イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
今は後半開始までのインタ―バルだ。
いまだ1ー1の同点のままだった。
ハルとナオさんが離脱してからは、お互い攻めあぐねていた。
海王学園は浪川のスタミナ問題で守備固めをしていたのと、俺たちの中で万全に戦えている選手が少なかったからだ。
ハルのことを気にしていたようで、2年のほとんどが試合に集中できていなかった。
「いまだ治療途中ですが、ハル君の外傷は特にないようです」
マネージャーの
「あれ、そういや監督はどこだ?」
「わかりません。医務室にもいませんでしたよ」
こういう時、監督がビシッと言ってほしいんだけどな。
ハルを心配したのかどうか知らないけど、付いて行っちゃったんだよな。
放任主義とは知ってたけど、俺たちの試合はいいのかよ。
「蓮、どうするんだ? まだフライングルートパスは通用しそうだけど」
さすがに野神先輩と蓮と俺だけでは、前半途中から追加点を取りにいくことは難しかった。
海王学園はそれほどの強敵だ。
「お前の懸念事項はわかっている。あれは空中戦が得意な、特に星村とハルを中心とした必殺タクティクスだった」
一応、俺が入ることで可能でもあるんだけど、それじゃあ1人足りないな。
後半からは使用不可ということか。
他に懸念することだと。
「イッテテ…… なんや、ワシはまだいけるで?」
さすがの暖冬屋も化身シュートの直撃くらって、あれから何度かシュートを止めて、だいぶダメージを受けていた。
3年GKの先輩もいるんだけど、海王学園の猛攻を止める自信はなさそうだ。
そもそも暖冬屋との実力差でだいぶ自信喪失してるみたいなんだよなぁ。FW組は立て直してきたけど、GK組もテコ入れが必要だったのかもしれない。
雷門中の練習方針にも原因があるんだけど、これまで副キャプテンとして気づいていなかった。俺がFW組とDF組以外に、あまり参加してなかったツケだろうか。
「梅雨咲、『ザ・タワー』のタイミングを合わせるために―――」
「はい。順番ではなく相乗効果によって―――」
たえちゃんは初の公式試合の参加となるけど、遠野先輩の話に付いていけてるのすごいよな。
2人も主力メンバーが抜けてるから、後半からも厳しい試合になりそうだ。
「まつりさんも気にせず攻撃を頼んだ。俺たちで守りはなんとかしてみせるさ」
「ですが、本来であれば……」
メインストライカーとして戦いたいのも本音だけど、チームとして浪川のシュートを止めたい気持ちも本当だからな。
*****
【雷門中】
FW 野神 嵐
MF 海老原 月影 鬼門 赤袖
DF 梅雨咲 遠野 紫雨 葉若
GK 暖冬屋
「バハムートクラッシュで勝ちに行く」
「化身だって無限じゃない! 諦めずに攻めるぞ!」
「もう1点もやらへんで!」
【海王学園】
FW 浪川 風烈
MF 魚吹 船頭 海本
DF 論具 手魚 深淵 瑞鳥
GK 歌舞天寺
「浪川先輩、ボールを繋いでみせます」
「はっ! 1年坊は自分の心配してろ」
「くぅ~ 俺様の化身が今にも暴れ出しそうだ」
後半は、海王学園側のボールでキックオフとなる。
鍛え上げた身体能力を活かすには、速攻あるのみ。
浪川と風烈が走り始めると、GK以外全員が前に走り始めた。
「野郎ども! 出陣だ!」
「くっ、ほぼ全員攻撃か!?」
「ハルのやつ、この猛攻を対処してたのかよ!?」
野神や嵐は、まるで海流に飲み込まれるかのように突破されてしまった。
「ゴールはガラ空きだ! 全員で守って、カウンターを仕掛けるぞ!」
蓮がそう指示して、メンバー全員で船を囲んだ。
そこからは合戦のような試合となった。
風烈を中心としてドリブルで突破してくる。
もしたとえボールを奪われようとも、海王学園DFがボールを取り返してくる。
2人組で渦潮を起こすような『サルガッソー』、シャチのような鋭いスライディングである『キラーホエール』、そんな必殺技があちこちから飛んできた。
隙あらば『フライングフィッシュ』により、トビウオがロングシュートとして放たれる。
「真ゴッドハンド!」
それを暖冬屋は簡単に止めるが、右手の痛みを耐えながら戦っていた。
「ぐ……いったれや!」
「はい! パワプロ先輩!」
「よしっ、このまま相手ゴールまでは……遠いか」
定期的に浪川のマークをしていて、葉若も守備の位置から動くことができていなかった。
1-1という状況で、海王学園の選手たちからの激しい猛攻は続く。
どれだけ時間が過ぎていってもいいのだ。
たとえ後半30分が過ぎようと、彼らは確実なタイミングで化身を使えばいい。
いわば船を率いる船長のお膳立てのため、船員が
「バハムートクラッシュ!」
「ギガバイトスクリュー!」
たとえ雷門中がシュートチャンスまで行けたとしても、野神や嵐や月影の必殺シュートでは、化身を打ち破るほどのパワーはなかった。
しかし雷門中に希望がないわけでもない。
「ゼェゼェ……俺様の魂が乗っ取られそうだぜ……」
言い方はともかく、歌舞天寺も疲れを見せている。
雷門中の複数の選手から放たれるバハムートクラッシュは、化身を使わなければ止められないのだ。
シュートブロックで援護してもらうほどなら、『さっさと攻めろ』という方針もあった。
そして、後半が残り10分といったところで。
「野郎ども! そろそろ
「「「おっす!!」」」
先ほどまでは風烈が中心だったが、今度は浪川が中心となって攻め上がってきた。
「来るぞ! これを防げば、勝機が見える!」
月影は全力守備を指示した。
「今度こそ……」
赤袖もまた、その中の1人だ。
ポセイドンが先導者となり、海流が襲ってくるような感覚がした。
もし、これを防げなければ、あの時のように彼が傷つくかもしれないとも思った。
今日またハルが傷つき、親友が再び涙を流していた。
「まつりさん! 俺たちが付いてる!」
そんな時に聞き慣れた声が彼女の背中にぶつかった。
「あなたは、いつも勇気をくれますね」
化身とは、心に
それを引き出すには、意識を前に集中して、気を膨らませる。
全ての気をぶつけるほどの強い気持ちが必要だ。
「私がやりたいこと……」
ストライカーとして楽しそうにしてて。
復帰するために必死に努力して。
どんなシュートにも立ち向かって。
チームの全員を支えてくれようとして。
「そんなあなたを支えたいと思うから!」
彼女の背中から紫色のオーラが
それを見て笑顔を浮かべた葉若は、全速力で前に駆け始める。
「力を貸して! 私の化身! 『
人型の化身であり、鎧を纏った女性のような化身が現れた。
戦乙女は盾と槍を構えて、海神に立ち向かう。
「雷門にも化身使いがいたか! おもしれぇ!」
「ここで止めます。ヴァルキリーフラッグ」
「ぐぅ……ブロック型の化身だったか!」
「俺たちでボールを回収してきます!」
風烈たちは、防衛のために陣を築き始めた。
たとえ化身だろうと、ブロック型であれば、そこまでの突破力はないはずだと予想していた。
「
「え? そりゃ俺はできるけどさ。ここからじゃ遠くね?」
この流れのまま、雷門全体でカウンターを始める段階だった。
化身を引っ込めた赤袖は、MF組とドリブルで並走しながら声をかける。
「ならやってください。月影君と海老原君もいいですね?」
赤袖は『さっさとやれ』と言わんばかりに、3人にボールをパスして押しつけた。
試合後半で、初めて出した化身の必殺技、そのため体力を大幅に消耗していた。
でも彼女にはもう、頼れる仲間がたくさんいるから。
「わかった、狙いは空中方向だな」
「はいっ! 届けましょう!」
「フッ、ならばこの鬼門に合わせろ」
彼が指笛を鳴らせば、地面からペンギン5匹が顔を出した。
その連携技は帝国学園で編み出されたものだが、円堂守世代の雷門中の選手たちも扱っていたものだ。
「皇帝ペンギン!」
「「2号!!」」
3人で連携してシュートを放てば、ペンギンたちも空を飛んでいく。
「あいつら、どこ狙ってやがる」
「いや、飛んでるやつがいますよ!」
雷門中の狙いに、ようやく浪川と風烈が気づいた頃だった。
まるでシュートを鷲掴みしたまま、空中に炎の軌跡が進んでいく者がいた。
「噂には聞いてたが、あれが葉若風露の本気シュートか!?」
雷門中の練習試合で1度使ったとされていて、いまだ公式試合では見せていない必殺技だ。
マネージャーである
「いっけぇぇぇ!! マキシマムファイア!!」
空中から叩き落とすように、炎の剣によってシュートを打ちこむ。
今回はしかも皇帝ペンギン2号の威力まで加算されている。
「『猛蛇ヴァリトラ』! ギガバイトスクリュー!!」
歌舞天寺の化身が放つ水流だが、それを蒸発させながら炎が突き進んだ。
更には5匹のペンギンが化身にぶつかって爆発する。
「俺様の化身がァ!?」
炎の勢いで焼き尽くすほどに、勢いよくゴールネットを貫いた。
*****
海王学園との試合には、2-1でなんとか勝てた。
俺たち雷門中とサッカーができたことを楽しそうに笑っていたし、『果たし状を出すからな』とも言ってくれた。練習試合の申し込みのことだと思う。
そんな楽しかった試合の次の日のことだ。
俺たちは絶望の表情を浮かべた。
ハルが『完全に再起不能』らしい。
原因は不明であるが、たとえリハビリしても、もう走ることさえ困難なのだと。