イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
サッカースタジアムは、まるでプロの試合のように満員御礼だった。
円堂守世代がイナズマジャパンによる世界一に輝いたことにより、中学サッカーすらも爆発的な人気を誇っている。
今日はU-15スプリング杯の第1回戦となる。
去年度の地区大会で優秀な成績を収めた中学から判断し、選抜して出場枠が与えられた。
全てのサッカー部にチャンスが与えられるフットボールフロンティアより前、つまり
この時期から全国レベルの試合が観れるわけだ。
雷門中の応援団も来ていて、たえちゃんたち1年部員も最前列から手を振ってくれていた。
「やっべぇ、緊張してきた」
「どうしよ、私もだよぉ~」
「じゃあ私も緊張してます」
1軍は大幅に再編成され、その多くが新2年で構成されている。
俺もこういう場は久しぶりだし、しかも東京のスタジアムは規模が違ったし。
ナオさん、まつりさんも初の公式試合参加となるし。
「ハル君はどうかな!?」
「え? じゃあ緊張してます」
嘘つけ、『始まるの遅いなぁ』ってマイペースな顔してた。
そういう言葉を本気で受け取る人もいるんだぞ。
「ハル、言っておきたいことがある」
「なんでしょう、嵐先輩」
「今回はFWを譲ってるがな。俺も遠慮なく点を取りにいくつもりだ。いや、葉若や星村もすぐにシュートチャンスを狙いにいくぞ」
「つまり、私たちが付いてるってこと!」
「えっと、わかりました」
言いたいことは先に言われちゃったな。
ツートップ、つまりFWは2人のフォーメーションだけど、俺たち全員が協力して点を取りにいく。それが去年度から進化した雷門サッカーなんだ。
「練習は力だ。ハルもいつも通りのサッカーをすればいい」
「はい、蓮さん」
蓮は監督と軽く会話した後でこちらにやってきていた。どうやら今日も監督からの指示は特になさそうだな。
戦術面も含めて、俺たちのことを信頼しているのか。
それとも、放任主義だからなのか。
まあ俺たちなりに頑張るからいいさ。
「よしっ! みんなポジションにつくぞ!」
「「「おう!!」」」
晴天のフィールドに向かって、俺たちは走り出した。
*****
U-15スプリング杯、その1回戦だ。
公式試合の連勝記録を伸ばし続ける雷門中と、九州の強豪として注目されている北陽学園の試合となる。
サッカー部員も少ない北陽学園が急成長を遂げた理由は、監督の手腕だろう。
彼は今日も、厳格な雰囲気でサッカーコートを見つめていた。
(今の雷門中、想定していた以上に
監督の差もあって、戦術面では
雷門中のスタメンで新3年は野神と遠野のたった2人、残りはほとんどが新2年で構成されている。しかも公式試合に出場したことのない選手が多い。
近年の雷門中はほぼ新3年で固めていたが、今年は異例なことだ。
まあそれだけならば、試合中に戦術を組み直すことができたかもしれない。
(まるで円堂守たちに挑んでいるかのようだ)
下鶴は自然と頬が緩む。
データでは予測できないほどの、可能性を感じさせる選手が集まっている。そしてチームの雰囲気も当時の雷門中を思い出すかのようだ。
(そしてあれが円堂ハル、円堂守の息子……どちらかと言えば、あいつに似ている)
1年ながらエースストライカーを任せられている少年だ。
データは完全になく、運悪く彼のデビュー戦に当たってしまったことになる。
「空宮……雷門はどうだ?」
「すぅ~……ていうか最強の敵って、なんか無性にアガりますよね」
品乃に尋ねられた空宮だが、試合前から『王者雷門』だと実感させられていた。
さっきまで和気あいあいとしていた様子だったのが、いざポジションにつけば、選手全員がプロのような風格を
どう戦ったとしても、厳しい戦いになるだろう。
「今日ここで時代を変えるぞ」
「……はい!」
しかし彼らは勝つつもりでやる。
自分のサッカーを、監督や仲間を信じているからだ。
空宮は、興奮しすぎて泣き始めてしまうほどだった。
【北陽学園】
FW 友部 空宮
MF 騎士部 品乃 新狩 屯田 保平
DF 矢倉 城壁道 槍崎
GK 陣内
【雷門中】
FW 野神 円堂
MF 嵐 月影 鬼門 星村
DF 遠野 紫雨 赤袖 葉若
GK 暖冬屋
ホイッスルが鳴り、北陽ボールで試合開始となった。
彼らの中心選手はメインストライカーである空宮であり、俊敏で臨機応変さが特徴なファンタジスタだ。
「タクティクス……トライダイブ……」
北陽の攻撃陣は3方向に分かれ、一気に攻め上がってくる。
「来るぞ! パーフェクトサッカーの北陽が!」
月影は、予定通りの守備につくよう雷門に指示を出した。
彼らも3組に分かれて真正面から迎え撃つ。
しかし北陽はパスで繋いで、3本のラインを切り替えながら、的確にドリブル突破を重ねていった。
「どうした雷門中、そんなものか?」
品乃は、月影の隣を走りながら、そんな挑発をした。
「くっ、連携は向こうが有利か」
北陽は部員が少ないということで、むしろその連携が洗練されている。
対して雷門中の新しいサッカーはまだ完成しきっていない。それでも、臨機応変に動いてくれるメンバーがいるから。
「決めろ、空宮!」
「はい……ッ!?」
空宮はシュート体制に入ろうとしていたが。
「さーてさーて~」
星村が同等の俊足で追いついてきていた。
空宮は再びドリブルに切り替えようとするも、すでに挟み撃ちにされている。『ザ・ミスト』に迷いこんでいる間に、ボールを前方のDFに奪われてしまう。
「しまっ...!?」
「よっ カウンター始めますよ、パワプロ君」
『ほいっ』と声を出した赤袖からのパスを、葉若が受け取った。
ボールを蹴り上げ、彼自身も炎を纏いながら天高く飛ぶ。
「まさかあの技は!?」
「伝説の必殺シュート!?」
「ファイアトルネード!」
葉若はロングシュートの要領で、その炎の弾丸を放った。
ここ数年の雷門中はもっと堅実で、これほど突然のカウンターを狙ってくるチームではなかった。
「9番と11番を優先してマークしろ!」
すぐに品乃は今できる最善の守備を指示した。
データ予測によれば、その2人が使える『ワイバーンクラッシュ』は、北陽GKの陣内だけでは止められない。
「いいのか。1人、バレてないやつがいるぞ」
「なにを……しまった、10番が完全フリーだ!」
葉若の呟きに、空宮は慌てて叫んだ。
時すでに遅し。
もはやサッカーセンスによる本能でやっているのか、北陽の守備陣の死角を移動して、その少年は最高の位置で、炎の弾丸を追いかけるように飛んだ。
「グラビティ……」
全体を見渡していた北陽GKの陣内すら、その少年に気づいていなかった。
気配を消して獲物に
「……ひとつ」
必殺技なのかどうか、しかし高速の動作から放たれたシュートに、全く陣内は反応できなかった。
ゴールを貫いたボールはいまだ回転し続ける。
「何が起きたんだ、一体...」
GK陣内の呟きをかき消すように、ホイッスルが鳴り響く。
雷門中の先制点。
それは北陽ボールで試合開始したというのに、たった3分のできごとだった。
スタジアム全体から歓声が響き、雷門中の選手たちは笑顔で円堂ハルに駆け寄る。
北陽学園の選手たちは絶望の感情を抱く。それでも自分たちがやってきたサッカーを信じて、ポジションに戻っていく。
ここからは試合のダイジェストになる。
「グラビティデザート!!」
「んー、じゃあ、ファイアトルネードで」
次はあらかじめ円堂ハルを警戒していたため、北陽GK陣内の必殺技によって砂漠の嵐が巻き起こる。
しかし円堂ハルは涼しい表情で必殺技を繰り出し、真正面から打ち破った。
「パトリオットシュート!!」
「蓮さん、あとお願いします」
MF品乃が、まるでミサイルかのように必殺ロングシュートを放つ。
それをパスカットの要領で、前線の仲間まで簡単に撃ち返した。
「はぁ…はぁ…せめて1点だけでも…ッ!?」
「パワプロさん、別にいいんですよね? FWがここまで戻ってきても」
空宮は意地を見せて、雷門の守備陣を振り切ってきた。
しかし死角から襲うスライディングによってボールを奪われた。
そして試合終了のホイッスルが鳴った時、スコアボードには10-0が記録されていた。
控え選手をフル投入して、北陽の選手たちは全力で立ち向かったが。
その誰もが悔しい表情を浮かべて、力なく
彼らも九州の強豪だが。
『王者雷門』、その強さを身をもって知ることとなった。
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今の雷門の強みは3つあると思う。
優れた司令塔によるタクティクス、圧倒的な個人技によるボールキープ力、そしてポジションを超えて動く臨機応変さ。
それらが調和しきるまでは、まだ時間が必要だろう。
北陽学園も全国大会出場レベルはあったけど、俺たち雷門中は世界のサッカーに立ち向かうつもりだ。だから、チームとしての調整も含めて、手加減などしていられない。
そんな風なことを話す反省会もあるが、ひとまず初戦を完勝できたことをみんなが喜んでいた。
ハルも攻撃と守備の両方で大活躍、自分自身は6点も決めていて、ヒーロー扱いだな。
「どうだった? 初の公式大会は」
「んー、ふつう?」
蓮が尋ねるも、ハルの表情は試合前と全く動いてなかった。
こいつが熱くなれるような選手が、スプリング杯の間に見つかるのかどうか。
「ねぇ蓮さん、サッカーってさ……つまんなくない?」
「なぁハル、この大会を勝ち進めば、もっと強いチームがあるかもしれない。だから、その時はお前も熱く……」
試合前と全く変わらないハルの表情に、蓮は言い
初の公式試合だったが、円堂ハルはサッカーをいまだ楽しめていなかった。