イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
事件の真相は、どんどん判明していった。
まずは、俺たちが調べていたことだ。
ハルは確かにその『人物』を経由して贈り物を貰ったらしい。そんな様子は、スタジアム廊下の監視カメラ映像にもギリギリ映っていた。
保管されていたスパイクも受け取ったけど、その恐るべき仕掛けも解明された。
次に、理事長たちが調べていたことも重なった。
ここ近年のFW陣の不調の原因が、ようやく突き止められたらしい。データサイエンスによる完璧な練習メニューのように見えて、コントロール練習のAIに少しずつ誤差ができるよう細工した『人物』がいた。
そして、もう1年以上前になる監視カメラ映像において、その『人物』の権限で一部分だけが完全消去されていたことまで判明した。
「乙女仙次郎、あなたを逮捕します」
「……理事長が呼んだのですか?」
「罪を犯した者を警察に突き出すのは、当然のことではなくって?」
この雷門中の監督が、真犯人だったんだ。
俺たち中学生は、遠くからそんな光景を見るしかない。
放任主義な人だとは思ってたけど、いつも穏やかな人だったから、いまだに信じられない。
「さて、どんな罪なのですかね」
反省する様子もなく、乙女仙次郎の冷静な態度には、さすがにカッとなってしまう。
「ハルの怪我を仕組んだことだろ!!」
「ハル君も、パワプロ君も、あなたのせいで!」
「……風露君のことは、まだ憶測ですけど」
俺も、ナオさんも、まつりさんも、蓮も暖冬屋も、その男を
「選手が怪我をすることはよくある。それに、どうやって仕組めるというんだい?」
そんな質問には、警察の人たちが答えてくれた。
監視カメラ映像、スパイクの仕掛け、充分に証拠が出ているからだ。
『筋肉抑制剤』というのは、適切な医療でも使われているらしくて、俺にはまだ理解が難しいこともあるけど。
分かっていることは、直接的に針で薬物を投与されたことだ。
それで実際にハルは立つことすらできなくなっていた。更には担当する医者を脅して、再起不能なんだという診断をさせた。
「スパイクは、廃棄しろと指示したんだけどね」
乙女仙次郎は淡々と聞きながら、やれやれという様子を見せた。
「さすがは、円堂守と理事長の息子というべきかな?」
「あなたの脅しには屈しなかった。この子たちが管理センターに連絡したことをきっかけに、すべて白状してくれたんだよ」
「父親が、自分の親友を傷つけたと聞けば、どう思うのかしらね」
『
「そんなことはない! アイルが望んでいたことだ!」
勢いよく立ち上がって、乙女仙次郎が激昂する。
ここまで感情的になった姿を見るのは、初めてのことだった。
「そいつならワシも知っとるで。この辺りじゃあ、円堂ハルと並んで、有名なやつやった」
「試合中に怪我をして、その後の事故で亡くなったとは聞いたが……」
暖冬屋や蓮は知っているらしいけど。
きっとハルにとっての最高のライバルで親友はいなくなってしまった。たぶんまだ乗り越えられてなくて、だからサッカーを楽しめなくなっていたんだな。
「そうだ……息子は…アイルは…円堂ハルを超えられる選手だった…私の誇りだったんだ……」
この人にも事情はあったのか。
その涙で、アイルという息子を大切に思っていたことはわかる。
「円堂ハルさえいなければ……あんなことにはならなかった! 円堂ハルを恨んでいたはずだ!」
いいや、どんな理由だろうと、ハルの未来を奪っていいわけがないんだ。
「そのために、俺は雷門で監督まで成り上がったんだ! ぬくぬくとサッカーの英才教育を受けて甘えたガキどもの集まりが、俺はなぁ! 円堂ハルも、雷門も、ヘドが出るくらい嫌いなんだよ!」
「あら、私はそんな無能を監督にしたつもりはなくってよ?」
理事長はそう伝えた。
「あなたがコーチだった頃、データサイエンスに基づいた練習は、選手の成長にとって最適なものだった。かつての雷門の栄光に、次々と挫折していった監督たちとは違うと思っていたわ」
連携不足とかで思うところはあったけど、選手1人1人に合わせた練習メニューは絶妙な難易度と量だった。しかもその全てを統括してくれていたんだよな。
サッカーについて、熱心に考える人ではあったんだ。
理事長は、俺たちを見て、申し訳なさそうな表情をした。
「サッカーに対する熱意が、復讐の道具になっていただなんてね。そのことに気づけなかったことは、私たちの
「……それと、アイル君の事故に関して進展があったんだよ。あれは車の整備不良によるスリップだったと判明した。本当は、それを伝えにくるつもりだったんだけどね……」
「そんな……ならばアイルは……」
乙女さんは頭を抱えた。
恨んでいると勝手に思い込んで、アイルの親友を傷つけてしまったことになるからな。
「ハルは、アイル君のことを、親友でライバルだと思っていたのよ。いつも楽しそうに話してくれて、あの子が夜更かしをしてまでSNSでやり取りをしていたわ……」
ハルの母親として、そう伝えた。
「僕は…それを知らなかったな……もっとアイルと話していれば……もっと一緒に過ごしていればなぁ……本当に…すまなかった……」
アイルの父親として、そう謝罪した。
*****
あの後、乙女さんは全てを話したらしい。
俺の怪我も仕組まれたことだった。
半年もサッカーができなくて苦しかったのは本当だ。
素直に怒る気にもなれなくて。
大人ぶって考えるなら、罪を償ってほしいというか、なんだか複雑な気持ちだった。
*****
詳しい事情は伝えないけど、乙女さんが監督を辞めたことはサッカー部員たちで共有した。
放任主義だったし、コーチはたくさんいるし、みんなそこまで気にした様子はない。
乙女さんはきっと心のどこかで、こういう日が来ると思っていて、俺たちに試合を任せていたのかもしれないな。
理事長は改めて俺や蓮たちに謝罪した。そして、俺たちの保護者に説明する責任は取るし、『すぐに最も信頼できる監督を用意します』って言いきってくれたし。
さすがに監督なしじゃ、まだ中学生の俺たちは出場どころじゃないものな。
その新監督の指導で、今日からまた決勝に向けて特訓だ。
というわけで全部員が、外のグラウンドに集められていた。
こういう全員集合はサッカー棟の場合が多いんだけどな。
白とオレンジのジャージを着た男の人が、こちらに歩いてくるけど。
「あの人、どこか…で……」
「これは夢か……?」
「うっそぉぉぉぉ!?」
「そんなまさか!?」
「きたきたきたでぇぇぇ!!」
そりゃもう。
みんなで大はしゃぎするしかないだろうが。
さっきまでの暗い気持ちなんて、全部吹っ飛ばされてしまった。
圧倒的な存在感で、すっげぇ安心感がある。
「みんな! 俺が新しい監督の円堂守だ! よろしくな!」
「「「っしゃぁぁぁぁ!!」」」
「「「きたぁぁぁ!!」」」
伝説の人に会えて、しかも新監督になってくれるんだ。
まつりさんすらピョンピョン飛んでてかわいいぞ。
「みんな、サッカーは楽しんでるか?」
「「「はいっ!!」」」
『緊張すんなって』と
「お前たちは俺たちのことを買い被りすぎだぞ。俺たちの時よりも、今の雷門の方がちゃんとしてるさ」
「そう言われましても!」
「今の雷門があるのは、円堂さんたちあっての」
「ワシはずっと憧れてましたんや!」
「あの! 休憩時間にサインとか!」
「もらえませんか!?」
「ははっ! まあ俺たちがやってきたようなサッカーでいいなら、一緒にサッカーやろうぜ!」
「「「サッカーやろうぜ~~!!」」」