イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
放課後の時間、選手たちは練習に
しかし雷門中監督、
彼が行うことは、AIに基づいたデータによる練習メニューの作成だ。
すでに数十年前となった円堂守世代とは時代が変わり、選手の実力がある程度、数値によって示されるようになった。
データサイエンスだけでなく、ロボット工学も進んだことで、選手レベルに応じた練習相手の開発すら進んでいる。
だが、選手によってはデータを超えて想定外のプレイをする者がいる。
例えば円堂ハル。
昔から父親に付いていって、ハードな特訓をこなしてきたこともあり、全体的に高水準の能力値ではあるが。
それよりも彼の強みは、スポンジのように吸収するサッカーセンスにある。もし急にゴールキーパーを任せたとしても、感覚だけで全国クラスになるだろう。彼の天賦の才は、どちらかというと母親譲りなのだと思われる。
そして
あの"事故"から不死鳥のごとく蘇ってきた選手である。
後遺症によって、シュートの際のコントロールが著しく低下し、FWとしての復帰は絶望的だとAIに判断された。
だが、2軍メンバーを全体的に急成長させたことといい。
自分自身も急激にストライカー技術すら取り戻していったことといい。
選手のオーラを具現化された『化身』、それとは別種の可能性を秘めていることといい。
「……ふざけるな」
他に誰もいないため、
まず第一に、彼の立てた計画が
『ぬくぬくとサッカーの英才教育を受けて甘えたガキの集まり』で実績を積み上げ、なんとか雷門中サッカー部監督に就任できた。そこから彼が監督であるべき期間は、たった2年でよかった。FW組の不調を引き起こすよう練習メニューをバレない程度に改悪した。
そうすれば、新1年の円堂ハルには嫉妬による悪意が向けられるはずだった。
「だが、円堂ハルが向けられるのは、期待や
更には確実な実行犯となるべき者を用意するべく、とりあえず1人、"事故"に遭ってもらったのに。
「なぜアイルが……! なぜ
なぜなら彼の息子が、円堂ハルを恨んで死んだからだ。
ある試合中の大怪我により、アイルは選手として再起不能となった。そしてライバルであるハルとの実力差に悩み、ショックで車に飛び込んでしまった。
「いや、まだチャンスは1年もあるんだ……こうなれば直接、円堂ハルを……」
そう言いかけた時、入室許可を求める音が鳴った。
カメラを起動すればマネージャーの1人であるため、笑顔を作って、その女子を部屋に通した。
「やあ、どうしたのかね」
「先日の第1回戦のデータがまとまりましたので、ご報告にきました」
2年の
「ハル君のおかげで、ただでさえ強い雷門が、さらに強くなっていますね」
「強いことは、悪いことではない」
画面に映し出された円堂ハルの選手データは、試合前よりさらに高く評価されていた。
「だけど、あまりにも光が強いと、周りを焦がしてしまう可能性がある」
このどこまでもドライなマネージャーにそう伝えれば、何か円堂ハルに対して動きを見せるかと思い、詩的にそう言ってみたが。
彼女の表情は特に変わっていなかった。
「彼の動向には注意していこう...」
「はい、監督」
続いて見せられたのは、
「………やけに詳細に書いてるよね、彼のことだけ」
「いえ、これでもデータ不足です。あの練習試合で見せた現象ですが、あれは一体何なのか、過去の雷門中の選手データと照合しているところです」
急に早口で話し始めたぞ。
天才というのは、気になることに強いこだわりを見せるらしい。
とにかく、円堂ハルへの復讐、その計画を立て直す必要がある。
*****
花粉症ってわけじゃないけど、急に鼻がムズムズしてきたぞ。
「ぶぇっくしゅん!」
まさかクラスメイトの女子が俺の噂を?
いや、今日もハルの話題だらけだったわ。
『ハル君とレン君のサイン貰ってきて!』と何人に頼まれたことか。
やっぱこいつらアイドルかよ。
「パワプロさん、何かありました?」
スプリング杯の優勝までしたけど、結局ハルが熱くなれるようなライバルは見つからなかった。
だからナオさんが、休息のためにも、気分転換のためにも、こうして遊びにハルを連れ出していた。
ついでに、放っておいたら特訓を始めそうな俺もな。
「あー、稲妻町の観光、そういえばしてなかったなってさ」
さすが東京と言うべきか。
比較的落ち着いていそうなこの辺りですら、長崎出身の俺には都会に思える。円堂守伝説の聖地でもあるから、もはや歴史の偉人かのように、記念館の設立も計画されてるらしい。
過去に宇宙人に誘拐された総理大臣をサッカーで救ったという噂もあって、スケールが異次元なんだよな。
「俺もですよ。とっちゃんは、よくサッカースタジアムに連れて行ってくれました」
「そう、なのか……」
サッカーをまだ楽しめてないのに、退屈だったんだろうか。
俺が暗い表情を気づいたのか、ハルは『えっと』と声を出した。
「つまらないわけじゃなかったですよ? おじさんたちのプレー見るのは好きですし」
「へぇ、あの世代の人たちか」
そこにハルが熱くなれるようなヒントがあるのかもな。
単純に実力が高い、しかしそれならチームに暖冬屋もいるしなぁ。
よしっ、ハルの求めるサッカーに関係することとして覚えておこう。
「お待たせ~!」
「結局、何着か買ってしまいました」
ナオさんは元気ハツラツって感じで、まつりさんはお嬢様って感じだ。
制服とユニフォームとジャージ以外しか見てこなかったけど、私服姿も可愛いよなぁ。
服屋でも試着して、俺たちにどれがいいか尋ねてきたけど、どれも似合ってて頷くことしかできなかった。
「どうする? ハル君やパワプロ君たちも服見に行く?」
「俺たちはいいですよ」
「だな。俺は着る機会も少なそうだし」
朝の自主トレやって、学校行って、サッカーやって、あと食って寝る日々だからな。
ハルだって昔から稲妻町に住んでいるからか、目立たないように黒いパーカーのフードを頭から被っている。父親が有名人だと、そういうことも大変そうだな。
「今後多くなると思うけどなぁ~」
ナオさん、なんだそのニヤニヤ顔は。
「パワプロ君、あなたも試合で見せる姿と似ていれば、その...ファンの方々から声をかけられてしまうかもしれません」
「それもそうかぁ」
確かに紅白帽子と紅白ジャージ姿なんて、ランニングしてても他に全く見かけなかった。
目立ってそうだな。
「よし、俺もフードのついたパーカーを買うことにする。帽子を隠せるしな」
「やっぱりその帽子、こだわりなんだ!?」
「隠しきれるでしょうか……まあ行きましょうか」
ハルもどこかで見たようなオレンジ色のネックウォーマーが、フードの中から見えてるよな。
多少目立たなくなれば、なんとかなるさ。
「というわけでハル、それ売ってる店どこだ?」
「わかりました。じゃあ案内しますね!」
なんだかキラキラと目を輝かせてた気がするけどさ。
くっっそ高かった。
そういや父親は円堂守だし、母親は雷門中理事長らしいし、ハルってお金持ちなんだよな。
この日はまだ。
そんな理事長に呼び出しくらって、あんな命令をされると思ってなかったけど。