なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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「これで全部元通り!」
『白雪はどこだ!』

――E.G.O./ガリバー/黒い枝


旅路

 殴る。切る。刺す。

 ネズミどもの身体はみるみるうちに傷だらけになっていく。

 

「ぐあっ…。」

 

 殴られる。切られる。刺される。囚人たちにもダメージは蓄積されていく。

 

「ハハ…なんてグロい、18歳以下には見せられないな…。」

 

 敵味方の識別なく真っ赤に染まった服を見下ろして、そう灰色の男は吐き捨てた。

 

 周囲には髪の毛などが焼ける不快な匂い、粘性の何かを踏みつける音、戦場特有の熱気と狂気が混じり合って合成された何かが漂っている。それが慣れない者に与える不快さは尋常ではなく、特に彼は酷い臭気にやられたのか頭を痛そうに抑えていた。

 

「何よそ見してるんですかガリバーさん! ほら、まだどんどん来ますって!」

 

 シンクレアが叫んだ。彼は震える手でハルバードを握りしめ、怯えたように息を荒げながらもリーチの差を生かしてどんどんネズミを切り捨てていた。

 

「あー…そうだ、お前の言う通りだ。とはいえお前こそあんま無理すんなよ? 顔色真っ青じゃねぇか。」

 

 彼の言う通りシンクレアの顔色は蒼白で唇は青かった。どうやらあのひよこも戦場に慣れていないのだろう。彼は指摘されてやっと気がついたのか、自分の顔を隠すように俯いた。

 

「ぼ、僕のこれは…その、いいんです。」

 

 彼は言い訳するように目を逸らして呟いた。何かが後ろめたいのだろう、ぎゅっと手が白くなるほどハルバードを握り締めている。

 ガリバーは優しく目を細め、視線は前のまま、その口調だけに冗談を含ませて頭をぽんぽんと触れるように撫でた。

 

「キツくなったら俺のでも誰のでも後ろで休んどけ。大丈夫、お前一人が居なくなったとて負けはしないさ。」

 

 彼がそう言いながらその金の柔らかい頭を数度撫でると、シンクレアは一瞬逡巡するように視線を彷徨わせた。「すみません」とだけ苦しそうに吐き出し、彼の背後へ逃げ込んだすぐ後に酸っぱい匂いが漂ってきたことからして…彼はもう限界だったのだろう。

 

「さぁて…。」

 

 ガリバーが自分の獲物を構える。リンバスカンパニーがいつの間にやらガリバー以外の囚人に武器を支給していることに先程ようやく気がついたから、今手元にあるもので武器になりそうなのは残念ながらこのカンテラしかない。

 

 そのあまりにも残念な武装の上、何もせず突っ立っていれば死んでしまう。だからこそ彼はめいいっぱい声を張り上げ、自身を奮い立たせることにしたらしい。

 

「掛かってこい!」

 

 彼が手元の紐を大きく振り上げてネズミにぶつけようとしたその瞬間、ぐさりという感覚と熱い痛み。いつの間にやら接近されていたのか自分の心臓をナイフで一突きされ、その場に崩れ落ちた。

 

「が、ガリバーさん!」

 

「油断…大敵…。」

 

 カチコチ。管理人の呆れたような声が今生最後の音だった。

 

 

 

 

<…気がついた?>

 

「ああ、うん。ありがとう管理人。悪いな…。」

 

 もうとっくのとうに戦闘は終わっていたらしく、蘇生されて夢から覚めた彼が緩慢な動作で起き上がる間にも特に剣戟の音などは聞こえてこなかった。

 

 そうっとあたりを見回すと、どうやら自分の他に死んだ囚人はどうやらあまり多くないらしい。ほとんどの囚人は己が武器の血を払ったり服についた返り血に顔をしかめていて、そのなかにシンクレアの姿を認めたガリバーはほんの少し微笑んだ。

 

 カツカツ。こちらに近づいてくる足音が響いた。

 

 彼がそちらの方へ振り向くと、そこに立っていたウーティスが眉を吊り上げて叫んだ。

 

「この大馬鹿者! たかだかネズミ相手に不覚を取るとは、なんという恥だ!」

 

「あ、ああ…。」

 

 雷が落ちたかと思うほどの大声。思わず耳を塞ぐと、さらにウーティスの表情が厳しいものになり、ガリバーは反射的に後ずさった。

 

「だいいちお前は戦場にあっても警戒が足りん、なんだあの体たらくは!! 管理人様の指示がなくともその意図を正確に読み取り、その場その場で最善の行動を取れなければ今回の二の舞だ!!」

 

「…はい、その通りです…。」

 

「戦闘中にペチャクチャお喋りをし続けるというのも軍の風紀を乱す!! いいか、そうやって談笑するのはたしかに絆を強めるという意味では良い方向に作用するかも知れない…だが! それは戦場でやっていいという意味では決してない!!」

 

「……。」

 

「沈黙は金、雄弁は銀。寡黙な者は賢く成功を収めることも多いが…多言というのはときに自身の破滅を招くこともある。そう、まさしく管理人がその口を失って栄光を手に入れ、戦場の中で呑気におしゃべりしていたお前らが無様にも心臓をくりぬかれて踏みつけられたように!!」

 

「わ、わァ…!」

 

「妄言は慎み、必要なことのみを口にするように。だいいちお前の話は…。」

 

<あー、ウーティス? いったんその辺りにしてくれないかな…? ほら、ガリバーがどんどん小さくなっていってるから。>

 

 ダンテがそう言って止めなければこの説教は永遠に続いていただろう。哀れ標的に定められたガリバーは、まるでどこかの小さくて可愛いやつのように涙を流してうめいていた。

 

 その様子を見ていた標的候補のヒースクリフはゲラゲラ笑い涙を流しているが、ぎろりと彼女に睨まれると他人事ではないと悟り慌てて口をつぐんだ。

 

「…管理人様がそうおっしゃるなら。」

 

 渋々彼女は引き下がったが、

 

「…ガリバーさん、大丈夫ですか…?」

 

「ウンッ」

 

 シンクレアの純粋にこちらを気遣ったであろう言葉に応じて上ずった声、突き刺さるイシュメールの冷たい視線、それから逃げるように後ろへ隠れてガクブルと震えているガリバーと、そんな姿を見て困惑するシンクレア。

 

「…なんかもう駄目そうですね。あの人。時計を回したらどうですか?管理人。」

 

<嫌だよ!私こんな馬鹿になりたくないもん。>

 

「ウワーッ!」

 

 見事に背後から刺されたガリバーは遂にシンクレアにすがりつきながらシクシクと泣きだしてしまった。彼をかばうように両腕を広げ、震えながらもキッとこちら睨みつけるシンクレアのその佇まいには子供を守るペンギンくらいの迫力がある。

 

「はぁ…こんなアホ共は放っておきましょう、ダンテ。しかし、どうやら少しはマシな指揮ができるようになったみたいですね?」

 

<でも一人逃げた。あれは放っておいていいのか?>

 

 気を取り直したダンテが案内人に声を掛けている。どうやら後ろの惨状はあまり気にしないことにしたらしい。

 

「逃した敵の心配をするのですね。」

 

「心配することはありません…どのみちあそこは私たちが行くべき方向でしたから。カロン。」

 

「足下をグッグッ。楽しい気分で走るね。」

 

「ヤーッ!」

 

 この一言でせっかく持ち直した空気がどことなく緩んでしまった。ヴェルギリウスは鬱陶しそうに眉を顰めて深いため息をついたが、どうにも諦めたのかただ眺めるだけで特に注意はしてこない。

 

「プッ、ら、ランタンくん、ちょっと気が抜けるから黙ってて…!」

 

「ランタンじゃなくてカンテラじゃないのか、これ…?」

 

「エッ」

 

 当のガリバーが向ける“そうなの!?”とでも言いたげな視線に耐えきれなかったのだろう、グレゴールは派手に吹き出してむせ始めた。

 

「…カロン、早く出発してくれ。頼む。」

 

 案内人の頭痛が痛そうな一言は柄にもなく弱々しかったが、それを誰も追求はしなかった。

 

 

 

 

「…ところでファウストさん。」

 

 ネズミども掃討作戦がおおよそ終結しだした頃、やっと正気に戻ったガリバーが今度こそ周囲をきちんと確認して白髪の女に声を掛けた。

 

「はい。どうしました? 囚人14番」

 

「確かリンバスカンパニーって武器の提供もしてくれるはずだよな? まさか、自腹切って買え、なんてことは…?」

 

 そう不安そうに見上げてくるガリバーに対して、ファウストはただ首を横に振った。

 その途端彼の瞳はさながらドンキホーテのように輝きだし、

 

「え、じゃあ俺の武器って!」

 

「さっきまで使っていたそれですが、何か問題でもありましたか?」

 

「おお!そりゃ…って、うん?」

 

 ファウストはこともなげに言ってのけたその事実を数秒掛けて反芻したガリバーは顔を引き攣らせて硬直した。

 彼女は不思議そうに首をかしげながらカンテラを手にとって覗き込み、指を這わせ、見分している。

 

「ガリバーさんたっての希望でしたから。見たところ火勢にも問題はないようですし、破損も無さそうですが。」

 

「…ちなみに、今から変えたりって…」

 

「無理です。もうそれで登録してしまいましたからね。」

 

「チクショウ!!」

 

 ガリバーはひどく悔しそうにパーンと太ももを叩き、もっとかっこいい武器が欲しかったと嘆きながらカンテラをブンブン振り回した。耐久性という観点ではこれ以上のものなどないというのに、贅沢なことである。

 

「ちょっと待ってください。私も尋ねたいことがあります。」

 

 彼の様子もなんのその、イシュメールが素早く右手を上げてファウストを見つめた。

 

「何ですか?」

 

「私は停滞せずに進むことができると言われてここに合流したんです。でも今は…ネズミどもでもあるまいし、ずっと意味のない暴力ばっかり。」

 

「うるさいです。ちょっと静かにしてください。…とにかく、こんな雇われ暴力団まがいの行動しか命令しないのなら、他の仕事をすることも考えてみます。」

 

「そもそもこの会社って辞めれるのか? 他の企業でも退社=死だった気がするんだが…。」

 

 ガリバーがいたって不思議そうな表情で尋ねた。たしかに翼などは特異点流出防止や産業スパイ対策などのために退職者は処分されやすい傾向にあるが、一般に向けて秘匿されているその情報をどうして彼が知っているかは謎だ。

 しかしそれはファウストにも言えることであるから置いておこう。彼女は一つ頷いて補足するように続けた。

 

「囚人14番の言う通り、退社は認められません。」

 

「…契約しながら話したことが嘘だとしても、その契約に効力があるとでも思ってるんですか?」

 

 イシュメールが挑発するようにファウストを睨んだ。しかし、彼女はそれにも眉一つ動かさず淡々と口を動かすのみである。

 

「もちろん効力はありますよ。そもそも嘘はないからです。」

 

 全く変わらない、さも当然とでも言いたげな口調。その言葉で拍子抜けしたのか、イシュメールはやっとの思いで一言絞り出した。

 

「…はい?」

 

「まさか私がメフィストフェレスを、ただの運送用バスとして作ったとでも思われましたか?」

 

「メフィはいつもおなかすいてる。だからなくの。」

 

 ダンテから“思った”とでも言いたげな気配を感知したのだろう、彼女はそちらの方に向けても改めて説明しようとしたようだが…どうやら上手い言葉を探しているうちに会話を端から聞いていたカロンに奪われてしまったらしい。

 

<バスがおなか空いてるって?>

 

 ダンテが不思議そうに尋ねた。

 

「エンジンが燃料を摂取するときに発生する副産物…。皆さんはそれを通じて強くなることができます。イサンさんはよくご存じでしょうね。鏡の中から全ての可能性を引き出すのであれば。」

 

「成長もまた制約は無し。鏡の中の私は私なるか、あらぬ他所人か。」

 

 彼は相変わらずの陰気な口調で呟き、どうにも哲学的な問いを投げかけてくる。しかしこの場に彼の問いに対して明瞭な回答を返せるものはいなかったのだろう、ダンテのわずかな言葉程度にすらその言葉は押し流されていった。

 

<可能性…? 何を引き出すというんだ?>

 

「色々あるが…まあ狂気とか紐あたりが主かな? そんでたまーにガチャチケ…。」

 

 ガリバーがどこか考え込む、というよりも何かを思い出すように俯いている。すると何かに気がついたのかハッとした表情を浮かべてバッとあらぬ方向へと顔を向け、すぐさまにっこり明るい笑みを浮かべた。どうにもうさんくさい笑顔とともに、彼はそのままセールスマンが商品を勧めるような口調で喋りだす。

 

「もちろんお前らがリアルマネーつぎ込めばもっと手に入るぜ! 特に5章あたりから様子がおかしくなってくるし、熟練ファンの皆様ならこの先どれくらいエッグい難易度になるかもだいたい察しついてるだろ? まあ、とりあえず騙されたと思ってバトルパスくらいは買ってくれよな。俺たちの円滑な業務のためにも頼んだぜ!」

 

 まさしく“きゅるん☆”という効果音がぴったりであろうポーズを決めた。風の音が聞こえる。

 

 周囲はちょっと引いていたり、ニコニコ眺めていたり、中には額に青筋を浮かべていたり…とにかく様々な反応を見せてくれる。その中でもどうやら困惑しているグループのメンバーであるらしいイシュメールは、他にも色々と言いたげな表情で放心したように呟いた。

 

「どこに向かって喋ってるんですか、ガリバーさん…。」

戦闘描写は増やしますか?

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