イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
白恋中に勝ったことで、俺たち雷門中は決勝進出となる。
その相手は、あの笹波雲明が率いる南雲原中だ。
公式試合に出てさえいれば、当然のように敵チームの選手データが調べられ、数値で見ることのできる、そんな時代なんだけど。
なんというか、長所を重点的に伸ばした個性派集団だと思えた。
総合力だけで比較するなら、他の全国出場校が何倍も強い。
でも、あの帝国学園に勝ったことは事実だ。
決戦までの残り期間で、気を引き締めて俺たちは特訓を続けているけど。
「倉庫、倉庫、倉庫……多すぎだろ!」
「他には、会議室がいくつか、監督の部屋やデータ閲覧室のようですね」
暗黒寺から聞いた話が気になって、こうして自由時間に俺とまつりさんはサッカー棟の廊下を歩いていた。どの倉庫も電灯がついたし、ちゃんと整理整頓されているし。
あの時のことは事故だったと思っていたけど、もしも誰かの悪意によるものだとしたら大変だろう。副キャプテンとしては安全確認をしておくべきだ。
円堂守世代のドキュメンタリー映画だと、試合前に『鉄骨落とし』のシーンがあったんだ。
全国決勝を前にして、俺たちを負けさせようとするなんてこともありえる。
「廊下には監視カメラがありますね」
「監督やコーチたちなら、それも確認してそうじゃないか?」
俺の推理によれば、ハッキングってやつだな。
よほど凄腕のプロがサッカー棟に侵入したに違いない。
「もし、内部犯であれば……」
「か、考えすぎじゃないか?」
まつりさんの言う通り、それなら簡単そうなんだよな。
でも、動機がわからないぞ。
雷門中の大人たちが、俺を怪我させたとしても何の得があるんだろうか。
「
「何者だよ、あの人」
海外コーチの通訳をしてて、いつもデータ分析までしてくれてるマネージャーだ。
「たまに特訓してると、いろいろな機器で計測を頼まれるんだよなぁ。しかも1人で満足して去っていくというか」
「あなたのことが気になるからですよ」
そんな有海崎さんに背後を取られて、恐怖でドキッとしたぞ。
死角からスライディングを受けたような気分だ。
「えーと、このあとさ、時間ある?」
「ティーブレイクを取っていたところです。すでに先約が入っておりますので、その後であれば構いませんよ」
そのなんとかブレイクは、必殺技か何か?
というか、まつりさん、俺の背中をポンポンしてどうした。
「こほん…… 用件は私から伝えますから」
「ええ、これから私は1軍男子更衣室に向かいますが、お二人も来ますか?」
どういうことだよ。
俺たちの更衣室って、女子の集合場所扱いなんだろうか。
「はぁ~ ナオさんでしょうね……」
「俺たちも行くよ」
というわけで男子更衣室に、2人も女子を連れて向かった。
簡単な食事を取れるテーブルやベンチが置かれていたり、巨大なモニターまであったり、更衣室内にトイレあったり。
ここは広いリビングのように至れり尽くせりなんだよな。
だから去年度は同学年の女子部員が少ないからって、まつりさんとナオさんがよく来ていたけど。
「3人も来たか」
蓮とナオさん、暖冬屋が座っていた。
画面にはデカデカと、ハルがサッカーをする映像が流されている。
「これは、海王学園の試合か?」
「そうだよ。ハル君の、選手フォローカメラの映像を手に入れたの。有海崎さんが手伝ってくれて」
試合全体じゃなくて、ずっとハルを追いかけているように撮影されている。
雷門中にあるファンクラブなのか、外部のファンクラブなのか。
「ほーん」
「ここまでは、いつも通りの動きができている。想像以上なほどだな」
こうしてハルの動きを見ていると、フィールドを激しく動き回っていることがわかる。メインストライカーとして天性の才能というか、たとえ数人でマークされていても、まるでアサシンのようにチャンスを狙う動きができていた。
「こっからのシーンやろ?」
「やはり、ハルの足に敵の選手は接触していない、か……」
通常の速度で見てもわかるほどだ。
ナオさんも、決して目を離さないように集中している。
「なにか…なにか原因があるはず……」
この時の審判がそう判断したように、スライディングを直接受けたかのように転倒してしまった。
そうして、ハルが担架で運ばれていくシーンに繋がっていく。
「化身で1度、吹き飛ばされてしもたせいか?」
「でもハル君、平気そうだったじゃん」
「我慢した様子はなかった…はずだ……」
蓮が言い淀んだように、我慢強いやつなんだよな。
俺たちの前で、ハルが弱音を吐いた姿を見たことがないほどだ。
一時的に立てなくなって、再起不能と診断されるほどの大怪我だった。あのスライディングを受けそうになっているシーンに、何かヒントが残されているはず。
巻き戻した映像を一時停止させた後、スローモーションをじっくり見るけど、特に見当たらないな。
「あれ、ハル君のスパイクさ……これじゃなかったよね!?」
ナオさんが突然そう叫んだ。
「そうか? これ雷門のデザインやろ?」
「いえ、これは新デザインのものですね」
まつりさんの発言で思い出した。
そういや、周年記念とかで新発売されるなんてことを聞いたな。
とはいえサッカー選手はスパイクを新しく変えれば、プレイに誤差ができるものだ。だから、フットボールフロンティアの最中に、スパイクを履き替えるようなことはしないだろうけど。
「あぁ! そういやハルが包み紙やリボンを持っていたな!」
「言われてみれば、贈り物の箱を開けていたような」
贈り物は試合後に見る選手が多いけど、あの時はすぐ開封したらしくて、包み紙やリボンを折り畳んでいた気がする。
律儀で丁寧なやつだなと感心していたんだった。
「ほんと!?」
「それならば、贈り物のスパイクに何か仕掛けがあったのかもしれません」
「せやけど、ワシらへの贈り物なら、事前に検査受けるはずやろ?」
雷門中の選手にファンは付きやすい。
だから、アイドルかよって思うほどに、贈り物やファンレターが来ることがある。しかしそれは全て検査が通っているはずだ。
「この映像に映るスパイクを調べてみる必要があるな。今は、ハルの家にあるのか?」
「運ばれる時に、ハル君が言ってたはずだよ! スパイクはお父さんから貰ったって! あとスタジアムで保管しておいてほしいって!」
「それなら円堂守さんが怪しいってことやん!? いやいや、あのレジェンドが試合前に渡すわけあるかいな!?」
暖冬屋が言うように、これはサッカーだけに当てはまらないはず。
履き慣れていない靴で、激しい運動をすること自体が危険だ。
でも、まだハルも中1なんだ。
父親から貰ったと思い込んでいたら、すぐに履き替えるかもしれない。
「とにかく、スパイクを渡したやつが真犯人ってことだろ!」
悪意を持って、ハルを怪我させたやつがいるんだ。
絶対に許せないぞ。
「有海崎さん、スタジアムの管理センターに連絡を取れるか?」
「ええ。まだスパイクを保管しているかどうか、それと監視カメラ映像ですかね」
「それとハル君自身に確認しましょうか」
「ん! すぐ電話してみるね!」
「ワシらの後輩に喧嘩売ったやつがおるわけや」
「ああ、ハルを騙して大怪我させるように仕組んだんだ」
必ず真犯人を引きずり出して、後悔させてやる。