イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード   作:ヒラメもち

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第5話 円堂ハルと笹波雲明

 

 だいぶ歩けるようになってたし、すぐに俺は1人で長崎に来れた。

 (はは)様は心配してたけど、とっちゃんが援護してくれて何とかなった。

 

「南雲原中はあの山の上か」

 

 笹波雲明(ささなみうんめい)には、とりあえず南雲原中に行けば会えると思う。

 あれから南雲原は勝ち進んでいて、次はもう決勝が近いようだ。

 

 東京の稲妻町よりずっと穏やかで、海の景色は綺麗だった。

 

 無事に着いたことを示すために、その景色を写真に撮った。

 それを(はは)様やとっちゃん、ナオさんたちに送る。

 

 港でアイスを売っている露店が珍しかった。

 バラの花みたいに盛りつけてたアイスを子どもたちが持っている。俺も食べてみたいけど、1人だとちょっと恥ずかしい。もしも買い食いする時は、誰かが一緒だったから。

 

 人になついているような猫が多くて新鮮だった。

 稲妻町だと、家で飼っている猫くらいしか見かけない。

 

 路面電車が珍しかった。

 なんだかどんなシュートもズバババーンと受け止めそうだ。

 

 たまにスマホのマップを確認しながら、南雲原中までの道を進んだ。雲明たちも毎朝こうやって登校しているのだろうか。とにかく坂が多くて、自然と体力がつきそうだった。

 

「ふぅ……すごい階段だな」

 

 南雲原中がもう目の前だというところだった。

 まるで100段以上あるかのような階段だ。

 

 もしここをひたすらダッシュで上がり下がりすれば、最高の特訓場所になるだろう。

 

 でも今は怪我をしているから、ゆっくりと階段を上がっていく。

 病気らしい笹波雲明は大丈夫なんだろうか。

 

 その途中で、まるでタコのような地蔵を見つけた。

 壁山のおっちゃんに似てる。

 

「ここが南雲原中……笹波雲明いるかな」

 

 本校舎が雷門中に匹敵するほどの大きさだった。

 この校庭の広さも田舎ならではなんだろうか。

 

 今はちょうど放課後で、パーカーの黒いフードを被り直して進む。

 他の生徒たちに混じったら、入っても問題なさそうだ。

 

 そして俺は運がよかった。

 特徴的な緑色の髪、白いジャージ、間違いない。

 

「雲明!」

 

「円堂ハル……どうして!?」

 

 そりゃ驚くだろうな。

 東京から長崎まで来て、アポなしだからさ。

 

 で、いざ何を話そうかと思ったけど。

 

「……俺もサッカーできなくなっちゃったよ」

「……そう、らしいね」

 

 雲明はどう思うだろうか。

 雷門の主力メンバーが減って、ラッキーとか?

 

「で、なんか、キミに会いたくなって」

「再起不能って噂は本当なの……?」

 

 雲明も心配してくれるようだ。正直なところ、俺も怪我がどれほどのものなのか、よくわかってない。でもこのままだと雲明たちが全国に行って雷門と対決したとして、そこに俺はいない。なんかそれはイヤだと思った。

 

「……どうだろ。医者も、言葉を濁してた。頑張り次第とは言ってたけど、本当は絶望的なのかも」

「ハル……」

 

 そんな暗い気持ちにさせたくて、同情させたくて、来たわけじゃない。

 ここまで来たのは直接伝えたいことがあったからだ。

 

「あのさ、前に聞かれたよね、サッカーが上手いやつの気持ちとか、なんとか」

「そうだね」

 

 もう雲明が憧れた『健康な身体』じゃない。

 今の俺は『サッカーができない』気持ちを味わっていた。

 

「今までさ……サッカーなんてつまんないって思ってた……俺にとってサッカーは当たり前だったし……」

 

 上手く頭の中で整理できない。

 どうしても暗い方向へ話を持っていってしまいそうになる。

 

「ハル、全部言っていいよ」

 

 その優しさでもうダメだった。

 アイルがいなくなってから、1度も流したことのない涙があふれてしまう。

 

悔しい…悔しいよ……サッカーができないの…悔しいよな……

 

 アイルも、雲明も、こんな気持ちだったんだ。

 『サッカーやりたい』って、サッカーを失ってようやく気づけた。

 

 それなのに、雲明にはひどいことを言ったと思う。

 『なんでサッカーやるの? サッカーじゃなくても楽しいこといっぱいあるでしょ?』とかさ。

 

「あの時、ひどいこと言ってごめん…雲明……」

 

「ん、許す」

 

 あれ、思っていたより、すごく軽かった。

 

「だってもう、今の僕は自分のサッカーを見つけてるからさ」

 

 そっか、雲明はすごいや。

 俺にも自分のサッカーが見つけられるかな。

 

「ねぇハル、せっかくだし、長崎を案内するよ」

「え? でも南雲原は決勝が」

 

 涙を袖で拭いて雲明の顔を見れば、安心させるかのように、手をグッジョブの形にしていた。

 

「あとはみんなに特訓させてればいいし、それよりハルの言ったことも正解にしよう。言ってたよね、『楽しいこといっぱいある』って」

 

 雲明はすでに行く気満々なようだ。

 校舎に荷物を取りに行くことを俺に伝えてから。

 

「今日は一緒に遊びに行こうよ、ハル」

 

 そんな感じで、友達に誘ってもらえた。

 

 

*****

 

 

 路面電車に乗った。

 海のカモメが飛んでいてロングシュートのようだった。

 

 

 川ではカメを見つけた。

 シュートブロックが得意そうなやつだ。

 

 

 プレーンのバニラアイスを買った。

 冷たくて、甘くておいしくて、油断できない美味さだ。

 

 

 ペンギン水族館にも行った。

 本物は皇帝ペンギン2号より大きいらしい。

 

 

 おすすめのチャンポンを食べた。

 たくさんの具材があって、最高のチームだ。

 

 

 てっぺんまでロープウェイで上がった。

 展望台から長崎の見る景色は、世界全てを見渡せる気分だ。

 

 

「今日はありがとう、雲明」

 

「元気出た?」

 

 どうだろうな。

 いや、友達なんだから、素直になればいいんだ。

 

 夕日が沈みそうで、駅までの帰り道で、なんだか今日が終わってほしくないように思う。

 だから、この気持ちはきっと合っている。

 

「楽しかった。長崎はすごくいい場所だな」

「でしょ」

 

 アイルの言う通り、サッカーじゃなくても楽しいことはいっぱいあった。

 

 それでも、何度もサッカーのことばかり考えてた。

 たとえ『サッカーができない』身体でも、まるでサッカーが隣にいるかのように、俺にとっては当たり前らしい。

 

「あのさ、雲明のサッカーについて、聞いていい?」

 

「ん、ハルから聞いてくるのを待っていたよ」

 

 これも雲明の策略だったらしい。

 最初からそれが狙いだったんだろうか。

 

 なんかスッと引っかかってて、別に全くイヤな気分でもなかった。

 

「今はみんながやるサッカーを、自分がやっているように感じられてる。だから、南雲原みんなのサッカーが、僕のサッカーなんだ」

 

 『サッカーが好き』って気持ちが伝わってくる。

 たとえ『サッカーができない』身体だろうと、それは本人次第なんだな。

 

「やっぱり、雲明はサッカーをとても知ってるよ」

 

「そうだね。真っ暗闇の道だったけど、みんなと出会えて、今は諦めなくてよかったって思えてる」

 

 俺も似たような道を進んで、それで満足できるだろうか。

 

 サッカーにおいて、俺にできることを探してみる。

 

 とりあえず全国大会は雷門のマネージャーとか?

 雲明たち南雲原との試合、それで蓮さんたちをサポートとか?

 

「……だめだぁ~~」

「えっ、ハル、どうしたの?」

 

 思わず頭を抱えてしまった。

 

 そんな自分の姿が全くイメージできない。

 もっともっと、ナオさんや蓮さんたちと一緒にサッカーをやりたい、そんな気持ちでいっぱいだ。

 

「『悩むよりまず特訓だ』…か……」

 

 俺も頑張ろうと思えてきてる。

 パワプロさんだって大怪我を乗り越えてサッカーに戻ってきたんだ。

 

「だね。諦めなければ道は見えてくるよ、絶対!

 

「キミはみんなと進んでいるんだね、その道を」

 

 すっげぇ熱い激励をもらっちゃったな。

 初めて会った時から、雲明はどんどん前に進んでいた。

 

「雲明、ありがとう! 俺も諦めない、絶対!

 

「ハル、どういたしまして」

 

 

 とっちゃん、母様、俺は自分自身の道を歩いていけそうだよ。

 

 蓮さんたち雷門のみんな、待っていてください。

 

 ナオさん、また一緒に、サッカーやろうぜ。

 

 

「雲明、約束する。

 俺は、必ず戻る。

 キミが進む、この『ヴィクトリーロード』に!

 

 ゼロからサッカーをやり直すため、俺はその日から猛特訓を始めた。

 

 

 

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