なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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ダンジョン内部−1

光がだんだんと薄れて行くにつれて地下から悪臭が漂ってくる。腐った肉や血の臭いと、不潔な人間の臭い。慣れたように突き進む者もいれば不快そうな表情を隠さずに歩く者もいる。

顔色を青くしたシンクレアが鼻を抑えて立ち止まったことを契機に、囚人たちの規律もない雑踏がざわめきと共に止まった。

 

「うぇ…臭いが…酷いです…。」

 

「うぅむ…肺の中へ五味が頻りに付きたり。却りて頭が澄む臭いなり。」

 

イサンが頷く。確かに目の冴えるほど強烈だ。しかしファウストは歯牙にも掛けずダンテを見つめる。

 

「もう一度申し上げますが、この中で死ぬと戦闘が終わっても生き返ることはできません。」

 

「生き返る…?」

 

 ホプキンスが訝しげにアヤを見つめるも、彼女は相変わらず呑気な笑顔で彼の問いに軽く答えた。

 

「最近流行りのジョークなんでしょ〜。もう、最近都市にどんな話が出回ってるのか追いつけなくなっちゃった〜。」

 

ジョークと取られたようだが、ファウストは特に説明しようという素振りを見せない。説明する気はさらさらないらしい。

いや、そんなことにかまけている暇はないだけなのだろう。彼らの目の前には腐爛死体が一つ転がっているからだ。

 

<死んでからかなり時間が経ったみたいだ。>

 

ダンテが呟くと同意するようにウーティスが頷いた。

 

「正確な観測でございます。死体の崩壊期に至ったように見えますね。」

 

「はぁ、虫たちの宴会真っ盛りってところね。」

 

「…先を急ごうか。」

 

 ロージャが嫌そうな表情を隠しもせず死体を見つめる。しかしグレゴールは対照的にくるっと回って視界に入れないよう努めていた。

 

 シンクレアならまだしも、こんな死体なんて見慣れているだろうグレゴールが目を背けた理由。ロージャはしばらく考え込んで、そして理由に思い至ったのかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら彼を覗き込んだ。

 

「あら…グレッグ、あなたもしかして虫が苦手なの?」

 

「これは老婆心から言うんだけど、まさか虫の死骸を顔に突きつける幼稚なことは…。」

 

「じゃーん!!!」

 

 言い終わるか終わらないか、ロージャがグレゴールの鼻先に蛆虫を突きつける。グレゴールのみならずガリバーもぎょっとしてロージャを見つめている。

 

「しないって信じ…うっ!どけろ!何がそんなにおかしいんだよ?」

 

「ぷはっ…面白いでしょ〜。虫を怖がっているのが他でもないあなただって…。…グレッグ?そんなに嫌だった?」

 

「…いいって。」

 

グレゴールが不貞腐れたように俯く。

 

「そこ!ふざけるのもいい加減にしろ。管理人様が気にするべきことを作るなという意味だ!」

 

ウーティスが大声で叫ぶ。相変わらず彼女はダンテの側から離れようともせず、ゴマをするのにご執心だ。

 

「待ってください…この死体はまだ温かいですね。」

 

「攻撃せられしは近頃であるべし。」

 

暗い表情で死体を調べていたユーリの表情が徐々に明るくなっていく。どうやら知り合いの死体ではなかったらしい。

 

「私たち…いえ、ロボトミーコーポレーションの職員ではないですね。」

 

「ここはもう金鉱とそう変わりない場所になったせいで、有象無象が集まってくるようになったらしいですね。いくつかのフィクサーや組織の間では、ロボトミードリームだとかエンケファリンラッシュって言葉が出回ってるくらいですし。」

 

イシュメールが思い出したかのように誰にともなく話す。ふーん、とガリバーが彼女の話に相槌を打っている。

 

「ロド、エンラッシュ…格好いい略だな…。」

 

良秀がにやりと笑った。

 

「はぁ、ずっと静かだったのにやっと喋ったのがそんな…。」

 

「さるエングラッシュは本来の意味を曖昧模湖にせずや?」

 

イサンが会話に参戦してきた。相変わらず表情は硬いものであるが、いかんせん内容が内容だけにシュールなものだ。

 

「イサンさんのツボが俺には分かんねぇよ…」

 

「異常なりや?」

 

イサンが無表情のまま振り向く。ガリバーは仕方なさそうに笑った。

 

「あちらの彼はもともと口数が少なくない人です。最近少し…変わっただけ。」

 

「あの塩対応で無口じゃない!?管理人…俺、イサンさんに嫌われてるのかなぁ…」

 

よよよといい歳した成人男性が時計にすがりつく。ダンテはどうして良いのか分からないのかおろおろとするだけだった。

 

そんな管理人の様子を見逃さなかったウーティスが二人を引き離し、ひとつ咳払いをして囚人たちの方に振り向いた。

 

「観察力の高い手下どもが増えるのは悪くないことだ。今の状態をずっと維持してくれると良いんだがな。行くぞ。」

 

「まるでそなたがキャプテンのようなり。管理人のいとなみにあらん。」

 

イサンが茶々を入れると、ウーティスは虚を衝かれたような硬い表情を浮かべ、すぐにダンテに向かって頭を下げた。

 

「…わたくしめが差し出がましいことをしてしまいました。管理人。」

 

<だ、だいじょうぶ。下りようか。>

 

 

大体の死体は一部が奇妙に変貌していた。

はらわたから突き出てた数対の翅や、奇妙に絡まったままぶらりと垂れた触覚。中には腕から枝分かれするかのように虫の足が生えているものもいる。

 

「さっき私たちとぶつかった人と似てませんか?」

 

ユーリが呟く。身体のあちこちから虫の一部か生えた奇妙な身体なぞそうそうお目にかかれるものではない。

 

「あの、虫頭の人たちのことですよね?」

 

イシュメールの言葉をウーティスが手で遮った。何かを発見したように、彼女は鋭く前を見つめている。、

 

「静かに、前方に挙不者を補足。」

 

「(挙不…者?ってなに?)」

 

ロージャがこそこそと近くにいたグレゴールに尋ねた。

 

「(挙動不審者…敵かもしれないってことだ。)」

 

「…うむ。」

 

もしかしたらあれが“幻想体”とやらなのかもしれない。

彼らは警戒し、各々武器を構えてその陰に向かって慎重に歩き出した。

 

「…さて、幻想体は一体どんな…」

 

ガリバーの小さな声はすぐに大きな声でかき消された。

 

「おい!そこ、誰だ!」

 

…残念ながら、その影は幻想体ではなかった。虫が歪に生えている元G社の軍人達である。

 

「何だ?この近辺には俺達しかいないって話だろ。」

 

「入口の方で処理できなかったか?いつの間に他のネズミどもが入ってきたみたいだな。」

 

彼らが各々の武器を手に近寄ってくる。まず最初に口火を切ったのはやはりウーティスだった。

 

「おい、虫たち!さっきのあの死体はお前らの友達か?」

 

元軍人の一人が表情を怒りに染めて武器を振り上げた。

 

「死体!?お前このクソや…。」

 

「待て。…どこから来たゴミクズどもかは知らないが、聞け。どうせお前らもエンケファリンを取りに来たんだろ?ここからもう一階だけ降りていけば容易くエンケファリンが手に入るぞ。」

 

冷静な元軍人が仲間を諌める。そして彼は囚人たちに向き合おうとしながら話す。

 

「そこはお前らに譲るよ。互いに取るもん取っていい感じに別れよう…。か。は、はは。」

 

しかし先頭に立っていたグレゴールの顔と腕に目を這わせるやいなや乾いた笑いを上げ、すぐさまナイフを鋭く投げる。

 

「ちっ、バレたか。」

 

グレゴールが軽い身のこなしでナイフを躱す。

 

「この裏切り者が…。」

 

「あはぁ、お前は前方に所属してたみたいだな。どうだ、それでもポスターよりかは実物のほうが良いだろぉ?」

 

芝居がかった調子で腕を広げるグレゴールに元軍人は激昂して叫んだ。

 

「馬鹿なこと言うな!お前なんかに敬礼したことがあるってことに反吐が出るよ。」

 

「ありゃぁ、実物に対してやったわけでもないのにそう言ってくれるなよ。」

 

「お前はそのくっだらねぇ特別待遇で、施術の副作用なく平凡な人のフリをして生きてたんだろうけどな…。俺達はそうじゃなかった、この欺瞞野郎が。俺たちは戦争で敗北してすぐに捨てられたんだよ。」

 

憎々しげにグレゴールを見つめる元軍人。グレゴールは呆れたように鼻を鳴らして煙草をゆっくりと吐いた。

 

「…捨てられたのは俺もだよ。軍人なら全員同じじゃないか?その中でお前たちは、捨てられた虫ケラみたいに生きていくことを選んだみたいだな?」

 

「おい!敵を挑発して良いことは何も無いだろう!」

 

ウーティスが咎めるも、ガリバーは苦笑いを浮かべて彼女をそっと静止した。

 

「どうせあいつらはエンケファリンを持った俺たちを襲撃するつもりだったんだ。今やりあおうが後で背中を切られようが変わんないよ。」

 

「そ、そうだったんですか?」

 

「ここはそういう場所なんだ、シンクレア。警戒するに越したことはないさ。」

 

次の瞬間、ガリバーは後ろから突撃してきたドンキホーテに跳ね飛ばされた。

 

「悪人どもめ、待っていろ!私が成敗してくれる!」

 

<…警戒が、なんだって?>

 

「…ハハ…。」

 

ガリバーは曖昧に笑い、誤魔化すようにカンテラを振り回した。

 

 

 

戦闘もおよそ落ち着いて、グレゴールはタバコをくゆらせていつもより長く煙を燻らせた。

 

「グレゴール…」

 

そんな彼の様子を気の毒そうに見つめているガリバーに気がつくと、彼はなんでもないと言ったように腕を振った。

 

「他の警備会社に就職したとしても、これよりはマシだと思うんですけど…。」

 

イシュメールが理解できないといったように表情を歪める。しかし元軍人だろうウーティスは彼らの気持ちを解し、淡々と彼女の問いに答えた。

 

「一生を軍人として生きてきた者たちだ。他の職業で新たな出発をするには適応し、変えなければならないものがとても多かっただろう。」

 

「それに、没落した翼出身ってのは物凄い烙印だ。誰かが拾ってくれたら靴底でも舐めてあげなきゃならないくらいには…。」

 

グレゴールが沈んだ表情で呟く。その様子には計り知れない苦労が滲んでいた。

 

「……。」

 

ユーリもそんな彼の様子に釣られて俯く。彼女自身も分かっているのだろう。

 

「あ…ごめん。浅はかだったな。」

 

「いえ。G社もL社も状況は同じだったでしょうし。…翼が折れるというのは、そういった混乱を引き起こす事件ですからね。」

 

ユーリは表情を歪めることなく答えた。言われ慣れているのだろう。

 

「でも、結果的には二人ともどうにか飯を食ってけてるんだ。そんな暗い話は置いといてさ、この先に何があるかとか一旦情報を共有しておいたほうが良いんじゃねぇか?」

 

ガリバーが明るく二人の肩を叩く。驚いた彼らは一瞬大きく身体を震わせるも、しばらくして落ち着いたのか頷いた。

 

「ふむ、お前の案を採用する。聞いたか!この支部について何か情報を持つ者は開示するように。」

 

最初は誰も手を挙げようともしなかった。だからなのだろうか、次第に囚人たちの期待が込められた視線は隻眼の少女に集中していく。

 

計30の瞳と時計一つから向けられる視線に恐縮するかのごとく彼女はただでさえ丸い背筋をさらに丸くさせたものの、なんとか持ち直したようだ。

 

「私たちが…いえ、この支部で管理していた幻想体は7体です。F-04-03(黒壇女王の林檎)O-04-20(宿した綿花)M-04-04(終末カレンダー)と…あとは…すみません、知らないんです。」

 

「十分だろ。管理方法は分かるか?」

 

ガリバーが口を挟む。

 

「いえ……。私は幻想体の卵を隔離室に運搬する仕事ばかりだったので。」

 

「知らないのか?」

 

ホプキンスの表情がヴェルギリウスが居なかった時と同じく醜悪に歪められ、彼のそんな顔を始めて見たのだろうダンテがポーッ!と驚いたような音を上げた。ところでその音は時計と関係ないように聞こえるが、はてさて制作者は一体何を思って追加したのだろう?

 

「い、いえ…その…。」

 

ユーリがしどろもどろに答えようとするも、結局良い言い訳は思いつかなかったらしい。そんな彼女の様子を見て調子づいたホプキンスがさらに声高く喋り続ける。

 

「俺たちがわざわざ墜落した翼の羽を拾った理由が何か、分かってないのか?」

 

「L…L社支部の依頼を少しでも安全に解決しようと…。」

 

「よく分かってるじゃないか。下級管理職出身に望むものなんて別に無かったしな。道案内。そしてあの幻想体だか勉強会だかいうのをどうやってフルボッコにすれば良いか教えること。けどな…初めて見るとかほざかれたら俺たちはどうすればいいってんだよ?あ゛ぁん?」

 

ホプキンスがその純朴そうな見た目に似合わぬ治安の悪いガンを飛ばす。ヒースクリフが過去を懐かしむように彼を見つめているが、この圧に耐えられなかったユーリは若干涙目である。

 

「ホプキンス、その辺りにしてやれよ。情報で食っていってるユーリさんが金も取らずわざわざ開示してくれたんだぜ?感謝こそすれってやつだろ。」

 

「はぁ〜ホプキンス、もーちょっと優しくしてやってよ〜。ここに居るのは7体だけ、って情報も得られたんだしさ〜。」

 

ガリバーの言葉に加えてアヤの援護射撃もあり、ホプキンスは不承不承と言わんばかりの表情で大きくため息を吐いて黙り込んだ。

 

 

戦闘描写は増やしますか?

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