イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
【雷門中】
FW 嵐 野神 葉若
MF 鬼門 月影 星村
DF 紫雨 遠野 天宮司 赤袖
GK 暖冬屋
【南雲原中】
FW 忍原 空宮 桜咲
MF 木曽路 品乃 柳生
DF 騎士部 幕下 古道飼 牛島
GK 四川堂
前半10分で1-0である。
雷門の猛攻を、南雲原は耐え続けている状況だった。
逆転するべく、笹波雲明が必殺タクティクスの開始を宣言した。
それは『強者封じ』である。
雷門イレブンの月影たちは、警戒のために分析を始めていた。
そして、どんな罠が待ち受けているかわからないが、葉若が突き進む。
自分が最前線で引っかかれば、何か糸口が見つかるかもしれない。
「ここは通さん。 ザ・マトリックス!」
葉若の俊足のドリブルに対して、品乃が仕掛けた。
無数の方程式により、ありとあらゆる可能性を予測し、ボールを奪う必殺技だが。
「数学? 英語? なんなんだこの文字は!?」
「効果
品乃がボールを奪い、前線にいる木曽路にパスを行った。
南雲原の唯一の化身使いだからこそ、雷門からは赤袖がディフェンスに立ち塞がる。
「ここは通さない」
「よっと、来たな!」
定石通りに、お互い化身を出す兆候を見せる。
『エンターテイナー』と『戦旗士ブリュンヒルデ 』という化身対決に、観客は期待の声を上げた。
化身というのは、圧倒的な個人技だからこそ。
この場面でどちらが勝つか次第で、これからの流れが左右されるが。
「このままヴァルキリーフラッグで……え?」
「柳生先輩!」
木曽路に、正面対決をする義務はない。相性は五分五分で、そこに実力差も含めれば、彼が勝つ確率は低かった。
MFとして確実にボールを繋げばいいだけだ。
化身を出した状態のパワーシュートかのようなパスを、柳生が飛びついて受け取った。
「……でも奪えばいい」
「ここはこいつだ! スーパーエラシコ!」
彼が走っていく先には紫雨が立ち塞がり、ボール自体を操作する必殺技でブロックしようとする。
柳生は空中でボールを操って回避してみせた。
「おいおい! 南雲原のペースじゃないか!」
「決めやがれ! お前ら!」
天宮司の鋭いスライディングをジャンプして回避しながら、ロングパスを行った。
できる限り気配を隠して、忍原がその場所に向かって走っていた。
南雲原イレブンが真正面から得点を狙う方法は、数パターンしかないからである。
「キミがシュートの起点となることは、予測済みですよ」
遠野が、その少女を常にマークをしていた。
忍原が攻守に優れていて、連携シュートが得意なストライカーだからだ。
「でしょうねぇ、残像!」
そのドリブル必殺技に対して、遠野の動きが一瞬止まる。
本物の忍者かのように分身され、その2択を選べなかった。『ザ・タワーV2』の雷撃を撃つタイミングが完全に出遅れてしまう。
「しまったッ!?」
あの雷門に対して、完全フリーで2vs1の状況まで持ち込めたのだ。
「なんぼのもんじゃい!」
立ちはだかるのは、中学生最強と言っていい守護神である。
しかし忍原と桜咲は、このチャンスで絶対に決めるつもりであった。
「こいつと磨き上げてきた」
「私たちの連携必殺シュート!」
この日は、天が味方してくれているかのように、快晴でもあった。
忍原が回転のかかるシュートをすれば、竜巻を描くように空中に向かっていく。
桜咲が地面すれすれの軌道でパワーシュートを放つ。
「「真 春雷!!」」
それはただ威力が高いわけではない。
巻き上げられた粉塵により、GKの視界を奪う。
「警戒はしとったが、これほどの奥義なんかい!?」
暖冬屋は『ゴッドハンド・タイガー』でなんとか反応してみせたが、タイミングが合っていたとは言えない。
拳のオーラの端を破壊しながら、逸れていってしまう。
頬を
これで1-1、南雲原が同点に追いついたのである。
「よっしゃ、あの雷門にも通用したぞ!」
「どんどん決めていくよ! みんなボールを回して!」
南雲原イレブンは喜び、全体的に表情が明るくなる。
真正面から、雷門の守護神から得点してみせた。彼ら彼女らにとって、この1点の価値は相当に大きいものだった。
「あのコンビ、良い連携シュートだったな」
「にしても、うちの守備陣がここまで抜かれるなんて」
「赤袖や遠野先輩も事前に警戒していたはずだが」
「まだまだ同点! 諦めずにいくよ!」
雷門イレブンも、星村の声に当然だと頷いて、各自のポジションに戻っていく。
雷門側のボールで再開し、月影に一度ボールを託した。
まだ笹波雲明が考案したタクティクスが何であるか、解明されてはいない。
だからこそ、『フライングルートパス』『アルティメットサンダー』『ダブルウィング』、どの戦術で攻めていくべきか、司令塔である彼が見極めなければならなかった。
「タクティクスを重ねる! 『トライダイブ』!」
今度は空宮や品乃が中心となり、陣形を作り始める。
元々、北陽学園で扱っていた必殺タクティクスだ。
南雲原イレブンは3方向に分かれ、一気に攻め上がってくる。
「攻撃の手を緩めないつもりか?」
ボールをキープしていた月影は、予定通りの守備につくよう雷門に指示を出した。
だが、それが決定的な隙となる。
「しまった、あれは『アブソリュートナイツ』のように、縦の守備陣形にもなりうるのか!?」
「見える! スピード勝負に持ち込めば、勝てる!」
空宮は、俊敏で臨機応変さが特徴なファンタジスタである。
月影がテクニックを発揮する前にボールを奪ってみせた。
フィールド外の司令塔を警戒しすぎたからこそ、彼は自分のプレイに集中できていなかった。
そんなミスを責める気が全く起きないほど、笹波雲明には存在感があるのだ。
遠野たち守備陣はフォローすべく、各自で動いた。
「引き続き忍原をマークする!」
「では、桜咲さんを私が!」
「単品シュートならワシが止めてみせるで!」
ドリブルで駆けあがっていく空宮には、無理に人数をかけない選択をしたが。
「それも、うちの監督の手のひらの上なんだぜ?」
走りながら空宮は、バックパスを行った。
『トライダイブ』の陣形により、3人が縦に並んでいるからこそできる必殺連携シュートがある。
騎士部から、品乃へ、空宮へ、全力のパワーシュートを重ねていく。
「「「トリプルブースト!!」」」
「なっ!? 空中からのシュートやないんかい!?」
1度戦い、データで知っているからこそ、空宮の『サンシャインブレード』という必殺シュートを警戒してしまっていた。
「正義の鉄拳G3!」
瞬時に発動したが、ゴッドハンドの拳のオーラが破壊されてしまう。
3人のシュート力が重なっていたこともあり、再び暖冬屋が失点を許してしまった。
得点した3人は仲間たちに囲まれる。
観客席にいる元北陽メンバーにも激励を受けて、感極まって空宮は嬉し涙を流した。
これで1ー2。
前半20分の段階で、あの雷門が完全に押されている。
自分たちのミスが目立ってしまっていることもあり、雷門の選手たちは明らかに動揺していた。
「ここまで南雲原は強くなったのかよ?」
「敵は、俺たち雷門を完全に分析してきたんだ」
「データで戦う北陽学園と合併したとはいえ」
「この短期間で、形にできるほどとは」
鬼門たちが不安がり。
月影、遠野、赤袖も表情を曇らせる。
帝国学園で見せた戦術ならまだしも、白恋で使った戦術まで、笹波雲明に分析され尽くしている気がしていて。
そしてこの短期間で、それを実践できる選手たちを称賛するしかなかった。
「みんなどうした! 諦めるなんて言わないよな!!」
「そんなわけないでしょ!」
「まだまだ1点差だぞ!」
葉若、星村、嵐が声をかけると、持ち直して頷き合った。
まだまだ試合時間は残っている。
諦めないことによる強さを、彼ら彼女らは学んでいた。
「そうだぞ~! 難しく考えすぎず、全員でぶつかっていけ~!」
円堂守が声をかければ、雷門イレブンは完全に勢いを取り戻すように頷く。
―――円堂さんにはもう気づかれてる
笹波雲明は苦い表情を見せた。
この必殺タクティクス『強者封じ』は、能力相殺訓練の成果により、互角以上の実力の勝負に持ち込むというものだ。それには相性のいい選手をぶつけていく必要があり、最も重要なのは、気づかせないことである。
つまり既存データに基づいて、後出しジャンケンに勝っているようなものであり。
某ゲームのように、炎タイプには水タイプを、電気タイプには地面タイプを、的確に弱点をついているようなものだ。
「全員でぶつかっていくぞ!」
「どんなに分析されようと!」
「俺たちは雷門サッカーを貫くだけだ!」
再び雷門側ボールで試合再開すれば、今度は月影を中心として攻め上がる。
陣形を組んで集団サッカーに持ち込む気でいた。
野神と嵐のキック力によるパスを活かしながら、2つの陣形を同時に進ませる。
『ダブルウィング』で攻め上がり、葉若と星村を遊撃として動かす。
『強者封じ』のために、相性のいい選手を各自ぶつけていくどころではない。
総合力では負けている南雲原イレブンは、大波に押されるように耐え続けることしかできなくなっていた。
「決めるぞ! バハムートクラッシュ!」
片方の陣形がゴールチャンスを得たことで、野神がシュート体勢に入る。
翼を広げたバハムートによる光線シュートがゴールに向かう。
「ゴッドフィンガーズ!」
南雲原GKの四川堂が、氷山から作り上げた巨大な5本指を作り上げる。ボールを斬り裂き、威力を抑えることはできたが。
光の軌跡を描きながら、上空にボールが向かっていてしまう。
「くっ……止めきれない、か……」
彼は、1度対戦した葉若や円堂ハルを特に意識していたが、雷門3年のストライカーのシュートによる重みまで感じさせられていた。
ボールは弾かれていき、葉若がそこに飛びつく。
「葉若を絡めとれ!」
「ザ・マトリックス!」
今度は騎士部によるテクニック方面のディフェンスで、葉若を対策しようとしたが。
「2度も同じ手を食らうか!」
「任されました」
葉若がバックパスすれば、その後ろには赤袖が前線まで来ていた。
方程式による網に向かって、彼女は真っすぐ突き進む。
「そよかぜステップV2」
解答を見せるかのように、クルりと通り抜けてみせた。
「DFがここまで上がってくるのかよ!」
「木曽路君がここまで守備に?……ほいっ」
「おう! 真ファイアトルネード!」
空中から放たれたのは、凄まじい速度の炎の弾丸だった。
必殺技を出す余裕がない。
南雲原DFの幕下や牛島が身体を張ってシュートブロックをすることで、多少は威力が弱まった。
「真 氷結の舞!」
オーラによって氷の防護幕を作り出し、ボールを凍りつかせて止めてみせたが。
雷門のストライカーの重みに、四川堂は冷や汗をかく。
単体シュートだけでこれほどの威力とスピードであり、どこまでこの猛攻を耐えれるだろうかと。
南雲原イレブンは防戦一方となっていった。
『強者封じ』が、前半の途中で通用しなくなっている。
既存データでは測りきれないほどの、雷門イレブンの進化である。不破アリスたち帝国が敗北した理由を、実感させられていた。ラスボスのような強敵軍団が、更に強くなっていく。
総合的には確かな実力差がある。勝つためには分析を重ね、戦術をアップデートしていくしかないが。
笹波雲明からの指示のタイムラグを、雷門イレブンは許してはくれない。
ここでホイッスルが鳴り、前半が終了した。
1-2でスコアボードだけ見れば、南雲原が有利なようだが。
この10分間は全力で食らいつくことで、追加点を取られなかっただけだ。
南雲原イレブンの誰もが体力を消耗し、肩で息をしている。素直に喜べるような余裕はなかった。
対する雷門イレブンは誰も諦めておらず、勝利を疑っていない。
まだジョーカーが残っているからだ。
「ようやく来たか!」
「あの子ったら……」
「来たといっても?」
「円堂監督と理事長、空を見てるよな?」
「もしかして、あれがハルなのか!?」
「なんちゅう、登場の仕方なんや?」
「ヒヤヒヤさせやがる……」
「無茶苦茶な後輩ですね……」
「ハル君、こっちこっち~! ちゃんと安全に降りてきてよね~!?」
円堂ハルが、天空からパラシュートを使って降り立った。