なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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984-01 愛することのできない
カジノへ


バスの中の空気は明るくなかった。

ロージャのくだらない話やグレゴールの笑い所が分からないギャグ、ヒースクリフが因縁をつける声。大小さまざまな喧騒の中でも彼らの表情が晴れないのは、ヴェルギリウスが黄金の枝を手に入れられなかったことについてねちっこくいびり倒していたからだ。

いくら弁明しても彼は聞く耳を持たず、いつしか説明することに疲れてしまったのだろう。

 

ふぅーと煙を吐き出した良秀がすっかり短くなってしまった煙草の先を携帯灰皿に押し付け、新しい一本を箱から取り出す。

それを咥えてライターを取り出して火を点けようとカチカチ鳴らす。火は点かない。どうやら油が切れてしまったようだ。

 

「おい、そ・ラ。火。」

 

良秀がそれだけ言って煙草の先を向けてくる。ガリバーは顎に手を当てしばらく黙り込むと、俯いたまま口を開いた。

 

「…えっと、これはランドセルじゃないぜ、良秀。」

 

「違う。お前のことだ、騒々しいランタン男。」

 

「……。」

 

彼は何とも言えない顔でマッチを擦って差し出した。良秀はそれで煙草に火を灯し、彼の方を見ることもせず煙草を再び口に含んだ。

 

バスのぶるんぶるんという音がよく聞こえてくる。

誰も何も喋ろうとしない事に加えて今までの仕打ちもあり、いよいよ我慢の限界を迎えたイシュメールが不満げにヴェルギリウスに尋ねた。

 

「そろそろ次はどこなのかくらいは教えてくれてもいいんじゃないですか?」

 

「あぁ、失礼したな。お前たちに任務を説明してやる価値があるのか悩んでた最中だ。」

 

 ヴェルギリウスはそう嘯いた。彼の言葉にバスの空気が一段と悪くなり、ダンテがどことなく気まずそうにカチカチと時計を鳴らしているのがよく響いた。

 

「はぁ、私しょんぼりしちゃいそう。期待外れの子供であるほど、もっと抱いてあげないといけないって知ってる?」

 

ロージャの言葉は冗談を含ませた口調だったが目元は一切笑っていない。ヴェルギリウスもそれは分かっているようで、深く溜息を吐いた。

 

「後生なんだが、今回だけは恥をかかせないでくれ。烏合の衆を連れて遠足へ行く先生に見られたくはないからな。特にウチのロジオンにはとても期待してるよ。今回は優秀なガイドになってくれるかもしれないからな。」

 

「うん?私が凄いってことは知ってるけど、知らない場所までガイドするのは…。」

 

「心配するな。慣れた道というより、馴染み深い場所だろうからな。金に溺れることも、干からびて死ぬことも出来る歓楽の巣。J社だ。」

 

「……。」

 

いよいよおどけた言葉の一言すら出せなくなってしまったロージャは、表情をすとんと落として硬直してしまった。

 

「カジノか!俺は一度も行ったことないんだよな。どんな所か気になってたんだ。」

 

「…お客様、残念ながらこのバスツアーに賭け事に興じるほどの余裕はございません。分からないなら言い換えますが、これは黄金の枝を確実に確保するためのものです。カロン、停車。」

 

「……。」

 

「…?カロン?」

 

カロンは困ったようにヴェルギリウスを横目に見ながらエンジンをふかして進み続けている。

 

「「ていしゃ」って何?」

 

「止まれってことだ。」

 

「…嫌な予感がするんだけど。おい、お前ら――」

 

「止まるのは赤色。カロンにはおいしくない赤色。」

 

カロンが前触れもなくブレーキを踏んだ。どことなく悲しそうな顔をしているが、おそらく泣きたいのはダンテ達の方だろう。メフィストフェレスはブレーキで減速するのではない、その場に静止するのだ。

 

「うぎゃっ!?」

 

当然ガリバー含め囚人たちは座席から転がり落ちたり、前の座席に頭をぶつけている。

囚人たちの怒鳴り声と文句が爆発し、先ほどとは一転して喚声がバスを満たす。あまりの騒がしさに誰が何を言ったのかすらも定かではない程に。

ヴェルギリウスは彼らの様子を尻目に鼻を鳴らした。

 

「元気があるのは良いことだ。下りろ。」

 

とんとんと肘掛けを叩いて指示する彼にホンルが怪訝そうな表情をした。

 

「うーん…目的地まではかなり遠いんですけど…。あぁ〜タクシーを呼んでくれるですか?」

 

「…ファウストさんが詳しく説明してくれると思いますが。今回は、前回の任務とは違うことが沢山あります、ダンテ。なぜなら、今回黄金の枝を回収すべき場所は…カジノの地下だから。」

 

「まさか、あの路地のど真ん中にあるピカピカしている建物のことか?」

 

ウーティスが不快感を隠しもせずに窓の外を睨み付けた。彼女の視線の先にはぎらぎらとした照明で飾り付けられた建物が数多く並び、真昼の空を派手に彩っている。

 

「まあ、そうじゃないか?パチ屋ってやたら照明が派手だし。」

 

「この前侵入したロボトミー支部は長い間放置されてた場所でしたね。」

 

「それじゃあ…あれは特殊なケースだったってことですか?」

 

上からガリバー、イシュメール、シンクレア。彼らの言葉にヴェルギリウスは小さく頷くと、微笑んだ。どこか鼻持ちならない笑みだ。

 

「こうしてみると、頭を使えない職員がいないわけでもないのに…。前の作戦はどうしてあんな申し分ないくらいに台無しになったんだろうか。」

 

「……。」

 

顔があれば眉間にシワを寄せていただろうダンテと、実際に眉間にシワを寄せているロージャがヴェルギリウスを文句ありげに見つめている。彼はニヤニヤと笑ったまま、気がついているはずなのにその視線をさらりと受け流した。

 

「黄金の枝は、多くの技術が凝縮された強力なエネルギー源だ。強いエネルギーは自然と金と人を呼び寄せ、そうしてあっという間にその上で文明が生まれてしまうんだ。」

 

「だからこそ、これから訪問する場所も他の集団達が陣取ってる可能性が高いんです。…また、カジノ以外にもあらゆる場所を訪問する必要があるという意味でもあります。」

 

「最初の任務は比較的簡単だったという意味でもあるな。ものの見事に失敗したけど。」

 

<……あの人、ねちっこいタイプなのか?>

 

ついに我慢の限界を超えたらしいダンテがカチカチと忙しく時計を鳴らした。ふと、何かを思い出したようにロージャが唇に指を当て、後ろを向いた。

 

「ガリバぁ〜、あの人全っ然優しくないじゃん。どこを見て"寛大"なんて言ったの?」

 

「館長さんと王国さん…す、すまんファウスト。」

 

きっ、とファウストがガリバーを睨む。彼はぽりぽりと頬を掻き、誤魔化すようにおにぎりを取り出してかぶりついた。

 

「た、炊き加減はちょうど良いな!うん!」

 

<王国って何?>

 

「ナ、ナンノコトカサッパリダナー。」

 

<……。>

 

ジトっとした視線を向けられて冷や汗を流すガリバー。そうやってしばらく経った頃、あまりにも露骨な隠し事に追求するのも馬鹿らしくなったのか、ダンテはふいと前に向き直った。ガリバーは安堵の声を漏らし、最後に残ったおにぎりを口の中に放り込む。

 

ようやく話が一段落ついたと判断したらしいヴェルギリウスが、パンと手を叩いて囚人たちの意識を一点に集めた。

 

「このくらいにして全員下車するか。今回は黄金の枝を持った状態で再会できるといいんだが。」

 

「今度も失敗すればどーすんだ?」

 

「さあな。カロンが急に開閉ボタンを忘れて扉が開かなくなるとか。」

 

ふっと笑うヴェルギリウス。あまりにも自然な笑みにヒースクリフはたじろいで、助けを求めるように運転席の方を見るも。

 

「ボタン、あか。おいしくない色。」

 

彼女は頼りにならなそうだった。八方塞がりになった彼は、吐き捨てるように叫んだ。

 

「こんの、マジモンのキチ…。」

 

「お・あ。」

 

痺れを切らしたのか、遂に良秀が口を開いた。

 

「お・あってなんだよ?」

 

「下りるぞ、阿呆ども。って意味だ。」

 

ヒースクリフは口いっぱいに悪態が込み上げてきたかのような顔をしながら良秀を睨み付け、明後日の方向に向かって大きく溜め息を吐いた。どうやら彼にも我慢という概念はあるのだろう。

ガリバーは彼らの様子を眺め、そそくさとお湯と魔法瓶の準備を始めたのだった。

 

 

 

 

バスから降りた囚人たちがファウストの指示で彼女を囲むように集まっている。

どこからか取り出されたホワイトボードに、きゅっきゅっと音を立てながら図を描き、最終的にきゅぽんという音と共に蓋をした。

 

「計画をご説明しますね。」

 

ファウストがトントンと白い面を叩く。

 

「黄金の枝に到達するための最優先事項は、全員カジノへ無事侵入することです。私達が調べ上げた情報によると、入口は合計で3つ存在します。一般のゲストが出入りする扉とVIPだけが利用可能な専用通路、最後に職員達が利用する裏口。我々はそれぞれの入口に一組ずつ…四名はカジノディーラー、四名は一般客、四名はVIPゲストに変装し、別れてから侵入することとなります。」

 

ひーふーみーと指折り数えていたガリバーが首を傾げた。

 

「ん?二人足りなくないか?」

 

「はい。二人はそもそも変装しませんからね。」

 

<あ、そっか。時計頭だもんね。>

 

ダンテが自分を指さしてカチカチ言った。この特徴的な頭部では確かに変装など無意味だろう。

ふむ、とガリバーが頷いた。

 

「じゃあ残り一人は誰だ?」

 

「あなたのことですが。」

 

すっと腕が上がり、指さされる。ガリバーはキョロキョロと周囲を見回し、該当者が自分しかいないと一拍遅れて理解した。

 

「俺ぇ!?」

 

「はい。ソレ(カンテラ)がある限り変装なんて無意味ですので、貴方は別働隊として動いてください。」

 

「別働隊って…。」

 

頭にはてなマークを描いている彼を置いて話は進んでいく。

 

「誰がどんな役割を担当するかは、お渡しした封筒を開けて確認してください。そして今回の作戦でも黄金の枝の奪還に失敗した場合。これからの計画に大きな支障が出る、と上層部が憂慮していました。だから今回は合同作戦でいきます。」

 

<合同?>

 

「より専門的で熟練した人たちで構成されたリンバス・カンパニーの特殊部隊…。今はLCC、クリア部署と呼ばれていましたっけ。侵入作戦においては、私達より優秀だと言えましょう。」

 

「現状でも十分多いと思うんですけど。」

 

以前はなんと呼ばれていたか気になる次第だが、イシュメールはそれよりも追加人員が来ることに不快感を示した。同僚とも知り合って1ヶ月も経っていない事だし、その気持ちは分からなくもない。

 

「わぁ!他の部署の人に会うのは初めてですね。どこにいらっしゃるんですか?」

 

どこまでも平常運転なホンルは周囲をキョロキョロと見回した。しかし誰も出てこない。

怪訝な表情になったホンルにファウストは呆れたように口を開いた。

 

「私たちは質屋の方に行きます。」

 

暗に、ここが集合地点な訳が無いだろうという言葉が潜んでいる。ホンルはそれに気がついているのかいないのか、ニコニコと笑うだけだ。

 

「今でもそういう店がまだあるのか?」

 

「ふっふっふ、グレゴール。良いことを教えてあげよう。パチカスは現金に餓えてるから、多少効率悪くても現ナマを得ようとするんだぜ?需要が消えるわけないんだ。…10000円を11000円で買おうとした時はビビった。」

 

やけに実感の籠もったガリバーの言葉に、ロージャはうんうんと頷いた。

 

「あの店が合流地点です。入りましょう。」

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