イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
第1話 円堂ハルの特訓
フットボールフロンティアの全国大会はすでに始まってしまっている。
山奥でもスマホが使えてよかった。
雲明がいる南雲原は、あの京前嵐山に勝利した。
休憩中に試合映像を見れば、2人も強力な化身使いがいたのにな。
準決勝に進んだ南雲原が当たるのは、あの帝国学園だ。
そこには蓮さん以上の司令塔がいるらしい。雷門と帝国の試合は記録映像で観たけど、帝国学園は1つしかタクティクスを使わなかった。たぶん全国大会まで温存しているんだろう。
でも雲明たちなら、きっと決勝まで上がってくるはずだ。
「ハル~ おにぎり持ってきたよ~!」
「あっ、いつもすみません!」
この淡路島で出会った
俺は長崎から帰る途中で、新幹線を途中で降りてバスに乗り換えて、思いつきのまま特訓場所に選んだ。少しでも早くサッカーに復帰しようと、とにかく無我夢中だった。小さなスーパーであれこれと買い込んで、そこからずっと山に籠ってる。
そこまでは良かったんだけど、スマホの充電が切れちゃってた。
つまり3日くらい音信不通な状態だったわけだ。当然のように
ナオさんや蓮さんたちからもSNSで大量のメッセージが来ていて、再会したら全力で謝らないといけない。
俺も反省して、こうしてご飯を食べる時間を使って、みんなにメッセージを返信していく。
雷門も偉仁銘文堂を相手に圧勝してからは、準決勝で当たる
「毎日毎日、ほんとうに大丈夫なのかい?」
「大丈夫、これくらいの特訓、とっちゃんと一緒にやってたから!」
ここにはタイヤは持ってきていない。
でも大自然とボールがある。
小さな滝がある崖を登ったり、冷たい水の中でキックしたり、岩を背負って筋トレしたり、複雑な森をドリブルしながら進んだり。
「次元が違うというか……若いからなのかねぇ」
「堀江さんも元気で若々しいですよ」
玉ねぎ農家な堀江さんは、大量の玉ねぎの入ったカゴを背負って、ここまで歩いてきてた。なんなら石に座ってる今でさえカゴを背負ってる。
畑が遠くて近道してるらしいけど、ここの山道は歩き回るだけでも足腰がすごく鍛えられるよな。
「えっと、また何か手伝うことがあったら言ってください」
「いいやぁ、だいぶ助かったよ。おかげで収穫もそろそろ終わる頃だよ」
さすが淡路島だと思った。
玉ねぎの量が異次元だったもんな。
「よしっ、俺は特訓に戻ります!」
「ウフフ、楽しそうだねぇ。がんばりな」
楽しそう、か。
サッカーを楽しんでいるって、こういう気持ちなんだな。
楽しみにしていることもある。
雲明と決勝でサッカー対決すること。
またナオさんや蓮さんたちと一緒にサッカーすること。
その2つを目指して。
「やるぞ~~!」
靴が濡れることなんて気にしないで、川の中にバシャバシャと入っていく。
水の冷たさは、怪我をした右足でも感じられる。
もう今は走れないなんてことはない。
残る目標は、全国大会の決勝までにシュート感覚を取り戻すだけだ。
「ひとつ! ひとつ!」
気合を入れるべく声に出しながら、1つ1つのシュートを放つ。
水をザブーンと滝に向かって飛ばしていく。
「ひとつ!ひとつ!」
滝が噴き出ている場所まで届かせるよう飛ばす。
あそこがゴールで、てっぺんだ。
「ひとつ!ひとつ!」
『サッカーができない』と診断された。
もう諦めようかと思った。
「ひとつ!ひとつ!」
ナオさんに応援されて。
雲明と約束して。
1歩ずつ1歩ずつ進んできた。
「ひとつ!ひとつ!」
骨のヒビだったかなんだか、もう忘れるくらいに特訓を続けてきた。
そうか、淡路島の自然パワーが、俺に力を貸してくれているんだ。
だからどんどん調子が戻ってきた。
ナオさんが教えてくれて、パワプロさんが言っていたように『悩むよりまず特訓だ!』、まさしくそうだと思う。
「……ひとつ!……ひとつ!」
汗まみれで、泥くさくて、必死で。
リハビリの途中で転ぶこともたくさんあった。
誰も見てないのにカッコわりぃなとも思った。
「……ひとつ!……ひとつ!」
やっとわかってきた。
昔の俺とアイルが、なんでサッカー楽しんでいたのかを。
―――ハル、お前がいたからサッカーやれたんだ。俺はサッカーできなくなったけど。お前に託していいか、俺のサッカーも!
俺にとってサッカーは当たり前なものだ。
ずっと側にあるようなものだった。
でもそれは、『円堂守の息子』だからじゃない。
サッカーってすごく熱血なやつらしいぞ。
「ひとつ!! ひとつ!!」
たとえサッカーができなくなっても、サッカーは追いかけてくる。もしサッカーをつまらなく思っていても、サッカーが楽しませようとしてくる。
もう自分でも何言ってるのか分からないけど。
サッカーが俺をメラメラと燃え上がらせるんだ。
アイルが側にいてくれたように、サッカーも側にいてくれる。
「ひとつ!! ひとつ!!」
どうしてもサッカーがやりたい。
やりたくって、やりたくって、たまらない。
『サッカーやろうぜ』って、サッカーが誘ってくる。
「ひと~~~つ!!!」
水しぶきを天高く上げる。
絶対に、てっぺんまで届かせるんだ。
この真っ暗闇から抜け出して、太陽まで飛び込んでいくように。
「スカイウォーク! そこから ファイアトルネード!」
シュートを放ったはずだけど、ジュッという音がした。
あれ?
一瞬で水しぶきが全部消えてしまった。
「うわああああ!?」
バシャ~~ンと滝壺に落ちてしまって、なんとか水中から慌てて顔を出す。
「ぷはぁ!」
時間の許す限り特訓しすぎてるせいなのか。
めちゃくちゃやってて、めちゃくちゃ楽しくなってきた。
やっぱりサッカーって楽しいや。
しかも。
「できるかも! 俺だけの、『円堂ハル』だけの新必殺技が!!」
決勝までには戻ってくる。
だから待ってて、雲明たち、そして雷門のみんな。