イナズマイレブン 『王者雷門』のヴィクトリーロード 作:ヒラメもち
その日は晴天で、温かく過ごしやすい日だった。
サッカー部1軍vs2軍の練習試合は、今の雷門中にとっては一種のお祭りのようなものだ。
生徒たちは、全国レベルの試合を自分たちの学校で見ることができる。
そして今日は公開試合ということで、老若男女問わず近所の『サッカー好き』も駆け付ける。高校サッカーやプロに関係するスカウトマンも多数いる。
「ここからじゃ、よく見えないな」
「まっ、試合が始まれば派手になるだろ」
現在の雷門中理事長も、夫や息子を連れて、本校舎の最上階からグラウンドの様子を見ていた。最近の雷門中サッカー部にはキナ臭いことが多い。
FW組の怪我や不調が多発しているのだ。理事長としても、母親としても、心配そうに腕を組んでいた。
「うーん、2軍のみんなやる気満々だねぇ」
「よろしいのですか。もしも2軍が勝利するようなことになれば」
雷門中監督
「ん? 部員同士で切磋琢磨する、いいことじゃないか」
いつも通り優しい笑みを浮かべて頷いた。
目線だけ動かして、理事長室がある方向を一瞥したことには、誰も気づいていなかった。
*****
まるで公式試合かのように、ポジションと選手名と学年を1人ずつ、ギャラリーに放送席から伝えられていた。
すでに選手たちはポジションについていて、各自で軽く身体を動かしている。
当然1軍は雷門らしい黄色いユニフォームで。
対する2軍は引き立て役かのような白いユニフォームだった。
【1軍】
FW 月影 野神
MF 鬼門 ○ ○ ○
DF 遠野 ○ ○ ○
GK 暖冬屋
「今日も練習通りやるぞ!」
「1軍と2軍の実力差を見せてやろう」
「ゴールは任せて、いったれや~!」
【2軍】
FW 嵐 海老原
MF 春日 赤袖 星村 ○ ○
DF 葉若 天宮寺 紫雨
GK ○
「俺たちの特訓の成果を見せるぞ!」
「みんな~! がんばろうね~!」
「これに勝てば1軍入りだって夢じゃないからな!」
主審がサッカーコートの真ん中に立ち、もうすぐ試合が始まりそうになると、選手もギャラリーも静まり返った。
(俺たち1軍は負けないぞ、パワプロ)
(蓮、絶対に勝ってみせるからな)
ホイッスルが鳴り響くと試合開始だ。
2軍の嵐はボールを軽く蹴って、海老原に渡す。
「さあ、サッカー楽しもうぜ!」
「ッ!? 後方にボールを!?」
試合開始と同時に、2軍チームはボールを後方に回していく。
その先にはDFである葉若がいて、ドリブルで突き進んだ彼はボールを天高く蹴り上げた。
そして本人も炎を纏って回転しながら空中に上昇していく。
蓮たち、1軍攻撃陣は思わず見上げてしまい、思考が停止してしまう。
「何ビビってんのや! ただのこけおどしやろ!」
暖冬屋が大声で叫ぶ前には、1軍守備陣は意識を切り替えて動き始めていた。
「ファイアトルネード!!」
炎を纏ったボールは確かに放たれた。
伝説の必殺シュートにギャラリーが
しかし、1軍守備陣は『どこに打っているんだ』とあちこちからバカにするような声が聞こえ始めていた。
「違う! あれはシュートじゃない! パスだ!」
そんな月影の声が届くのには、少々のタイムラグがあった。
それに気づかされ、慌てて1軍守備陣は各自が別々に、シュートブロックの準備をしたり、2軍FWの守備についたり。
「ちょっ! やめろや! 前が見えんなる!!」
暖冬屋が叫んだ時には、フィールドに風が巻き起こった。
星村がトップスピードで放たれた炎の弾丸を追いかけている。
「マッハウィンド! うりゃあああ!!」
猛ダッシュで加速した勢いのまま、シュートチェインをする。
暖冬屋は咄嗟にシュートに飛びついたが、しかしボールの勢いは止められず、そのままネットに突き刺さった。
「か~~! えぇスピードやったわ、星村のやつ!」
暖冬屋は悔しそうに、しかし楽しそうに拾ったボールを中央に蹴り返す。もっと早く反応できていれば、『熱血パンチ』で止められていたはずだった。
「すまない。あの程度の威力のシュート、普段のお前なら止められたはずだ」
「あの程度て…… まあ先輩たちも油断せんといてください」
暖冬屋がそう言うと、遠野たちは冷静に反省会を始めた。
2軍が楽しそうに喜んでいる姿とはどこか対照的だ。
「月影、あいつは完全に治っていたのか?」
「いえ、まだ完治はしていません。最初から攻撃参加することまでは想定外でした。ですが……」
そこで言葉を区切り、月影や野神も試合再開に向けて準備をする。
2軍も先制点を喜びつつも、気を引き締め直した。
あくまで油断している隙をついただけだ。
そして、1軍側のボールで試合が再開する。
「俺と野神先輩で上がる! 各自、予定通りにマークだ!」
月影はそう指示して、自分自身は敵ゴールに向かう。
「フッ、そういうわけ。フッ、もうこれ以上は攻めさせないぞ」
「
ゴールは暖冬屋に任せて、葉若と大佑と夏生を2人ずつでマークしてくる。
単純な手段ではあるが、データに基づいていて完璧な戦術だ。
まるで必殺タクティクスだ。
「なら、こっちがやることも予定通りだ。必殺タクティクス!」
「何か来るぞ! 警戒しろ!」
鬼門が叫ぶと、あちこちに走っていく3人を追いかけていった。
「パワプロのやつ、今度は何を
「必殺タクティクス『鬼ごっこ』です」
月影が立ち止まってから思わず呟くと、その疑問には彼をマークしていた赤袖が答えた。
雷門中1軍の特徴は、圧倒的な個人技に依存している。
そしてデータに基づいて、相手の有力選手は活躍させないように動く、それが基本戦術だ。
「だが、あれでは消耗するだけだ」
「そうでしょうね」
2軍の3人が陣形をかき乱して、1軍の6人の体力が消耗する。
確かに真正面から勝負すれば、暖冬屋に他の2軍選手では勝ち目がない。
しかしこの戦術は、理にかなっていることに月影は気づいた。
なぜなら今の雷門中1軍も決定力不足で、現在は1点差であるからだ。
もし葉若たちの体力がモンスター級ならば、このままタイムアップまで逃げられる。
「野神先輩! 俺はボール運びに戻ります!」
「どうした! こっちまでパスを繋げ!」
指揮系統のズレ、そのため2人のそんな指示が重なった。
その隙をついて赤袖はジェスチャーで、とあるメンバーに指示を出す。
「ポジションがまさしく変幻自在やな。だが、こっちから丸見えや。紫のやつが狙ってきてるで!」
暖冬屋が全体を見渡して、そう叫んだ。
「強めにいきますか……」
スライディングでボールを奪取したのは、まだ1年MFの春日だった。
「オーロラドリブル」
すかさずドリブルの必殺技によって、幻想的なオーロラに包まれた1軍の守備を超えていく。
しかし遠野たちはそれを追いかけようとはしない。
「そのルートを通ることは、俺たちの計算通りだ」
「……強めにやってみますが」
春日が周囲を見渡して、自分でシュート体制に入った。
あらかじめシュートチャンスがあれば、全員で狙う方針にしていたから。
「まっ、1軍相手にようやっとるけど、ここまでや」
いとも簡単に暖冬屋は、片手でそのシュートを受け止める。
そして『いったれやーー!!』と叫びながら、腕をフルスイングさせた。
まるで野球の剛速球かのように、ボールは真っすぐに月影まで届いた。
赤袖は2軍守備陣に指示を出して、自分自身も防衛に向かう。
「プレストターンV2!」
軽いリフティング、左右にフェイント、一気に抜き去る。
月影はその動作を高速で行うドリブル技を使った。
「……やはり野神先輩はマークされているか」
月影は呟いて苦い表情をする。
他校との練習試合でもそうだったように、今の1軍で安定しているストライカーは彼1人だけだ。
だから月影はボールを空中に一度蹴り上げた。
空中を舞うのは、ドラゴンから進化したワイバーンで。
「俺が仕掛ける! ワイバーンクラッシュ!!」
そこに走りこんできたのは葉若だった。
シュートブロックの体制、しかもゴッドハンドのオーラを身体に纏っている。
「メガトンヘッド!!」
その必殺技で真正面からヘディングの要領で突っ込んだ。
「くっ………ぐわぁ!?!?」
しかし拳のオーラが砕かれて、彼の身体は吹き飛んでしまう。
勢いは止まらず、ゴールに向かっていく。
「だが威力は弱まった! フェンス・オブ・ガイア!」
2年GKが発動した必殺技により、ボールは岩に弾かれた。
タッチラインを超えていったので、1軍側のスローインから再開することになる。
「はぁはぁ……なんとか間に合った……」
「大丈夫か、パワプロ」
座り込んでいる葉若に、月影は手を差し出した。
「やっぱすごいな、ワイバーンクラッシュ」
「その……また怪我をするのが怖くないのか?」
葉若は月影の腕をしっかりと握りこんで、立ち上がる。
「怖くないって言ったら嘘になるけど、今の俺にできる最高だからな」
「やはり完治はしていないのか」
そこで会話は途切れて、各々は持ち場についた。
(蓮のやつ、また同情しやがって)
(パワプロ、お前はすごい。でも俺たち1軍は負けられないんだ)
スローインからの再開。
そこでは実力の差が出たのか、野神がボールをキープした。
「俺はお前たちの安全に配慮しないぞ」
「パワプロ君、このシュートは捨てましょう……え?」
赤袖が少し大きめな声を出したが、葉若と天宮司と紫雨はゴールを守るように立った。
「やらせるか! いくぞ!」
「「「スピニングカット!」」」
空中を蹴ることで地面から衝撃波が噴き出し、それが3人分だ。
シュートブロックの基本技として習得してきたとはいえ。
あくまで付け焼き刃だ。
「ワイバーンクラッシュV3!」
「フェンス・オブ……ぐぁぁぁ」
合計4人が1本の光線に貫かれるように、吹き飛ばされていく。
1軍側の得点が入り、これで同点となってしまった。
「ちくしょう、すごいシュートだったな」
「ははっ、4人で勝てないなんてな」
「……最近こういうの多い」
1軍側は最初のポジションに戻っていき、その間に2軍側は体制を立て直す。
「みんなドンマイ! また1点取り返そうよ!」
「作戦はどうしたんですか」
「いや~、つい身体が動くんだよな」
星村や赤袖、他のメンバーも声を掛けるべく、1度集まってきた。
「それで? まだ連携技は解禁しないんだろ?」
「僕たちは引き続き、鬼ごっこしておきますけど」
「はい。後攻残り15分、そこに賭けます」
「よしっ、みんな! まだまだ食らいつくぞ!」
「「「おう!!」」」
野神のシュート、月影のドリブル、遠野のディフェンス、暖冬屋のキャッチ。
どれも全国最高クラスの相手だが。
2軍メンバーの瞳はまだ諦めていなかった。
現在1-1の同点。