なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー! 作:青い方のカンテラ
「今日も時計を回してくれてありがとう、管理人。おかげさまの大戦果だ!」
0 囚人 ガリバー
バスのエンジン前。ダンテとファウストら囚人は皆そこに立ってじっと一点を見つめていた。
その一点とはエンジンに内蔵されたシャッターのような部位で、今は閉じられているために中身を伺うことはできない。
「ねえねえ、あれ何だろうね?」
「…鏡なり。」
イサンが答えた。彼はずっと、そのエンジンに対してぼんやりとした目を向けている。その目は珍しくも感情が宿っており、その様子はさながら奪われた自分の巣を思うカラスとそっくりである。
「あれこそが鏡を用いた技術なりや。おそらくは鏡の我らを観測し、その一点を抽出するものであらん。」
「よく知ってるね〜…。」
ロージャが呆然と呟いた。答えを期待していなかったのだろうが、思ったよりも詳細なものが返ってきたが故のことだろう。
するといきなりガシャン!という鉄と鉄が勢いよくぶつかる音を立てながらシャッターが開いた。
「おお!」
囚人の誰かが歓声を上げる。
その奥で秘匿されていたものとは何なのか。囚人たちがこぞって顔を突き出すと、そこには鎖の塊のようなものがひとつ真ん中で蠢いていた。その中で赤い光がぼんやりと輝きながら明滅している。
「わあ、これが僕たちの可能性なんですか?」
「その断片でありけり。」
「へえ、抽出ってこんな感じだったんだな…。」
彼らに見守られながら鎖が一層強く収縮すると、その光の奥から何かを吐き出した。それはまるで鏡に空いた穴のようであり、光とはへその緒のように鎖で繋がっていた。
「ダンテ、それに触れてください」
<こ…こう?>
おそるおそるダンテがその穴に手を伸ばすと、鎖がキュルキュルとその穴…否、その穴の奥に見える赤い光を手繰り寄せた。
――誰よりも迅速に…彼らに沈黙をもたらしましょう。
どこからかイシュメールの声が聞こえてくる。皆が急いで彼女の方を振り返ると、彼女はまるで言っていないと示すように首をブンブン横に振っていた。
<シ協会…イシュメール?>
「はい。そのようですね。」
シャッターが再びガシャンと閉じる。するとシャッターの上で赤い光が寄り集まり、そして手のひらサイズくらいの駒のような何かが飛び出てきてすぽんと手のひらに収まった。
<これは何だ?>
「人格牌です。この人格牌をPDAパッドに差し込んで…イシュメールさん、少しこちらへいらしてください」
「はい。」
イシュメールがスタスタとファウストの前へ歩いていった。
「それではダンテ、囚人イシュメールに人格を被せてみてください。」
<被せるったって…どうやって?>
「お互いが合意するだけで構いません。」
ダンテが一つ頷くと、彼とイシュメールが向かい合って視線を交錯させた。彼女は挑戦的に、そしてダンテは気遣わしげにしたことからして、どうにもたったこれだけの行動で個性というのは現れるものだと理解できる。
そうやって幾ばくか。突然パリン!と鏡の割れるような音がして、そこにはシ協会の制服を身に纏ったイシュメールが立っていた。
しばらく興味深そうに周囲をキョロキョロと見回していて、ふとヒースクリフと目が合った瞬間。彼女は眉を吊り上げて語気を強め、非難するような声色で問い詰めた。
「ヒースクリフさん。前回の任務ですが…って、あれ?」
彼女はヒースクリフがシ協会の装束を身に纏っていないと気がつくやいなや、目を皿のようにまんまるにした。
「どうしたんですかその格好。部長に、ガリバーまで…。いくら非番とはいえ、あなたならともかく部長たちまで制服を脱ぐなんて、そんな馬鹿なこと…。」
「おおぉぉお!!!」
突然、空気を切り裂くほどの声量がバスの周囲一帯を覆った。思わず皆が耳を塞いだ。
しかしそんな状況の中であっても声の主はその興奮を冷めさせることなく、キラキラとイシュメールを見つめていた。
「ぶ、部長?どうしたんですか、そんな大声をあげて…。」
「こここ、これはぁ…っ!!南部シ協会の制服に、あの赤い刀ではないかっ!!イシュメール君がシ協会になったぞおぉぉおぉ!!」
ドンキホーテが私もフィクサーになれるのか!?と興奮冷めやらぬ様子でダンテに詰め寄っている。当の詰め寄られた本人は思わずと言ったように半歩下がって身構えた。
<え、えっと…。>
「はあ、部長は何してるんですか、全く…。管理人が困惑してますよ。」
彼女はダンテの方を振り向いて、ドンキホーテが無遠慮に詰め寄ったことに対して謝罪するようにペコリと頭を下げた。
「申し訳ありません、管理人。改めまして私は南部シ協会5課のイシュメールです。これからよろしくお願いします。」
<うん。よろしく。>
二人がお互いに礼を交わし終わったくらいのタイミングを見計らっていたのだろう、ファウストがダンテに向かって語りかけた。
「それでは管理人、次に今度は人格を剥がしてみてください。」
<剥がす?>
「はい。先ほど、あなたはイシュメールさんと一種の“同意”をしましたね?」
<ああ。…じゃあ、この同意をやめればいいのか?>
「その通りです。」
<分かった。じゃあやってみる。>
パリン!再びガラスが割れるような音がして、気がつけばイシュメールは人格を剥がされた状態でそこに立っていた。
「なるほど…こういう意味だったんですね。」
彼女は呆然と呟いた。
「ダンテ。今回は無償で抽出できましたが、次からは狂気や人格抽出チケットと呼ばれる資源を消費します。狂気はあなたがこの地獄を歩む中で手に入れることもあれば、副産物として出現することもあるでしょう。コツコツと集めておくのをファウストは推奨しています。」
「チケットの方はイベントやバトルパスの報酬で手に入るぜ。見かけたら優先的に確保!だな。そうそう、お前らはもうリセマラってしたか?スマホ版ならできっから少しはするのも悪くないぜ〜。結構簡単にできるからさ。あ、もちろんしなくても大丈夫だからな。」
<リセ…何だって?>
彼はダンテの質問を完全に無視して、ここではない何処かに向かって語りかけ続けている。
「リセマラ続行なら硝子窓の設定からアカウント削除、それからアカウント変更してゲストアカウントでもっかい入るんだ。止めるんなら硝子窓の設定からアカウントを同期すれば良い。そうすりゃストーリーが進められるようになるからな。」
彼はにっこりといつもの胡散臭い笑みを浮かべ、どこかのテレビショッピングを意識したようについには身振り手振りを交え始めた。
「ここまで来ちゃったからやり直すのは忍びない?そんなお客様も心配ご無用!0章はチュートリアルだからスキップしても報酬は貰えるぜ!もちろんシ協会イシュもな!ちなみにシ協会イシュメール、鏡ダンジョンでは斬撃E.G.O.の決意を取るとすんげー活躍してくれるぜ〜。頼りになるよホント。」
「おい…アイツマジでイカれてんのか?誰か黙らせろよ…。」
ヒースクリフが棍棒を握る手に力を込めた。今にも飛びかからんといった様相だが、ヴェルギリウスの視線を感じたからかそれ以上のことはしようとしていない。
「それが可能ならばファウストたちはあんなに苦労しません。彼は都市で最も自由な人ですから。」
「そんなヤツがどうしてリンバス・カンパニーに入ったんだよ、マジで…。叶えたい願いもクソも無いじゃねぇか…。」
彼は思わずといったように吐き捨てた。失礼なことにファウストも首を縦に振っていたが、ヴェルギリウスが急かすように咳払いをしたためにハッとして背筋を正した。
「イシュメールさん。鏡の世界にいる私たちのすべての可能性のうち一つを引っ張り出したので、記憶が少し上書きされてるはずです。直に慣れるでしょう。」
イシュメールが一つこくりと頷くと、ロージャが明るい口調で話し掛けてきた。しかしその表情は青く、どこか笑顔も引きつっている。
「なにそれ…ちょっと危なくない?いつか私が私じゃなくなるんじゃないの?ははっ。」
「……。」
……。
「大丈夫だろ。現にイシュメールさんはそのままだからな、そんな悲観的になる必要はないって!」
「うわっ、急にまともにならないでよガリバー…びっくりするじゃん。」
「…酷くね?」
彼はげんなりした視線をロージャに向けていたが、しばらくして気を取り直すように首を振った。
「ともかく、俺たちは変身して戦えば良いんだな?ファウストさん。」
「はい。私たちがどのように成長するかはダンテさん次第ですね。」
「変身かぁ…」
グレゴールがぼんやりと呟いている。どこか思うところがあるらしい。
そうやって皆がしばらく過ごしているとヴェルギリウスが赤い目を光らせて近づいてきて、相変わらずの強面と低く威圧的な声を囚人たちに向けた。
「お喋りは終わったか?一旦突破して道を開くか。どうせうんざりするほどくっ付いているだろうし、話せなかったことはまた後にしろ。」
窓から見下ろせばまだまだネズミはバスの周囲をうろついている。それを確認した彼らは腕を回したりうーんと伸びをしたり気合い充分な様子でバスを降りていった。
ガン!カンテラとナイフがぶつかる衝撃が音波として散らばって、両者が離れていく。再び彼らがぶつかるかと思われたそのときカンテラの縄がネズミの腕に巻き付いた。
「クソっ!」
悪態をついたネズミ、しかし自由な身動きが取れなくなったのはガリバーも同じ。どうにか自由に動かない腕からナイフを持ち替えようともたついたその瞬間、彼の視界に刀を構えた女が飛び込んできた。
「やっちまえ良秀!」
「俺に指図するな。」
ガリバーの合図と共に良秀が刀を抜き、一閃。刀が血とともに鈍く輝くと、次の瞬間にネズミは首を切り裂かれてその場に倒れた。
「な〜いす!流石は良秀さんだな。」
「ふん、当然。」
良秀は煙草を燻らせたまま次の獲物を探して駆けていった。ガリバーはネズミの死体から自分のカンテラをほどき、そして頭上で次のターゲットを探しながらぐるぐる回した。
「さぁて、お次は…お前だっ!」
狙われたのはガリバーに背を向けていたネズミ。どうやら誰かと交戦していてガリバーなんかに構っている暇はないらしい。
自分に向かってぶぉんと音をたてて投げられたカンテラに気がつくと、あわててネズミは身をのけぞらせた。そのおかげで見事ガリバーのカンテラは本来の標的ではなく…。
「あだっ!」
そのネズミと刃を交えていたドンキホーテの方に命中した。
「うわーっ!すまんドンキ!」
「大丈夫だ、フィクサーは流れ弾ごときでくじけはしない!」
そう言ったドンキの額からは赤い血が流れている。ガリバーは申し訳なさそうに両手を合わせ、そして改めてちゃんとネズミと向かい合ってぶんとカンテラを投げた。
どうにか躱せたことで残心していたネズミは哀れ追撃で頭を揺らされ、ふらついて倒れた。
「そうら、今度は命中!」
「見事であるな!さあ、この調子でどんどんあの悪者どもを殺していこうではないか!」
「ハハ…そうだな。」
殺すという言葉に彼は一瞬硬直したものの、しかしすぐに前を向いてドンキホーテに背中を預けるようカンテラを構えた。
「ひゅう、ちびっこコンビ結成だね!シンクルも混ざる?」
「誰がちびっこですか!って、うわっ!?」
トマホークでネズミの心臓を抉っていたロージャがちょうど近くにいたシンクレアに声を掛ける。
どうやら彼は身の丈ほどもあるハルバードの扱いに苦心しているようで、どうにかネズミの攻撃程度を捌くことは出来ているようだが…先ほどロージャに話し掛けられたせいで形成が逆転してしまったようだ。
「むっ、シンクレアくんの危機である!行くぞガリバーくん!」
「へいへい、ドンキホーテ様の仰せのままに…ってね!」
いち。ガリバーが青い炎の揺らめくカンテラでネズミの気を引き付ける。
に。ドンキホーテが手に持ったランスを構え、勢いよく突撃する。
「う、うわぁあ!」
さん。ドンキホーテに吹き飛ばされたネズミの脳天をシンクレアがかち割ってネズミは沈黙した。
「や…やりました!僕たちやりましたよ!」
「やったな、シンクレアくん!」
「うっし、この調子で行くか!おーいグレおじ、今そっち行くぜ!ちびっこカルテットだ!」
「うわぁ止めろ来んな!ってか俺はちびっこなんて呼ばれる歳じゃねぇから…!」
グレゴールの抵抗虚しくカンテラは投げられ、そして三人はグレゴールと交戦していたネズミにわちゃわちゃと取っ組み合い、そして数の暴力で打ち勝った。
「来んなって言ったのに…。」
そう強い口調で言い放ったもののグレゴールの口元は緩んでいてどうにも説得力が無い。四人はお互いに目配せをしてにやりと笑い、まったく同じタイミングで管理人の方を向いた。
「「「「管理人(殿)(の旦那)(さん)、指示を!」」」」
<いつの間に仲良くなったの君たち…。えっと、2時の方向が少し手薄だから、君たちにはそっちに向かってほしい。分かった?>
「オーケーだ、ダンテ管理人!あんたには一切痛い思いさせず、バッチリ勝利をもぎ取ってくるぜ!」
<…不安だ。>
「こ、今度はヘマしねーし!?見てろよ!!」
「…ちゃんと僕らがカバーするので、大丈夫ですよ。」
シンクレアがはにかんで答えた。
「シンクレア…!」
ガリバーは身悶えした。「さっさと行くである!」というドンキホーテの言葉がなければずっとそうしていただろう。
その後彼らはダンテの指示通りの場所に向かい、ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返してネズミを無事掃討した。
「管理人殿ぉぉぉ!やりました、私たちはついにやりましたぞおぉぉぉお!」
ドンキホーテがそう叫んだ。えらいえらいとダンテに頭を撫でられている図はどこか微笑ましく、グレゴールは笑いながら煙草を燻らせている。
しばらくして。
バスの中に戻った囚人たちはヴェルギリウスの指示でバスの座席に座っていた。血に濡れた服を着替えさせてくれなかったことから所々で文句が噴出していたが、すぐさま赤い視線に封殺されたようだ。
ダンテとヴェルギリウスがなにやら口論していると、ふとバスの中に低い駆動音が響いて細かな上下振動がバスの地面を席巻した。どうやらエンジンが温まってきたらしい。
「…チッ。」
「出発するね、ぶるんぶるん。」
「地獄へと出発しようか。」
ヴェルギリウスが手帳を閉じると同時にバスが発進した。
想像の3倍くらい反応集が人気で驚きました。Wikiのどっちかが入ったのは想定内でしたがね。
それから二位が同率なんですよね、これ私はどう処理すれば良いんでしょうか…。とりあえず全種類サンプルを書いて決選投票とでもしておきますか。
人気だった反応集は掲示板形式で毎章末に挟みますから、ご安心を。
戦闘描写は増やしますか?
-
増やす
-
増やさない