イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
そういう特訓まで経験してたのか、何がなんでも間に合わせるためなのか。
ハルはパラシュートで直接フィールドに降りてきた。
「遅くなりました!」
平気そうだし、笑顔で駆け寄ってくるし。
しっかりと前を向けて走れている。
元気に戻ってきてくれてよかった。
「おかえり、ハル君!」
「えと…ただいま…です……」
ナオさんにギュッと抱きしめられて、ハルが顔を真っ赤にして照れてやがる。
まあこんなにも心配かけたんだから、ちゃんと受け入れろよな。
「おかえりなんだが、もう少し安全をだな」
「そういうのは終わってからにしようや。遅れただけの成果は期待してええか?」
暖冬屋の質問に、ハルは強く頷いた。
「当然です! サッカーと一緒にやり直してきました!」
自信満々すぎるくらいで、もう安心だな。
「よしっ! 後半からエースストライカーはお前に任せるぞ、ハル!」
「はいっ! ……てか、とっちゃんが監督ってホントなんだ。
「ハル君、嬉しそうだねぇ~」
父親と母親がこんなに近くで見に来てくれて。
一緒にあの笹波雲明が率いる南雲原に対決できるんだ。
ハルも興奮しないわけないよな。
「よしっ! ナオさん! 蓮さん! 新必殺技で逆転してやりましょう! 雲明を驚かすような、俺たちの新必殺技で!」
「ん! ぶっつけ本番だねぇ!」
「お前の動きに合わせられるよう、ベストは尽くしてきたさ」
もしかすると失敗するかもしれない。
まだ3人で練習していないから、なんてことは言わない。
恐れずに挑戦してくれるだろう。
もし失敗しても、俺たちがフォローすればいいしな。
「また無茶をする後輩が増えてしまったな」
「この1年で雷門は大きく変わったようだ」
野神先輩や遠野先輩だって、いい意味で変わったと思うし。
「こういうのが、雷門のよき伝統だと思うんだよな」
「受け継いでいくべきでしょうね」
これくらい『サッカーバカ』のほうが、みんなとサッカーを楽しめて最高の幸せ者だからな。
今度はハルを入れて、16人揃って円陣を組む。
―――ここから逆転して勝ちにいくぞ!!!
―――おうッ!!!
*****
【雷門中】
FW 野神 円堂
MF 嵐 鬼門 月影 星村
DF 梅雨咲 遠野 赤袖 葉若
GK 暖冬屋
円堂ハルをメインストライカーとするフォーメーションに切り替えた。
その代わりに、消耗していた守備陣の何人かを交代している。臨機応変な対応ができるように、葉若をリベロとしてDFに下げたことで、更に強固な守りとなっているだろう。
【南雲原中】
FW 忍原 空宮 桜咲
MF 木曽路 品乃 柳生
DF 妖士乃 古手打 古道飼 雨道
GK 四川堂
南雲原は大幅にフォーメーションを変えることはせず、円堂ハルの未知数な実力を警戒していた。『強者封じ』は、既存の選手データに基づき、後出しジャンケンで勝利していくような必殺タクティクスであるからだ。
前半の猛攻を防いでいたことにより、特に体力が消耗していたDFたちを交代しているが。
他の選手も全力で動いていたせいで、後半の途中で限界を迎えそうだった。
「円堂ハルが出てくるなんて……」
「予想はしてただろ……」
「でも、なんか、もう大きさが見えない圧迫感……」
忍原や桜咲や空宮はすでに圧倒されていた。
1-2で得点上では南雲原が優勢の状況から、後半が始まる。
南雲原側のボールで開始するが、中盤でパス回しをしているうちに、いつの間にかボールが消えていた。
「うそ…だろ……」
「速すぎるどころか……」
「どこに消えてたんだよ!?」
円堂ハルによる、死角のスライディングは健在であった。
そして今度は彼が先導者となって速攻を仕掛けていく。前半開始直後にもあった速攻を、南雲原は消耗していた状態で受けなければならなかった。
「星村のスピードにも、『ザ・マトリックス』による絡め手で!」
品乃がテクニック方面で対策するはずだったが。
「うりゃあああ! 風穴ドライブ!」
星村が両腕を振るえば、まるで台風かのような竜巻が引き起こされる。
一気にくぐり抜けて突破した。
追い風を受けているかのように、更に彼女のスピードが速くなっていた。常時、疾風ダッシュを使っているのではなかと思うほどの、全力疾走で駆け上がっていく。
そして司令塔である月影もまた、仲間を信じて前線に走っていく。
後方に葉若や赤袖がいることで、守備陣が万全すぎるほどだ。
彼は久しぶりに攻撃に専念することができていた。
「
「1発で決めてみせるよ!」
「俺たちで仕掛けるぞ!」
円堂ハルがボールを高く蹴り上げると、イナズマを纏って落下し始める。
星村と月影は、後輩の動きに追いついてみせて、空中で3方向からの完璧に同時シュートで放つ。
その必殺技の名は。
「「「イナズマブレイク!!」」」
中学サッカーに、あの伝説の連携シュートが蘇ったのだ。
「くっ、ゴッドフィンガーズ!」
氷山から作り上げた巨大な5本指で、ボールを斬り裂こうとするも。
イナズマを纏ったボールが完璧に破壊しつくした。
後半が開始して3分のできごと。
2-2となり、雷門が同点に追いついてみせた。
前半は葉若風露で、後半は円堂ハルで、今年度の雷門は全国最高峰のエースストライカーを2人も揃えていることになる。
南雲原イレブンは大嵐のような向かい風を感じて。
雷門イレブンは追い風によって奮起する。
「完璧に決まったな」
「私たち、あの雷門の奥義を完成させたんだよね! 円堂監督と豪炎寺さんと鬼道さんの、あの伝説の必殺シュートを!!」
「くぅぅぅ! うぉぉぉぉ!!」
先輩たちと1発で新必殺技ができて。
フィールドに蘇ることができて。
久しぶりにみんなとサッカーができる。
円堂ハルは、魂から震えるほどの嬉しさを感じた。
サッカーの楽しさを心の底から味わうことができた。
「ちゃんと見てた!? とっちゃん!
無邪気な笑顔でガッツポーズを見せる。
そんな元気な姿に、2人は涙を浮かべながら頷いてくれた。
そしてハルは挑戦状を叩きつけるかのように、親友でライバルのほうを向く。
「雲明! 約束通り戻ってきたよ! 完全復活して!」
「ん、戻ってくると思っていたよ」
笹波雲明というライバルに勝つということも目標に、ハルはリハビリに近い猛特訓をしてきた。
だから、今日の試合を全力で挑むということで、感謝を伝えるつもりだった。
「このまま雷門を調子づかせるな!」
「全員で追加点を取りに行くぞ!」
南雲原イレブンも同点に追いつかれたとはいえ、まだ諦めていなかった。
これほどの逆境のような試合を、今まで何度も経験してきたからだ。
試合を再開させると、ほとんどのメンバーで攻め上がっていく。
「化身をフルパワーで使ってでも!」
木曽路が中心となり、陣形を組んだ。
円堂ハルに死角から襲われないためには、集団サッカーでぶつかっていくしかないと判断した。後半からDFに入ったメンバーは、ドリブル技も持っている選手が多く、攻撃的なサッカーができることもある。
それに対して雷門も『絶対障壁』とまではいかないが、赤袖を中心とした集団で陣形を組んだ。
集団同士の対決だけではない。
『エンターテイナー』と『戦旗士ブリュンヒルデ』の化身対決に、真っ向勝負を挑むことになる。
「サンライズカーニバル!」
シュートの要領でボールを放ち、相手選手の周りに花火を起こすことで、相手を翻弄させるものだが。
「ヴァルキリーフラッグ」
「これって!?」
化身を発動させ、赤袖は一歩踏み込んで、ブロック技を使用した。
その結果は化身同士の相討ちのようであり、お互いに大きく体力を消耗することとなる。
「自らを囮に、俺たちの攻撃パターンを削ってきたか!?」
「だけど、ボールだけは、頼んだ!」
集団の中でボールの取り合いが起きるが、空宮が力を振り絞ってパスを出した。
「あいつらから託されたんだ」
「絶対に決めるよ!」
それを受け取った桜咲と忍原で再び『春雷』の構えに入る。
先ほどまでのように、遠野にはマークされていなかったが。
「2度も同じ手を食らわないって!」
「葉若だとぉ!?」
彼もまた死角から襲い掛かる。
フィールドを臨機応変に動き回ることに強みがあるため、彼は陣形に組み込まれない。久しぶりにリベロとして戦うため、最近の試合データが少なかったが、その技術は更に進化していた。
「桜咲! 早く!!」
「この土壇場で空中戦かよッ!?」
忍原による『ぐるぐるシュート』はすでに放たれている。
葉若はぶっつけ本番で、その竜巻に合わせるような炎の回転をすることで、先にボールを追いかけていく。
「くそッ!?」
桜咲は、そんな炎の竜巻の中で弾かれて地面に落ちた。
「真ファイアトルネード!」
連携技を妨害し、カウンターシュートを放ってみせた。
さすがにその炎の弾丸は、相手ゴールに向かうまでに威力が減衰していくだろうが。
「さすがパワプロさんだ! 次は俺の番です!」
それは後輩に向けたパスでもある。
円堂ハルは笑って、勢いよくジャンプした。
更に炎を足場にして2段階目のジャンプして。
空中にいながら爆炎の回転を始めて、炎の弾丸を追いかけていく。
「メテオッド・ファイアトルネード!!」
天空から炎を纏った隕石が降り注ぐかのような新必殺シュートをチェインさせた。
「ぐぁぁぁぁぁ!?」
その強大なパワーを前に必殺技を出す余裕もなく、四川堂の身体は吹き飛ばされた。
ゴールネットには爆炎の竜巻が持続して、そこには焼け焦げた跡が残る。
これで3-2となり、雷門が勝ち越した。
円堂ハルは復活したどころか、ファイアトルネードを超絶進化させてきた。
そんな後輩を揉みくちゃにするように雷門イレブンは喜び。
対する南雲原イレブンは、絶望的な逆境に歯噛みするしかない。
試合再開となるが、南雲原イレブンは自分たちの司令塔の雲明に助けを求めるしかないが。
彼から追加の指示はまだ来ない。
「ちくしょう、限界だ……」
「雷門の必殺シュート…なんて重みなんだ……」
「前半から出てるみんな…倒れそうです……」
「常に全力で動いてきたからな……」
「くそっ、どこから攻めればいいんだ……」
「葉若風露も、向こうのGKも、ピンピンしてるよね……」
『春雷』や『トリプルブースト』なら、まだ暖冬屋というGKに真正面から通用する可能性は高い。だが忍原はマークされ、たとえパスが繋がったとしても、連携は妨害されてしまう。
木曽路も先ほどの化身対決で消耗させられ、『エンターテイナー』を発動するどころか、もう中盤を走り回ることすら限界だ。
前半にあれだけ互角以上に戦えていたのは『強者封じ』のおかげだった。しかし、あれは既存のデータに基づいたタクティクスだ。葉若風露たちは試合中に進化することで、その弱点は克服されていき、また強くなる。
データ不足な円堂ハルという存在に至っては、たとえ『ブロック・ザ・キーマン』を使ったとしても抑え込めないだろう。
後半から出ているメンバー3人を中心に、なんとか猛攻を耐え続けるが、やはり限界は来る。
それでも決して諦めず、気力を振り絞って走り続けている姿は、
南雲原イレブンを最高の敵として認め、雷門イレブンは全力で挑み続ける。
「さすがの笹波雲明も、ここからの逆転は厳しいだろう」
「まっ、どんな切り札があろうと対応してみせますよ」
「おっハル君、カッコいいこと言うじゃん~」
「まだまだ行けるよな、まつりさん、暖冬屋」
「風露君が守備メインだなんて、贅沢なことですから」
「あちらさんはとっくに限界やのに、ようやっとるで」
南雲原の交代要員は、残りはサブGKの陣内だけ。
それは司令塔である笹波雲明をベンチメンバーとして登録させているからだ。たとえもし他に控え選手が1人いたとしてもすでに主力選手は使いきってしまっている。1度交代した3人も、仲間たちを信じて声をかけ続けることしかできない。
GKの四川堂がほぼ限界のため。
ほんの一瞬だけ猛攻が止まったタイミングで、彼が動いてくるだろうが。
「選手交代!」
そう叫び、白いジャージを投げ捨てた。
ユニフォーム姿の笹波雲明がゆっくりとフィールドに入ってくる。
「僕も絶対に諦めないよ、ハル!」
「最高に楽しいサッカーやろうぜ、雲明!」
親友で最高のライバルと、直接対決できる。
円堂ハルは、人生最大の興奮を味わえていた。