なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー! 作:青い方のカンテラ
「おー、ぶたしこ君じゃん。……実際に見ると、凄い禍々しいな」
「ふむ。何を知っているのか話してみろ、ガリバー」
「へいへい。コイツはぶたしこ君改め……えーと何だっけ、いちいち見ないから忘れてんな……そうだ思い出した、“あなたは強くなりましたか”だったな。管理人のお前ら、ちゃんとパッシブは読んでるな? じゃあ今度はバフやデバフにも気を配るといいぜ。情報は武器だって前作経験者なら分かるだろうから」
「もしかして……それって、眼の前のアレは幻想体という事ですか? だからこの階に入ってから僕らは警護員を見かけないんですか?」
ガリバーの言葉を待たずとも、彼らの眼の前に鎮座していたチープな色合いのコンテナが突然作動を止め、その大きな口を開いた。そして中から飛び出してきたのは子どもが出鱈目にパーツを組み合わせて作ったとしか思えない、ひどく歪な姿の巨人。
「なるほど、この区画からは穴を掘る作業を本格的に進めていたみたいですね。そうでなければ幻想体を使って強化人間を大量生産しようという無茶なことはしないでしょうし」
〈分かったから早く避けろ! あいつら、ちょうど私たちを指してるしなんか歌まで歌い始めただろ! 〉
「あ。あ。うれしい!!! あ〜。たのしい!!!」
順繰り順繰りに指を指していく。そして最終的に選ばれたのは──ガリバー。
「ザ・ゲーム・オブ・デス!」
「うわっ!?」
彼がつい先ほどまで居たところを、巨大な水色の腕が通過。さらに続けて別の強化人間たちも彼らに向かってその拳を振り上げた。
しばらくして……。
「はぁ……はぁ……し、しんどかった……」
「まさかあんなに粘るとはね……」
崩れ落ちた改造人間、肩で息をする囚人。中には力も気力も尽きてその場に寝転んでいる者もいる。彼らは長い激闘の末この改造人間を倒したのだ。どれくらい長かったかというと、長すぎて書くのに飽きるくらいには。
「管理人〜! おま、工場探索しに行けよ! 露骨になんかありそうな選択肢だったろ!?」
〈えぇ? だって危ないかもしれないじゃないか。安全第一だよ〉
「いやまぁ間違ってないんだけどさ、俺たちはこう……使い捨ての駒みたいなのだから! リスクはどんどん冒していこうぜ!」
〈生き返らせるのだって楽じゃないんだって……〉
「何だお前。管理人様の指示が間違ってるって言いたいのか?」
「いや、えっと、それはその……」
ウーティスからの圧にタジタジな彼。そしてしばらく黙り込んだ後、どうやら真正面からの逃げ道はもはや無いと悟ったのか、強引に話を変えることでこの局面を脱することにしたようだ。
「とっ、とにかく! 先を急ごうぜ! また強化人間が出るかもしんねーし!」
「そうか。それはそれとして、後で側近としての心構えを叩き込んでやるから覚悟しろ」
「げぇ……」
訂正。脱せなかった。
ウーティスからのガミガミとした説教をBGMに、一行は下へ下へと降りていく。その度にひんやりした空気が彼らの頬を撫で、次第に霜が降りている箇所や、氷が地面から生えている箇所が増えていく。
「下りるたびに肌寒くなってる気がします。どうしてだんだん氷が増えてるんでしょう……?」
「黄金の枝が近づいてるんだ。確かファウストさんが、黄金の枝が近づくにつれて
「お呼びかね?」
「うーん、そっちのイサンを呼ぶつもりはなかったな?」
「……はぁ。今のそれ、冗談じゃないと嬉しいんですけどね。おかげさまでもっと寒くなりそう」
〈まあまあイシュメール、黄金の枝に近づけてるってことだから。もっと気楽に行こう。〉
かつかつと彼らは坂を下っていく。暗い洞穴を抜け、黄金の枝があるだろうところへ。
コーナーを曲がってこの小さな路を抜けた時、彼らの眼前には透明で見上げるほど大きな城が──氷の城が広がっていた。しかも氷は分厚く、そんじょそこらの石材よりも頑丈そうだ。尖塔は天井を抜けそうなほどに鋭利で、入口は冷たく彼らを突き放すようにぴっちりと閉まっている。
そしてその閉じられた扉の前で、その扉から広がる階段に腰掛ける男が一人、こちらを見つめていた。
「たまに頭の中がゴチャゴチャになるときは、よくここに来てたんだ。たとえ君の好きな安楽椅子やウィスキーはなくとも……ここでは外套をいくらしっかり着込んでも寒さが貫いてくるんだ。だから考えがより明瞭になるのさ。……ガリバー、すまないがスープや懐炉を出すのはやめてくれ。君に話を聞いてもらおうとは思ってないけれど、雰囲気ってものがあるから」
「すまん」
〈……。〉
ガリバーはそっと鞄の中に魔法瓶と使い捨ての懐炉をしまおうとした。近くに居た囚人たちに集られた。
「あーっいけませんお客様、これらは1人分しか用意していません! あっそこ触らないで──!」
戦利品であるスープを飲みながらロージャが不敵な笑みを浮かべた。
「先に来てるとは思わなかったな」
「僕と隊員たちは早いうちからここに通じる近道のことを知っていたからね。この地域の裏ルートを通じて得た資料だ。大義のための大きな力が埋められた空間についての資料のことだよ。でもこの……黄金の枝が埋められている空間に接近しただけであって、どうしようか見当が付かなかったんだよ。ところでロージャ、そのスープ置いてくれない?」
「やだ。ってかけっこう美味しいんだよね〜このスープ……25区で燻ってると思ってたんだけど、そんな組織的犯罪集団みたいなやり方ばっかりするくらいなら、ずっと燻ってればよかったのに。ソーニャ。あんたのおかげで罪のない商人たちもみーんなお金を奪われたんだよ」
ソーニャは何かを諦めたような表情をした。もうスープは無視して話を進めようといったところだろうか。
「……知ってるか、ロージャ。ここはもともと霜が沢山生えているだけの、ちょっと奇妙な場所に過ぎなかったんだ。でもこれを見てよ。今は巨大な城と硬い氷で覆われた場所になったんだ。君がちょうどここへ足を踏み入れた瞬間から」
「おいテメェ! 勝手に話しながらスープ独占するんじゃねぇ! オレたちにも寄越せ!!」
「当人! 当人も飲みたいでありまするー!」
「えー? やーだ。ほーらおちびちゃん、たかいたかーい」
「私はおちびちゃんではない! ドンキホーテという立派な名前が……!」
「わあ〜。本当に美味しいですね、これ。召使いたちのを分けてもらったあの時を思い出します〜」
「あーっ、いつの間に!?」
「バーカ、お前より背の高い奴もここには居ンだよ!」
「なんであなたが威張ってるんですか……」
〈なんだか私も飲みたくなってきたな、あのスープ。ガリバー、あの瓶ってもう一本ない? いや私は飲めないんだけど、皆楽しそうだから気分だけでも味わおっかなって……ガリバー? 〉
「……カエシテ……カエシテ……」
冷たい空気が囚人たちの熱気で温まっていく。もうメチャクチャになってしまった会話の流れを取り戻すのは不可能と判断したのだろう、ソーニャは疲れたような重い溜息を吐き出して彼らに向き直った。
「……ここは罪人の告解室であって、孤児院ではないんだけどね」
「私たちが子供じみてるって言いたいんですか?」
「イシュメール、どうどう」
「黄金の枝はあの城の中にあるよ、ロージャ。無事、君が望むものを見つけられますように」
彼らはソーニャに指されるがまま氷の城の中に足を踏み入れた。一行が、いや、ロージャが近づくと、ぴっちりと閉められていた扉はまるで嘘のように重苦しく開き、中へと続く回廊を示しだした。
「さ・ら・か・せ」
「
「
「そうだ。分かったらさっさと出せ、ランタン野郎」
「……」
何か言いたげなのを飲み込んだ顔をした彼が懐炉を渡すと、良秀は満足そうに煙を吐いてポケットの中に無造作に突っ込んだ。
「げっ、氷の中に人が居る。まさかあれも幻想体とか言わないよな……?」
グレゴールの言葉につられて横を向くと、壁から突き出た氷の中に幾人かが閉じ込められていた。その誰もが目を閉じ、虚ろな表情でただ固まっている。
「……あれは多分、違うかな」
「おっと、ロージャさん。あいつらについてなにか知ってるのか?」
「知ってるも何も……彼らは」
「! 来るぞ! 総員、戦闘態勢!」
ピシッ、パキッ。
ひとりでに氷にヒビが入っていく。そして氷棺は破られ、中に居た住人たちが転がり落ち、恨めしげに一向に鶴嘴を向けた。
それだけではない。後ろから重い、重い何かが接近してくる衝撃が同時に襲ってくる。
「管理人さん! 前からも、後ろからも来ています! どうしましょう!?」
「おい、入ってきたとこはどこだ!?」
「……! ありません! 扉が……いつの間にか!」
「そんなのってありかよ……!」
グレゴールが悪態を吐きながら腕を構えた。刹那、時計が鳴り響いて鏡の割れる音が周囲を包む。すぐに彼らは人格を被って突撃した。
カン、ガン。氷を武器で叩く音がそこら中で反響する。現在囚人たちは氷に閉じ込められていた男たちと交戦している。後ろから規則正しく刻まれるリズムに焦りを滲ませながら、荒々しい手つきで男たちを叩き伏せていた。
「あそこに入口があります!」
スライディングで男たちの間をかき分けながら先行していたイシュメールがはっとした調子で叫ぶ。そこには消えたはずの扉がまるでなんでもないように鎮座していたから。
しかし男たちの数は依然として多すぎた。イシュメール一人ならまだしも、管理人含めた全員が抜けるのは難しいだろう。
「くっ、しつけぇな」
〈抜け出すなら他の場所に気を逸らさないと……。〉
「一人ブン投げたらどうだ? どうせ後で生き返らせればいいだろ」
ヒースクリフが血も涙もない事を言った。
「おい何でそこで俺を見る!? シンクレアにしろ!」
「なんで僕に振ったんですかガリバーさん!」
〈……待て、あそこに。〉
醜い争いは発生する前に止まった。扉にもたれかかった一人の男が気さくに、まるでなんでもないかのように手を振っていたからだ。
「ここは僕に任せて」
「ソーニャ!? どういうつもり?」
〈ロージャ! なに言ってるんだ? 今は手段を選んでいられないんだ! 〉
「フツー、目的もなく助けるやつに限って魂胆がないみたいなことって無いからね」
「君が斧を振るわずに耐えられた日がなかったように。僕にも説明するには果てしなくて……偶発的な欲求があるみたいなんだ。ダンテ、あなたの組織も結局はより良い世界を作るための場所でしょう?」
〈う……うぅん? 〉
ダンテのよく分からなそうな曖昧な返答に気づいているのか居ないのか、ソーニャは話を続けた。
「沈黙は時に肯定を示唆するのさ。そうだという風に受け取っておくよ。そして……すぐにあの子があなたにも訪れるだろう」
〈あの子? 〉
そう呟いたダンテ。そして、あの子、という言葉に反応したのはダンテ一人だけではなかったようだ。
「あれ? あ……すみません。見間違いでした。一瞬あの人の額に……」
ぼうっとソーニャの額を見つめていたシンクレアが肩を叩かれ我に返った。その様子を見たソーニャも合点がいったように頷いた。
「ああ、君にもあとを残したその子のことだよ。懐かしい再会になるだろう」
彼は後ろを振り返り、その奥にあるものを顎で示した。それは温かな光を放ち、男たちのように氷に閉じ込められているのにもかかわらず、奇妙にも固められているのではなくあるがままに存在している印象を与えた。まさしく、それの見た目はこう呼ぶに相応しいだろう。
〈黄金の枝〉
黄金の枝 奪還
「でも次に会うときにもこんな好意的な衝動を起こす期待はするな。多数の豊かさのための明確な道が見えるなら、僕は躊躇なく他の道を選ぶから」
訳がわからないといったようにダンテが更に首をひねっていたが、それを気にする間もなくユロージヴィたちがひとりふたりと姿を現し始め、ロージャが素早く入口に駆け出して向こう側に飛び込んでしまった。
ダンテたちも彼女を追いかけるようにばたばたと慌ただしく扉の先に消えていく。ガリバーもそれに続こうとしたようだが、ソーニャがそれを引き止めるように彼の背中に言葉を投げかけた。
「……ところで、ガリバー」
「俺? 何だ?」
「ずいぶん雰囲気が変わったね。君には黄金の枝なんて必要ないと思っていたけれど……少し意外だったな。これから何を探すつもりなんだい?」
「探す?」
「……いや、やっぱりいいや。達者でね。ロージャとダンテは強い人達だから、君が何かをする必要はあまりない筈だ」
彼は何度も釘をさすように“いいね? 分かった? ”と連呼したが、ついぞガリバーがその理由を理解した様子はなく。ダンテのように曖昧にうなずきながらそろりと入口の扉を開いた。
ガリバーもバスに戻ったときにはすでにヴェルギリウスへの報告は終わっていたようで、皆腕を組むヴェルギリウスの周囲で疲労の色を隠そうともせず佇んでいた。
「……なるほど。しかし心残りがあるな。ソーニャ……という者についてだが。彼が追求する思想と最後の行動は相反している。だから彼の意図を明確に把握してから進行する必要が……」
「あ、まって待って!!! イサンもそうだけど、どうしてみんな私よりソーニャに興味を持つの? なにはともあれ黄金の枝を回収するのには成功したでしょ。そ〜れ〜に〜、カンテラくん! 鞄、ひっくり返して!」
ガリバーはしばらくぽかんとしていたが、ようやく言葉の意図を理解したのだろう、さっと鞄をひっくり返して地面に向ける。そして、ジャララララといつぞやのようにカジノチップや金庫に詰められていた眼が鞄から溢れ出した。
「どう、ヴェル? 任務も成功したんだし今度こそ肉汁の溢れ出すA5サーロインを食べるべきじゃない?」
「……どうだ、カロン?」
相変わらずの硬い表情筋をほぐそうともせず、ヴェルギリウスがカロンに視線を向ける。
「……うぅむ。メフィも食べたがってるみたい。肉汁の滴る新鮮な肉」
「えぇ……喩えにしてもそんな……」
「よし。10区の裏路地のレストラン選びはロジオンに任せるか」
「わかった。ぶるんぶるん」
カロンがバスのエンジンを入れた。重い駆動音に急かされるように囚人たちがめいめいの席に戻っていく。ロージャだけはヴェルギリウスの隣に立ったまま、彼に笑いかけた。
「やっと話が分かるようになったじゃないの、ヴェル。やっぱり……」
にやりとした笑顔。ほんの少し陰が差したような気もしたが、それはすぐにかき消え。
「私ってちょっとイケてるんだからね?」
バスが発進した。
戦闘描写は増やしますか?
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