イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード   作:ヒラメもち

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第3章 フットボールフロンティア予選
第1話 円堂ハルの期待


 

 

 南雲原中と西ノ宮中の試合が終わった後のことだ。

 他の人たちはベンチから離れているみたいで、ハルにとってちょうどよかった。

 

「ねぇキミ、なんで試合に出ないの?」

 

 白いジャージの選手に気軽に話しかけた。

 彼は、南雲原の司令塔としてベンチから試合をコントロールしていた男子だ。

 

 ハルはまだ自覚はしていないが、そんな彼とサッカーで対決してみたいとも思っていた。

 

「キミはサッカーをとても知ってる。選手として出ていたなら前半から良い勝負ができたのに」

 

 だからハルは無邪気な笑顔で尋ねた。

 しかし笹波雲明は目を()らす。

 

「……僕はサッカーができないんだ。病気でね」

 

 それだけが理由だった。

 本当に、それだけだった。

 

「へぇ、いつ治るの?」

「……」

 

 その沈黙が答えだった。

 変わることのない事実だった。

 

「そっか……じゃあ、なんでサッカーやるの? サッカーじゃなくても楽しいこといっぱいあるでしょ?」

 

「……え?」

 

 それがハルからの優しさだった。

 選手としてサッカーができなくて、これからもずっと苦しむのなら、別の楽しみを見つければいいと。

 

 怪我で再起不能となった『アイル』が笑顔を作りながら、そう言っていたように。

 

「まあ、それはキミの自由かな?」

 

「……あのさ、どんな気持ち?」

 

 今度は笹波雲明から尋ねる。

 ハルは不思議そうに彼を見た。

 

「サッカーが思いっきりできて、すごく上手くて、みんなが(うらや)むようなプレイができる、それってどんな気持ち?」

 

「別に…… サッカーが上手いってだけ。それだけ」

 

 ハルは『円堂守の息子』だ。

 サッカーが上手くて当然扱いされてきた。

 

「勝ち進んだら、また会えるかも……だね。じゃ!」

 

 笹波雲明も、所詮(しょせん)はハルの『健康な身体』に憧れる存在だった。

 

 

 これ以上、話すことはなかった。

 背中を向けたハルは、再びつまらなさそうな表情を浮かべた。

 

 

 彼が求めているライバルは、今の雲明ではなかった。

 

 

*****

 

 

 あれは南雲原と西ノ宮の本来の試合に戻ってから、逆転されて負けたようなものだ。

 でも、いくつかの報道は『円堂ハル敗れる!?』とかだった。

 

 意外にも(はは)様には叱られなかった。

 むしろ偏向報道にキレていた。

 

 とっちゃんはいつも通り(ほが)らかに笑ってた。

 ご飯を食べてから2人でサッカーの特訓をした。

 

 部員や生徒たちからは『おかえり』『雷門でがんばって』と応援してくれる。

 

 あれは先輩との一瞬の小旅行だったようなもので、俺の日々はまた稲妻町に戻ってきていた。

 

「どんな気持ち……か……」

 

 今日の練習も、コーチやチームメンバー、誰もが褒めてくれた。

 とっちゃんやおじさんたちのサッカーに比べれば、自分はまだまだなのに。

 

「ハル、南雲原の選手のことを気にしてるのか?」

「蓮さん?」

 

 ベンチに座って休んでいたところに話しかけられた。

 どうして気づかれたんだろうって思った。

 

「お前がそんなに考え込むなんて、よほどすごいやつらだったんだな」

「いえ、選手としての実力はまだまだですよ」

 

 俺の見立てで、まだ南雲原は本戦出場できるかすら怪しい。

 スプリング杯で戦った北陽学園のほうが数倍は強かったと思う。

 

 だから、来年度に期待といったところだな。

 

「パワプロから聞いてる。南雲原の司令塔だろ?」

「笹波雲明……」

 

 彼を思い出しながら呟いた。

 もしも彼が健康体で、選手同士として競えたなら、多少は楽しめたかもしれないのに。

 

「控え選手でありながら、お前がフルネームで記憶するほどか。俺ももっと頑張らないとな、司令塔として、1人のプレイヤーとして」

 

 ポンと優しく肩を叩かれて、蓮さんは練習に戻っていった。

 

 『サッカーが好き』、そんな気持ちが部員全員から伝わってくる。

 

 パワプロさんもまたチームの輪に戻って、あちこち引っ張りだこになっている。

 みんな笑ってて、楽しそうだ。

 

「でも……」

 

 俺はどうしてもサッカーを楽しめない。

 それがなぜかもわからない。

 

 あんなにすごい司令塔なのに、しかしサッカーができない、そんな雲明と比べれば。

 とても俺は恵まれているのに。

 

「ハ~ル君!」

「どうも、ナオさん」

 

 こうして1人でいる時、俺に声をかけてくれる先輩たちは多い。

 元気づけてくれようとしてる優しさは伝わるけど。

 

「昨日の試合も大活躍だったね! ハル君が戻ってきてくれて嬉しいなぁ~」

 

「ふつうですよ」

 

 どうしても素直になれない。

 でも最近は『雷門のサッカーってやりやすいな』って、西ノ宮中と比較して思えてる。

 

「ねぇねぇ、ハル君はいつからサッカーやってたの? やっぱりその時から同年代最強だった?」

 

「……いえ、俺よりすごいのはいましたよ、1人」

 

 あの頃は、サッカーを楽しめていたはずだ。

 いつからサッカーがつまんなくなったんだっけ。

 

「えぇ、うっそ~! その子は今どこの中学にいるの?」

 

「……今は俺のほうが全然勝ってますし、たぶんサッカーやめたと思います」

 

 『無理にサッカーやる必要ないよ。サッカーができなくなっても、できることをやればいいんだ。サッカーじゃなくても楽しいこといっぱいあるんだし』

 なんでアイルはあんなこと言ったんだろ。

 

 雲明もそうだけど、『サッカーができない』って、どんな気持ちなんだろう。

 

 気づいたら『サッカーが当たり前』だった俺には理解できないのかもしれないな。

 

「そっかぁ……怪我? 病気?」

「そんな感じです」

 

 もうアイルに聞くことはできない。

 でも雲明なら、この疑問に答えてくれるかもしれない。

 

 もし全国大会で会えたのなら、その時は聞こう。

 

「元気してるといいね~ ハル君のその友達も」

「そうですね」

 

 親友で、仲間で、ライバルだった。

 

 アイルができなかった分まで、俺はサッカーをやらないといけない。

 それがサッカーを続けている理由の1つだ。

 

「パワプロ君もねぇ、去年の春頃に大怪我しちゃってさ。でも今はあんなに元気よく走り回ってるんだよ?」

 

「えっ……そうなんですか?」

 

 驚いた。

 そんな様子は全く見せていなかったのに。

 

「ん、あの事故はもう(ひど)かったよ……」

 

 そのことを思い出しているのか、ナオさんの瞳がとても暗かった。

 まるで自分自身が『サッカーができない』絶望を味わったかのようだ。

 

「ほんと頑張ってたなぁ~」

 

 さっきの表情は一瞬のことで、ナオさんはいつもの自然体で明るい笑顔に戻る。

 なぜか俺はホッとした。

 

「病院からはほぼ再起不能って診断されたらしくてね。監督やコーチからもはや幽霊部員扱い、練習メニューも作られなかったんだから」

 

 『プンプン』と可愛く声に出しながら、頬をぷくぷくとさせた。

 

「そこまで……」

 

 嘘じゃないかと思うほどの話だ。

 あれだけすごいシュートを撃てるまでに、どれだけのリハビリをしたんだろう。

 

「その、どんな気持ちなんでしょう? 『サッカーができない』って」

 

「ん~、私はそういう経験ないしなぁ。でもパワプロ君は『悩むよりまず特訓だ!』って顔してたよ」

 

 ナオさんはパワプロさんの真似をしてるけど、なんだか容易にそんな光景が想像できた。

 

「すごい人ですね」

「そ。……だから親友を任せるには、彼しかいないって思った」

 

 まつりさんとサッカーしている姿を見つめる。

 その横顔はいつもより大人びていて、なんというか、綺麗だと思った。

 

 ナオさんってこういう表情もするんだな。

 

「えっと、あっ俺、乙女監督に呼ばれてるんでした!」

 

「そっか! またお話ししようね~!」

 

 急いで俺が立ち上がると。

 ナオさんは明るい笑顔を見せて、手を振ってくれた。

 

 

「ついつい話し込んじゃってたな」

 

 学校の時計を見れば、少し予定時刻を過ぎている。

 監督は休憩も兼ねているのか、この時間にスタジアム前のベンチにいることが多い。

 

「やあハル君、キミが遅れるなんて珍しいね」

「すみません、監督」

 

 乙女監督は選手に優しい。

 遅れたことを気にした様子も見せることなく、俺もベンチに座ることを促してきた。

 

「最近、ハル君、なにかあった?」

「まあいろいろと」

 

 助っ人で先輩と九州に行って、チームとしては負けてきて。

 そこで雲明と出会って。

 

 雷門に戻ってきて、またみんなとサッカーできて。

 フットボールフロンティア優勝を目指す。

 

 練習してたら、いつのまにか夜になっていることも多くて。

 雷門に入学してから、あっという間だったな。

 

「そういえばハル君、もうすぐ誕生日だよね?」

 

「あぁ、もうそんな時期ですか」

 

 忙しい(はは)様やとっちゃんも、その日だけは必ず一緒にいてくれる。

 それも夜遅くになることが多いけどな。

 

「誕生日プレゼントとかもらえるの?」

「俺、そういうのもらったことないですね。1番の贈り物は、家族一緒ってことらしいです」

 

 ネックウォーマーとして使っているバンダナに触れる。

 貰ったプレゼントはこれくらいだ。

 

 もちろん2人に不満はない。

 むしろ俺は恵まれすぎているだろう。

 

 厳しくて優しくて、昔から欲しい物を言えば、いつだってなんだって買ってくれるから。

 

「へぇ……それもステキじゃない」

 

「そういうものなんですかね」

 

 それにしても誕生日か。

 先輩たちも祝ってくれるかな。何かサプライズとかあったりして。

 

「誕生日、楽しみだね?」

 

「はい」

 

 それには素直に頷くことができた。

 俺、雷門を選んでよかったとは思えてる。

 

 

 

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