なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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質屋にて

 カランカラン。カウベル型のドアチャイムが低く、軽やかな音と共に来訪者を歓迎する。

 LCB一行が一見何の変哲もない店に一歩足を踏み入れると、古物特有のアンニュイな香りが真っ先に鼻についた。

 

「おや、どんさか入りすぎじゃぁないのかぇ? ただでえ狭い店だってのに…。トランプでもやりますかぇ、それとも麻雀でやりますかぇ?」

 

 主人が無愛想に応対する。彼の言葉は訛りがとても強く、聞き取るのにも一苦労だった。

 

「アレ何つってんだ?」

 

「J社の案内冊子読んできたのって私だけですか? ヴェルギリウスさんが出発する前に一度読んでみろって言ってたじゃないですか。」

 

 イシュメールがいつものように息を吐いた。ガリバーやグレゴールらが顔を見合わせ、お互いに首を傾げ合う。

 

「まぁ、表紙くらいは見た気がするけど…。」

 

「読んだぜ。内容は覚えてないけど。」

 

 二人の回答に心底呆れ果てたイシュメールが頭を押さえてふらつく。助けを求めたはずのダンテがどこか申し訳なさそうに頬を掻いているのを見て、いよいよ味方が居ないと彼女は悟ったのだろう。諦めたようにがっくりと肩を落とした。

 

「…ここではその日の運によって受け取る支払金が変わります。大吉なら上乗せしてくれるでしょうけど、大凶に近づくほど元手も回収できなくなるってことです。」

 

「あ〜そういえば、僕の家では端から占い師を正式雇用してましたね。家を出る直前に引いた運勢が大吉だったんですけど、こういう風に皆に会える運命を暗示してたみたいですね。」

 

「わぁ、裕福な家で悠々自適な生活をしてたのがあなたの運命だなんて。私も次にはそんな運命で生まれることを願わないとですね。」

 

 イシュメールが当たるように答えたものの、ホンルはそれを気にした様子もなく薙刀に堅く縛り付けられた布の結び目を直していた。

 

「オレはごめんだ。あんな奴らのが、なんだかんだで汚い遊び方すんだよな。」

 

「そうかもしれませんね。僕も子供の頃から弟弟と一緒に遊ぶのが嫌だった気がします。毎日反則技を使って意地悪したからですね。」

 

「いや、オレが言ったのはそういうんじゃなくて!」

 

「みんな占うのかい、それともやらんのかい? ところで…やっこさん、カタにするもんは持ってたりするんかぇ? なんかみんな身なりが…。」

 

 ヒースクリフに負けないくらいの大声で質屋の主人が叫ぶ。それにビクッと肩を揺らした囚人たちを、彼は信用ならないと舐めるように見回していた。そしてふと、ダンテの前で彼の目が止まる。

 ネズミのように素早い移動でダンテの前に立った主人は、止める間もなく彼の頭を見分した。

 

「ほほぉ…あの時計頭は良い値が付きそうかのぉ。」

 

「見積もるとどれくらい、じいさん?」

 

 ロージャがすかさず答える。

 

「おいこら主人、客を買おうとするな。ダンテは管理人で、売り物でも見世物でもないんだぞ。」

 

<ガリバー…!>

 

「じゃあ何よ?」

 

 ロージャとガリバー、ふたり揃ってニヤリと笑った。ダンテにこの前の一件で培われただろう危険センサーがきちんと仕事していれば、言いようのない危機感に襲われたはずだ。

 

「値打ち物。」

 

<ガリバー…。>

 

 軽蔑したようにカチ、と時計が鳴った。そろそろと慎重に距離を取るダンテ。

 

「じ、冗談だよ!」

 

 流石に申し訳なくなったのか。ガリバーは慌てて言い訳しながらへそを曲げたダンテの機嫌を取る仕事に専念し始めた。そんな彼を見てキャッキャと笑うロージャ。

 ファウストが咳払いをして彼らの会話を止めようとするも、今更この程度で店内の統制をとれるはずもなく、彼女の言葉は騒音の中霞のように霧散して消えていった。

 

「あぁ、このハンカチは家から出る時に持ってきたものなんですけど…。」

 

「ほほぉ…絹に龍の刺繍を入れてあるの。ステッチが細かいのが、このくらいなら…七百万…眼?」

 

 主人がホンルのハンカチを、それも細かいものを見るため鑑定ようルーペまでわざわざ取り出して見分している。

 彼の絹よりも高そうな素材で出来たハンカチには折り目一つなく、使い手の教養の高さと躾のレベルを察するにあまりあった。

 

「たったそれくらいの布きれがそんな高ぇのかよ!? 眼が腐ってんじゃねぇのか、じじい!?」

 

 ヒースクリフが叫んだ。

 

「は? こんな高級品が分からんのかぇ…。はぁ、そんなガラクタの指輪なんてはめてるからの…。チッチッ。」

 

「今なんつった。」

 

 ヒースの花をあしらった安っぽい指輪を嵌めている手を無意識にか後ろ手に隠し、彼が今にも飛びかかりそうにバットを振り上げた。横に居たホンルが指輪を褒めてなだめなければ、今頃店内はスプラッタの惨状になっていただろう。

 

「誰かー、麻雀やろうよー。勿論賭けね!」

 

「だ、駄目ですよロージャさん。仕事中ですし…。」

 

 ギロリとこちらを睨むウーティスに怯えた視線を向けながらシンクレアは縮こまった。ロージャに肩を組まれているので逃げることは出来ないと悟ったらしい。

 

「かったいなぁシンクルは。ねぇーおちびちゃん、アンタ、お互いに秘蔵のお菓子を賭けあって遊ばない?」

 

「それは面白そうであるな! そうだ、グレゴール殿や管理人殿も混ざるでありますか?」

 

「俺? 確かに悪くなさそうだな。どれ、試しに一手。」

 

 グレゴールはむしろ挑発的にウーティスを一瞥して麻雀卓の椅子を引いた。ダンテはしばらく考えるように手を頭にやっていたが、しばらくして結論が出たのかカチカチと時計を鳴らした。

 

<私はお菓子を持ってないし、そもそもルールを知らないから見てるだけにするよ。>

 

「ざんね〜ん。じゃ、三人でやるか!」

 

 結果は勿論、推して知るべし。ロージャの機嫌は良くなったし、グレゴールとドンキホーテは悲しそうにチーズやチョコレートを眺めていた。

 

 一方放置されたウーティスの方は、良秀やムルソーと共にショーケースをじっくり見物している。

 

「ふん、つ・安・品。見ているだけで目が腐りそうだ。」

 

 良秀がペッと痰を吐く。ふたりとも彼女の行動を特に咎めることもせず、手慣れた様子で質に入れられた品を手に取っては戻していく。

 

「ここに来る者たちの経済力は高くないようだな。」

 

 ムルソーが呟く。

 

「くだらん。賭け事に興じて自己研鑽を忘れるなど軟弱者のすることだろう。」

 

 ちらりと惨憺たる状態になってしまった麻雀卓、そして対岸の火事とばかりに見事なまでの勝ちっぷりを見せたロージャへ拍手を送るシンクレアとダンテが、一方大事な財産を失ってしまったドンキホーテとグレゴールに無理やり座らされている光景に、ウーティスは鼻を鳴らしていた。

 

 ダンテの機嫌を取り終えたガリバーは主人とカウンターで話をしていた。

 

「なぁ店主、これとかどうだ? 何かよく分からないけど入ってたんだ。リュックの中に。」

 

「何でそんなのを入れっぱなしにしてるんですか…。」

 

 整理整頓しなさいって言いましたよね? とイシュメールに咎められて居心地悪そうに眼を泳がせてはいるものの、あの一件から彼も自分の持ち物はしっかり把握しようと思ったのだろうか。リュックからまず一塊になっている糸の束を取り出した。

 

「なっ!? こ、これは…遺物かぇ!? このなっが〜い65年の人生でも、こんな貴重なもんは初めて見たさぁ…。」

 

「何でそんなのを入れっぱなしにしてるんですか!?」

 

 ギン。

 背後から視線を感じて振り向いた二人。その先には死屍累々の麻雀卓、そして大勝ちで欲望を限界まで膨らませたロージャが眼をぎらぎらと輝かせて見つめていた。

 

「ガリバー、ちょっと。リュック貸して。」

 

「ロージャ? 目が、目が怖いぞ? ロージャ? ぎゃーっ!」

 

 押し倒されてリュックを奪われ、ロージャがどうにかこれを質に入れようと主人に頼み込み、さすがの主人も…いや彼もほしそうだったが、これを買い取れるだけの金が無いとしてそれを断って、それでもとロージャがさらに頼み込んでは主人の心をぐらぐら揺らす。

 

 そんな混沌とした空気の中で、少し低めのドアチャイムが再び鳴り響いた。

 

「心配したじゃないですか、ファウスト。」

 

 耳につくほどの猫なで声。愛想が良すぎていっそ皮肉めいて聞こえる女の声が響いた。

 

「会うのは4時だったんですが、15分も過ぎてしまって。あなたが時計を見る方法を忘れたはずはないでしょうし、そうですよね?」

 

「はい、バスを運転したのは私ではないですからね。」

 

 ファウストがこともなげに答える。が、その表情がどこか苦々しげなのはきっと気の所為でないのだろう。

 

「あはぁ、だからこんな時計人間まで連れて歩いてるのか? アラーム機能はなかったみたいだなあ。」

 

 続いて見下しきったような鼻につく声が、今度はぎゃいぎゃいやかましく騒いでいた囚人たちの耳にもしっかり届いた。

 

<おい、酷いじゃないか。初対面だっていうのに…。>

 

 ダンテがそう愚痴るのも仕方のないことだろう、彼の言葉はこの場にいる囚人たちの気持ちを切に代弁するものであるから。

 

「あぁ、お前たちか? この前の黄金の枝の奪還作戦をぶち壊しにしたやつらって。都市で屈指の天才が属するチームだって話だったから、周りからもかなり期待されてたんだけどな。」

 

「なんだか…ファウストさんの顔色がずっと悪そうに見えますけど。」

 

「私の表情はいつも同じでしたよ。」

 

 期待外れだという表情を彼らは隠しもしない。ファウストも自分の口癖を皮肉に使われ、あまり良い気分ではないようだった。

 

「おい、おめぇは何でじっとしてんだよ? こいつもそこそこ頭脳派だろ。無視すんなよ。」

 

 ヒースクリフがイサンを横目で見ながら言ったが、イサンは気乗りしないようだった。今までの言動から推察するに、自分が天才と呼ばれるのを酷く嫌がっているように思える。

 

「ただ、いたずらなることゆえ。」

 

 イサンの声が空虚に響いた。

 

「どうしたんだ? 地下じゃ結構元気そうだったけど…まさか、酔った?」

 

「否。さほど酷い惨状でもあらじ。」

 

「なんだ、いつも通りか。」

 

 心配して損した、と呟きながら肩をポンポン叩く。すっと距離を取られ、ガリバーはどこかしょんぼりとした表情になった。

 

 怒りか悔しさか、それ以外の要員でもあるのか。先程までは静かに、誰にも気づかれないほど小さく震えていたファウストが、いつの間にかエピとソードをしっかりと見つめていた。二人がにわかにたじろぐ。

 

「最初の任務はそもそも失敗を念頭に置いた計画でした。各自の潜在能力を確認する時間が必要だったから。」

 

「…そうだったのか?」

 

「最初から目標が失敗の作戦なんて、作戦と言うには微妙だな?」

 

 軍出身の二人が不思議そうに首を傾ける。おまけに肝心の無礼者たちにはただの言い訳だと捉えられたらしく、彼女の言葉がまともに取り合われることは誰にもなかった。

 

「ヴェルギリウスさんはどこに行きました? 私はあの方に会えるかと思って作戦に合流すると言ったんですが。」

 

「あの方も恥ずかしかっただろうな。こんなひよっこたちと一緒だって考えてみろよ。」

 

 遂にファウストにすら見下すような眼を向けるようになった二人。隠されてもいない陰口が二人の間に横行されるようになり、ヒースクリフがそのあんまりにもあんまりな言われように青筋を浮かべた。

 

「くっ…あん野郎、わざと遠いとこで降ろしたのか? オレらが恥ずかしいから!?」

 

 …どこかズレている気がしないでもないが。

 

「…どうして私たちを卑下する発言には誰も反論しないんですか。それに自己紹介でもしたほうが自慢であれ、虚勢であれ意味があるってことはご存じないんですか?」

 

 イシュメールの指摘に二人で目を合わせ、肩をすくめる。その姿は息ぴったりに揃っていて、彼らが過ごしてきた時間を感じさせるものだった。

 

「今回、共同作戦をすることになった方々です。リンバス・カンパニークリア部署、LCCからいらっしゃいました。」

 

「ビフォーチームまで付けてくださいよ。あぁ、私はソードでこの人はエピです。」

 

 ソードと名乗った女性の紹介に伴って片手を挙げるエピ。

 それを否定したいが出来ないという複雑そうな顔でグレゴールが煙草を吐き出した。

 

「まぁ、拍手でもしたほ…。」

 

 いやいやながらも一応は歓迎する、そのような態度は礼儀という概念がちょっぴり残っているLCBの面々に共通しているものだ。ただし。

 

「わぁ! お会いできて嬉しいです!」

 

「俺はガリバー。こっから、あー、大っっっ変迷惑をかけるが、まぁよろしく頼むぜ!」

 

 心から歓迎している者も約二名居るが。まぁそれ以外の半数ほどは疑いを、もう半数はピリピリと警戒したような視線を彼らに向け、二人はそれすらも受け流していることは間違いないだろう。

戦闘描写は増やしますか?

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