眼の前には色とりどりのボタンが所狭しと並んでいて、複雑な図形を表示するモニターが両サイドに取り付けられていた。そして何より目を引くのは、ちょうど中央に設置されている巨大なハンドル。

 

「おお〜っ! すげーっ、童心に帰れるなこれ! いつぞやの電車の運転室を再現したやつみたいだ…。普通ならこんな要らないだろうけど、ここは都市で、これはあのファウスト(主要キャラ)がわざわざ作ったバスだから…。あっ。」

 

 始まりは完全興味本位だったのだろう、彼の右手はまず皮のハンドルに向かっていた。それが、路地裏の月明かりとカンテラの他頼るものもない暗闇のせいか、狙いを誤って僅かに右に逸れる。そしてその先にはたまたま淡い黄色のボタンが置かれていた。

 

 カチッ。

 

 軽い音を立ててボタンが沈む。淡い黄色、それは光を連想させる色。

 ぱっ、と音を立ててバスのヘッドライトが点灯した。

 

「あ、あわわわわわわ…!」

 

 彼はこのライトの止め方を知らない。なんせ、バスの運転席に立ち入ったのはこれが初めてなのだから。しかしその中でも燦然と輝く確かな真実はある。

 このままだと敵が押し寄せてくるということだ。

 

「誰だぁ? 俺の縄張りでピカピカのライトを点けてる奴は…?」

 

「おかげで夜なのに寝れやしねぇ!」

 

 吸い寄せられるようにぞろぞろとネズミが影から湧き出てくる。右から、左から、前から、後ろ…は流石に居ないのは救いだが。

 しかし、少なくとも掃除屋には及ばずとも多数の敵影が出現したのは確かだった。

 

「だ、ダンテを呼ばなきゃ…。」

 

 ガリバーは廊下に駆け込もうと焦りを顕にしながら振り向いた。が、すぐにぴたりと動きを止める。そして顔を真っ青にしてガクガク震えだした。

 

「待て、これがヴェルにバレたら死ぬじゃ済まないよな!? 運転席に無断で立ち入って、こんな馬鹿な真似したって知られたら…! どうしよう…どうしようもねぇなこれ! クッソ100%こちらの過失だ!」

 

 今の彼に残された選択肢は二つだけ。この後に待つ地獄を覚悟してダンテを呼ぶか、それとも…。

 

「…このリュックの中身にワンチャン掛けるか。」

 

 ガリバーにはこの後に待ち受ける“面談”という巨大な恐怖に抗うことはできなかった。恐怖というのは直面する必要がなければそれで良いのであるし、バレなければあらゆる悪事も犯罪ではない。

 

 そんな言い訳がましいことを口ずさみながらガリバーはリュックの中に手を伸ばした。

 

 …先に言っておくが、彼とリンバス社の間に結ばれた契約のひとつに“無闇に遺物を濫用しない”とある。完全に禁じられている訳では無いが、例えば核爆弾のような凶悪で管理人にも危険が及ぶような物品は完全に封印させられているのだ。

 

 そもそも封印しないで預けてはどうか? という問いには「リンバス・カンパニーはゴミ捨て場ではない」という回答を返しておこう。弁解しておくが私がそう思っているわけでもないし、むしろ人のコレクションをそう言って突っ返すLCに甚だ遺憾だと思っている。

 

 とまあ、言い換えると、このリュックサックやカンテラのように使える遺物は十分存在している訳で。

 これを引き当ててしまったのもまた、運によるものだということだ。

 

「…なんだこれ?」

 

 しゅうううう。煙を上げて不吉な音を立てる円形の物体。火山のエネルギーが込められた遺物は今にも限界を迎えそうなほど身体を膨らませていた。

 

 おおよそのオチを察したガリバーが叫ぶ。

 

「ば、」

 

「爆発オチなんて、サイテー!」

 

 ちゅどーん。バスは吹っ飛んだ。

 

 

 

 その後の彼について?

 ……。言及は避けようと思う。

戦闘描写は増やしますか?

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