なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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「終末を呼ぶくらいなら、いっそ…。」
『迫りくるその日を恐れるな!』
――E.G.O./ガリバー/迫りくる日


自己紹介

 もそもそ。時計頭の男が僅かに身体を緊張させると、その隣で彼の様子をじいっと見つめていた灰色の男が「おっ」と声を漏らしてゆさゆさ身体を揺さぶった。

 

「おーい起きろー。もう昼過ぎだぞー。寝坊だぞー。」

 

 その様子を脇で眺めていた褐色肌の少女が灰色の男をどついた。どこからか潰れたカエルのような声が聞こえてくる。

 

「爽やかな朝。わたしゃバスの運転手、カロン。」

 

 カロンと名乗った少女は歌うようにそう名乗り、いえーいと両手でピースを作ってダンテを見上げている。それに目をしばたたかせて首を傾げた灰色の男と白髪の女、先ほど名乗ったカロン、冷たくこちらを見下ろしてくる赤い目の者の四人が彼を取り囲んでいた。状況が掴めないで困惑したような時計頭の者に、赤い目の者が淡々と吐き捨てた。

 

「ついに気を取り戻したか。耐えきれずにそのまま逝ったら少し失望するところだったよ。」

 

 そもそも期待すらしていないとでも言わんばかりの、どうにもわざとらしい声色だ。時計頭の男を見下ろす軽蔑したような視線は先程から曲がることなく突き刺さっている。

 

「ま、まあ、ヴェルギリウスさんはあれでもかなり寛大な人だ。理由のない暴力はしないし、理不尽な暴言は言わないよ。多分」

 

<ヴェル…?>

 

「ご紹介に預かりました、私がヴェルギリウスです。このバスの案内人を務めております」

 

 ダンテは一つ頷くと、そろりと灰色の者の方を見て囁いた。

 

<ねえ、ほんとにこの人って寛大なの…?>

 

「当社比」

 

<それ駄目なやつじゃん!>

 

 ボーン! 時計から音が鳴る。灰色の男はケラケラ笑って宥めるように時計の者の肩を数度叩いた。

 

「カチカチ言っているが、はぁ…ファウストさん、あれは本当に俺の言ってることが分かっているんですか?」

 

「間違いありませんのでご安心を。ダンテ、囚人14番との談話は一旦そこまでにしてください」

 

 白髪の女が底知れぬ目で先程囚人14番と呼ばれた男を睨みつける。驚いたように一瞬身体を跳ねさせると、彼は訳が分からないといったように目を見開いて彼女を見つめ返した。

 

<囚人? 14番?>

 

「囚人14番はそこの灰色の髪の男です。そして囚人とは、あなたの後ろに座っている…」

 

 白髪の女が一瞬言葉を止めて後ろを振り返る。つられて時計の者も振り向けば、12人もの男女が好奇に満ちた視線の数々。

 

「先程まであなたの代わりに戦った人たちのことです」

 

「おおぉ!!! そなたがこの旅路を共にする最後のピースであるか! どれだけ待ちわびたことか!」

 

 すぐさま反応したのは瞳をキラキラ輝かせた女性。身を乗り出し、腹から声を出して、その感情を大仰に表現している。有り体に言えば…見た目も声もうるさい人だ。

 

「あんさん、アタマはどっかで売っぱらったのか?」

 

 たまらず話し掛けたのは虫の腕の男。その目は時計に釘付けだ。

 

「あなただったんですね。あなたのおかげで粉砕していた脊髄が綺麗に戻りました。もしかして巣で医者でもやってたんですか?」

 

 律儀に頭を下げたのは夕日のような女。彼女はちらちらと自分の背中を気にかけながら感心したといった風に時計の者を見上げていた。

 

 しかし一度のみならず二度も自身をないがしろにされた赤い目の者は、面白くなさそうにその目をより一層濃くして囚人たちを見下げている。

 

「全員黙れ。雑音が重なることほど不快なものはない」

 

 地の底を這うような恐ろしい声。その一喝で、騒がしかったバスの中には悪魔が通ったような静寂が満ちる。

 バスの中の流れが自身に戻ってきたことを察した赤い目の者。彼はこの隙を逃さんとばかりに口を開いた。

 

「自己紹介が必要な段階のようだな。それに、この分じゃそれなりに時間も掛かりそうだ。カロン、一旦出発してくれ」

 

「出発するね。ぶるんぶるん」

 

 バスの中に再び低い駆動音と鈍い振動が戻ってくる。それを確認した後、赤い目の者は囚人たちの方を見回した。

 

「それじゃあ軽い挨拶を交わす時間を与える。前に座ってるのから、始め」

 

 パン、と手が鳴った。誰も何も喋ろうとせず、最前列に座っていた哀れな男に視線を向けるだけだ。

 ビクッと肩を揺らした彼はしばらくモゴモゴと文句のような何かを呟いていたが、ヴェルギリウスからの急かすような視線にすぐさま姿勢を正して向き直っていた。運のない男だ。

 

「えっと…あんたが俺たちを引っ張っていく…何だっけ、管理人って言ってたけど」

 

<管理人?>

 

 時計頭の怪訝そうな声に答えたのは隣に陣取る灰色の男だった。

 

「俺たち囚人を管理する仕事のことだぜ。」

 

<…??>

 

 時計の者がなおも理解できていない様子のままであることを確認すると、灰色の男は背中をバシバシ叩いた。励まそうとしたのだろうか。

 

「そんな難しく考えんなよ! 基本は文字通り俺たちの行動を管理することしかしないし、細かいことはそこのファウスト…白い髪の人とか、ヴェルギリウスが後で教えてくれるはずだ。」

 

<そっか。うん、ありがとう。えっと…>

 

「あー、じゃあ話を戻すぞ。兄さんもそれでいいよな?」

 

 何事かを尋ねようとした時計の者の言葉を遮った虫の腕の男。それに対して灰色の男は頷いて口を閉じた。

 

「どんな人かすごく気になってたんだけどな…。あ…うん、えっと。やっぱりなんか言葉にするのは難しいな。アタマをどこに売っ払ったのかは知らないけど、それぞれ事情があるもんだしな。」

 

 彼は目を伏せ、いや、自分の腕を見つめながらそう言った。どうやらあの腕には浅からぬ因縁があるらしい。

 

「俺はグレゴールっていうんだ。よろしくな、管理人の旦那。」

 

 グレゴールと名乗った男は一通り喋りたいことは全部喋り終えたらしく、再びタバコに口をつける。彼が紫煙を吸い込んだその瞬間、長身の女性が彼にタックルして強制的に煙を排出させた。

 

「グレッグ! 旦那って何なの、旦那ってぇ〜。この先、私たちに物凄いお金をもたらす人に!」

 

「グレッグ…?」

 

<お金? 急に何の話?>

 

 グレゴールと時計の者の二人が目を見合わせているのもお構い無しに、長身の女性は唇に指を当て時計の者を見つめている。

 

「旦那じゃなくて…ダンテ! 名前で呼ぶね。あなたも私をロージャって呼んで〜。私はあなたが私たちの…うーん、管理人になったことには理由があるって信じてる。」

 

<ダンテ?>

 

「ダンテはあなたの名前です。名前までお忘れになったのですね。」

 

 時計の者あらためダンテは項垂れて頭を押さえた。彼女の言う通り、どうやら彼自身の名前すらも忘却の彼方に置き去りにされたらしい。

 

<どうやらそうみたいだ…。そこまで聞き慣れた単語でもないかな>

 

そんなダンテを置き去りに、ロージャが瞳をキラキラと輝かせながら人懐っこく迫っていく。

 

「きっと、もともとは巣の凄い人だったんでしょ? その時のワザを少しくすねるだけでも、私たちにお金がジャラジャラと入ってくるって思うと…ふふ…」

 

 この瞬間の彼女を描くのなら目に間違いなく$のマークを刻んだことだろう。周囲の者から向けられる生暖かい視線に気がつくと、彼女は恥ずかしそうに頬を染める。

 

「あちゃぁ、私ってば。ね! 次はあなたの番よ!」

 

 そう呼ばれて次に指されたのは気弱で不安定そうな少年だ。彼はおろおろと視線を彷徨わせた後、蚊の鳴くような声で一言呟いた。

 

「こんにちは…」

 

「こんにちは。」

 

 愛想よく返す灰色の男。その声でハッとしたように少年が顔を上げた。

 

「あ! シンクレアっていいます…」

 

 勇気を出して声にした言葉もだんだん尻すぼみになり、最後には痛いほどの沈黙を残して消えてゆく。

 

「…も、もっと言うべきこととか、あるんですか? 会社勤めは初めてなので…」

 

「無い…と、思うな。」

 

 灰色の男はそう言った後で考えるように目を彷徨わせ始めた。灰色の男は各所から向けられる視線に少しソワソワしている。

 

「じ、じゃあ次は、お前だ!」

 

 そんな感覚を誤魔化すためにか、彼はことさら語気を強めてカラスのような男をビシッと指差した。指された側の男はまさしく心ここにあらずといった風体で、そのおかげかこの空気感の中でも見事に自身の存在感を消すことに成功していたらしい。

 灰色の男は指を組んでしかめつらく尋ねた。

 

「お名前と志望動機をどうぞ。」

 

「言うべきことあるじゃないですか!」

 

 シンクレアの叫びは悲しいかな宙に溶けていくのみで、誰も拾おうとはしなかった。

 

「イサンという。」

 

「…説明は以上イサン?」

 

「うむ、以上イサンなり。これ以上イサンは、たいてい散イサン漫にならん」

 

「社会人としての挨拶としてはおかしいイサンへなぁ。理想イサン的な挨拶のためにも、もう二、三にさん言くらい追加してくれないか?」

 

 もはや灰色の男の言葉は届いていないのか、それともそもそも意に介していないのか。少なくともイサンが30分くらい前と同じように空っぽな目で天井のシミを眺め続けていることは確かである。

 

 まるで道端の石ころに話しかけているような感覚にさせるこの男にジョークを言ったことからして、灰色の男はどうにも話を振る相手を間違えたような気がしてならない。

 

「メフィストフェレスにシミはありません。」

 

<突然どうしたの…?>

 

何の電波を受け取ったか白髪の女が何やら口走った。言葉の綾は流石に勘弁してほしいものだが。

 

「はぁ…もどかしいですね。社会生活の一歩は挨拶からじゃないですか?」

 

 呆れたようにため息を吐いた夕日のような女。彼女は囚人たちからの視線をきっちり受け止め、堂々と彼らを見つめ返している。

 

「私を、イシュメールと呼んでください。おかげさまでバラバラになった身体が元に戻ったと聞きました。これからもよろしくお願いします。」

 

 無愛想だがたしかに芯の強さを感じられる挨拶だ。この中で一番社会人らしい挨拶といえば真っ先にこれが上がるだろう。とてつもなく無愛想だが。

 

「申し訳ねぇな、オレは社会生活ってもんにはあんま馴染みがなくて。」

 

 続いて、見た目だけで判断するならば今度は社会人らしさの欠片もない男が嘲笑を含ませて割り込む。全身傷だらけでとても堅気に見えない…路地裏に堅気のための仕事があるのかどうかは別として。

 

「ヒースクリフ。まあ、ぶん殴ってブッ壊すのが専門分野だ。」

 

 彼は鋭く目を細め、まるで威嚇するようにダンテをキッと睨みつけた。

 

「誰かに頼まれてとかじゃなくて、気に食わねぇやつらにやってただけなんだが。あんたも気を付けろよ、オレは上の人だからって威張るヤツらにアレルギーがあるんだ」

 

 空気が剣呑さを帯びる。

 にわかに殺気が漂う雰囲気の中、まるで似つかわしくないほどに明るい声が彼らの間を切り裂いた。

 

「遂に私の番が来たか! 私の名はドンキホーテにて候! そなたと共に夢へ向かって走るフィクサーだ。よろしく頼む。」

 

 フィクサーという部分を噛み締めて答えた彼女の瞳は期待と興奮で爛々と輝いており、そんな目で見つめられたダンテは気まずそうに頬と思しき部分を掻いている。

 

<フィクサー…? 知ってたはずなんだけど…。>

 

「フィクサーについてか? 私が答えてしんぜよう! 都市を守護する者たちさ!」

 

「へえ! 守護するって言うと俺はツヴァイとその協力事務所くらいかと思ってたんだが、他にもあるのか?」

 

 灰色の男がこれ幸いと話に混ざってきた。その表情は先程よりもどことなく明るい。

 

「ああ! たしかに、依頼者を守る正義の盾という意味ではツヴァイ協会であろうが…」

 

「俺は軽い挨拶で済ませろって言ったと思うんだが。」

 

 ヴェルギリウスのひと睨みで次から次へとまくしたてていたドンキホーテの舌が硬直し、灰色の男の笑みは引きつった。それほどまでに彼の赤色は深く、重いものだ。

 

「うぅっ…。」

 

「す、すまん…。」

 

「二度も同じことを言わせるな。次。」

 

 数度咳払いをして、灰色の男が口を開い

 

「俺、俺は…ガリバーだ。」

 

 彼は挨拶の後一拍置き、それからニカリと明るい笑みを浮かべた。

 

「実は俺もどうしてここに居るかとかよく分かってなくてさ。一緒に頑張ろうぜ、ダンテ管理人。」

 

 彼が浮かべながら手を差し出すと、それを向けられたダンテはおずおずとその手を取った。彼の温かくて硬い手がしっかりと強く握り返してくる。

 

 その様子を白髪の女とヴェルギリウスはどうにも穏やかではない雰囲気で眺めていて…否、いつでも割り込めるように待機していると言った方が正しいだろうか。

 

 その様子に気がついたダンテが不思議そうに首をかしげていると、白髪の女が咎めるように語りかけた。

 

「ダンテ、この都市で不用意に握手をしてはなりません。あの者とは特に。いいですね?」

 

 有無を言わさず言い聞かせる口調に、ダンテはゆっくりと頷いた。

 

「あー…ハハ、なんか変な空気にしちまったな。すまん。んで、次は…。」

 

「ホンルといいます。上手くやっていきましょう、僕たち」

 

 長髪の男は人好きのする微笑みを浮かべている。ダンテがまともそうな人だとほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、彼はずけずけとダンテの眼の前まで近づき物珍しそうに時計をあちこち見まわし始めた。

 

「うわぁ〜あなた、その頭凄いですね。最近流行りのモデルみたいですね?」

 

<これはそんなんじゃな…。>

 

「僕の好みじゃないけど。」

 

 彼が人好きのする笑顔を壊していないことこそ特筆するべき点だろう。その雰囲気にはどこか人の神経を逆撫でするものがあるだろう。

 

「…なんだぁ、あの口の聞き方はよぉ?」

 

 神経を逆撫でされた第一号ヒースクリフが額に青筋を浮かべ、バットを握る手に力を込めた。しかしいまにもホンルに飛びかからんとグッと足に力を入れた瞬間、赤く鋭い目が彼を追いかけてその行為を制す。

 

 その視線の主は長い刀を持ったおかっぱの女性。煙草をくわえたまま器用にもまともな言語を発した。

 

「良秀。よりょしゅく。…ぷっ。」

 

 灰色の男が口元を抑えた。どうやらあれのどこかが琴線に触れたらしい。彼女の近くに座っている堅物な男はそんな言葉に心動かされた気配もなく、順番だからと規則正しい足音を鳴らしてダンテの方へ近寄ってくる。

 

「ムルソー、そう呼んでくださいますか。」

 

<あなたは礼儀正しいね>

 

 感心したように時計がカチカチと鳴っても声や表情をほころばせることなく、男はまたしても堅い言葉を返した。

 

「特別なことではありません。ただ普通の態度です。」

 

<ほんの少し感激しちゃったかも。ありがとう>

 

「はい。」

 

「…これを普通って思われるのは大変遺憾でありますよ、ダンテ管理人さま…。」

 

 たしかに彼は何か大事なネジがトんでいる気しかしない。しかし、これまでの囚人たちのトびようよりはよっぽどマシだと言いたげにダンテはガリバーを見つめた。

 

「……。」

 

 その次に順番が回ってきたのは短髪の女だ。彼女はダンテを上から下へ舐め回すように見回すと、カツカツ足音を鳴らして近づいてきた。

 

「私は…。」

 

 彼女はダンテが腰を曲げようとするやいなや静止するように手を伸ばした。そして軍人らしいキビキビとした立ち振る舞いで両腕を後ろに回し、敬礼。

 

「管理人様が先に腰を曲げようとするなど、とんでもないことでございます。当職はウーティスと申します。以前のご無礼についてお詫び申し上げたく存じます。」

 

<失礼…とは?>

 

「はは、これまた。心までこんなに広いとは。やはりです。我々を導く方だと一目見ただけで理解しました。」

 

 彼女は怪しげな笑みを浮かべている。

 

<…んん? うん?>

 

「人間の大多数は互いにぶつかり合い、騒音と摩擦を引き起こすが……。そのうち少数は、ぶつかることでお互い得になる場合があるそうです。剣を鋭く鍛えるためには、その分強い炭が必要なように。」

 

 演説を一旦取りやめ、ウーティスは優雅に一礼した。

 

「誰よりも管理人様のために献身いたします。気軽にお使いくださいませ。」

 

<た、たのもしいね…ありがとう。>

 

 ダンテがまるで何もわからないといった様子のままぎこちなく頷いていると、それを知ってか知らずかイシュメールがからかうように話しかけてくる。

 

「さっき森では哀れに転がっているなんて言ってた癖に、よくもそんな言葉が易々と口から出てきますね。」

 

 管理人からのジト目もなんのその、ウーティスは彼の脇というポジションを決して誰にも…それこそヴェルギリウスにすらも譲るつもりはないだろう。

 

「私が最後ですね。ファウストです。あなたが人生で一度出会うか出会わないかぐらいの天才です。」

 

<うぅん…。>

 

 ファウストが得意げでもなくただ事実を語るようにそう言ったものだからか、ダンテの表情はどこかしょっぱいものになった。

 

「納得できていないような反応ですね、ダンテ。大丈夫です。経験を通じて徐々に理解できるようになっていきます。」

 

<何を…?>

 

「ファウストが稀代の天才であったという事実をです。観測者が悟らないからと言って、事実が真実になることはありません。」

 

<そうだな…。>

 

 やはり納得できていないようにダンテは呟いたが、その脇でガリバーが補足するようにヒソヒソ囁いている。

 

「ダンテ、ファウストさんはマジモンの天才だ。あの名乗りは伊達じゃないんだぜ?げぜ…えっと、とにかくこの都市のことで知らないことはあんまり無いと言ってもいいほどだし、このトンデモバスの設計も担当してるくらいだ。」

 

「紹介はここまで。」

 

 ヴェルギリウスが有無を言わさぬ口調で囚人たちを見下ろした。彼らはすぐに口をつぐみ、赤い目の者から紡がれる次の言葉を待機して、大人しくバスの座席に戻った。

 そしてしばらくすると彼とダンテ、ファウストがカロンも交えてがやがやと話し合い始めただろう話し声が聞こえてくる。

 

「…暇だ。」

 

ガリバーがぼそりと呟くと、一部の囚人は同意するように首を縦に振った。まったくそんなことに興味はないと言わんばかりに天井を眺めたり目を閉じたりしている囚人も居たが。

 

彼らがいい加減この長くて退屈な時間に飽き飽きしてきたころ。ようやっと話がまとまったのか、ため息混じりにパタンを手帳を閉じた案内人がようやっと囚人たちが求めてやまない一言を発した。

 

「お前ら、全員下車。」

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