なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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完璧な作戦

「さぁ…今回の作戦はですね、私たちがスプーンで掬ってあーんしてあげますから、ただ口を開けてよくよく噛んでくださればいいのですよ。この封筒に入った文章を確認して、底に書かれている通りに、そのま〜んまやってくれればいいんです。」

 

 ソードがぴらぴらと手に持った封筒をおもむろに見せびらかし、一枚一枚手渡していく。律儀にも毎回どうぞ、やら、はい、やらの声掛けをしている辺り、本当に優秀ではあるのだろうが。

 

「なんだよ、口じゃ共同とか言いながら一緒にやることは全く考えてなくて、ただケツでも追っかけてこいってことか。」

 

 ヒースクリフがぼやく。普段は犬猿の仲のように見えるものの意外と気が合うのか、イシュメールも不服そうに眉を寄せた顔で二人を睨み付けた。

 

「プライド傷付くわぁ。私たちのことマヌケだとでも? 管理人さん。こいつらに、ちょっと目に物を見せ…。」

 

 ぴら、と書類を一枚抜き取った。

 

「見せ…。」

 

 次第に表情も言葉も失っていく彼女を不思議そうに見つめる視線がひとつ、ふたつと増えていく。最終的に結論が出たのか、イシュメールは呆然とした表情で得意げな表情のエピ、ソードを見つめた。

 

「…なくてもよさそうね?」

 

〈えっ?〉

 

「こいつらのくれた文書なんですけどね、完璧です。これ見てください。導線まで全部書いてあります。こんな綺麗で体系的に書かれている文書はひっさしぶりに見ましたね。」

 

「うむ、確かに。まともな作戦計画を書いてきたのが分かるな。あぁ、もちろん管理人様の計画性に比べると爪の先ほどもないけど。」

 

 あのウーティスでさえ認めたほどの文章だ。次第に、皆が信じられないといったようにそろそろと封筒を開封して中身を検める作業に入った。

 

 要約すると、今回の作戦は以下の通りだ。

 

「カジノの最上階到達作戦」

 

 作戦のきっかけとなったのは、今日行われるギャンブル大会の優勝景品。

 カジノの最上階で行われる大会の勝者になってようやく、黄金の枝がある場所までの道が開かれるようだ。

 そして、彼らはそのカジノに参加するとある組織に変装して侵入するとのことだが──。

 

〈ぽんぽん派?〉

 

 ダンテが素っ頓狂な音を鳴らした。

 

「名前が組織の性質までを代弁してくれるわけではありません。薄っぺらい偏見に過ぎません。」

 

「偏見という色眼鏡をあえて付けるは、理想的にあらざりけり。」

 

〈…そっか。〉

 

 ダンテが何か物言いたげに腕を組んだが、この短い付き合いだけでも彼らに意見するのは骨折り損だという事をしっかり理解したらしく、彼は結局何も言わなかった。

 

「なんとも気が抜ける名前だな…。名は身体を表すんだぞ? これで偏見を持つなって方が無茶だろ。」

 

「そうですね〜。ぽんぽん派、どんな組織なんでしょう?」

 

 つまり、彼らはギャンブルに参加し、どうにかして黄金の枝を手に帰らなくてはいけないといった内容だった。どうにか、というのは手段を問わないだろう。

 

 それまでは質屋にある物品を使用して偽装状態でカジノに侵入、各々与えられた身分に従ってVIP利用客やディーラーに変装し、最上階の成功連絡を待つ。

 計画の骨組みはこんな風に要約できるけど…。

 ちょっと待て。これ最上階で負けたら計画が全部水の泡になるんじゃないのか?

 

「もしものために備えて偽装身分所まで準備しました。カジノでは不意に身分検査が行われることもありますし。」

 

「よし、だいたい良いぜ! しっかし、最上階のギャンブルにはどうやって勝つつもりだ?」

 

「俺たちの服装見たらなんとなく分かんないか? カジノディーラーとして自然に振る舞えるように何ヶ月も練習したんだ。適当に良い札を渡すから。目さえちゃんとついてるなら負ける心配をする必要もないだろ。」

 

 ガリバーはちらりとダンテを見た。

 

「…目、ついてないけど。」

 

「どうにかしろ。俺等にできることはやってやったんだ、後はお前ら次第だ」

 

 ガリバーは物言いたげな表情のまま黙りこくった。まるでこの後に大きなハプニングが起きることを予期しているような、そんな表情をして。

 

「ぽんぽん派のボスには、どうやってなりすますんだ?」

 

「カジノで提供される食事に睡眠剤を混ぜます。コック長ともすでに話が付いています。」

 

「睡眠薬…。」

 

 イサンがボソっと呟く。

 ソードとエピがお互い目を合わせるとウィンクした。

 目が合うだけでもお互いの心が通じるという最適のコンビだってことがありありと分かる動作だった。

 

「しゃちょうさ〜ん、陳列台のここからあそこまでの品物、ちょっと見物しますね〜。」

 

「はえぃ!? あぁ! あんれまぁ、はい。もちろんです。ゆっくりご覧くだせぇ。」

 

 先ほどとは打って変わって、質屋の主人は腰が食い込みそうなくらいペコペコしていた。

 

「じゃあ皆さん、ここから適切な物品を持って行って下さい。」

 

「わぁ! これ、グプシャのデザイナーが作ったブローチですよね?」

 

「ひゃあ〜これが分かる方がいらっしゃるとはのぉ。我が質屋の大黒柱なんですぇ。十個しか作られてのぉて、きっと言い値で…。」

 

「僕の家の犬が散歩するときにつけてたリードの飾りだったんですよ。また見られるだなんて、凄く嬉しくなりますね!」

 

「……。」

 

「金持ちって、すげぇな。」

 

 ガリバーが呆然と呟いた。

 

「私はこの牛革製の手袋が欲しいな。これを買ったやつはきっとファッションセンスが人並じゃなかっただろうなぁ〜。」

 

「封筒に書かれてる通りに持っていってください。それぞれの役割がありますので。」

 

 彼女の指示に従って、それぞれ囚人たちはわいわいがやがやと散開した。各々風の向くまま気の向くまま、展示されている品物と書類を見比べながらひとつひとつ手に取っていく。

 

 そのうちの一人であるガリバーは、しかし唯一その場から動かない。彼は眼を細め、何度かこすり、見間違えでないことを念入りに確かめて、それからエピソードの方へ振り向いた。

 

「なぁ、俺は「無し」って書かれてるんだけど…」

 

「あなたはこちらの服を。」

 

 そう言われてさっと取り出されたのは探検家の衣装。使い古された服をじろじろと眺めたガリバーが、ふと何かに気がついたように眼を瞬いた。

 

「なぁ、もしかして、この服…。」

 

「はい。あなたの私物です。この期に返却しますね。」

 

「どうなったと思えば。いつの間に回収してたんだ?」

 

 彼は気恥ずかしそうに笑い、そそくさとそれを背中のリュックに仕舞った。どうやら彼にとって思い出深い代物らしい。

 

「仕舞わないで、ちゃんと着てください」

 

「チッ」

 

 訂正、着たくないからそそくさと仕舞ったらしい。どうせ見えやしないからとデザイン性の一切をかなぐり捨て、おまけに多くの機能を付属した結果増した重量がお気に召さなかったようだ。

 

「やや、私の封筒には掃除屋と書かれているが、何か勘違いがあるのではあるまいか!」

 

 ドンキホーテが叫ぶ。ソードがちらりと彼女を見、興味を削がれたのかふいと視線を外した以外の反応は返ってこなかった。

 それでも誰か賛同者が現れることを期待してか周囲を見回す彼女へ、残酷にもグレゴールの声が真実を告げていた。

 

「よし、だいたい良いけど…どう支払うつもりだ?」

 

 勘違いは無いという事実に愕然としているドンキホーテをよそに、エピがそんな事かと鼻で笑った。

 

「はしたないなぁ、なんで予算の心配をするんだよ? このブラックカードで落とせないものはないんだよ」

 

「大人のカードだ、大人のカード! ずるい!」

 

 そのネタはエイプリールフールまで待とうか?

 ガリバーが興奮してカードを取ろうとし、それを見たエピが眉をひそめながらカードを高く持ち上げ、それでもどうにか取ろうとしているガリバー。低身長の悲哀が彼の一挙一投足に現れている。

 

「基準以上の成果を上げる部署には会社から限度額のないカードをくれるって噂は事実のようですね。」

 

 ファウストが眼をかすかに開きながらカードを見ていた。彼女もとても羨ましそうに見ていたが、流石に理性が勝ったのかガリバーのような真似はしなかったらしい。

 

 そう彼らがワイワイ、またはグダグダと作戦を進めていた時。不意にドアチャイムがガラガラと鳴った。

 

「おいじじい! 今日までみかじめ料出さにゃぁならんの、知ってっか?」

 

 ドスン、ドスンと足音を鳴らして質屋に入ったとある客。彼は周囲にある質や占いに目もくれず、一目散に店主の下へ歩み寄った。

 サッと道を開けるLCB一同。店主は彼の声を聞いた瞬間からすっかり萎縮してしまい、とても小さくなってしまっていた。

 

「い…いちどだけ見逃してくだせぇ。次は必ず納めますから。」

 

「一度? じじい、足し算もできんのか? この前もおんなじこと言っとったろ! おらがジジババの算数べんきょ見てやって兄貴にボコられろってか?」

 

 訛りの強い恫喝が店内に響く。ビリビリとした大声に眉をひそめる者、はたまた柳に風と揺らがぬ者、その対応は人によって様々だったが、少なくとも店主が先程よりも更に小さくなったのは間違いないだろう。

 

「わ、わしみたいに力ものぉて、体もボロボロの老人から何を搾り取っれると思っとるのさ…!」

 

「あぇ? 今度は大声だしちょるのぉ? や〜い、怒れや怒れ! そいたらおらも罪悪感ちゅうもんが減りそうやかんな!」

 

 ちらちらとこちらを見る店主。気が座っているのかいないのか分からない。ただ厚顔無恥なだけかも知れないが、それは明らかに助けを求める視線であった。

 

「何見とる? 見せもんか!?」

 

「わぁ…典型的すぎる台詞で返事する気も失せましたね。もうちょっとクリエイティブな因縁の付け方はできないんですか?」

 

「僕たちが助け…た方がいいんじゃないですか?」

 

 イシュメールは笑い飛ばし、シンクレアは居心地悪げにせわしなく手袋をいじくり回している。

 そしてガリバーは何とも言えない表情を浮かべてその光景を見ていた。

 

「助け…助けた方が、良いよなぁ…でもなぁ…。」

 

「なんだか煮え切らないですね。はっきり言ったらどうです? 自分はアイツを助けないって。」

 

 イシュメールのその一言を受けて満足げに頷いた巨漢は、周囲の心配を捨てて眼の前の事柄に集中することにしたようだ。耳につく猫なで声が印象深い。

 

「ふん、カネがねぇならそいつを渡せば良いだろぅ? 何度も言っちょるのに。」

 

「そ、それだけはいけませぬ…。後生ですから…。」

 

〈…本当にあのまま放っておいて良いんだろうか?〉

 

 ダンテがカチ、と時計を鳴らす。それを耳聡く聞きつけたウーティスが視線を巨漢から離さないまま尋ねた。

 

「見苦しいならわたくしが行きましょうか、管理人様?」

 

 ダンテが決めきれずに腕を頭にやっていると、グレゴールがトントンと彼の肩を叩いた。

 

「ところで、「あれ」ってなんだろう?」

 

「…ここにはお金以上に価値のある通貨が存在します。J社の特異点は何でも閉じられる強力な保安技術です。でもそんな保安技術が生まれた背景には、J社の裏路地の長い歴史と文化的要因にあります。」

 

「れ、歴史…? お前今、それをここで説明すんのか…? 入社条件に勉強があるなんて知らなかったってのに!」

 

「文化? どんな文化だ? 続けてくれ!」

 

 ヒースクリフは鬱陶しそうに貧乏揺すりを始め、ガリバーは瞳を輝かせて傾聴の姿勢に入る。あまりにも対照的な二人の行動に、ダンテはメラメラと頭の炎を心なしか揺らした。

 

「ここでは人々の「願望力」を抽出することのできる技術が使用されています。特異点として世間一般から承認されるには普遍性が少し落ちるので、大衆的に知られているわけではないですが。一種の「運」を売買するのです。貨幣のように。」

 

「なるほど。運だとか価値だとか、そういった概念的なのを一所に留める必要があった。だから「何でも閉じられる特異点」なんてのが出来たんだな!」

 

「……その通りです。ファウストが言うべきことが無くなってしまいましたね。」

 

 こちらもまた何とも言えない表情で口を閉じたファウストに、歩み寄る影が二つ。エピとソードだ。

 

「いやぁ〜ファウスト、こいつらの目線に合わせた教育を施すのは骨が折れそうだねぇ。」

 

 クスクスという笑い声が聞こえる気がする。確実に彼の言葉には嘲笑が多分に含まれているが、ファウストはムッとしたような声色で果敢に切り返した。

 

「念頭に置いていたので大丈夫です。」

 

「その言い方、すっげぇ気に障るんだけど…。」

 

 結果としてLCBが貶められることに鳴ったのは、まあ御愛嬌。

 

「まあまあ、それじゃあ私たちは陳列台にある適切な物品を各自ピックアップして、ここから離脱しましょうか。」

 

 ソードが手に持った紙をヒラヒラと揺らし、どことなく大きな足音で陳列棚の方に向き直った。

 

「私たちは一介の会社員であって、正義のために前へ出る「ヒーロー」ではないですから。」

 

〈待って…その単語は…!〉

 

 殺し文句とはまさにこの事だろう。あのじゃじゃ馬の制御を完全に取っ払う一撃は、最大最高の効果をもって機能した。

 

〈誰かさんの価値観とは…大きく…かけ離れた…発言なんだけど…。〉

 

 誰かさんの価値観を大きく刺激する発言でもある。

 そしてダンテの言葉をいち早く悟り、ガリバーが動いた。その反応速度は未来予知を疑われるほどの速さだった。

 

「他人の貴重品をむやみに略奪しようとは! まさに、悪人の行動としか──」

 

「はいストーップ! おさわり厳禁!」

 

 ガシッとドンキホーテの両腕を抱え、慣性の力もありドンキホーテの動きはピタリと止まった。

 

「な、何をするか!」

 

「うお待って力強っ…やっぱヤベェよこいつ! 色んな意味で!」

 

 ジタバタと暴れるドンキホーテと、その動きをロクに止められていないガリバー。役に立たない彼を罵るべきか、あの体格で男一人を引っ張って…しかもそれなりの速度で動いているドンキホーテに驚嘆すべきかイシュメールが迷っている内に、巨漢もこちらの騒ぎに気がついたようだ。

 

「なんだぁ、おめら。まさかおら達に楯突くつもりかぁ?」

 

 上から降りてきた影にぴしりと固まるガリバー。その隙に彼の束縛から抜け出したドンキホーテがキッと決意を宿した眼で男を見上げ、ランスの石突をカンカンと鳴らした。

 

「そうだ。お前は何の罪もない店主殿を恫喝した上、大事な大事な宝物まで奪おうとしている! それを正義のフィクサーが見過ごすと思ったか!」

 

 しーん。静寂。

 それは決して彼女の言葉に感銘を受けた物ではなく、呆れと困惑に包まれた静寂だ。

 

「あぁ、ちなみに囚人たちを統制する役割は私に課せられた業務に含まれていませんでした。こちらの方の役割です。」

 

〈そう見つめても無駄だよ。私じゃあいつの統制はできないんだって…。〉

 

 げんなりしたダンテを励ますようにポンポン背中を叩くガリバー。

 どうにも無責任だが、彼が心の底から同情したようにダンテを見つめていた事は確かだ。

 

「はっ、そりゃつまり、おめらはおら達ぽんぽん派に喧嘩売っとるってことで合ってんな?」

 

 巨漢がのそり、のそりと肉切り包丁を手に近づいてくる。

 ドンキホーテがランスを構え、緊張した空気の中…

 

〈あれ? これ、どこかで──〉

 

 ダンテがデジャヴの原因を探る間もなく、一閃。黒い斬撃が宙を飛び、次の瞬間、肉でデザインされた二つの噴水が店内に現れた。

 ブシャーッ、という音と共に吹き上がる鮮血。頭から被った真っ赤で血なまぐさい液体。

 エピとソードがギギギ、と振り返ると、下手人は薄笑いを浮かべて煙草を吐いていた。

 

「ハッ。少しはマシになったじゃないか。」

 

〈な、ななな…。〉

 

「何やってんだお前!?」

 

 良秀だ。

 良秀が片手に刀を持ち、二人の首と胴体を泣き別れさせたのだ。

 急いで時計を回すダンテ。しかし時が戻るのはドンキホーテのみであり、戻らない命は当然そのままである訳で。というか普通は死者蘇生なんぞ起こらないわけで。

 

 つまり。

 

「な、何が起きてるんじゃぁ…!?」

 

 こうなる。

 

「あー、その件はご内密に。ね?」

 

 ソードは混乱を僅かに滲ませながら、しかしドンキホーテが蘇生している間に手早く紙を店主の懐に滑り込ませた。

 

「あーやーそうじゃな! ああ! ワシは何も見ていない!」

 

 そしてそれは功を奏した。

 店主は誤魔化すように大きな声で笑うと、掃除用具入れの方に足を向けようとして──

 ピタリ。止まった。

 

「ところで…こいつ、死んじまったんですよねぇ」

 

「ああ、これで生きていたら生命力はゴ…蟻並みだな。」

 

 ゴキブリ、と言いかけ、それだと自分を引き合いに出すことに気がついたグレゴールは急遽別の虫で言い換えた。

 

「あーあ。「ユロージヴィ」に出られると色々とややこしいんじゃがなぁ。」

 

 彼はふるふると首を振り、掃除用具入れからモップと水バケツを取り出した。

 

「ユロージヴィ? あいつらがどうしてここに…いえ、それよりもなんであいつらの心配をするの?」

 

 ロージャがその瞳の奥に懐古を滲ませながら店主に尋ねると、彼は意外そうに眼を数回瞬いた。

 

「あんれぁ、噂が回るのがおそいですなぁ。もう数カ月も前からこの近くで暴れ回っておりますのに。」

 

「彼らも悪党か!?」

 

 復活したドンキホーテがガタリと音を立てて立ち上がる。苦痛を全てダンテに押し付けた彼女は今やいつも通りの絶好調を取り戻していた。

 

「いんやぁ、我々にとっては悪党でしょう。なんといったか、カネをかすめ取ってる売人どもをぶっ潰して貧しい人に分け与えるべきだとかなんとか。なんかの分配って言っとりましたけど…。」

 

「あー、あったな! えっと…鳥の再分配!」

 

「富の再分配」

 

 ノータイムでムルソーから修正が飛んできた事を受け、ガリバーは若干顔を赤くして引っ込んだ。

 

「あぁ〜そうです、それ。はぁ、私たちにそんなお金があるもんかって話ですよ。それに自分たちが来てやるわけでものぉて、毎回このあたりのならずもんを遣わせて回ってるんですぇ?」

 

 店主はうんざりした溜息を零し、はぁ〜あと露骨に面倒くさそうな態度で雑巾を手に取った。

 

「何はともあれ、正しいことやりますって意気揚々と出回ってて大変ですのぉ。最初は何かを探してたみたいですけど、今やお金ばっかし奪って…。」

 

「…あ! と、ところでね。私たち逃げたほうがいいんじゃないかな? ぽんぽん派がやってくるかもしれないし。」

 

 ロージャが慌てて話を遮り、注意を自分のもとに集めた。自分で始めた話題なのにこの態度は違和感を覚えなくもないが、それはそれとして彼女の言い分は真っ当だった。

 こんな場面を見られれば、間違いなく自分たちがターゲットにされるだろうから。

 

「はぁ、あったま痛い…余計なことばっかり。」

 

 エピが呻く。それを見かねたのかグレゴールが慌てて二人に話を振った。

 

「おい、エビとソバっていったか? そんな顔するなよ。質屋なんてそんじょそこらにあるだろ? いくらでも対処を…。」

 

「エピとソードです。人の名前を美味しそうにしてもらえないでいただけると助かります。」

 

「おっ、食いもん仲間。ちな俺はガリバタ呼ばわりだったぜ。」

 

「そんなことはどうでも良いから。で、そんじょそこらに質屋があるということはつまり…。」

 

 ガラガラ、ガシャン。店の中に居ても聞こえる、シャッターを閉じる轟音。

 

「この騒動に気付いた全ての質屋が、間もなく閉店準備に入るということです…。」

 

〈ドンキホーテ…!〉

 

「バカどもにいちいち説明するのももう疲れるよ。さっさと行こう。」

 

 本日何度目かも分からない溜息を吐きながらエピが扉を開こうと取っ手を握り、しかしエピがその取っ手を動かす前に勢いよく乱暴な手つきでドアが開けられた。

 眼の前には狐のような痩身の男が一人。

 

「おい、じいさん、俺んとこの末っ子を見なか…。」

 

 彼の眼に血みどろの床が映る。続いて足元に転がる生首と、倒れた死体を見比べ、そして驚愕に眼を見開いた。

 

「な、が、ガリ? くそぉ、ガリぃ!」

 

 エピを容易く押しのけて店内に侵入。男は生首を大切そうに抱え、胴体に駆け寄った。

 

「誰だ、どこのどいつだ! 俺たちの末っ子をこんなにしたやつは! 四肢だけじゃ飽きたらねぇ、お前にされた事を百倍、千倍、一億倍にして絶対返してやるからなぁ…!」

 

「老婆心で言うんですが、私には全く分かりませんのぉ。今ちょうど遺体を清めてやろうと、手ぬぐいを持ってこようとしてたところでして。」

 

 すかさず保身に走る店主。この都市で長生きするだけあって、変わり身の速さは一流だ。

 

「あんのクソジジイが…。」

 

 ヒースクリフがギリギリ歯を鳴らし、バットを握りしめた。

 

「期待もしていなかったですが、芯というものが風になびく葦ほどもないですね。」

 

 イシュメールが軽蔑の視線を店主に飛ばすも、彼は一切それに構うことなく、スタンスを変えなかった。だから当然矛先は彼らに向いて。

 

「おい…そこのテメェら…。ストップ。動作やめ。」

 

 地を這うような低い、圧が込められた一声に、数人はピタリと体の動きを止めてしまった。しかし一方でドンキホーテや良秀、ウーティスは好戦的な笑みを深めて各々の武器を構えた。

 

「はっ。何を逃げるんだ。面倒くさいし皆殺しにしよう。」

 

「なんだよ、ぽんぽん派を根こそぎ殲滅でもするつもりか?」

 

 エピが焦りを隠せずに、思わずと言ったように叫んだ。

 

「ふっ。それも悪くないだろう。今更一人二人、変わらんさ。」

 

「悪の群は一息に根を抜いてこそ、正義が立つものである!」

 

「あの、お前らの中に精神がまともな職員って本当にいないのか?」

 

 イシュメールが何か反論したしたげだったが、今はこの程度の言葉に応じている暇も隙もない。相手はとっくに懐から武器を取り出しているのだから。

 

〈とりあえず…。〉

 

 ダンテが汽笛を鳴らす。

 

〈とりあえず表に出ろ!〉

 

 バタバタと表になだれ込む十四人と二人と数人。

 しばらくこの狂騒が収まることはないだろう。

戦闘描写は増やしますか?

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