なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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「むぐ、美味い。けっこう上手くできたんじゃねーか?」
「よっしゃぁ任務完了!帰ったらあいつらと飯食いに行くんだ!」
――00 南部シ協会5課 ガリバー


我こそは、リンバ…。

「クソ野郎ども!! じっとしてろよ!」

 

「おめら雑魚どもがうちの家族に手ェだしてタダで済むと思ってんのか?」

 

 ぽんぽん派の連中が各々の獲物を手に喚き立てる。

 ギャーギャーと何の意味もなく吐かれた恨み節が質屋通りの静寂を駆け巡っていた。

 

「あんな集団はどうして揃ってお互いのことを家族っていうんです? ただでさえ無い絆を絞り出さないといけないから?」

 

「末っ子の仇ィ!!」

 

 ぽんぽん派らの叫びに、イシュメールは理解できないと首を振っている。

 

「そんな……こういうのは計画になかったんだけどな……。」

 

 エピがくらりと身体を傾けた。その顔色は蒼白で、ご破算になった計画に掛けた時間と労力を思ってか彼は口惜しげに表情を歪めた。

 

「エピ、あー、頭痛薬いるか?」

 

「……くれ。」

 

「私には胃薬をください。たんまりと。」

 

 一気に弱気になった二人に向けてウーティスが叫ぶ。

 

「おいお前ら、今まで私たちを使えない虫ケラのように扱ってたろ? 廃棄物を集めた下水処理場だと思ってただろ!」

 

「誰もそこまで言ってないぜ、ウーティス……。」

 

 ガリバーが呆れた表情でウーティスを見つめた。しかし彼女はいつも通り彼の言い分をまるっきり無視してさらなる言葉を吐いた。

 

「しかしなぜ我が部署が黄金の枝奪還する重大な任務を任されたのか、その理由が気になりはしなかったのか?」

 

「な、なん……です?」

 

 エピはウーティスの堂々とした態度に魅入られたように呟いた。

 いや、もしかしたら堂々と自分以外の同僚を罵倒している事に呆然としているだけかもしれないが。

 

「他の者たちが汚水に浸かった廃棄物だというのには同意するが……。」

 

「えっと、だからそう考えてるのはお前さんだけだって……。」

 

 あんまりにもあんまりな言い様に、耐えきれないとばかりにグレゴールが呆れた表情で突っ込んだ。

 シンクレアが悲しそうな瞳で呟く。

 

「ウ、ウーティスさんは僕たちをいつもそんな目で見てたんですね……。」

 

 ガリバーが静かに彼の頭を撫でた。

 

「私は無戦無敗の歴史を持っており、管理人様は不死に近い蘇生能力を持っていらっしゃるからだ。実のところ、二人だけで十分だ。ヴェルギリウスの奴は私と考えが異なるようだったが……。」

 

「同じじゃ大問題だろ!」

 

「何はともあれ、無数の戦闘を行えども廃棄物どもは廃棄されない。廃棄物のままそのまま復活するのみだ。」

 

「……はぁ。」

 

「カッコ良さそうに言ってますけど、結局私たちのことをゴミ扱いしてるだけじゃないですか。」

 

「……アホどもめ。」

 

「敵軍が押し寄せてくるな。準備はよろしいでしょうか、管理人様?」

 

 数少ないまともな囚人、ムルソーが戦闘開始の合図をした。

 

 

 しばらくして。

 

 

「相手するにも嗤えるレベルだったな。大したことなかったか。」

 

 血濡れの死体の山の上、良秀が煙を燻らせながら血を払った。

 

「まだ油断するなよ? ぽんぽん派のことだから、多分……そら来た!」

 

「うちの組織に手ェだしたのはどこのどいつやぁ!」

 

 言った側から押し寄せてくる増援。増援。増援。

 巨漢がこちらに向けて鼻息荒くやってくる様は圧巻であるものの、背筋に薄ら寒いものが走る光景でもあった。命を狙われている状況下では、特に。

 

「我こそはリンバス……むぐ……。」

 

 律儀にも答えようとしたドンキホーテの口は、全て言い切られる前にガリバーの手によって今度はきちんと塞がれた。

 

「ドンキ! 名乗りはさ、こう、最後に──!」

 

 言い終わるか終わらないかの内に振り下ろされる棍棒。それをすんでの所で躱したガリバーは叫んだ。

 

「まだ来るぞ! 管理人、指示を!」

 

 パリン! という鏡を割る音。そしてガリバー達囚人の姿は変化した。

 中でもドンキホーテ、ヒースクリフ、イシュメール、ガリバーの四人は、赤い刀を持つ黒尽くめの姿に。

 

「我らシ協会、管理人殿に従いまする!」

 

 その言葉と同時にひらめく赤い刀。鮮血が舞い、ぽんぽん派の男はゆっくりと横に倒れていった。

 

〈シ協会の面々は後方支援! 討ち漏らしの掃討をしろ!〉

 

 ダンテが時計を鳴らすと、にいとヒースクリフが笑って舌なめずりをした。

 

「ハハッ、雑魚狩りか! 任せろ、確実に息の根を止めてやる……!」

 

「まーた前に出すぎるなよ? ヒース。」

 

「安心してください、アンタの獲物は残しませんから。」

 

 イシュメールがハッと息を吐いて、続けざまに二閃。それだけで後ろまで接近してきていた男は首をごとりと地に落とす。

 

「あっ、クソ! ぜってぇお前より多く刈ってやる!」

 

「あっ、ちょ、ヒースクリフ!」

 

 ガリバーが叫ぶと、ヒースクリフはドンキホーテよりも前まで駆け抜けて、力任せに構成員たちの腹を切り裂いては臓物を溢れさせた。

 あたりに漂う悪臭。おえっという表情で顔を手で覆っているガリバー。イシュメールがさっと顔を赤らめては眼を釣り上げて彼を睨む。

 

「ヒースクリフ? 腹を割くのは汚いからやめろって私、あれほど言ったじゃないですか。いい加減学んだらどうです? ああ、学ぶ頭すら無いのか。」

 

「テメェ、このクソア──」

 

「イシュメールくん、ヒースクリフくん」

 

 冷たい声が二人の間に割り込む。

 彼らが冷たい殺気を察知して飛び退くと、そこにはひとつの血を被った小さな影がそちらを見上げているのが目に入った。

 だらだらと冷や汗を流しだす二人。

 

「えっと、部長、これはその……」

 

「仕事中に喧嘩はやめるのだ。まさか、上司の言う事が聞けないのか?」

 

「……。」

 

 苦い顔で黙り込み、仕事に戻っていく二人。

 それを見届けたドンキホーテが深い息を吐くと、頭にトンとペットボトルの冷たい重みがのしかかった。

 

「よっ、仲介お疲れ様。」

 

「ガリバーくん……」

 

 ガリバーだった。

 彼は隈の浮かんだ眼をニッと細めて水を手渡し、自身も新しいペットボトルを取り出して口につけた。

 

「あいつらも元気だよなぁ。俺は数人殺って、それでちょっと疲れてさ。普段はこんな混戦なんて無いし……。」

 

「ふ、それは訓練不足じゃないかねガリバーくん? 戻ったら嫌と言うほどしごいてやろうじゃないか!」

 

「それは勘弁してくれ……」

 

 降参、というように両手を上げた彼は、飲み終わったペットボトルを乱雑に投げ捨てて再び走り出した。すぅと気配が薄れて消える。

 ドンキホーテは手にした水を見て、後で飲もうと腰のベルトポーチに突っ込んでから再び駆け出した。

 

 数十分後。

 再び鏡の割れる音が響き、ダンテによって再度人格を被せないといけなくなるほど時間が経過した。

 未だ人の波は収まらず、剣戟と怒号は各地から聞こえてくる。

 刀から棍棒に武器を変えたヒースクリフ苛立ったように地団駄を踏んだ。

 

「くそっ、そろそろしつけぇぞ! カジノに入る前に、疲れてくたばっちまうまでのが速そうだな。」

 

「安心してください、ヒースクリフ。管理人さんがいる限り僕たちが疲れて死ぬことは……。」

 

「そんくらい忘れるわけねぇだろ! #@$@#$!!!!」

 

 ヒースクリフがついに味方に対しても怒りを示し始めた。

 

「解決方法は簡単だ。どんな組織であれそのドタマをかち割れば、支えている肉の塊は崩れ落ちる。」

 

「ムルソー!? お前、ドタマなんて言葉、使えたんだな……」

 

 ガリバーが驚いたように目を見開いた時、ハッ、と好戦的な吐息を漏らす音がどこからか聞こえてきた。彼が慌ててそちらを向くと、出処はやはりヒースクリフで、ガリバーは大体の嫌な予感を察知してげんなりとした表情を浮かべた。

 

「お前のその言葉、ここ最近で一番気に入ったぜ。唯一って言って良いくらいにな。イライラするからぶっ潰しに行こうぜ。ドタマなりなんなり。」

 

「さぁ、いざ前進!」

 

 そう言いながら突っ込もうと身を沈めたドンキホーテに、冷や汗を浴びせるような声が後ろから──管理人の方から飛んできた。しかし発されたのは時計の音ではなく男性の声。エピだ。

 

「待て! みんな戻れ! ……ファウスト、お前こんなガキンチョらと一緒に行動しないと駄目なのか?」

 

「人生はいつも疑問だらけです。」

 

 ファウストは瞳を閉じたまま嘯いた。

 

「それゆえ理想的であるとも言えり。」

 

 うんうんと頷き、どこかズレた答えを返すイサン。そんな三人の後ろではヒースクリフがユサユサと意識を失った──もしかしたら(タマ)を失っているかもしれないぽんぽん派構成員の胸倉を掴み、揺さぶっている。

 

「てめぇらのお頭はどこだ! いますぐ出てこいよぉ!」

 

 そしてその後ろでは、自分で殺したくせに表情を真っ青にしているガリバーが小さく震えている。

 

「……。」

 

 きっと彼らが疑問を抱いているのは他囚人のこういう所なんだろう。

 な? 言っただろ? と言いたげに肩をわざとらしくすくめたファウストに、エピはどこか同情的な眼を向けていた。

 

「うちのアニキは……車の塔に……いらっしゃるはず……。」

 

 幸いなことに構成員は命まで落としてはいなかったようだ。呻くような、歯の間から息が出ていく音が、微かな声として聞こえてきた。

 

「車の塔? 車の塔ってどこだよ!? 分かるように言えよ!」

 

 唾が掛かりそうな程の至近距離でヒースクリフが怒鳴る。それで完全に気絶してしまったのかそれ以降構成員が何かを喋ることはなかったが、代わりにエピが理解できないという表情で彼に答えた。

 

「この付近の廃車置場のことだと思う。ところでお前ら、本気でぽんぽん派のボスまで片付けるつもりか? だからって人事評価に反映されたりはしないぞ。分かってるか?」

 

「あの人はそんなことまで念頭に置いて行動できるほど利発じゃないですよ。」

 

「計略、下心とは距離の遠い汚物だ。筋が通らないような事柄とは近いが。」

 

「いや……筋は通ってるかもしれません。問題ないよ、エピ。私たちはいつもプランBまで準備してるでしょ?」

 

 ソードは頬の端をピクピクを動かしながら、それでも優しい表情を続けるべく意図的にゆっくり話しているのだろう。ちなみに話を振られたエピは顔を真っ青にして、それでも不安そうな様子を拭いきれていない。

 

「皆さんが扮装することが不可能なら……。全員ぽんぽん派の組織員に扮装してしまおうという話です。団体で入っても目に付きませんし、簡単に最上階まで侵入できますからね。ついでにぽんぽん派から願望力も奪っていきましょうか。」

 

 ソードの提案に素直に従い、ワイワイガヤガヤと騒がしく血濡れの道を遡っていくLC一行。

 歩くにつれてひとつ、二つと不自然に高い建物が増えてきた。それは近づいていくほどにだんだん塔のような形から凹凸のある歪な建造物に変遷し、より大きくなっていく。

 ドンキホーテが何かに気がついたように声を上げた。

 

「おぉ……? 皆の者! これを見たまえ!」

 

「……なんですかこれ?」

 

 イシュメールが呆然と呟く。

 そう、その塔は、全て車でできていた。クルマそのものが塔として積み上がっているのだ。

 

「車達があたかも塔のごと積もりたり。」

 

 イサンが塔を見上げながら驚いたように眉を上げた。対象的に、下の車が積み上がる重さによってにわかに凹んでいることを検めた良秀がフンと鼻を鳴らした。

 

「陰鬱だな。」

 

 彼女の言葉で他の囚人たちも興味を持ったのか、続々と塔の下へと集まってきた。

 

「車がどうしてこんなどっさり積まれてるんですかね……?」

 

「ぽんぽん派は車売りで一財を築いたからだな。その象徴が、これらしいぜ。」

 

 ガリバーがトントンと車のフロントガラスを叩いた。すると、フロントガラスの前に置かれていた紙片が目に留まったらしく、彼はにわかに動きを止めた。

 

「会い……たいって書かれてますね。この方達は、そのうち帰るんですよね……?」

 

 内容を読み上げたシンクレアが不安げに問うと、ウーティスとガリバーは黙って目を伏せた。

 

「……。」

 

「きっと……帰れてるよ。うん? いや、ちょっと待て……。」

 

 ガチャリとガリバーが扉を開いた。そして一枚紙片を取り出し、あろうことか自身の鞄に入れたのだ。

 

「お、おい!? 何をするのだ! 人の思い出を勝手に奪うなど……見損なったぞ!」

 

 ドンキホーテが叫ぶ。しかしガリバーは真剣な表情で答えた。

 

「や。思い出したんだ。考察が当たったら、きっと……ゴフッ」

 

 そこまで言いかけ、彼は胴体を貫かれて絶命した。ドンキホーテの前に言い訳なぞ無用なのである。

 サクッと蘇生されて息を吹きかえし、頃合いと判断したのかソードがこほんと咳払いをした。

 

「まぁ……ガイド役までボーナスとしてこなして差し上げますが、この路地の隠れランドマークです。」

 

「賭博師たちの末路さ。」

 

 エピが付け加えた。

 

「ガリバーさんの言う通り、ここはぽんぽん派が中古車事業で勢力を伸ばす足がかりとなった場所です。」

 

「ロージャ、君ってこんなところによく来たって言ってたろ? なんか補足説明とか無いか? なんだか面白い話が聞けそうな気がするんだけど。」

 

 グレゴールがニヤニヤとした笑みを浮かべたまま彼女に問うた。おそらく、この前の虫呼ばわりなどの意趣返しだろうか。ロージャもそれを理解したのか、うげっとした顔でグレゴールを見つめた。

 

「あ〜、し〜らない。思い出せない。私は過去をすべて忘れ、前だけを見て生きることにしたの。……あんな邪魔者さえいなければ決心した通りに生きていけると思うんだけどね。ふっ。」

 

「邪魔者?」

 

 ガリバーの問いには予想外のところから返答が帰ってきた。いや、これを返答と呼んで良いのかは怪しいが。

 

「ひよっ子ども! このあたりがうちらの区域って分かってほっつき回ってんのか?」

 

 なんだかポン菓子が嫌いそうな組織員が、塔の影からのしのしとこちらに近づいてきたのだ。ガリバーは彼を見て、遠い目で呟いた。

 

「ぽんぽん帽が嫌いな組織員もそのうち出てくんのかな……。」

 

〈何か言った? ガリバー。〉

 

「いんや。ポン菓子食いてぇなって……。」

 

〈ポン菓子? なにそれ。〉

 

「米を炒ったお菓子。作る時さ、クっソうるせえの。今度見せてやるな。」

 

〈分かった。楽しみにしてる。〉

 

 その器具を買うためのお金はどこからやってくるのだろう。もしかして工作でもするのだろうか?

 しかしダンテは楽しそうにしているので、まあこれで良いとしようか。

 

「で、お前らは何の用で来たんだ?」

 

 ぽんぽん派が尋ねると、ドンキホーテがカンカンと石突を鳴らした。

 

「そなたらの大将を成敗するためだ!」

 

「一体どこから来たからってそんな威張ってるんだ?」

 

 不信の色をさらに濃くして組織員が尋ねると、待ってましたと言わんばかりにドンキホーテが瞳を輝かせて叫ぼうとした。

 

「我こそはリンバ……! むぐっ……。」

 

 が、途中で気がついてやめた。

 痛い沈黙が流れる。

 

「どこから来たんだよ! どうして途中で止めるんだ!」

 

「ん? なんだ?」

 

 悠然とやってきた、推定ぽんぽん派のボス。狐のような男が塔の奥から歩み寄ってきた。

 

「アニキ! 所属を明らかにしない奴らがいきなり押し寄せてきましたよ!」

 

「誰が送った? 服を見るにハバネロ派や精肉店派の奴らじゃぁないな……。今からでも両手を擦り合わせながら詫びて帰るってなら、少なくとも五体満足で帰してやろう。」

 

「……彼方がたが着たる服を直々に脱がば帰らん。」

 

「キャー! イサンさんのえっちー!」

 

「……其方に向けて言ったものでは非ず。」

 

 ガリバーの裏声に視線をやる以外の反応をイサンは示さなかった。本気で言っているようだ。

 

「アニキ……例の噂の……人の体臭で変なことをするって……あの集団みたいです。」

 

「うぅ……汚ぇ奴らめ……人生をそんな風に生きるなよ……。」

 

「ご、誤解だ! 話せば分かる、話せば!」

 

 汚物を見るような目が痛い。

 

〈……私、本気でこんなに勝ちたくないのは初めてだよ。〉

戦闘描写は増やしますか?

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