イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード   作:ヒラメもち

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第4話 円堂ハルのこれから

 

 

 その日は誕生日だった。

 とっちゃんからのプレゼントを預かったらしくて、乙女監督から新品のスパイクを渡してもらえた。中学に入って初めての誕生日だったから、サプライズしてくれたんだろう。

 監督から提案されたし、早速スパイクを履き替えて試合に(のぞ)んだ。

 

 でも、そんな試合で運悪く怪我をした。

 スライディングが当たったわけじゃないから、大丈夫だと思ってた。

 

 なぜか立ち上がることができなかった。

 身体が冷たく震えた。

 

 医務室でできる簡易検査では原因不明らしい。

 だから病院から他の医者が来るまで待っていたら。

 

「えー、残念なことに、骨にヒビでして」

 

 そんな医者に難しく説明されるより、今の俺が聞きたいことはたった1つだった。

 

「えっと、サッカーは続けられますか?」 

「あー、言いづらいことだが、今後はもう……」

 

「えっ…ウソ…ですよね……? いつか…ハル君も頑張ったら…またサッカーできますよね!?」

 

 ナオさんがまるで自分のことかのように涙を流した。

 諦めてしまいそうだった俺の代わりに、感情を吐き出してくれた。

 

 俺にわずかな希望をくれたんだ。

 

「……キミの頑張り次第で可能だよ」

 

 その時の医者は、すごく言いづらそうにしてた。

 そんな感じで曖昧(あいまい)に伝えられた。

 

 その後、乙女監督だけで詳しい話を聞いてきたらしい。

 すごく悲しそうな顔を見せた。

 

「もしサッカーができなくなっても、できることをやればいいんだよ」

 

 そう言って監督はそう慰めてくれた。

 医者は言葉を濁しただけで、たぶん結構酷い怪我なんだと思う。

 

 その日、俺は『サッカーができない』身体になった。

 

 包帯か何かで、右足はガチガチに固定された。

 痛みは全くないのに、でも骨にヒビが入ってるからなのか、松葉杖がないと歩くことができない。

 

「ハル!? 怪我をしたって聞いて……」

 

 とっちゃんも(はは)様も忙しいのに。

 医務室に駆けつけてくれて、泣きながら抱きしめてくれた。

 

「ごめん、サッカーできなくなった……でも、いつになるか…わからないけど……」

 

とにかく今は休め。そして、いつかまた自分自身の道を歩いていけばいい。

 

 とっちゃんは今日も厳しくて優しかった。

 おかげですごく安心できた。

 

 

****

 

 

 数日も経過すれば、すぐに歩けるようにはなった。

 母様も学校を休んでいいと言ってくれたけど、松葉杖をつきながら登校した。家にいてもいろいろ考えてしまいそうだったから。

 

 放課後も部活に行くようにしていた。

 

 みんなはサッカーを楽しんでいるのに。

 でも俺はボーっと見ているだけだった。

 

 『サッカーができない』、そんな今の俺の気持ちも、まだ整理できていなかった。

 

「ハ~ル君! 」

「ナオさん、練習中じゃ?」

 

 『気にしない、気にしな~い』って歌うように言ってくれた。

 いつもよりは作ってるような笑顔だったけど、その明るさがなんだか心地よかった。

 

「何か困ったことがあったら、なんでも言ってね!」

「ええ、まあ……」

 

 きっと話したいことがあるのに、上手く整理できない感じで、言葉にはならなかった。

 

 ナオさんも隣に座った。

 だいぶ無言の時間が続く。

 

 先輩たちは、今日も楽しそうにサッカーをしている。

 

 ナオさんも本来はあっち側のはずなのに。

 

「ねぇ聞いた? まつりちゃんさ、化身を使えるようになったんだってさ!」

「すごいですね」

 

 とっちゃんやおじさんたちみたいに特訓してた時はあった。

 でもサッカーに対して熱意がない、そんな俺じゃきっと無理だっただろう。

 

「その、友達が上手くなると、やっぱり嬉しいですか?」

 

「んーん、当然ムカっとしたよね!」

 

 すっごい笑顔で言うようなことじゃなさそうだ。

 そんなナオさんは、指で1を示す。

 

「まず、私より先に使えるようになったことでしょ」

 

 指で2を示す。

 

「次に、特訓次第で昔から使えてたかもってことでしょ」

 

 指で3を示す。

 

「そして、ちゃんと完成させられたのはパワプロ君のおかげってノロケたこと!」

 

 『でも、まつりちゃんなら納得かな』って呟いて、一瞬だけ大人な表情を見せた。

 

 今ならなんとなく分かる。

 きっとナオさんもパワプロさんのことが好きだったんだろう。

 

「まつりさんとは、親友ってやつなんですね」

「そ、幼馴染で親友だからね~」

 

 俺にもアイルという幼馴染で親友がいた。

 あいつとのサッカーは楽しんでいたと思うし。

 

 サッカーやってなくても、こんな風に話している時間も好きだった。

 

 たとえ怪我をしても。

 ハルさんとか、パワプロさんとか、蓮さんとか、まつりさんとか、よく声をかけてくれる。

 

 だけど、クラスだと同情されてるのもあって。

 俺に話しかけてくるやつはいなくなった。

 

 たぶん今までサッカーが上手くて、『円堂守の息子』だから、俺に話しかけにきてたんだと思う。

 

 いや、俺自身から話しかけたことが1度もなかったせいだ。

 俺が周りに対して、どこか壁を作っていたんだ。

 

「……たぶんバチが当たったんだろうな」

「というと?」

 

 ナオさんになら、いろいろ話していいなと思えた。

 母様やとっちゃんに言いづらいことも。

 

「俺、どの試合も、なんか乗らないなぁって気持ちでプレイしてたんです」

 

 何を話すかどうかはよく考えてなかった。

 勝手に口が動いていた。

 

「そんな気持ちでプレイするのって間違っていますよね。サッカーにも、ナオさんたちにも、失礼っていうか」

 

 『ふむふむ』って相づちを打ってくれる。

 ナオさんにも謝らないといけないよな。

 

「なんとなく自覚はしてました。でも自分の気持ちを制御できなくて」

 

「んー、1つだけ言いたいのは、別に失礼じゃなかったよ!」

 

 (しか)っているつもりなのか、人差し指を俺の顔の前で示してくる。

 威圧感とかが全くなかった。

 

「なんなら勝手にね! どうすればハル君がサッカー楽しめるか考えてたし!」

「えっと、なんかすみません?」

 

 示した人差し指をフリフリと振って、『違うよ』と伝えてきているようだった。

 

「そこはありがとう、だよ」

「……ありがとうございます」

 

 謝るより、お礼を言うのは、なんだか照れるな。

 

「リハビリ頑張ってさ、また一緒に、サッカーやろうぜ?」

「……はい」

 

 素直に頷くことはできた。

 

 俺は、まだサッカーを続けたいって思っているんだろうか。

 つまんないって、何度も言葉にしてしまっていたのに。

 

「ねぇねぇ、休みの日とか、気分転換にどこかに出かけようよ」

 

「まあ……」

 

 今の俺はいくらでも時間があるけど、ナオさんは練習もある。

 帝国学園との予選決勝だって近いのに。

 

「せっかくだから、行ってみたいところに行ったり、会ってみたい人に会いにいったりとか、いろいろね」

 

「会ってみたい人……」

 

 そう呟いて、すぐに思いついたやつがいた。

 それは、とっちゃんの友達でもない。

 

「私の最推しなら松風天馬さんだけどぉ。サッカーに復帰したプロと言えば、剣城京介さんのお兄さん、剣城優一さんとかオススメかなぁ。最近サッカー観戦に行けてないなぁ」

 

「決めました。俺、長崎に行ってきます」

 

 せっかく時間があるんだ。

 行ってみよう、南雲原中に。

 

「長崎!? いつから!?」

「明日から」

 

 そうと決まれば、早速帰って準備だ。

 

「判断が早すぎるよ! あ~でもハル君が決めたことだし、えっと、気をつけてね!」

 

「はい。お先に失礼します。それと、ありがとうございました」

 

 笹波雲明に会いにいこう。

 

 

 

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