イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
だいぶ歩けるようになってたし、すぐに俺は1人で長崎に来れた。
「南雲原中はあの山の上か」
あれから南雲原は勝ち進んでいて、次はもう決勝が近いようだ。
東京の稲妻町よりずっと穏やかで、海の景色は綺麗だった。
無事に着いたことを示すために、その景色を写真に撮った。
それを
港でアイスを売っている露店が珍しかった。
バラの花みたいに盛りつけてたアイスを子どもたちが持っている。俺も食べてみたいけど、1人だとちょっと恥ずかしい。もしも買い食いする時は、誰かが一緒だったから。
人になついているような猫が多くて新鮮だった。
稲妻町だと、家で飼っている猫くらいしか見かけない。
路面電車が珍しかった。
なんだかどんなシュートもズバババーンと受け止めそうだ。
たまにスマホのマップを確認しながら、南雲原中までの道を進んだ。雲明たちも毎朝こうやって登校しているのだろうか。とにかく坂が多くて、自然と体力がつきそうだった。
「ふぅ……すごい階段だな」
南雲原中がもう目の前だというところだった。
まるで100段以上あるかのような階段だ。
もしここをひたすらダッシュで上がり下がりすれば、最高の特訓場所になるだろう。
でも今は怪我をしているから、ゆっくりと階段を上がっていく。
病気らしい笹波雲明は大丈夫なんだろうか。
その途中で、まるでタコのような地蔵を見つけた。
壁山のおっちゃんに似てる。
「ここが南雲原中……笹波雲明いるかな」
本校舎が雷門中に匹敵するほどの大きさだった。
この校庭の広さも田舎ならではなんだろうか。
今はちょうど放課後で、パーカーの黒いフードを被り直して進む。
他の生徒たちに混じったら、入っても問題なさそうだ。
そして俺は運がよかった。
特徴的な緑色の髪、白いジャージ、間違いない。
「雲明!」
「円堂ハル……どうして!?」
そりゃ驚くだろうな。
東京から長崎まで来て、アポなしだからさ。
で、いざ何を話そうかと思ったけど。
「……俺もサッカーできなくなっちゃったよ」
「……そう、らしいね」
雲明はどう思うだろうか。
雷門の主力メンバーが減って、ラッキーとか?
「で、なんか、キミに会いたくなって」
「再起不能って噂は本当なの……?」
雲明も心配してくれるようだ。正直なところ、俺も怪我がどれほどのものなのか、よくわかってない。でもこのままだと雲明たちが全国に行って雷門と対決したとして、そこに俺はいない。なんかそれはイヤだと思った。
「……どうだろ。医者も、言葉を濁してた。頑張り次第とは言ってたけど、本当は絶望的なのかも」
「ハル……」
そんな暗い気持ちにさせたくて、同情させたくて、来たわけじゃない。
ここまで来たのは直接伝えたいことがあったからだ。
「あのさ、前に聞かれたよね、サッカーが上手いやつの気持ちとか、なんとか」
「そうだね」
もう雲明が憧れた『健康な身体』じゃない。
今の俺は『サッカーができない』気持ちを味わっていた。
「今までさ……サッカーなんてつまんないって思ってた……俺にとってサッカーは当たり前だったし……」
上手く頭の中で整理できない。
どうしても暗い方向へ話を持っていってしまいそうになる。
「ハル、全部言っていいよ」
その優しさでもうダメだった。
アイルがいなくなってから、1度も流したことのない涙があふれてしまう。
「悔しい…悔しいよ……サッカーができないの…悔しいよな……」
アイルも、雲明も、こんな気持ちだったんだ。
『サッカーやりたい』って、サッカーを失ってようやく気づけた。
それなのに、雲明にはひどいことを言ったと思う。
『なんでサッカーやるの? サッカーじゃなくても楽しいこといっぱいあるでしょ?』とかさ。
「あの時、ひどいこと言ってごめん…雲明……」
「ん、許す」
あれ、思っていたより、すごく軽かった。
「だってもう、今の僕は自分のサッカーを見つけてるからさ」
そっか、雲明はすごいや。
俺にも自分のサッカーが見つけられるかな。
「ねぇハル、せっかくだし、長崎を案内するよ」
「え? でも南雲原は決勝が」
涙を袖で拭いて雲明の顔を見れば、安心させるかのように、手をグッジョブの形にしていた。
「あとはみんなに特訓させてればいいし、それよりハルの言ったことも正解にしよう。言ってたよね、『楽しいこといっぱいある』って」
雲明はすでに行く気満々なようだ。
校舎に荷物を取りに行くことを俺に伝えてから。
「今日は一緒に遊びに行こうよ、ハル」
そんな感じで、友達に誘ってもらえた。
*****
路面電車に乗った。
海のカモメが飛んでいてロングシュートのようだった。
川ではカメを見つけた。
シュートブロックが得意そうなやつだ。
プレーンのバニラアイスを買った。
冷たくて、甘くておいしくて、油断できない美味さだ。
ペンギン水族館にも行った。
本物は皇帝ペンギン2号より大きいらしい。
おすすめのチャンポンを食べた。
たくさんの具材があって、最高のチームだ。
てっぺんまでロープウェイで上がった。
展望台から長崎の見る景色は、世界全てを見渡せる気分だ。
「今日はありがとう、雲明」
「元気出た?」
どうだろうな。
いや、友達なんだから、素直になればいいんだ。
夕日が沈みそうで、駅までの帰り道で、なんだか今日が終わってほしくないように思う。
だから、この気持ちはきっと合っている。
「楽しかった。長崎はすごくいい場所だな」
「でしょ」
アイルの言う通り、サッカーじゃなくても楽しいことはいっぱいあった。
それでも、何度もサッカーのことばかり考えてた。
たとえ『サッカーができない』身体でも、まるでサッカーが隣にいるかのように、俺にとっては当たり前らしい。
「あのさ、雲明のサッカーについて、聞いていい?」
「ん、ハルから聞いてくるのを待っていたよ」
これも雲明の策略だったらしい。
最初からそれが狙いだったんだろうか。
なんかスッと引っかかってて、別に全くイヤな気分でもなかった。
「今はみんながやるサッカーを、自分がやっているように感じられてる。だから、南雲原みんなのサッカーが、僕のサッカーなんだ」
『サッカーが好き』って気持ちが伝わってくる。
たとえ『サッカーができない』身体だろうと、それは本人次第なんだな。
「やっぱり、雲明はサッカーをとても知ってるよ」
「そうだね。真っ暗闇の道だったけど、みんなと出会えて、今は諦めなくてよかったって思えてる」
俺も似たような道を進んで、それで満足できるだろうか。
サッカーにおいて、俺にできることを探してみる。
とりあえず全国大会は雷門のマネージャーとか?
雲明たち南雲原との試合、それで蓮さんたちをサポートとか?
「……だめだぁ~~」
「えっ、ハル、どうしたの?」
思わず頭を抱えてしまった。
そんな自分の姿が全くイメージできない。
もっともっと、ナオさんや蓮さんたちと一緒にサッカーをやりたい、そんな気持ちでいっぱいだ。
「『悩むよりまず特訓だ』…か……」
俺も頑張ろうと思えてきてる。
パワプロさんだって大怪我を乗り越えてサッカーに戻ってきたんだ。
「だね。諦めなければ道は見えてくるよ、絶対!」
「キミはみんなと進んでいるんだね、その道を」
すっげぇ熱い激励をもらっちゃったな。
初めて会った時から、雲明はどんどん前に進んでいた。
「雲明、ありがとう! 俺も諦めない、絶対!」
「ハル、どういたしまして」
とっちゃん、母様、俺は自分自身の道を歩いていけそうだよ。
蓮さんたち雷門のみんな、待っていてください。
ナオさん、また一緒に、サッカーやろうぜ。
「雲明、約束する。
俺は、必ず戻る。
キミが進む、この『ヴィクトリーロード』に!」
ゼロからサッカーをやり直すため、俺はその日から猛特訓を始めた。