なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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「はあ、これは喜んで良いのか悪いのか…」
「お疲れ様。戻ったら組長に報告しないとな」
00 黒雲会若衆 ガリバー


ダンジョン内部-上

 目の前にはゴールドラッシュもかくやという程の金、金、金。

 眼が山のように積みあがった金庫の傍では憤怒大罪が回し車をくるくる回し、ジョイントで繋がった眼を回収するための装置を動かしている。

 ノリノリで設計図を開きドライバーを握り占めるファウスト、ペンを手にしたイサン、リュックからポイポイ遺物を取り出していくドンキホーテとその隣で面白そうに遺物を手に取るホンル。ロージャは眼の山の上に寝転がりながら勝手に保存食を食べているし、ウーティス大声で全体に指示を出していて、ヒースクリフは大罪達が怪しい動きを見せた途端殴って軌道修正する役割を担っているようだ。……警備員で遊んでいる良秀についてはあえて黙っておこう。

 

 〈こういう時、私は管理人としてどんな顔をすれば良いんだろう〉

 

「笑えばいいんじゃないかな?」

 

 ダンテの呟きにガリバーが遠い目で答えた。

 どうしてこうなったのか? 話は少し前に遡る。

 

 

 

「チッ……警護員に大罪まで……面倒なことになってきたな……」

 

 グレゴールが黄金の枝につながっているはずの道を睨みながら吐き捨てた。その前にはさながら門番のように道を守っている警護員が立っている。

 

「何か良い方法ない、ガリバー?」

 

「いや俺に言われても……」

 

「えー? でもそんなカンテラ持ってるくらいだしさ、先頭歩くにはちょうどいいって!」

 

「あ、ちょ、お、押すなって……うわっ!」

 

 ロージャに背中を突き飛ばされて体勢を崩し、ガリバーはあたふたジタバタと両腕を動かして。

 

「……?」

 

「……あっ」

 

 そのまま奴隷の前に躍り出た。

 

「……」

 

 どうにも名状しがたい沈黙が流れる。お互いに。

 その長い前髪のせいで奴隷の方の表情を推し量ることは出来ないが、ガリバーが冷や汗をだらだらと流して硬直している所がはっきりと見えるのは確実だ。

 

「や、やあ……どうも……」

 

「……」

 

 奴隷は返事をしない。

 

「えっと……その、何も見なかったことには……してくれませんかね……」

 

「……」

 

 奴隷は答えない。ただひたすら、鶴嘴を振り下ろしているだけだった。

 ガリバーが助けを求めるように後ろを見る。全力で目を(目は無いが)逸らしているダンテが目に入ると、ガリバーはすっと瞳からハイライトを消した。

 

「がんばれ~カンテラく~ん」

 

 にやにやと笑いながらロージャが小さく声を掛けてきた。うっかり肘が出てしまったのは恐らく偶然の産物だろう。

 突然、奴隷が口を開く。

 

「よ……よ……」

 

 はっと振り向いたガリバー。先ほどまでささやき声が木霊していたが、今ではすっかり静まり返っている。

 

「よんせんななひゃくきゅうじゅうにまんあん……。よんせんななひゃくきゅうじゅういちまんあん……よんせんななひゃくきゅうじゅう……」

 

 しかし、奴隷の口から零れたのは意味があるのか無いのかよく分からない言葉だけだった。皆してがっくりと肩を落とす。しかし、すぐに何かを思いついたのかはっと顔を上げた。後ろで嫌そうにファウストが眉をしかめた。

 

「なぁアンタ、つまりは金さえあれば見逃してくれるんだろ?」

 

 奴隷は答えない。

 

「ざっとこれくらいあれば足りるか?」

 

 そう言ってガリバーが鞄をひっくり返した、次の瞬間。

 

ザバー!! ジャララララ!! 

 

 勢いよく流れ出るチップ、チップ、トドメとばかりのチップの滝。鞄から溢れたチップはみるみるうちに地面を覆い、疑問や困惑の一切を押し出した。

 

「……えっ」

 

 〈い、いつの間にそんな量を集めてたの!? 〉

 

 ダンテがボーンと時計を鳴らした。こんな派手にチップを溢してはもはや潜入どころの騒ぎではない。チップに流されて一部遺物や中に入っていたであろう保存食や水まで文字通り流出しているのも見える。

 

「おい! こりゃ一体何だよ!」

 

「う、う、裏切り者ー!!」

 

 囚人たちも騒然としている。当たり前だが奴隷も鶴嘴を振るう手を上に上げたまま固まってしまい、おろおろとガリバー、チップ、ガリバーと視線を何度も彷徨わせていた。

 

「チップ……!? まさか、あの時の!?」

 

 イシュメールが何かに思い至ったようだが、その間にもチップの山はどんどん大きくなっていく。これだけ騒ぎが大きくなれば、当然警備員にも気が付かれて当然だった。

 

「何だ? どうしてこんな所にチップがあるんだ?」

 

「あ、やっべ」

 

 ガリバーが警備員の方を向いて固まる。囚人と管理人は流石の速度でさっと物陰に隠れ、奴隷は金縛りにあったかのようにぴくりとも動かない。残念ながら渡る世間は鬼ばかりである。

 いとも容易く行われた裏切りに、ガリバーは物陰の方を恨めしげに見つめつつも。今はこの場を乗り切るのが先決とばかりに悪魔の問答へと挑むことにしたようだった。

 

「あ、あー……えっと、換金所がどこだか分からなくて」

 

「そうだとしても普通ここに迷い込むか?」

 

「だって場所聞いても皆“知らない”って言うから! はっきり言われないと分かんないだろ?」

 

「まともな神経の奴なら最上階でカジノやってる横をすり抜けてまでここに来ないと思うが」

 

「係員の人も“皆さんあちら行かれているようですが〜……”とかしか言わないんだって!」

 

「……はぁ」

 

 バカバカしいと言わんばかりに大きく溜め息を吐いた警備員。物陰の方から聞こえてくるささやき声も、まさに“アイツは何を言っているんだ? ”と言わんばかりの呆れや困惑がふんだんに含まれていた。

 

「あいつ何言ってるんだ?」

 

「普通に考えてその言い訳が通るわけないでしょう」

 

「ガリバー、さすがにそれは無いかな」

 

「普段から虚言ばかり言っているのに、こういう場面でまともな言葉の一つも言えないとは」

 

「う、うるさい! そう言うくらいなら代われよ!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶガリバー。後ろから檻を破った大罪たちの足音に、もはや取り繕うことはできまいと彼はカンテラを構えた。

 

「……」

 

 その瞬間、纏う雰囲気が変化した。すぅと目を細め、まず一番先に迫ってきていた赤い爬虫類のような怪物の横合いを遠心力を利用したカンテラが勢いよく叩く。がぁんと金属音が響き、ガリバーがぐいと縄を引くとしゅるりと絡みついた。

 後ろから鏡が割れる音が連続して響いてくる。そして物陰から飛び出してきたのは橙色のラインが入ったジャンプスーツを身にまとったヒースクリフ、それからいつものセブン人格の……いや、今日はどうやら別の人格を持ってきたらしい。紺色の道袍(ドポ)を揃って身に纏っている、刀を手にした人格群と、黒い雲のような入れ墨を入れた人格がガリバーの前に出て各々接敵を始めた。

 

 〈ねぇガリバー、今日は新しい人格を試したいんだけど、いい? 〉

 

「ああ!」

 

 パリンと鏡の割れる音がまた響き、ガリバーは白い刃を握る、黒い服と入れ墨が特徴的な人格に交代した。彼の開けた胸の間から雲のような強化入れ墨がところどころに刻まれているのが見える。

 

「うーん、あっちに剣契(コムゲ)が居る……敵対組織と共闘するなんざ、今じゃないと無理だよなぁ」

 

 首を軽く鳴らして刀を構える。対象は鶴嘴を握った奴隷。彼らはおぼつかない足取りのまま彼らに向かって勢いよく鶴嘴を振り下ろしたが──

 

「せいっ」

 

 いとも容易く弾かれた。無理もない、痩せ細り力の衰えた奴隷が持つ力なんてたかが知れている。

 しかしどうやら警備員もそれは了解していたようで、やはり彼らは囮でしかなかったらしい。

 後ろから迫りくる赤色の大罪が彼に向かってその鋭く尖った口を突き出した。

 

「うわっ!?」

 

「くっ……」

 

 どうやらこの人を人とも思わない戦術に他の囚人たちも引っかかってしまったようで、ガリバー以外にもこの攻撃を喰らってしまった者はそれなりの数居た。

 そして、次の瞬間。

 

「クソ、やはり辛抱ならん! 私たちの同胞を殺した連中と共に戦うなんて!」

 

 ウーティスが爆発した。

 

「う、ウーティス殿。気持ちは分かりぬれど、今は……」

 

 次の瞬間、道袍を身に纏っているウーティスがイサンの静止も聞かず他の囚人に斬り掛かった。斬りかかられた囚人、ホンルはいつも通りにこにこ笑いながら軽々とウーティスの斬撃を刀で弾き、流している。

 

「くっそぉ、なんか凄くイライラする……! これが観察日記にあったアレか! 実際に受けるとこんなにも厄介だとは……!!」

 

 憤怒大罪と、ついでに剣契、さらに言えば黒雲会の味方の流れ弾にも気を配りながら刀を振るう。今回は何の人格も被っていなかったヒースクリフがバットを強く握りしめ、怒りのまま闇雲に振り回しているのが横目に見えた。

 

「ほっ」

 

 まずは一人。静かに切り裂く剣契とは対象的に黒雲会の剣筋は派手で、出血が多くなるような剣筋をしている影響か、足元にじわりじわりと赤の泉が広がっていく。

 鉄臭い匂いが鼻についたからか、彼はひくひくと鼻を動かした。

 

「うっ……相変わらずひどい臭いだな。慣れちまったから今は大丈夫だけど……」

 

 そう呟きながら刀を眼の前の奴隷に向けてまた振り下ろす。しかし偶然かはたまた必然か、奴隷の振るった鶴嘴がガリバーの刀よりも先に彼の脇腹に突き刺さった。

 

「がっ……!」

 

 歯を食いしばって耐える。直前になんとか腕で庇ったから致命傷には至っていないものの、脇腹からだらだらと血が流しながら彼は後退した。

 しかしすぐさま奴隷の後ろから憤怒大罪による突進がガリバーを襲い、せっかく取れた距離もすぐに詰められてしまう。咄嗟に刀を大罪に向けることでわずかに怯ませられたものの、迫りくる大罪はもはや目と鼻の先。

 もうだめかと命を覚悟したガリバーがぎゅっと目を瞑ったその時、警備員が高らかに笑った。

 

「はっ、残念だったな! こいつらは俺たちが持ちうるあらゆる技術を使って躾け、多くの犠牲を払って実用化させた生物兵器だ。お前ら程度が奴らに勝てるわけないだろう!」

 

 得意げに語る警備員。その声に反応して体の向きを変える憤怒大罪。その虚ろな瞳に映るのは、ガリバーではなく警備員だった。

 

「ま、待て……こいつらなんでこっちに来るんだ? 止まれ! 止まれって! こ、こいつらを引っ剥がしてくれ! 早く!」

 

 不用意に大声を出してしまったことが運の尽き。瞬く間に警備員は憤怒大罪に群がられ、ぐちゃぐちゃと深いな音を立てるだけの肉塊と化してしまった。

 

「これは……何とも凄惨なり」

 

「うっ……すまん、ちょっと……その、手洗いに……」

 

 人格を剝がされたガリバーが青い顔をして岩陰に去っていった。イサンもほんの僅かに眉を寄せて唸っているし、シンクレアも顔を青くしてぶるぶる震えているのが垣間見えた。

 しかし不快感を示す囚人たちはごく少数。ほとんどの囚人は生きたまま大罪に貪られている警備員の横で平然と談笑したり煙草を吸っていた。せいぜいが断末魔を鬱陶しそうに見つめるくらいのものだ。

 そのうち、平然としているように見せかけているロージャがダンテをトントンと叩いた。

 

「ねえねえダンテ、こ〜んなにお金があるんだし……少しくらいくすねてもバレないよね?」

 

 〈あー、それもそうだろうけど……〉

 

 ダンテの歯切れ悪い声が漏れ聞こえてきた。そんな彼をフォローするためだろうか、ずいと横からファウストが二人の会話に割り込んだ。

 

「そんな時間も、持ち帰れるほどキャパシティに余裕もありません。即急に黄金の枝を回収するべきだとファウストは思考します」

 

「ねーでもファウストさん、ちょっと待ってよ」

 

 なおもロージャは食い下がる。それもそうだろう、このような宝の山を前にいつまでも待てる訳もないのだから。

 

「いえ、待てるほどの時間は……」

 

「私たちにはあるじゃん。時間はまだしも、余裕は」

 

 〈……あっ、まさか、ガリバーの鞄!? 〉

 

 ポーン! とダンテが時計を鳴らした。正解とでも言うかのようにロージャがパチンと指を鳴らす。

 

「正解! カンテラくんの鞄なら全部入れられるんじゃない? それに、もしかしたらお金を集めるのが楽になるような何かを持ってたりして」

 

 ダンテは何かを考えるかのように俯いた。それからしばらくして、チーンとレジのような甲高い音を立ててロージャを見上げた。

 

 〈うん、私も気になる。ちょっと見てみよ……〉

 

「駄目です」

 

 いつになく焦った様子でファウストがダンテの手首を掴んだ。

 

 〈えっ? 〉

 

「駄目です。何の用意もなくあの遺物に手を突っ込むべきではありません。ロージャさんも彼の所持品には不必要に干渉しないように」

 

 彼女の視線は地面に散乱した遺物にも向けられていた。歯車のような遺物や、工具にも似た遺物がチップに混ざってあちらこちらに散らばっている。

 

「えー? ざんねーん。でもファウストさん、それ私だけに言うことじゃないよね」

 

 ロージャがなおもにやりと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それは一体どういう……」

 

「だって……既に触ってるもん! 他の人たちも!」

 

 その言葉に急いでファウストが振り返ったのだろう。すると、そこにはチップに埋もれた遺物で遊ぶ囚人たちの姿がそこにはあった。

 

「見ろよこれ! 金で出来てて高そうだ。売れば相当なカネになるんじゃねぇのか?」

 

「これは……ぬいぐるみ、ですか? なんだか禍々しいですが……」

 

「歯車、工具……ふむ、懐かしく覚えたり」

 

「うっひょ〜! この瓢箪、中からいろいろな物が出てくるぞ! なんと奇怪な妖器であろう!」

 

「流石の僕もこんな品は見たことありませんでしたね。あ、これ、三度見たら死ぬ絵って書いてあります〜」

 

「なっ!? あ、危ないじゃないですか! 伏せておいてください!」

 

 口々に勝手なことをわめき合いながら囚人たちはガサガサとチップの山をかき分けている。その光景を見たのだろうファウストは頭痛が痛そうに深く、深くため息を吐いていた。

 そしてしばらく記憶を参照するようにトントンと腕を叩き、覚悟を決めたのか一歩前に踏み出した。

 

「皆さん、静粛に」

 

 囚人たちのざわめきがある程度収まった所で、ファウストは仰々しく口を開いた。

 

「ここにある遺物の詳細は……一応、判明しています。はい。信用に値する情報源があるので」

 

 一拍置いてから彼女は続けた。

 

「よって、ファウストの指示に従う間のみ、囚人14番が戻ってくるまでこれらの遺物を使用することを許可します」

 

 わっ、と囚人たちが沸いた。

 

 その後どうなったか? 冒頭の通りである。

 

「ロージャのバカ!ファウストさんが許可したのは俺の遺物をいじることであって、どう考えても勝手に保存食を食べて良いってことじゃないだろ!」

 

「いーじゃん、そっちが勝手にチップを出したのとおあいこでしょ」

 

「ガリバーくんガリバーくん、このチョコレートクッキィなるもの、私も食べて良いでありまするか!?」

 

「せめて手を付ける前に聞いてくれぇ……!」

戦闘描写は増やしますか?

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