イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
今日は関東ブロックの決勝戦の日だ。
観客も満員御礼、まだ予選なのにまるで全国大会レベルの注目が集まっていた。
すでに他の地区予選の代表校はいくつか決定されている。
そして九州ブロックからは南雲原中なんだけど、いつのまにか北陽学園と合併してた。スプリング杯で戦った九州の強豪だったし、全国大会が楽しみになってきたな。
もちろん暗黒寺が所属している白恋中と対決するかもしれない。
映像越しだけど、あいつも相当の特訓をしてると思う。
そして帝国学園も強い。
毎年本気で『王者雷門』討伐を狙ってきてるらしい。今日の対決は勝っても負けても全国は確定してるけど、全国大会に向けてのデータ収集目的もあるだろう。
結局ハルは学校自体を休んでいるままだし、音信不通だし。
それほどに、あいつも猛特訓をしているはず。
「相手はあの帝国学園だ。油断しないで勝つぞ!」
「「「おう!!!」」」
試合直前にもなれば、雷門イレブンの気合は十分だ。
いくつかの不安要素を残しながら、だけどな。
*****
試合開始を待つ時間のことだった。
帝国学園の入場が始まる。
通路からレッドカーペットが
いわばパフォーマンスであり、雷門よりも長く伝統を受け継いできた帝国学園らしさがある。
観客たちは拍手で選手たちを迎え入れた。
まあさすがに近年は、戦車のようなバスでの入場は禁止となっている。
そして、帝国学園の学生でありながら、実質的なサッカー部監督である不破アリスは、ベンチに1人だけで座り込んだ。
「やはり円堂ハルは再起不能なようです。本日の試合で代わりにベンチ入りしたのは
マネージャーの
「平凡ではあるが、どのポジションもこなせて連携に組み入れやすい選手」
『エースストライカー不足、まだ引きずっているようだな!』
不破アリスのブラザーな兎パペットの言う通り、円堂ハルが抜けた影響は大きい。
それは決定力という意味でも、精神的な意味でもだ。
「最も警戒すべきは、やはり
彼はリベロでありながら、エースストライカーもこなせる。
そして何より海王学園との試合で見せた現象は、様々な分野のプロが時折り見せるようなものだ。
―――ソウル
その言葉だけは、保護者である男が教えてくれた。
それ以外のヒントは何も与えられていないし、不破アリス自身が求めていない。
サッカー界において、必殺技の一種だと考えている者もいまだに多いが。
松風天馬たちが参加した世界大会『フットボールフロンティア・インターナショナル』、その予選決勝におけるデータと、輝き方が一致していた。
サッカー以外の分野においては、例えばバスケ、陸上、新体操、なんなら歌舞伎である。その者たちの経歴を調べれば、誰もが当時の中学サッカー日本代表選手だった。
「本質は化身と似ていて、しかし化身とは違うもの…面白い……」
不破アリスは、笹波雲明に匹敵するほどの天才監督であり、天才ゲームメーカーである。
この帝国学園を優勝させ、再び王者となることを、本気で目指していた。
「たとえ雷門であろうと、俺の世界では、俺のシナリオで動いてもらう」
****
【雷門中】
FW 野神 葉若
MF 嵐 月影 鬼門 星村
DF 紫雨 遠野 天宮司 赤袖
GK 暖冬屋
「おいおい、あいつらまさか!」
「厳しい戦いになるな……」
「無茶苦茶なことしてきましたね……」
【帝国学園】
FW 西條 星見沢
MF 穂村 霊道 元屋敷 本能寺
DF 井野部 江流崎 盟帝央 屋城
GK 陣野
「今日はアリスの命令に従ってもらうぞ」
「わかってますよ。俺たちは雇われの身ですし」
「化身で潰すだけ……」
全員がポジションにつけば、準決勝までの帝国学園とは明らかに違うところがあった。
まず、いつもの攻撃的なフォーメーションと違い、雷門の選手たちと完璧に同じ位置取りをしている。
更には、この予選決勝だけのために『帰属校・助っ人システム』を利用してきた。
「いやいや、やりすぎだろ!?」
「俺たちも西ノ宮中に、パワプロとハルを協力させたんだ。文句は言えないが」
「来年度は助っ人システムが廃止になるかもしれませんね」
すでに近畿ブロックから全国出場を決めている『
その中学は近年では珍しく、化身使いを積極的に育てている。しかし中学サッカーにおいて、化身は体力的なコスパが悪く、通常の必殺技を連携させれば対応も可能だ。
「帝国学園のサッカーとは、相性が悪いように思うが」
あくまで化身は、圧倒的な個人の技術であり、あくまで瞬間火力でしかない。
対して帝国学園の使用するタクティクスは20を超え、徹底的な連携によって勝利を目指す。
「こっちの化身使いは、赤袖だけかぁ」
「……暗黒寺がいたら2人だったかも」
鬼門や紫雨が小さな声で呟いて。
「私も頑張らなきゃ……」
「FW化身のはず……ワシに止められるんか……?」
星村や暖冬屋はそう呟いた。
ホイッスルが鳴り、雷門中側のボールで試合が開始する。
野神は葉若にボールを渡す。
後方の月影に一度パスを出してから、攻撃陣は前に駆け出していく。
月影を中心として、パス回しでボール運びをするのが、今の雷門イレブンの基本戦術だが。
「なんだ、あの動きは?」
月影は、帝国学園の動きを見て警戒する。
FWの西條と星見沢だけを残して、9人でゴール前の守備に動いている。
それはまるで西ノ宮中と南雲原中の試合を再現しているかのようだった。
今は、守備型の必殺タクティクスを警戒しながら、ドリブルで進んでいくしかない。
「ここは
「おう! ヒートタックル!」
パスを受け取った嵐は、炎の渦を身に纏い、一直線にタックルで突き進んでいく。
帝国学園の必殺技と言えば『キラースライド』、暴力的なスライディングには警戒していたが。
「こいつら、何のつもりだ?」
「あぁ、徹底的だな」
葉若には6人でマークしながらも、野神や嵐を誰も止めにきていなかった。
これでは、わざとシュートを打たせるような動きだ。
「ちぃ! 舐めやがって!」
嵐はパスを出すこともせず、そのままドリブルで駆け上がる。
巨大な翼を広げたバハムートが放つ光線により、超パワーシュートを放った。
「バハムートクラッシュ!!」
雷門中の攻撃力不足を補うため、複数人で開発した必殺技だ。
安定性を重視したため、その威力は『ドラゴンスレイヤー』ほどではないが、『ワイバーンクラッシュ』の威力は超えている。
「アリスのシナリオ通りだ」
「化身で潰すだけ……」
帝国学園GKの陣野が呟けば、京前嵐山中DFの屋城が動く。
背中からは紫色のオーラが
「『城壁巨兵ウォーボーグ』……」
白い鎧を纏ったようなゴーレムの化身が姿を現した。
勢いよくシュートがぶつかったが、全く動じていない。
ボールは
「疑似的な『無限の壁』のようだ」
「これが王者雷門か……?」
GKである陣野は腕組みをしたまま、全く動きを見せない。
本来は3人が連携する高難度のキーパー技だが、1人の化身によるごり押しだけで止めてみせた。
ボールは巨漢な
「実に弱そうだ。円堂ハルのいない雷門はこんなものか?」
そして、すれ違いざまに、嵐にそう伝えた。
「くそっ! あの野郎!」
「挑発に乗るんじゃない! 西條をマークするんだ!」
月影の読み通り、前線で立ち止まって暇そうにしていた西條に向かって、ロングパスが飛んでいった。
「次は俺の出番だよな。まあ俺たちは帝国が勝っても負けても別にいいんだが」
彼も京前嵐山中の所属であり、化身使いである。
背中から紫色のオーラが
「見せてやるよ! 『魔槍剣聖クララバニー』!」
「「「うわぁぁあ!?」」」
人型であり、黒い兎の化身が槍を振り回しながら、雷門の守備陣を衝撃波で吹き飛ばした。
「来いよ、雷門の化身使い!」
「今は乗るしかありませんかね」
帝国学園の監督、不破アリスが立てた筋書き通りになっていそうだが。
すでに囲まれながらも葉若はパスルートを作るべく、あちこち走り回っている。
そんな彼の代わりにゴールを守るべく、赤袖も化身を出そうとした。
「ええで! 化身は攻撃に温存しとくんや! あれはワシが止める!」
「……ですが」
思わず赤袖は動きを止めてしまった。
「はっ! 怖いくらいに当たってやがる!」
西條が天高く上げてボールに、化身のオーラを集めていった。
自分自身はジャンプする。
「望み通り勝負してやるよ! エンプレス・シャドウ!」
オーバーヘッドキックでシュートを放つと、化身は槍を
「あん時の化身と似とるわ。今度こそ!」
暖冬屋はゴッドハンドのオーラを握りこみ、地面を強く踏み込んで、回転する拳で立ち向かった。海王学園との試合から技は進化している。
「正義の鉄拳G3!!」
全身でシュートを受け止め続けているが。
次々とヒビが入っていっていた。
「ウソ…やろ……ワシの究極奥義やぞ…?」
「たとえ同じ究極奥義だとしても、円堂守さんとは実力差があるんじゃね?」
ニヤリと笑った西條は、勝ちを確信して背を向けた。
暖冬屋の身体は、勢いが止まらないボールに吹き飛ばされる。
ネットをクッションにしながらも地面に倒れ込んだ。
これで、帝国学園の先制点が入ってしまった。
「ご苦労、お見事だ」
「今の雷門ってこんなレベルなんすね。マジで円堂ハルと葉若風露だけのチームなんじゃ?」
帝国学園の選手たちに客人のように
「くっ……」
それは戻ってきていた嵐にも聞こえてしまい、彼は拳を強く握りこんだ。
「すまん…ワシのせいや……」
「確実にその通りだな。俺たち3人、化身使いの赤袖、どちらかで止めればいい。2段構えの守備だった」
遠野は暖冬屋を見下ろしながら、その事実を伝える。
FW型の化身で強引に守備を吹き飛ばすのは、体力的にそう何度もできることではないからだ。
海王学園との試合で行った反省を、何も
GKとは、最も広くフィールドを見られる者であるのにだ。
「もし立ち上がらなければ、交代させるよう進言する。たとえお前に実力があろうともな」
「わかっとる……もう化身とは真っ向勝負せぇへん……」
ゆっくりと暖冬屋は立ち上がった。
それを見た遠野は『そうとは言っていないがな』と呟いて、自分のポジションに戻っていく。
「みんな! 化身だって無限じゃない! 全員で点を取り返しにいくぞ!」
海王学園の時と同じように、月影は雷門イレブンに声をかけた。
だが、大半の選手たちの表情はどこか暗かった。