イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
運悪く起きた事故によって、半年間もサッカーができなかっただけじゃない。
FW適正なし、それがAIによって判断された俺の結末だった。
先輩たちの何人かは陰口を叩いてるみたいだし。
蓮たちだって暗い表情をして同情してくる。
俺がいなかった間にフットボールフロンティアは当然のごとく優勝し、他の各種大会に向けて練習したり、3年はプロに向けて最終調整したり。
蓮たちも次の1軍候補として期待され、何人ものコーチに囲まれて指導してもらっていたり。
だから、あいつらと一緒にサッカーをできる時間はどんどん減っていった。
「よしっ、今日も特訓だ!」
放課後、気合を入れるように1人で声を出す。
半袖のユニフォームに着替えてから、準備体操を始めた。
もう冬が近づくような時期で、次のフットボールフロンティアまで半年ほどだ。
今の雷門中サッカー部で、俺の扱いはもはや幽霊部員のようなもの。
運営陣はもう壊れた機械より、新品のスカウトに夢中なんだろう。
練習メニューも作られなければ、スポーツドリンクだって自腹で、当然試合になんて出れるわけがない。
「今日は鉄塔広場に行ってみるか」
筋トレをこなしてから、荷物を持って学校の外に出る。
だから今は新しい校舎に囲まれ、ポツンとあった体育倉庫を勝手に拠点にしている。手入れすればまだ使えるボールが残されていたり、すごい字で書かれたノートだって残されていたり、たぶん円堂守世代の部室だったんだと思う。
今の雷門の必殺技のデータは、松風天馬世代の人たちが残していったものらしい。ならばあの特訓ノートは円堂守世代が残した原典のようなものだ。
部室もある。ボールもある。タイヤだってある。
走る場所なんて町全体にあるし、河川敷でシュート練習だってできる。公園でドリブル練習だってできる。山の上の鉄塔広場に行けばブロック練習だってできる。
「今日もやるかッ!」
タイヤを背負い、木にロープで吊るしたタイヤを投げて、戻ってくるタイヤを身体全体で受け止める。
たぶんこれキーパー練習なんだけど、サッカーを一緒にやる相手がいないから仕方ない。
それに、今の俺にはあの必殺技の習得が必要だと思った。
「出ろ! ゴッドハン……ぎゃあ!?」
吹き飛ばされ、背中に衝撃がくるけど、もう一度立ち上がる。
映像だって何度も見た。
オーラだって出るようになってきた。
努力は必ず結果に繋がってる。
「お~い!」
「ん?」
ほとんど草の手入れだってされてなかった。万が一タイヤがぶっ飛ぶと危険かなと選んでいる場所だ。
女子中学生が気軽に訪れるような場所じゃない。
「パワプロ君、走るの速すぎだよ~」
「星村さんと赤袖さん、どうしてここに? 練習は?」
ジャージ姿なことはともかく、雷門中にいるような時間だと思う。
「今日は全体練習ないから、2人で走ってたの! そしたらパワプロ君が見えてさ!」
「この曜日は基本オフの日ですよ」
そうだったか。
もうすっかり忘れていた。
「サッカー続けてるんだね。しかもこの鉄塔広場で、聖地の1つで!」
「聖地にしては草だらけですね」
「草刈りからしたな。いい体力作りにはなったけどさ」
夏にやって暑いどころか、虫の数だってすごかった。
「あれだけ走れてたなら、えっと、もうだいぶ治ってるの?」
「ナオさん。」
「いや、もう自分で納得してることだから」
赤袖さんが俺のことを心配してくれたのか、ナオさんを止めようとしてくれたけど。
持ってきていたボールを空中に蹴り上げてから。
土が盛られている場所に向かって、俺は全力のファイアトルネードを放つ。
「ファイア…トルネード!」
勢いは鋭く、確かに地面にめり込んだ。
だが、目標にしていた場所よりだいぶ斜めなんだよな。
「なるほど」
「そうか、コントロールが……」
映像を何度見返しても、修正しようとしても、どうしてもパワーシュートの瞬間に足がブレる。
AIも同じ判断だった。
ループシュートとか、そういうテクニック方面の必殺シュートを身に着けることもできなさそうだった。
やはり精度よく足で蹴るには、普段のパスが限界だ。
「残念ながら、今はファイアトルネードを使えない。ごめん」
暗黒寺も雷門中から出ていったし、星村さんは楽しみにしてたかもしれないのにな。
「……あの、ナオさんは気にしてませんよ」
「……そ、そう! 見たいとか今は全然思ってないから!」
『誤解させちゃってたらゴメン!』って勢いよく謝ってくるから、俺はタジタジになりながらも、なんとか頭を上げてもらう。
「そ、そっちはどうなんだ? 順調か?」
話題を変えるべく、星村さんと赤袖さんたちのことを尋ねた。
「うー、あんまりかなぁ」
「2年のFW組が次々とスランプになっていまして、来年度はエースストライカーが不足するかもしれません」
「……そうか」
暗黒寺のやつも雷門中をやめていて、2年FW組は悪質な噂の影響もあるのかスランプとは聞いていた。あれは俺の不注意による事故だってのに、レギュラー争いにおける妨害行為なんてあるはずがない。
「ちなみに
「FW組の今後を心配して、焦ってるみたいなんだよね」
「……そう、か」
あいつも優しいところがあるからな。俺や暗黒寺が抜けて、1年FW組を自分が引っ張っていこうと思っているんだろう。
「今は
「ドラゴンクラッシュ及びワイバーンクラッシュというパワーシュートの王道、だから私とナオさんには合いませんがね」
蓮のやつ、司令塔も担当するのに負担は大丈夫かよ。
あいつのことだから『フォルテシモ』のような技の特訓してると思ってた。
「でも大丈夫! 私たちもシュートを特訓してるから!」
「ナオさんがマッハウィンド、私がクロスドライブですね」
どちらも戦術として組み込みやすい技だな。
もし1人の力が足りなくとも、仲間とのシュートチェインを狙うとか、連携技だとか、そういうのもサッカーの醍醐味ってやつだよな。
しかし今の雷門中ってFW組、MF組、DF組、GK組で別々の練習が多い気がしてたんだよな。しかも個人技をひたすら練習するって感じ。
まあ俺自身も数ヶ月はそんな状態なんだよな。
「こういうオフの日、一緒にサッカーやりませんか?」
「まつりちゃんに同意!」
「え? でも2人の自由時間だろ?」
提案は確かに嬉しかった。
でも普段ハードだから休みたかったり、自分たちが望んでいる特訓をしたり、俺に構っている時間はなさそうだけど。
「見たところ、DFもしくはGK方面の練習でしょう。今なら全国クラスのMFが2人、しかも美少女が付いてきてお得ですよ」
「パワプロ君ったら、私たちが美少女だなんて、そんな、えへへ」
「俺は言ってないからな? オフサイドトラップかけられたようなものだからな?」
そりゃ内心では、2人とも美少女だと思っているけどさ。
「なら、お願いしようか。時間がある時、一緒に特訓してほしい」
「決定ね! そだ、別クラスだし、連絡先交換しようよ」
「そういえばしていませんでしたね。サッカー棟に行けば会えてましたし」
サッカー女子の連絡先を同時に2つも入手した。
しかも一緒に特訓までできるなんて、ますますモチベが上がりそうだぞ。
「なんというか……一緒にサッカーできるの……すごく嬉しいな……」
「ごめんね、もっと早く声かければよかったよね」
「観察結果その3、意外と涙もろい」
観察結果その1とその2はどこだよ。
心の中でそんなツッコミを入れながら、優しい仲間たちの手を取った。
気持ちがあって、ボールと場所があって、仲間がいれば、サッカーは続けられる。
でも俺はそれで満足できるようなやつじゃない。
必ずフィールドに戻って、頂点を目指して登ってやるんだ。