なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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勝者

 かつかつ……というよりも、ばらばらという足音を立てて更新するLC一行。最上階に向かう手前、はたとダンテが進む足を止めた。

 

 〈どうしよう。最上階まで登ってきたけど肝心の願望力は……。〉

 

 そう。ダンテが最上階の賭けで使用するはずだったぽんぽん派の願望力は、一階でのジャックポットにすべてを費やされて消えてしまっていた。

 しゅんと項垂れる時計頭。その時、彼の頭上からチッチッという軽やかな舌打ちが聞こえてきた。

 

「あ〜それについては心配しないで。ずっと言いたくてうずうずしてたんだけど、やっと着いたね」

 

 ロージャは懐から一枚の紙きれを取り出し、指でピッと挟んで見せつけた。その紙には奇怪な文様が描かれている。そう、願望力シールだ。

 

「さっき質屋でくすねた願望力があるの。量がちょっと少なくはあるけど、これくらいなら十分でしょ?」

 

「なんで言ってくれなかったんですか?」

 

 ソードが尋ねると、ロージャはにやりと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ギャンブルはポーカーフェイスでやるべきだって言ってなかったっけ。変にそんな素振り見せてバレたらしんどいでしょ。隊長役、ちょっと譲ってくれてもいいよね、ダンテ?」

 

 ダンテがこくりと頷くと、ロージャは下手なウィンクをダンテに送って華麗に身を翻し、レッドカーペットを歩くスターのような足取りで会場に繋がる扉の前に立った。

 

「ロージャ。信じてるぞ、行ってこい!」

 

 ガリバーがロージャの背中を押した。

 

「良い判断ね。お金に関わることなら私、負けたことがないんだ。さぁ……。選手にゅうじょ〜」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ロージャが扉の奥に消えた後、LCBの囚人は皆が皆して扉に耳を当てていた。ガリバー以外。

 

「お、お前ら、そんな徒党を組んで扉に耳を当ててたら、そのうちその扉ぶっ壊れるんじゃ……」

 

 最終カジノ場と廊下は障子張りの扉により隔たれている。こういうタイプの扉は往々にして横開きであり、すなわち前後からの圧力に弱い。そりゃあ我先に我先にと耳を押し当てていれば、いつかは誰かがヘマをして扉が破壊されてしまうことは目に見えていた。

 

「でも、ガリバーさんは気にならないんですか? この賭け試合の行方が!」

 

「あんまり。だって結果はどうせ──」

 

 と、その時、ガリバーの声を塗りつぶすかのように障子の向こう側から地響きが轟いた。そしてすぐに。

 

「もう、押さないでくださいよ。……あ!」

 

「あ、えっあっ……!?」

 

 イシュメールがヒースクリフに、シンクレアがイシュメールにぎゅうぎゅうと押されていく。囚人たちが先ほど響いてきた轟音の正体を探ろうと他の囚人を押しのけて耳を障子に押し当てようとし、13人分の圧力に耐えかねた障子は、バタン! と、いともあっけなく押し倒されてしまった。

 

「な……何だお前ら……?」

 

 そこには、得体の知れない惨状が広がっていた。真ん中には大きなポーカーテーブルとそれを囲む三つ……いや、四つの椅子。一番手前側には二階の組織員が被っていたものと同じ帽子を被った女が座っており、右側ではロージャが席から立ち上がって向かい合って座っている白い髪の美丈夫を睨みつけている

 そして、一番奥では、油と脳髄に彩られているスクラップがひとつ鎮座していた。

 

 〈ロージャ、どうなった!? 〉

 

 ダンテがカチカチと音を鳴らすと、ロージャに向かい合って座っている男が驚いたように口笛を吹いた。

 

「ロージャ、見ない間に新しい友達を作ったみたいだね」

 

 彼は手に持っていた札を降ろし、ぎいと音をたてて椅子から立ち上がって障子扉へと踵を返した。その仕草は優雅なもので、怪しいほどに軽い。

 

「ゲームは終わりだ。君の勝ちさ、ロジオン。異議申し立てはなしだ」

 

 そう言って扉の先に消えたっきり、彼が戻ってくることはなかった。

 二階を治めていた組織と同じ帽子を被った女が深いため息を吐きながら、苦笑を浮かべて彼を見送っていた。

 

「はは、いやぁ……ゲームは楽しんだよ。ところで……。私はソーニャみたいにクールになれない」

 

 すう、と目を細める女。途端、空気が張り詰め、戦闘の予兆を感じさせるピリピリした圧力が彼女の全身から発せられる。

 

「友達を連れてきた記念に、私も私の友達を紹介してあげる」

 

「……そのなんだ、ギャンブルは楽しむためにだけやるものだって、おたくらの組織で言ってた気がするけど」

 

 グレゴールが嫌な予感に身をすくませる。

 

「うん。結果をすぐ受け容れるよりかは、こっちの方がもっと面白いだろう?」

 

「誰が勝っても力で押すつもりだったの。なるほどね?」

 

 ロージャが皮肉たっぷりに笑うと、女は噴き出した。彼女の持つマラカスがしゃかしゃかと身動きに合わせて軽快な音を鳴らす。

 

「おい、よく考えてみろ。私は力もあって部下もいるのに、たった一セットのゲームで黄金の枝を──なっ!?」

 

 彼女が不敵にも前口上を述べようとした瞬間、ガリバーが素早く彼女にカンテラを投げて拘束した。そのままぐるぐると全身を拘束されて引っ張られ、バランスを崩して女が倒れる。

 

「ガリバーさん、こうなることが分かってたんですか?」

 

 と、イシュメールが驚いたように尋ねた。ガリバーはそれに苦笑いを浮かべながら頷いた。

 

「ああ、まあ……。だってそりゃ、裏路地は無法地帯なんだからな」

 

 何か隠すようにどもっている彼に訝し気な視線を向けたが、イシュメールはまあいいと言う代わりにか、ふんと鼻を鳴らして終わらせた。

 

「ナ~イス、ガリバー! ハハ、やっぱこうでなくちゃ!」

 

 ロージャが獰猛な笑みを浮かべて女の脳天をカチ割った。哀れリーダー、いいところの一つもなく退場である。

 

アイド先生の次回作(鏡鉄道1号線)にご期待ください……ってね!」

 

 リーダー格が真っ先に沈められたからだろうか。

 その後の戦闘はいともあっけなく終わってしまった。

 

 血に濡れた道が切り開かれ、エレベーターがチンとベルの音を鳴らして口を開いた。囚人たちがぞろぞろと列をなして入っていく。

 吐き気でもこみあげてきたのだろうか、顔色蒼白なシンクレアが最後に乗り込んで、ようやく扉が閉まった。シンクレアはちらり、と横目でガリバーを見た。

 

「……ガリバーさん、平気なんですね。なんだか……意外です」

 

「あー……そうだな。実は……」

 

 シンクレアの耳に顔を近づけて、そっと囁く。

 

「戦闘になるとさ、スッと意識が切り替わるんだよな。それからは何を見ても気にならないというか。なんか夢見心地みたいって言うかさ」

 

「へぇ……羨ましいなぁ。コツとか、僕にも教えてくれますか?」

 

「すまん、俺もしばらく……最初にロボトミー支部に入ったあたりからかな、勝手になるようになったから。教えられない」

 

「そうですか……」

 

 残念そうにシンクレアが俯く。

 静寂。誰も何も言わない。あのロージャでさえ口を開こうとはしなかった。

 たまらずソードがロージャに話しかけた。ずっと機を伺っていたのだろうか。

 

「願望力も使わずにどうやって勝ったんですか? いえ、それよりもどうして勝てるって確信したんですか?」

 

「あららら、ちょっとちょっと……質問はゆっくり一個ずつ。いいね?」

 

 ロージャは待っていましたと言わんばかりにニッコリと笑うと、ソードをどうどうと落ち着かせてから自信満々に指を突き立てた。

 そして始まるは得意げなロージャによる種明かし。要約すると、見事な演技と傲慢な程の自信が彼女の手に勝利を齎した、ということらしい。

 

「まぁ、実は願望シールだかなんだかも、結局願って望む気持ちにそれっぽい名前をつけただけだしね。自分に対しての信頼が確かな人にとっては、ただの変な紙切れに過ぎないんだって」

 

 というのが彼女の談だ。私の意見とは違うものの、これも一つの仮説として考えるのは十分あり得ることだろう。とはいえ願いが無条件に、一方的に叶えられる事ほど面白くないものもないし、私がこの仮説を実証することは永遠に無いだろうが。

 

「……信頼あるは、すなわち心が逆さま落つること無きなり」

 

 イサンが俯きながらボソボソと呟く。

 

「その信頼、いかで得ん?」

 

「ああそれ? ホント簡単なんだけど。特別に伝授してあげよっか。よく聞いて」

 

「おぉ……」

 

 シンクレアが嬉しそうに声をあげた。常に自身なげにおどおどしている彼にとって、彼女からの言葉は自身を変える鍵になり得るものだからだろう。

 

「し、シンクレア……あまり参考にならないと思うぜ……?」

 

 ガリバーが恐る恐るシンクレアに話しかけるも、時すでに遅し。ロージャは自信満々に次の言葉を発した。

 

「一番イケてるのは私だから、他の誰かが何か喚いたところで全部出鱈目だ! って聞き流せばいいの」

 

「……」

 

 シンクレアがまさに、それが出来たらだれも苦労しないと言いたげな視線でロージャを見つめている。どこからどう見ても、彼女の意見が参考にされるような気はしなかった。

 

「……聞かぬが花やもと思ひし」

 

 イサンがそう、呆れたように呟いた。

 

 〈ロージャ……もしかして私の言ったことも全部そうだと思ったのか? 〉

 

 ロージャはそれに答えなかった。世の中、返事をしない方が良い事も多いのだ。

 

 とはいえそんな気楽な言葉を交わせるのは、どうやらこのエレベーターの中だけだったようで。

 チン、と音を立ててエレベーターが広がると、目の前には金属音がこだまする洞窟が広がっていた。

 金庫の前に立ちふさがる警備員、一心不乱につるはしを振るい続ける奴隷たち。その光景を見て、簡単に黄金の枝を取り返せると思った者は一人も居ないだろう。

 

「待って! これじゃあゲームに勝った甲斐がないでしょ! どうしてこうやって息を殺しつつ降りなきゃいけないの? あのツルハシを動かしてる奴隷は誰なの?」

 

 ロージャが叫ぶ。彼女の頭の中はもはや凱旋気分であり、この後があるなど想像だにしていなかったのだろう。

 

「私たちが所有権を得たのは確かですけど……ご存じの通り身分を証明できるものはありませんし、厳密に言うとあの人達にとっては私たちが侵入者でしょうね」

 

 そう。

 あくまで黄金の枝の所有権を得たのは‟ぽんぽん派”であり、リンバスカンパニーではないのだ。

 つまりぽんぽん派の特徴であるアロハシャツをかなぐり捨てて身分証の一つも持たぬLCB一行はあくまで‟ぽんぽん派を名乗る不審な組織”でしかないのである。本番はここからだ。

 

「物凄いですね。穴を掘る合間に金庫まで作っちゃってますよ」

 

 金庫を覗き込んだイシュメールが感嘆の吐息を漏らした。穴の中にはこれでもかと眼札がつめこまれており、これら全てを持ち帰れたら間違いなく裏路地有数の権力者にはなれるだろう。

 

「美しい光景だこと……私が死んだら絶対にああいうお金の山に埋めて。最後に紙幣の香りを嗅ぎながら眠るの」

 

 うっとりとロージャが呟いた。

 

「ひゃー、壮観だな! 管理人、これだけあれば囚人たちを給料で黙らせることも簡単になるんじゃないか?」

 

 〈そんな金をドブに捨てるようなこと、本当にしたい? 〉

 

「……いや、あんまり」

 

 ガリバーがため息をついた。いくら言い聞かせても想定外の行動をとる、それが囚人という生物の習性だといやというほど理解しているのだろう。慌ててグレゴールが話題を変えた。

 

「そういえば、さっき俺達のことを舐め回すように見てたあいつとは……知り合いか?」

 

「……故郷の友達だよ」

 

 ロージャが先ほどまでとは一転、暗い表情で答える。

 

 〈故郷の友達で片付けるには、仲がちょっと微妙に見えたんだけど。〉

 

「もともと同窓会っていうものはそういうものよ。うちのグレッグも、昔の戦友たちとは殺伐な挨拶をしたでしょ?」

 

「……そう言われちゃ黙るしかないなぁ」

 

「……」

 

 故郷、同窓会、という言葉にガリバーが何とも言えない表情を浮かべたが、それに気が付く者は残念ながらこの場には居ない。

 ガタン!

 不意に金庫の前の鉄格子が激しい音を立てて揺れた。

 

「鉄格子の中で何かが動いてますね。愛玩動物でも飼ってるんですかね?」

 

「……あなたの家では鉄格子を壊すくらいに揺さぶる生き物を、愛玩動物って言うみたいですね?」

 

 イシュメールが皮肉げに肩をすくませた。

 

「大罪たちですね」

 

 〈幻想体を手懐けられるとでも思ったのか? 〉

 

 ダンテが呆れたように額を押さえると、ガリバーがふむと顎に手を当てて答えた。

 

「ま、管理方法が無きゃロボトミー社はとっくに幻想体どもによって自滅していただろうし。少なからず方法は見つけられたんだと思うよ。あとあれは幻想体ともまた違う謎生物なんだとさ」

 

「まぁ……成功さえすれば優秀な番犬にはなってくれそうですね」

 

 成功すれば、というところをやけに強調してイシュメールが吐き捨てる。警備員たちの身体の一部が欠損しているところから見るに、どうやら多大な犠牲を払ってはいるらしかった。

 

「ああ、よく見ればこの人たちの指や体の一部が欠けてますね。……こういうのが流行りなんですね?」

 

「流行ってたまるか!!」

 

 器用にもガリバーが小声で叫んだ。

戦闘描写は増やしますか?

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