なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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チップバトル

 時は遡ることちょっと前、ダンテがジャックポットを当てたくらいにまで遡る。

 

「ロージャ!」

 

「うん、分かってる」

 

 ジャラジャラとけたたましい音を立てながら吐き出されゆくチップを前に、まず真っ先に行動を起こしたのはガリバーだった。

 彼はまるで最初からこれが起こることを予期していたかのように鞄からスコップを取り出し、命の掛かった戦場で鍛えられた投擲力をフルに活用してロージャに投げ渡した。

 ロージャはそれをノールックでパシッと掴むと、手で軽く弄びガリバーの下へ悠然と歩み寄った。

 彼らの頭上ではグラグラとシャンデリアが揺れている。

 彼女がすぐ近くへやってきたことを確認した彼は、静かに息をひそめながら彼女に向けて指を数本立てた。

 

「眼を瞑って、俺の合図の後に続いてくれ。サン…ニ…イチ…」

 

 ガッシャーン!

 シャンデリアが地に落ちた。

 このフロア一帯を照らしていた照明が消えたことで周囲は闇に包まれる。パニックに陥った警備員たちの怒号と客たちの悲鳴が入り交って、もはや言葉なんて聞こえるべくもない。

 シャラシャラとガラスの欠片を踏みつける音は周囲の喧騒に紛れて掻き消え、代わりにドサッというガリバーが地面にリュックサックを置く鈍い衝撃がかすかに響いた。

 

「ふふっ…お宝の山だねぇ、カンテラくん? アンタなら持ち逃げなんてしないって信じてるから」

 

「お褒めに預かり光栄ですよ〜、ロージャ様」

 

「うーん、ロージャ様かぁ。なんだかとってもいい響き。ねぇねぇガリバー、もっかい言って!」

 

 二人は軽口を叩き合いながらチップの山にスコップを突き刺した。ジャラジャラとコインがスコップから滑り落ち、次から次へと底の見えない次元のどこかに流し込まれていく。

 いくら取れど取れど減らない山、回収スピードが吐き出す速度を圧倒的に上回っているのは誰の目にも明らかだ。

 

「ひゃ〜! これ、全部持って帰れたら大儲けだよ。私一人ならポケット一握り分しか手に入れられなかったかも…」

 

 彼女がそう呟く傍ら、二人の頭上すれすれを武器が掠めていく。

 たらりと汗を流して、二人は顔を見合わせた。

 

 それからしばらく、時折命の危機に襲われながらも黙々と作業を進めて。

 二人はなんと、あのチップの山すべてをカバンの中に詰め込むことに成功したのだった。

 

「ふふっ、大収穫!」

 

 ロージャが顔いっぱいに大輪の笑みを浮かべた。それに釣られたのかガリバーも口の端をゆるりと上げて、よっこいせと呟きながら鞄を背負い直す。

 

「あ、そうそう、ところでロージャ」

 

「ん~? なぁに?」

 

「このチップの取り分ってどうなってる?」

 

 ピシッ。どこからかそんな音が聞こえてきた。

 

「……。7:3でどう? もちろん7は私ね」

 

「ハハハ、ナイスジョーク。そこは5:5にしましょうよロージャさん」

 

「……」

 

「……」

 

 二人は笑顔で見つめ合っている。

 やがてどちらともなくため息をつくと、二人は示し合わせたかのように武器を投擲した。

 ロージャの手斧がカンテラに弾かれて床を滑る。金属と床が擦れてにわかに火花が明滅した。

 

「やー、だってカンテラ君、私のほうがあなたよりもい~~っぱいチップを詰めたことはさすがに分かってるよね? そりゃ労働の対価として私のほうが取り分多くなって然るべきじゃない?」

 

「いやいやいや、そもそも俺の鞄がないとこの量のチップを持ち帰るなんて不可能だろ! でもお前の言い分だって俺は重々承知してる。だからこそ平等にしようじゃないか、な?」

 

「そうだね。じゃあ仕方ない…。カンテラ君に裏路地の流儀を教えてあげるよ!」

 

「うわーん醜い! これだから都市ってのは!」

 

 素早い踏み込み。

 ロージャが手斧を勢いよく振り下ろし、ひとつかみほどの灰色の髪がはらはらと宙に舞う。

 

「どうせ死んでも蘇るしね! その鞄、頂戴するよ!」

 

 続いて横薙ぎの刃が彼を襲う。ガリバーは慌てて身を屈めて躱したが、真上の空気を勢いよく切り裂いた斧の勢いはそれだけに収まらない。

 

「かかったね!?」

 

 遠心力に任せて振り落ろされる斧。頭をカチ割らんと殺意がふんだんに込められた一撃は、見事彼の肩口を削いだ。

 

「い、ッ…! っハハ、やっぱ痛みってのは慣れないな……」

 

「何腑抜けたこと言ってるの! ま、そっちから攻撃してこないってなら私には好都合だけど、ねっ!」

 

 ガッ!

 斧とカンテラを結ぶ紐が交錯する。

 

「やっぱ切れないね…!」

 

 ガリバーが勢いよくカンテラを振るうと同時にロージャは勢いよく後ろに後退した。

 はっ、はっ、と浅い呼吸の中で言葉を紡ぐ。

 

「ようやくやる気になったみたいだね…。ずっとあのままでも良かったのに」

 

「やらないと死ぬだろ。管理人には申し訳ないが、俺だって痛いのは御免だからな!」

 

 ビュンとカンテラがロージャへと襲い来る。その動きはさながら蛇のようであったが、ロージャは身を横に翻して持ち手を使い見事に弾いてみせた。

 

「やるねぇ」

 

「そっちこそ!」

 

 伸びきった縄を勢いよく振り上げる。カンテラが描いた青い軌跡に思わずロージャが気を取られた一瞬の間、彼女の片腕は縄に拘束された。

「捉えた!」

 

「あちゃー。でもカンテラ君、確かに私は片腕を動かせなくなったけど…君は腕だけじゃなくて武器も失ったの。その違いを教えてあげる!」

 

 急接近。ガリバーは縄を手繰り寄せて彼女の動きをどうにか止めようとするも、止まらない。縄がたわんで拘束が緩んだおかげで彼女の腕は再び自由を取り戻して、それを良いことにロージャは走った勢いのままガリバーを押し倒して首を絞めた。

 

「はーっ、はーっ、勝負あったね」

 

「かはっ…」

 

 男女差を覆してあまりあるほどの体格差。彼女は膝をガリバーの胸に当てて圧迫し、斧を大きく振りかぶった。

 

「じゃあね。まぁ、あんまり悪く思わないで、よ…?」

 

 ガリバーの首が切断されたのと同時に。

 ロージャは困惑したように瞳を揺らした。

 いつの間にか頭から血を流している彼女の眼は、ガリバーの笑みと彼が握るカジノ警護員のフレイルにくぎ付けにされていた。そのフレイルの先端に真っ赤な血がべたべたと付着しているのは、彼女の頭を殴ったときに返り血を浴びたからだろう。

 死に体で、今にも息絶えそうな命の間際。

 彼はその時に火事場の馬鹿力を振り絞ってフレイルを拾い、彼女にぶつけたのだ。

 

「どう、やって…?」

 

 しかし残念ながらその問いに答えられる人間はすでに物言わぬ屍となっていた。故に彼女の最期の言葉は誰にも聞き入れられることなく、戦場の喧騒に紛れて消えた。

 ドサッ。

 ロージャはガリバーの亡骸に重なるようにして、動くことはなかった。

 

 しばらくして…。

 

〈で、どうして二人はあんな死に方をしてたんだい?〉

 

「ダンテ、よぉく覚えておいて。いい女ってのはね、余計な詮索をすると姿を消してしまうものなんだから」

 

「いい女? どこに居るんだよいい女って…」

 

 ガリバーが機嫌悪そうに眉を寄せて吐き捨てた。一方的に理不尽に命を狙われたのだから、さもありなん。

 

「ふふっ、ガリバー。後で覚えてなよ」

 

〈あーもう喧嘩はやめてよ、蘇らせるのは私なんだから!〉

 

 ダンテが苛立ったようにポーッと高い汽笛を鳴らした。相当お冠のようである。自分が作戦を台無しにしてしまった不甲斐なさも入り混じっているのだろう。

 頬を膨らませるロージャ、ばつが悪そうなガリバー、当然仲間割れという失態にイラつきを隠そうともしないイシュメールに胃が痛そうなエピ、ソード。

 そんな最悪な空気を破ったのは、二階にぞろぞろと上がってきたリンバス一行を見たとある構成員の一言だった。

 

「おい、お前ら! 何だよそのツラは? この階を知らないのか? 悲しいツラしてほっつき回るなら帽子を被って隠すなりしろよ!」

 

 ソンブレロを被り、マラカスを手に持ったいかにも陽気そうな男が真っ先に目を付けた人物。それはなんと、よりにもよってバス一番の危険人物と言っても過言ではない、あの良秀であった。

 

「なんで俺の方を見て話すんだ? く・へするぞ?」

 

 彼女はどうやらその一言に気を悪くしたらしい。チッという舌打ちが聞こえてくる。

 

「何だよくへって!?」

 

「首を圧し斬ってやるって意味だ」

 

 良秀が瞳を赤く染めて壮絶な笑みを浮かべた。もうこうなってしまっては誰の手にも負えない。彼女の手はすでに刀に掛けられている。

 とはいえ、まだ戦意を見せているのは彼女一人だけだ。ならばなんとかなると考えたのだろうか、ガリバー(命知らず)が彼女に声を掛けた。

 

「おいおい良秀、なにもそんな出会い頭から喧嘩をふっかけなくても──」

 

「そこのお前は途轍もなく寂しそうだし。迷子になった子供みたいだ」

 

「その喧嘩は何え…何眼だ。言い値で買ってやる」

 

 ガリバーが額に青筋を浮かべて笑顔でカンテラを握りしめた。子ども扱いがそんなにも嫌だったのだろうか?

 

〈ちょ、ちょっと二人とも! 落ち着いて!〉

 

 慌てたようにダンテが止めに入ろうとするも──。

 

「いや、待てよ。こいつの顔の方が酷いな? 目の役割をしてるのは秒針か? それとも分針か?」

 

〈…良秀、ガリバー、準備は良いな?〉

 

 見事に地雷を踏まれた彼は、PDAパッドを取り出して手早く人格牌を並べ始めた。パリンと鏡が割れる音がして、R社のスーツを纏うヒースクリフ、セブン協会の制服を纏ったファウスト、次元を切り裂く刃を手にしたドンキホーテ、アロハ服を身にまとうホンル、などなど…。いかにも強そうな人格たちが並べられていた。

 

「…なんか俺だけ不釣り合いな気が…具体的には俺だけ00人格のような気分がする」

 

 ガリバーがぽつりと呟いた。

 まぁ、何はともあれ。

 管理人の憤怒が囚人にも伝播したのだろうか、この戦いは想像よりもあっさりと終わった。中でも喜悦を浮かべて暴れまわる赤目の戦乙女(と表現するにはあまりにも荒くれが過ぎるだろうが)が大立ち回りを見せたということはここに記しておこう。

 

 ☆☆☆

 

 彼らがソンブレロを被ったどこかの構成員たちを掃討しながら進んでいると、不意に誰かの大声がフロアを震わせ、彼らの耳を劈いた。

 

「うわあっ!!! 駄目だ!!! カネをまた失ったよ、クソッ! これで何回目だ?」

 

 その出どころは麻雀卓に座る男から発されたものだった。絶望にまみれたこの声を聴いた構成員たちはぴたりと動きを止め、コミカルな動作で武器を振り下ろす一行たちに待ったをかけた。

 

「やあやあ、ちょっとタイム! ちょっとうちのお客さんのケアするか! お客様、規則をお忘れになったわけではないですよね?」

 

「で、でも…全財産だったのに…」

 

 彼は涙を流しながら麻雀牌をじっと見つめていた。そんな彼に構成員が冷たい声をかける。

 

「何度も雰囲気を悪くすれば、お客様でパニャータパーティーを開くことになります」

 

「(ん、パニャータパーティーって何だ?)」

 

 グレゴールがこそっと話しかけた。

 

〈知らない、知りたくもないよ…〉

 

「(…気になった奴はピニャータパーティーで調べろよ。後は大体察してくれ)」

 

 その親切な脅迫がよほど恐ろしいものだったのか、男はすっくと立ちあがった。

 そして、構成員からマラカスを受け取ると…。

 踊り始めた。ぐすぐすと泣きながら。

 

「なんだこれ…?」

 

 なんとあのヒースクリフですらおろおろと周囲を見回す始末。この状況を理解するものは、この中では構成員と訳知り顔でにやついているガリバーくらいなものだろう。

 

「うちの派が管轄してる階には必ず守るべき規則があります。賭博とはただ楽しむための行為、それゆえ悲しみも痛みも全てダンスに昇華させなければなりません」

 

 構成員はすすり泣く男のダンスを品定めするような目で見ながら、ふむふむと頷いたり、時折互いに意見を交換したりと見てくれより真面目な態度で鑑賞に臨んでいる。

 

 参考までに、ドンキホーテの、なんというか、こう…形容しがたいダンスの後の感想も載せておこう。

 

「この人はだめだ」

 

 というのは構成員の一人が言った言葉。それに他の構成員も同意するかの如く肩を竦めた。

 

「動作に真心がこもってないな」

 

 ボロボロに言われている渦中の人間、ドンキホーテが怒りを露わに声を震わせた。

 

「それはどういう意味か!」

 

 分かっていないなこの人、と言いたげな視線がドンキホーテへ向けられる。

 

「ダンスは心を映す窓」

 

「心が無色透明でない時に踊るダンスほど、意味がないものは無い」

 

「……。…うぬら、多少無礼ではないか」

 

 ぞっとする、怒りという感情の段階を超えた結果低まった声。

 ガリバーがびくりと身をすくませたのも不思議ではないだろう。

 

「だんだん引き返せなくなってきたな…何してるんだ、ソード?」

 

「あぁ、始末書をあらかじめ書いていました」

 

戦闘描写は増やしますか?

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