イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード   作:ヒラメもち

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第7話 雷門中の対立(前編)

 

 その日は晴天で、温かく過ごしやすい日だった。

 サッカー部1軍vs2軍の練習試合は、今の雷門中にとっては一種のお祭りのようなものだ。

 

 生徒たちは、全国レベルの試合を自分たちの学校で見ることができる。

 そして今日は公開試合ということで、老若男女問わず近所の『サッカー好き』も駆け付ける。高校サッカーやプロに関係するスカウトマンも多数いる。

 

「ここからじゃ、よく見えないな」

「まっ、試合が始まれば派手になるだろ」

 

 現在の雷門中理事長も、夫や息子を連れて、本校舎の最上階からグラウンドの様子を見ていた。最近の雷門中サッカー部にはキナ臭いことが多い。

 FW組の怪我や不調が多発しているのだ。理事長としても、母親としても、心配そうに腕を組んでいた。

 

「うーん、2軍のみんなやる気満々だねぇ」

「よろしいのですか。もしも2軍が勝利するようなことになれば」

 

 雷門中監督乙女仙次郎(おとめせんじろう)とマネージャーたちは、1軍側のベンチに座っていた。

 

「ん? 部員同士で切磋琢磨する、いいことじゃないか」

 

 いつも通り優しい笑みを浮かべて頷いた。

 目線だけ動かして、理事長室がある方向を一瞥したことには、誰も気づいていなかった。

 

 

*****

 

 

 まるで公式試合かのように、ポジションと選手名と学年を1人ずつ、ギャラリーに放送席から伝えられていた。

 すでに選手たちはポジションについていて、各自で軽く身体を動かしている。

 

 当然1軍は雷門らしい黄色いユニフォームで。

 対する2軍は引き立て役かのような白いユニフォームだった。

 

【1軍】

FW 月影 野神

MF 鬼門 ○ ○ ○

DF 遠野 ○ ○ ○

GK 暖冬屋

 

「今日も練習通りやるぞ!」

「1軍と2軍の実力差を見せてやろう」

「ゴールは任せて、いったれや~!」

 

【2軍】

FW 嵐 海老原

MF 春日 赤袖 星村 ○ ○

DF 葉若 天宮寺 紫雨

GK ○

 

「俺たちの特訓の成果を見せるぞ!」

「みんな~! がんばろうね~!」

「これに勝てば1軍入りだって夢じゃないからな!」

 

 主審がサッカーコートの真ん中に立ち、もうすぐ試合が始まりそうになると、選手もギャラリーも静まり返った。

 

(俺たち1軍は負けないぞ、パワプロ)

(蓮、絶対に勝ってみせるからな)

 

 ホイッスルが鳴り響くと試合開始だ。

 2軍の嵐はボールを軽く蹴って、海老原に渡す。

 

「さあ、サッカー楽しもうぜ!」

 

「ッ!? 後方にボールを!?」

 

 試合開始と同時に、2軍チームはボールを後方に回していく。

 その先にはDFである葉若がいて、ドリブルで突き進んだ彼はボールを天高く蹴り上げた。

 

 そして本人も炎を纏って回転しながら空中に上昇していく。

 蓮たち、1軍攻撃陣は思わず見上げてしまい、思考が停止してしまう。

 

「何ビビってんのや! ただのこけおどしやろ!」

 

 暖冬屋が大声で叫ぶ前には、1軍守備陣は意識を切り替えて動き始めていた。

 

「ファイアトルネード!!」

 

 炎を纏ったボールは確かに放たれた。

 伝説の必殺シュートにギャラリーが()きたつ。

 

 しかし、1軍守備陣は『どこに打っているんだ』とあちこちからバカにするような声が聞こえ始めていた。

 

「違う! あれはシュートじゃない! パスだ!

 

 そんな月影の声が届くのには、少々のタイムラグがあった。

 

 それに気づかされ、慌てて1軍守備陣は各自が別々に、シュートブロックの準備をしたり、2軍FWの守備についたり。

 

「ちょっ! やめろや! 前が見えんなる!!」

 

 暖冬屋が叫んだ時には、フィールドに風が巻き起こった。

 星村がトップスピードで放たれた炎の弾丸を追いかけている。

 

「マッハウィンド! うりゃあああ!!」

 

 猛ダッシュで加速した勢いのまま、シュートチェインをする。

 

 暖冬屋は咄嗟にシュートに飛びついたが、しかしボールの勢いは止められず、そのままネットに突き刺さった。

 

「か~~! えぇスピードやったわ、星村のやつ!」

 

 暖冬屋は悔しそうに、しかし楽しそうに拾ったボールを中央に蹴り返す。もっと早く反応できていれば、『熱血パンチ』で止められていたはずだった。

 

「すまない。あの程度の威力のシュート、普段のお前なら止められたはずだ」

「あの程度て…… まあ先輩たちも油断せんといてください」

 

 暖冬屋がそう言うと、遠野たちは冷静に反省会を始めた。

 2軍が楽しそうに喜んでいる姿とはどこか対照的だ。

 

「月影、あいつは完全に治っていたのか?」

「いえ、まだ完治はしていません。最初から攻撃参加することまでは想定外でした。ですが……」

 

 そこで言葉を区切り、月影や野神も試合再開に向けて準備をする。

 

 2軍も先制点を喜びつつも、気を引き締め直した。

 あくまで油断している隙をついただけだ。

 

 そして、1軍側のボールで試合が再開する。

 

「俺と野神先輩で上がる! 各自、予定通りにマークだ!」

 

 月影はそう指示して、自分自身は敵ゴールに向かう。

 

「フッ、そういうわけ。フッ、もうこれ以上は攻めさせないぞ」

鬼門(きど)か。さては蓮のやつ、俺が攻撃参加することは予想してたな」

 

 ゴールは暖冬屋に任せて、葉若と大佑と夏生を2人ずつでマークしてくる。

 単純な手段ではあるが、データに基づいていて完璧な戦術だ。

 

 まるで必殺タクティクスだ。

 

「なら、こっちがやることも予定通りだ。必殺タクティクス!」

 

「何か来るぞ! 警戒しろ!」

 

 鬼門が叫ぶと、あちこちに走っていく3人を追いかけていった。

 

「パワプロのやつ、今度は何を(たくら)んでいる」

「必殺タクティクス『鬼ごっこ』です」

 

 月影が立ち止まってから思わず呟くと、その疑問には彼をマークしていた赤袖が答えた。

 

 雷門中1軍の特徴は、圧倒的な個人技に依存している。

 そしてデータに基づいて、相手の有力選手は活躍させないように動く、それが基本戦術だ。

 

「だが、あれでは消耗するだけだ」

「そうでしょうね」

 

 2軍の3人が陣形をかき乱して、1軍の6人の体力が消耗する。

 確かに真正面から勝負すれば、暖冬屋に他の2軍選手では勝ち目がない。

 

 しかしこの戦術は、理にかなっていることに月影は気づいた。

 なぜなら今の雷門中1軍も決定力不足で、現在は1点差であるからだ。

 

 もし葉若たちの体力がモンスター級ならば、このままタイムアップまで逃げられる。

 

「野神先輩! 俺はボール運びに戻ります!」

「どうした! こっちまでパスを繋げ!」

 

 指揮系統のズレ、そのため2人のそんな指示が重なった。

 その隙をついて赤袖はジェスチャーで、とあるメンバーに指示を出す。

 

「ポジションがまさしく変幻自在やな。だが、こっちから丸見えや。紫のやつが狙ってきてるで!」

 

 暖冬屋が全体を見渡して、そう叫んだ。

 

「強めにいきますか……」

 

 スライディングでボールを奪取したのは、まだ1年MFの春日だった。

 

「オーロラドリブル」

 

 すかさずドリブルの必殺技によって、幻想的なオーロラに包まれた1軍の守備を超えていく。

 しかし遠野たちはそれを追いかけようとはしない。

 

「そのルートを通ることは、俺たちの計算通りだ」

 

「……強めにやってみますが」

 

 春日が周囲を見渡して、自分でシュート体制に入った。

 あらかじめシュートチャンスがあれば、全員で狙う方針にしていたから。

 

「まっ、1軍相手にようやっとるけど、ここまでや」

 

 いとも簡単に暖冬屋は、片手でそのシュートを受け止める。

 そして『いったれやーー!!』と叫びながら、腕をフルスイングさせた。

 

 まるで野球の剛速球かのように、ボールは真っすぐに月影まで届いた。

 赤袖は2軍守備陣に指示を出して、自分自身も防衛に向かう。

 

「プレストターンV2!」

 

 軽いリフティング、左右にフェイント、一気に抜き去る。

 月影はその動作を高速で行うドリブル技を使った。

 

「……やはり野神先輩はマークされているか」

 

 月影は呟いて苦い表情をする。

 他校との練習試合でもそうだったように、今の1軍で安定しているストライカーは彼1人だけだ。

 

 だから月影はボールを空中に一度蹴り上げた。

 空中を舞うのは、ドラゴンから進化したワイバーンで。

 

「俺が仕掛ける! ワイバーンクラッシュ!!」

 

 そこに走りこんできたのは葉若だった。

 シュートブロックの体制、しかもゴッドハンドのオーラを身体に纏っている。

 

「メガトンヘッド!!」

 

 その必殺技で真正面からヘディングの要領で突っ込んだ。

 

「くっ………ぐわぁ!?!?」

 

 しかし拳のオーラが砕かれて、彼の身体は吹き飛んでしまう。

 勢いは止まらず、ゴールに向かっていく。

 

「だが威力は弱まった! フェンス・オブ・ガイア!」

 

 2年GKが発動した必殺技により、ボールは岩に弾かれた。

 タッチラインを超えていったので、1軍側のスローインから再開することになる。

 

「はぁはぁ……なんとか間に合った……」

「大丈夫か、パワプロ」

 

 座り込んでいる葉若に、月影は手を差し出した。

 

「やっぱすごいな、ワイバーンクラッシュ」

「その……また怪我をするのが怖くないのか?」

 

 葉若は月影の腕をしっかりと握りこんで、立ち上がる。

 

「怖くないって言ったら嘘になるけど、今の俺にできる最高だからな」

「やはり完治はしていないのか」

 

 そこで会話は途切れて、各々は持ち場についた。

 

(蓮のやつ、また同情しやがって)

(パワプロ、お前はすごい。でも俺たち1軍は負けられないんだ)

 

 スローインからの再開。

 そこでは実力の差が出たのか、野神がボールをキープした。

 

「俺はお前たちの安全に配慮しないぞ」

 

「パワプロ君、このシュートは捨てましょう……え?」

 

 赤袖が少し大きめな声を出したが、葉若と天宮司と紫雨はゴールを守るように立った。

 

「やらせるか! いくぞ!」

「「「スピニングカット!」」」

 

 空中を蹴ることで地面から衝撃波が噴き出し、それが3人分だ。

 シュートブロックの基本技として習得してきたとはいえ。

 

 あくまで付け焼き刃だ。

 

「ワイバーンクラッシュV3!」

 

「フェンス・オブ……ぐぁぁぁ」

 

 合計4人が1本の光線に貫かれるように、吹き飛ばされていく。

 1軍側の得点が入り、これで同点となってしまった。

 

「ちくしょう、すごいシュートだったな」

「ははっ、4人で勝てないなんてな」

「……最近こういうの多い」

 

 1軍側は最初のポジションに戻っていき、その間に2軍側は体制を立て直す。

 

「みんなドンマイ! また1点取り返そうよ!」

「作戦はどうしたんですか」

「いや~、つい身体が動くんだよな」

 

 星村や赤袖、他のメンバーも声を掛けるべく、1度集まってきた。

 

「それで? まだ連携技は解禁しないんだろ?」

「僕たちは引き続き、鬼ごっこしておきますけど」

「はい。後攻残り15分、そこに賭けます」

 

「よしっ、みんな! まだまだ食らいつくぞ!」

「「「おう!!」」」

 

 野神のシュート、月影のドリブル、遠野のディフェンス、暖冬屋のキャッチ。

 どれも全国最高クラスの相手だが。

 

 2軍メンバーの瞳はまだ諦めていなかった。

 

 現在1-1の同点。

 

 

 

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