イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード   作:ヒラメもち

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第2話 九州の強豪 北陽学園

 

 

 サッカースタジアムは、まるでプロの試合のように満員御礼だった。

 円堂守世代がイナズマジャパンによる世界一に輝いたことにより、中学サッカーすらも爆発的な人気を誇っている。

 

 今日はU-15スプリング杯の第1回戦となる。

 去年度の地区大会で優秀な成績を収めた中学から判断し、選抜して出場枠が与えられた。

 

 全てのサッカー部にチャンスが与えられるフットボールフロンティアより前、つまり前哨戦(ぜんしょうせん)として位置づけられている。

 この時期から全国レベルの試合が観れるわけだ。

 

 雷門中の応援団も来ていて、たえちゃんたち1年部員も最前列から手を振ってくれていた。

 

「やっべぇ、緊張してきた」

「どうしよ、私もだよぉ~」

「じゃあ私も緊張してます」

 

 1軍は大幅に再編成され、その多くが新2年で構成されている。

 俺もこういう場は久しぶりだし、しかも東京のスタジアムは規模が違ったし。

 ナオさん、まつりさんも初の公式試合参加となるし。

 

「ハル君はどうかな!?」

「え? じゃあ緊張してます」

 

 嘘つけ、『始まるの遅いなぁ』ってマイペースな顔してた。

 そういう言葉を本気で受け取る人もいるんだぞ。

 

「ハル、言っておきたいことがある」

「なんでしょう、嵐先輩」

 

 大佑(だいすけ)のやつも背が高いんだから、怖がらせるような言い方するなよ。動じてないハルもすごいけどさ。

 

「今回はFWを譲ってるがな。俺も遠慮なく点を取りにいくつもりだ。いや、葉若や星村もすぐにシュートチャンスを狙いにいくぞ」

 

「つまり、私たちが付いてるってこと!」

「えっと、わかりました」

 

 言いたいことは先に言われちゃったな。

 ツートップ、つまりFWは2人のフォーメーションだけど、俺たち全員が協力して点を取りにいく。それが去年度から進化した雷門サッカーなんだ。

 

「練習は力だ。ハルもいつも通りのサッカーをすればいい」

「はい、蓮さん」

 

 蓮は監督と軽く会話した後でこちらにやってきていた。どうやら今日も監督からの指示は特になさそうだな。

 

 戦術面も含めて、俺たちのことを信頼しているのか。

 それとも、放任主義だからなのか。

 

 まあ俺たちなりに頑張るからいいさ。

 

「よしっ! みんなポジションにつくぞ!」

「「「おう!!」」」

 

 晴天のフィールドに向かって、俺たちは走り出した。

 

 

*****

 

 

 U-15スプリング杯、その1回戦だ。

 公式試合の連勝記録を伸ばし続ける雷門中と、九州の強豪として注目されている北陽学園の試合となる。

 

 サッカー部員も少ない北陽学園が急成長を遂げた理由は、監督の手腕だろう。

 下鶴改(しもづるあらた)、御影専農中の出身で、円堂守世代の1人だ。そしてイナズマジャパンに対抗するネオジャパンのメンバーだった。ファイアトルネードをコピーして習得したり、エイリア学園の強力なロングシュート『グングニル』まで習得したり、相当のサッカー技術まで持っている。

 

 彼は今日も、厳格な雰囲気でサッカーコートを見つめていた。

 

(今の雷門中、想定していた以上に手強(てごわ)そうだ)

 

 監督の差もあって、戦術面では(まさ)っているだろう。

 雷門中のスタメンで新3年は野神と遠野のたった2人、残りはほとんどが新2年で構成されている。しかも公式試合に出場したことのない選手が多い。

 

 近年の雷門中はほぼ新3年で固めていたが、今年は異例なことだ。

 まあそれだけならば、試合中に戦術を組み直すことができたかもしれない。

 

(まるで円堂守たちに挑んでいるかのようだ)

 

 下鶴は自然と頬が緩む。

 データでは予測できないほどの、可能性を感じさせる選手が集まっている。そしてチームの雰囲気も当時の雷門中を思い出すかのようだ。

 

(そしてあれが円堂ハル、円堂守の息子……どちらかと言えば、あいつに似ている)

 

 1年ながらエースストライカーを任せられている少年だ。

 データは完全になく、運悪く彼のデビュー戦に当たってしまったことになる。

 

「空宮……雷門はどうだ?」

「すぅ~……ていうか最強の敵って、なんか無性にアガりますよね」

 

 品乃に尋ねられた空宮だが、試合前から『王者雷門』だと実感させられていた。

 さっきまで和気あいあいとしていた様子だったのが、いざポジションにつけば、選手全員がプロのような風格を(ただよ)わせる。

 

 どう戦ったとしても、厳しい戦いになるだろう。

 

「今日ここで時代を変えるぞ」

「……はい!」

 

 しかし彼らは勝つつもりでやる。

 自分のサッカーを、監督や仲間を信じているからだ。

 

 空宮は、興奮しすぎて泣き始めてしまうほどだった。

 

 

【北陽学園】

FW 友部 空宮

MF 騎士部 品乃 新狩 屯田 保平

DF 矢倉 城壁道 槍崎

GK 陣内

 

【雷門中】

FW 野神 円堂

MF 嵐 月影 鬼門 星村

DF 遠野 紫雨 赤袖 葉若

GK 暖冬屋

 

 

 ホイッスルが鳴り、北陽ボールで試合開始となった。

 彼らの中心選手はメインストライカーである空宮であり、俊敏で臨機応変さが特徴なファンタジスタだ。

 

「タクティクス……トライダイブ……」

 

 北陽の攻撃陣は3方向に分かれ、一気に攻め上がってくる。

 

「来るぞ! パーフェクトサッカーの北陽が!」

 

 月影は、予定通りの守備につくよう雷門に指示を出した。

 彼らも3組に分かれて真正面から迎え撃つ。

 

 しかし北陽はパスで繋いで、3本のラインを切り替えながら、的確にドリブル突破を重ねていった。

 

「どうした雷門中、そんなものか?」

 

 品乃は、月影の隣を走りながら、そんな挑発をした。

 

「くっ、連携は向こうが有利か」

 

 北陽は部員が少ないということで、むしろその連携が洗練されている。

 対して雷門中の新しいサッカーはまだ完成しきっていない。それでも、臨機応変に動いてくれるメンバーがいるから。

 

「決めろ、空宮!」

「はい……ッ!?」

 

 空宮はシュート体制に入ろうとしていたが。

 

「さーてさーて~」

 

 星村が同等の俊足で追いついてきていた。

 空宮は再びドリブルに切り替えようとするも、すでに挟み撃ちにされている。『ザ・ミスト』に迷いこんでいる間に、ボールを前方のDFに奪われてしまう。

 

「しまっ...!?」

 

「よっ カウンター始めますよ、パワプロ君」

 

 『ほいっ』と声を出した赤袖からのパスを、葉若が受け取った。

 ボールを蹴り上げ、彼自身も炎を纏いながら天高く飛ぶ。

 

「まさかあの技は!?」

「伝説の必殺シュート!?」

 

「ファイアトルネード!」

 

 葉若はロングシュートの要領で、その炎の弾丸を放った。

 

 ここ数年の雷門中はもっと堅実で、これほど突然のカウンターを狙ってくるチームではなかった。

 

「9番と11番を優先してマークしろ!」

 

 すぐに品乃は今できる最善の守備を指示した。

 データ予測によれば、その2人が使える『ワイバーンクラッシュ』は、北陽GKの陣内だけでは止められない。

 

「いいのか。1人、バレてないやつがいるぞ」

「なにを……しまった、10番が完全フリーだ!」

 

 葉若の呟きに、空宮は慌てて叫んだ。

 時すでに遅し。

 

 もはやサッカーセンスによる本能でやっているのか、北陽の守備陣の死角を移動して、その少年は最高の位置で、炎の弾丸を追いかけるように飛んだ。

 

「グラビティ……」

 

 全体を見渡していた北陽GKの陣内すら、その少年に気づいていなかった。

 気配を消して獲物に(せま)る、まるで狼であり、サッカーモンスターだった。

 

「……ひとつ

 

 必殺技なのかどうか、しかし高速の動作から放たれたシュートに、全く陣内は反応できなかった。

 

 ゴールを貫いたボールはいまだ回転し続ける。

 

「何が起きたんだ、一体...」

 

 GK陣内の呟きをかき消すように、ホイッスルが鳴り響く。

 

 雷門中の先制点。

 それは北陽ボールで試合開始したというのに、たった3分のできごとだった。

 

 スタジアム全体から歓声が響き、雷門中の選手たちは笑顔で円堂ハルに駆け寄る。

 

 北陽学園の選手たちは絶望の感情を抱く。それでも自分たちがやってきたサッカーを信じて、ポジションに戻っていく。

 

 

 ここからは試合のダイジェストになる。

 

「グラビティデザート!!」

「んー、じゃあ、ファイアトルネードで」

 

 次はあらかじめ円堂ハルを警戒していたため、北陽GK陣内の必殺技によって砂漠の嵐が巻き起こる。

 しかし円堂ハルは涼しい表情で必殺技を繰り出し、真正面から打ち破った。

 

 

「パトリオットシュート!!」

「蓮さん、あとお願いします」

 

 MF品乃が、まるでミサイルかのように必殺ロングシュートを放つ。

 それをパスカットの要領で、前線の仲間まで簡単に撃ち返した。

 

 

「はぁ…はぁ…せめて1点だけでも…ッ!?」

「パワプロさん、別にいいんですよね? FWがここまで戻ってきても」

 

 空宮は意地を見せて、雷門の守備陣を振り切ってきた。

 しかし死角から襲うスライディングによってボールを奪われた。

 

 

 そして試合終了のホイッスルが鳴った時、スコアボードには10-0が記録されていた。

 

 

 控え選手をフル投入して、北陽の選手たちは全力で立ち向かったが。

 その誰もが悔しい表情を浮かべて、力なく(うつむ)き、立ち上がることができない。

 

 彼らも九州の強豪だが。

 

 『王者雷門』、その強さを身をもって知ることとなった。

 

 

****

 

 

 今の雷門の強みは3つあると思う。

 優れた司令塔によるタクティクス、圧倒的な個人技によるボールキープ力、そしてポジションを超えて動く臨機応変さ。

 

 それらが調和しきるまでは、まだ時間が必要だろう。

 

 北陽学園も全国大会出場レベルはあったけど、俺たち雷門中は世界のサッカーに立ち向かうつもりだ。だから、チームとしての調整も含めて、手加減などしていられない。

 

 そんな風なことを話す反省会もあるが、ひとまず初戦を完勝できたことをみんなが喜んでいた。

 

 ハルも攻撃と守備の両方で大活躍、自分自身は6点も決めていて、ヒーロー扱いだな。

 

「どうだった? 初の公式大会は」

「んー、ふつう?」

 

 蓮が尋ねるも、ハルの表情は試合前と全く動いてなかった。

 こいつが熱くなれるような選手が、スプリング杯の間に見つかるのかどうか。

 

「ねぇ蓮さん、サッカーってさ……つまんなくない?」

 

「なぁハル、この大会を勝ち進めば、もっと強いチームがあるかもしれない。だから、その時はお前も熱く……」

 

 試合前と全く変わらないハルの表情に、蓮は言い(よど)む。

 

 初の公式試合だったが、円堂ハルはサッカーをいまだ楽しめていなかった。

 

 

 

 

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