なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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カジノへ

「この…ゴキブリみたいにしつけぇ奴らめ…。」

 

ぽんぽん派との長きに渡る戦いは、ついに決着を迎えた。

周囲にはぽんぽん派構成員が血まみれで倒れ伏していて、対するこちらは肩で息をしているものの全員無事。

唯一ぽんぽん派の中で立っているのはボスだけであり、その彼も極度の疲労と数多の傷を負っている。大勢がどちらに傾いているかは自明の理だった。

 

「一体どこから来たんだ…そろそろ…教えてくれてもいいだろ…。」

 

ぽんぽん派のボスが喘鳴を上げながら尋ねると、待ってましたとばかりにガリバーが答えた。

 

「俺たちは…」

 

すう、と誰かが息を吸う音が聞こえる。

 

「りんば――」

 

「リィンバス!カゥァンパニィ!からである!」

 

「…言われちゃったな。」

 

「ドンマイ。いつかどっかで言う機会があるさ。」

 

「グレおじ〜!」

 

腕を広げてグレゴールに飛び込むガリバー、反射的にかサッと避けるグレゴール、そしてその勢いのまま地面にダイブして倒れそうなところをキャッチするシンクレア。

望まぬ大地とのキスを回避できたガリバーは片手を上げてシンクレアに感謝した。

 

「だから…そこは…一体どこなんだよ…!」

 

「あ、ちなみに私とエピはこの人たちとは違う部署です。同じ扱いをしないでいただけると。」

 

「……。」

 

ノータイムで飛んできた否定。混沌とした背景。自分がどこの馬の骨にやられたのかもあんまりよく分からないまま、ぽんぽん派のボスは事切れた。

 

「でもホントにこの服着なきゃダメなの?汗の臭いに血の臭いに…。あとカビ臭い匂いがして気持ち悪いのに。ガリバぁ〜、洗濯機って持ってない?」

 

「いやいやまさか、そんなのある訳…。」

 

「あるぜ」

 

「あるんですか!?」

 

シンクレアが顎を外さんばかりに開いて振り向いた。えーっと、と呟きながらガリバーがガサゴソと鞄を漁る。

 

「確か、中に入れた物質に漂白って概念を付与できたはず…。これを使えばどんな頑固な汚れも一発で綺麗になるぜ。」

 

「それ、元から服に付いてた柄も消える…とか、言わないよな?」

 

「……。」

 

ガリバーは何も言わない。しかし、たとえ誰が見たとしても、その瞳が雄弁にイエスと語っているのは確かだ。

 

「ゴミじゃねぇか!」

 

ヒースクリフが青筋を浮かべて叫んだ。

 

「うっ、毛もついてる…。もー、それでいいから使っちゃおうよ!」

 

「駄目ですよ。何のために服を奪ったと思ってるんですか?」

 

額に指をやりながらソードが呟いた。彼女の片手は胃に当てられている。しかしその周囲ではエピが良秀にアロハ服を押し付けられて顔を引き攣らせていたり、ヒースクリフの聞くに耐えない悪態などが当たり前のように受け入れられているのを見て、すんと表情を虚無に変えた。

 

「くっ…そ、そもそもお前らが質屋であんな騒ぎさえ起こさなきゃ、ここまで苦労してなかったのに。」

 

エピがやけくそ気味に叫ぶ。しかし彼の叫びは虚しく、この混沌とした空気の中に飲まれていった。

 

「大丈夫です。僕、一度くらいはこんな服絶対に着てみたかったんです。まるで映画の撮影みたいじゃないですか。」

 

ホンルがにこやかにアロハ服を掲げる。意外にもイシュメールはこういった汚らしい服に耐性があるのか、彼女は不敵な笑みに冷や汗をたらりと零しながら呟いた。

 

「少し震えますね。偽装潜入は久々なので。」

 

「俺は気に食わんな。こんなのは臆病者なんかがやることだ。」

 

「作戦という物の存在意義を否定するのはやめてくれ、良秀。」

 

クスクスという笑いが周囲に溢れる。そのなかで唯一ソードとエピだけはチベットスナギツネというべきか、しわくちゃピカチュウといったところか、そんな複雑そうな感情のまま顔を寄せた。

 

「はぁ…さて。管理人さん、あなたに簡単な役割を与えよう。」

 

<なんの…。>

 

「何を言っているのかわからないという身振りなので、説明が必要そうですね。」

 

ソードがにわかに調子を取り戻して口を開く。

 

「J社の特異点がこの匣の中に入っているって言えばいいかな。これは人々の「願望」を食べてエネルギーとして保存する道具だ。」

 

「適当なところで願望を紙の形態で取り出せば、じゃじゃ〜ん!貼るだけで運がグーンと高くなる使い捨てタトゥーシールが現れます。」

 

おぉ〜、という声と共にまばらな拍手が響く。まるで舞台の上の演者のようにソードは軽く手を振って、それからそのシールをピッとダンテに向けた。

 

「管理人…ダンテさん、でしたっけ。あなたの役割というのは、このシールを保管しておくことなんです。」

 

<私にこんな大事な役目を任せても良いのか?そんな大事なものなら、ガリバーのリュックにでも入れた方が良いと思うんだけど。>

 

ダンテがこてりと首を傾げると、エピがふっと表情をほころばせた。

 

「自信無さそうな身振りだけど、あなたを指名した理由はある。ひとつ。ギャンブルの場で一番大事なのはポーカーフェイスだ。いくら表情を読むのが上手な奴らでも、時計の表情までは読めない。

 

<……。>

 

「ふたつ、あなたが管理人になったのにはそれなりの理由があると思ってる。あの囚人たちよりかはそれなりに使えそう、って俺の漠然な直感だ。」

 

「良いじゃないか、頼られるなんて。ここはいっちょやってみようぜ?もし多少失敗したとしても…まぁ今更だしさ。」

 

ガリバーの言葉にも励まされたのだろうか、しばらく俯いていたものの、しばらくしてダンテは顔を上げてこくりと頷いた。

 

「よし。これをあなたの腕につけろ。あなたはこれからしばらくの間世界で一番運がいい人になれる。」

 

「じゃあ皆さんはぽんぽん派、私たちはディーラー。お互い役目をちゃんと果たしましょうか。」

 

二人は職員玄関の方に向かったのか、LCBの面々とは違う方向にくるりと身を翻してスタスタと歩いていった。そして、よく見ないと気付けないくらい僅かに揺らされた手へ、ガリバーは大きく腕を振り返した。

 

 

ぎぃ。一度扉を開けるとそこには、目が眩むほどの光と頭痛すら起こりそうなほどの騒音に満ちていた。

スロットマシンの軽快な効果音、ぎらぎらと悪趣味なほどに輝く照明。

警備員達はガリバー達を見て不審がること無く頭を下げ、無事潜入できたらしい二人の姿も遠目に確認できた。

彼らの見事なまでにディーラー然とした姿はまさに、エリートと呼ぶに相応しいものだった。

 

「こ…このキラキラしている機械は一体なんなのだ?」

 

「ぐぅ…話には聞いていたが、実際に見るとこんなにも酷いもんだったんだな…。」

 

物珍しそうに見物して回るドンキホーテ、ガリバー。二人ともお上りさん丸出しな態度だが、その感情はとても対照的なものだ。

 

「そんな目をまん丸にして歩き回るなよ、カンテラの旦那にドンキホーテ。怪しまれるだろ…。」

 

「うっ…すまん。」

 

ガリバーはパンと頬を叩いて前を見据えた後、なんとか演技に専念しようと振る舞い始めた。

 

「あ、あー…グレゴールの兄貴、あれはなんですかい?おら、こういう所に来るのは初めてなんだよ。」

 

「そ、そうだったな、ガリ…えっと何だったっけ。」

 

「そりゃ、あんまりにもあんまりじゃないですかね。酷くないですかい兄貴…。おらはガリバーでっせ。」

 

「あ、そうだったか。」

 

二人のたどたどしい演技に白い目を向ける者や怪訝な表情を浮かべる者は確かに居た。しかし突然、幸か不幸か、それは起きた。

 

<あちゃぁ!>

 

ジャ〜〜〜ックポット!

 

ジャラジャラジャラ!とけたたましい音を立てて途轍もない数のコインが波のようにスロットマシンから溢れ出る。

床一面にぶちまけられた色とりどりのカジノチップ一枚一枚には、J社の住人たちの夢や希望がこれでもかというほどに詰め込まれている。それが今も止まらずに吐き出され続けていれば当然、スロットに集中していた客たちも手を止めるし。

そして、それらが目の前にあることをとても受け入れられないように呆然と立ち尽くしている幸運な者は、なんと我らが管理人だったし。

 

「ジャックポットが当たったって?何番マシン?」

 

「急に当たった?今?」

 

混乱状態から復帰した客がひとり、ふたりとこの場に集まってくる。そして、これほどの騒動となれば当然、警備員もやってくるし。

 

「ちょっと失礼…。身分確認を行いますね。」

 

まぁとどのつまり、作戦は失敗したということだ。

申し訳なさそうに肩と頭を落としているダンテに、イシュメールがきっと鋭い視線を向けた。

 

「少なくとも管理人さんだけは責任感があると思ったのに…。たかがドンキホーテの誘惑に負けたんですか。」

 

彼女はぎり、と音が出るほど強く奥歯を噛み締めた。

 

「失望しました。いくらなんでも、他でもない管理人さんなのに。今度こそ、前に経験した失敗という恥辱を拭い去ってくれると思っていたのに。」

 

ざくざくと取れそうなほどのチップが今もなお吐き出され続ける傍ら、ダンテにはざくざくとイシュメールの銛のような悪態が突き刺さっていく。どんどんと小さくなっていき、消えそうになっていくダンテを見かねたのか、ガリバーが慌てながら二人の間に割って入った。

 

「ま、まあまあ。多分管理人もわざとじゃなかったんだし、そのくらいに…」

 

「わざとだろうがなかろうが、こんな事を引き起こしたことが問題なんです!だいたいガリバーさんもガリバーさんですよ、どうしてその鞄の中には毎度毎度役に立ちそうな物がひとつも無いんですか。準備って知ってますか?はぁ…合理性に欠けますね、いえ、すみません、いつもの事でした。妄言ばかりで合理的なことなんて言いませんもんね、貴方。」

 

「うっ…。」

 

<が、ガリバー…私を庇ったばっかりに…>

 

「なんか俺、いつもこんな目にばっか合ってる気がする…」

 

若干涙目のガリバーをよそに、グレゴールがハッと眼を見開いた。

 

「…待て、それだけが問題じゃないと思うんだけど。」

 

三人とも彼が指差す方を見ると、そこにはいつもの服で煙草をふかしている良秀がいつのまにかシャンデリアの真下で佇んでいた。機嫌悪げに握りしめられた刀には、未だ鞘がある。

 

「俺は人が捨てた服なんか着ない。」

 

「はぁ…管理人の旦那。どうにも俺たち…。」

 

<うん…終わったみたい。本気で…。>

 

「ファウスト、こんな奴らを連れてどうやって任務を果たす役割を買って出たんだ?都市でピカイチの天才なんだろ、なんとかしてみろ!」

 

エピの絶望がこもった言葉に、ファウストはいつもの瞳に僅かな諦念を滲ませて呟いた。

 

「私がこの方々と一緒に過ごした時間は長くはありませんが、悟ったことが一つありました。不確実性を信じるファウストになるのです。計画がないことが計画になった瞬間、いかなる変数であれもはや変数ではなくなってしまうから。」

 

彼女は溜息を吐いて、いささか投げやり気味に、しかしどこか穏やかな表情で話を終えた。

 

「これが私の計画です。」

 

「……。」

 

 

絶句するエピ。しかし、彼女の目線がダンテに向けられていたことから、これはもしかするとダンテを励まそうとして言ったことなのかもしれない。

 

<さぁ…いつも通り…。死んで殺しに行こう。>

 

「…だからどうか、余計なことだけはしないでくださいね、ガリバーさん。」

 

彼女の呟きは野蛮な叫び声も秘めたカジノの喧騒に消えていった。

 

☆☆☆

 

「焦れったくて見てられないな。こんな雑魚どもをいつまで相手してるんだ?」

 

いつまで経っても消えそうにない警備員たちに、良秀がついに痺れを切らして叫んだ。

 

「普通、そんな事を言う人に限って明快な答えを提示する人はいませんよね。」

 

皮肉げに笑ったイシュメール、しかし、今までの良秀の行動を鑑みるに、彼女の考えは甘いと言わざるを得ないだろう。

 

「…こういうのが芸術だ。」

 

良秀は自身の刀を利き手と反対に持ち直してイサンに何ごとか話して彼の短刀を手に取った。

しばらく調子を確かめるように素振りした後、彼女は頭上へと狙いを定め。

次の瞬間、空気を裂くかすかな音と共にイサンの短刀はシャンデリアの真上へと的中した。

かぁんと澄んだ音。金具はすっぱりと見事な断面で切り裂かれ、ぐらぐらと大きく揺れて。

 

「おろおろと、潰れけり。」

 

「よ…避けろ!」

 

警備員の中でもひときわ目立ち、よく通る声で指揮を取っていた男が焦りをありありと滲ませながら叫んだのと同時に、凄まじい騒音をかき鳴らしながらシャンデリアが床に落ちる。

ガッシャーン!

ガラスの破片と見事な装飾だったものが地面に散乱する。

静寂。

誰も何もしない。

敵も…味方も。

 

<あの…何したんだ?良秀?>

 

「…パフォーマンスだ。」

 

良秀は誤魔化すように煙草を吐き出した。

 

「さっすがガリバー、肝心なときほど用意がいいね?」

 

「ま、こうなるってことは前から知ってたしな。」

 

否、誰も何もしていないというのは間違いか。

シャンデリアの騒動の裏では、灰色の男と長身の女が深型スコップを手にニヤリと怪しい笑みを浮かべていたのだから。

戦闘描写は増やしますか?

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