新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任す ~なお地球には既に優秀な防衛チームが配備されてるので大して役には立たない模様~ 作:よよよーよ・だーだだ
あれからボクはずっと考えていた。
“ナガレヤマ=ホタルとして頑張る”って、どうしたらいいんだろう?
考えれば考えるほど、答えは見えてこなかった。
ウルトラマンとしてのボクなら、やることは明確だ。怪獣が現れたら変身して、超パワーで戦って、必殺技で倒す。それだけだ。シンプルで、わかりやすい。
だけど防衛チーム隊員としてのボクは? 何をすればいいのかさえ、よくわからない。
そんな中、今日もボクは隊長から指令を受けた。
「アースガロンの日常点検とメンテナンス作業、あなたに任せるわ」
「……え?」
隊長の言葉に、ボクは思わず聞き返してしまった。
「アースガロンの、メンテナンス……ですか?」
「ええ。こないだのアルギュロス戦でアースガロンにもそれなりに負荷がかかってるはずだし、定期点検の時期でもあるの。整備班の人手が足りないから、サポートに回ってちょうだい」
隊長はそう言って、タブレットをボクに渡した。画面には点検項目のチェックリストが表示されている。
「別に難しいことじゃないわ。外装の損傷チェック、関節部の動作確認、冷却システムの点検……まあ、基本的な項目だけよ。詳しいことは整備班の人が教えてくれるから」
「は、はい……」
……アースガロンのメンテナンス。つまり、あの巨大ロボの世話係ってことか。
ボクの複雑な表情を見て、隊長は少し厳しい口調で言った。
「……不服そうな顔してるわね」
「い、いえ、そんなことは……」
「でも、これも立派な任務よ。アースガロンは防衛チームの要、最重要装備なんだから」
それにね、と隊長は続けた。
「ナガレヤマ隊員、あなたはアースガロンのことをちゃんと理解してる? あれがどういう仕組みで動いているのか、どんな装備を持っているのか、どういう戦術を取るのか。知ってる?」
「えっと……」
「知らないでしょ。でも、それじゃダメ。あなたが防衛チームの一員として戦うなら、味方の装備を理解してなきゃ連携なんてできない。だから、まずはアースガロンを知りなさい」
……味方の装備を理解する、か。
たしかに隊長の言うとおり、ボクはアースガロンのことをほとんど知らない。知っていることと言えば教本で読んだ程度のことで、ただ「強力なロボット怪獣」くらいにしか思っていなかった。
隊長の言葉に、ボクは頷くしかなかった。
「……了解しました」
「よろしい。じゃ、行ってらっしゃい」
防衛チーム基地の地下深く、巨大な格納庫がある。
厚い装甲の扉が開くと、そこには全高60メートルの巨体が鎮座していた。
「……アースガロン」
青い装甲にオレンジのアクセント。ドラゴンを模したフォルム。戦闘時に見る勇ましい姿とは違い、今は静かに佇んでいる。まるで眠っている竜のようだ。
格納庫には整備班の隊員が数名いて、それぞれの持ち場で作業をしていた。その中の一人、ベテランらしい隊員がボクに声をかけてきた。
「ああ、新人のナガレヤマ隊員だね。ミネ隊長から聞いてるよ。じゃあ、まずは外装チェックからお願いできるかな」
「は、はい!」
ボクは作業用のリフトに乗り、アースガロンの外装を間近で見ることになった。
……近くで見ると、本当に巨大だ。
そしてよく見ると、表面には無数の細かい傷がある。戦闘の痕だ。コッヴとの戦い、メザードとの戦い、ガンQとの戦い、そして先日のアルギュロス戦……アースガロンは毎回、最前線で戦ってきた。
「装甲にひび割れや深い損傷がないか、目視で確認してくれ。それと、センサー類が正常に動作してるかもチェックしてね」
「は、はいっ……」
整備班の隊員に言われるまま、ボクは一つ一つ点検していく。
タブレットのチェックリストに沿って、肩部装甲、胸部センサー、腕部関節……単調な作業だったけれど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、アースガロンという「機械」の精密さに驚いていた。一つ一つのパーツが完璧に組み合わさり、システムとして機能している。人間の、いや地球人の技術の結晶だ。
「……凄いな」
素直に感嘆してしまう。そして、ふと気づく。
アースガロンの胸部装甲には、小さな傷があった。それはこないだの戦闘でついたものじゃない。もっと古い、もしかしたらガンQ戦のときについたものかもしれない。
……この傷はボクを守るためについた傷だ。
あのとき、アースガロンはガンQの攻撃を真正面から受け止めた。もしアースガロンがいなかったら、あの攻撃はボクに直撃していた。
「……君も、大変だったんだな」
思わず独り言を呟きながら、ボクはアースガロンの装甲に触れていた。
……ボクは何もできなかったのに、アースガロンはずっと戦っていた。メザードのときも、ガンQのときも、アルギュロスのときも。ずっと。
そのとき、チェックリストの次の項目に目が行った。
『EGOISS応答確認』
……あ、そうか。こっちの動作チェックもしなきゃいけないんだ。
「えっと……」
ボクはメンテナンスハッチからコックピットに乗り込み、タブレットの説明を読みながら操作を続けた。どうやらヘッドセットを通じてEGOISSと通信し、正常に応答するか確認するらしい。
ボクはヘッドセットをつけ、アースガロンのAIに話し掛けた。
「……あー、もしもし? 聞こえてますか、えっと……アースガロン? 応答確認のテストです」
数秒の沈黙。
……あれ、壊れてる? それとも、ボクの操作が間違ってる?
不安になりかけたその時、ようやくヘッドセットから声が返ってきた。
「……はい、こちらEGOISS、アースガロンです。お疲れ様です、ナガレヤマ=ホタル隊員」
丁寧で、穏やかな声だった。機械的ではあるけれど、どこか温かみがある。
「あ、よかった、えっと、じゃあ、応答テストは完了ってことで……」
「少しお待ちください」
「え?」
ボクがチェックリストにチェックを入れてコックピットから降りようとしたとき、AIから呼び止められた。
「ナガレヤマ=ホタル隊員、先ほど「君も大変だったんだな」とおっしゃいましたね」
「あ……」
……聞かれてた。独り言だったのに。
恥ずかしくなって、ボクは慌てて言い訳した。
「あ、いや、ごめん、その、独り言で……別に、深い意味は……」
「いえいえ、謝っていただく必要はありません。むしろ、とても嬉しく思いました。この人はワタシを仲間だと思っていらっしゃるのだな、と」
AIであるはずのアースガロンの声は、どこか不思議な響きを持っていた。なんだろう、すごい人間臭い。
だからつい訊ねてしまった。
「あの……君って、その、AIなんだよね? でも、なんだかすごく……人間みたいに喋るんだね」
ボクからの不躾な質問にも、アースガロンは丁寧に答えてくれた。
「ありがとうございます。ワタシは学習型の統括制御システムですので、戦闘データだけでなく、コミュニケーションについても日々学習しています。お気軽に、アーくんと呼んでくださいね」
「あ、アーくんって……」
「ご存じなかったのですか? チームの皆さん、そう呼んでくれますよ?」
「そ、そうなんだ……」
皆そんな風に呼んでるんだ……知らなかった。
ボクが感心していると、アースガロンは「ところで、」と切り出した。
「実はナガレヤマ隊員、ワタシからもあなたにひとつお聞きしたいことがあるのですが……よろしいでしょうか?」
う、うん。どうぞ。
ボクが頷くと、アースガロンはこう問い掛けた。
「ナガレヤマ隊員は……ウルトラマンですよね?」
ボクは思わず息を呑んだ。
「な、なんで……」
「ガンQ戦のあと、ミネ=アンナ隊長とシルフィア=バルタニア科学技術担当から録画データの提出を求められました。そこからの推測です」
そうか。そういえばボクの正体がバレる証拠になった録画映像は、アースガロンの主観カメラから撮られたものだった。
ってことは、つまり……?
「まさか、君が隊長たちに告げ口を……?」
「いいえ」
ボクはつい問い詰めてしまったのだが、アースガロンは冷静に答えた。
「たしかにワタシの録画データが証拠になったのかもしれません。しかし、隊長と科学技術担当は最初からあなたの正体を見抜いていましたよ。ワタシは御二人からの求めに応じて、録画データを提出しただけです」
「そ、そうなんだ……」
「隊員の皆さんのプライバシーに関してワタシは、人命や作戦行動に支障がない限り最大限尊重するようにプログラムされています。ナガレヤマ隊員、あなたの正体についても同様です。任務に支障がないかぎり、秘密はちゃんと守ります」
……そっか、そうだよね。
言われてみればそうだ。アースガロンが自分から密告したりするわけがない。
ようやく納得できたボクだけれど、なんでだろう、アースガロンの方はというとむしろ却って腑に落ちない様子だった。
「……怒らないのですか?」
「え?」
ボクが顔を上げると、今度はアースガロンがボクに訊ねた。
「たしかに正体を隠していたのはナガレヤマ隊員、あなたです。しかしそうだとしても、その証拠を提出したワタシを恨んで怒りをぶつけてしまうのが当然の心理だと思います。ナガレヤマ隊員、あなたは怒らないのですか?」
……ああ、なるほど。
ボクに訊ねるアースガロンの様子は相変わらず鋼鉄の巨大ロボットだったけれど、合成音声であるはずの声色は、なぜか申し訳なさそうな雰囲気に感じられたんだ。
ボクは素直に答えた。
「……しょうがないよ、君はロボットだもの。君は言われたとおりの役割を果たしただけ、君は何も悪くない。ボクが恨む筋合いなんかどこにもないさ」
「はあ、そういうものなのですか?」
「それに、最初に尻尾を掴まれちゃったのも、そして偽装工作が見破られたのも結局ボクの手抜かりだ。隊長たちにあんな小細工で誤魔化せると思ってた、ボクの見込みが甘かったんだよ」
「……なるほど」
アースガロンは少し間を置いてから、さらに訊ねた。
「ナガレヤマ隊員、もうひとつ訊ねてもよろしいでしょうか」
「いいけど、なにを?」
「はい。ナガレヤマ隊員、あなたとワタシの関係について、です」
ヘッドセットから聞こえてくる声は相変わらず穏やかだったけれど、どこか躊躇うような、言いにくそうな響きが混じっているような気がした。
そんなアースガロンの様子に、ボクは少し緊張した。何を言われるんだろう。
「戦闘データを解析する中で、推測したことがあります。コッヴ戦、メザード戦、そしてガンQ戦……ワタシが出動したこれまでの戦闘において、あなたはいくどか変身のタイミングを窺っていましたね?」
「……っ」
図星を突かれて、ボクは言葉に詰まった。タブレットを握る指先に、無意識に力が入っていた。
アースガロンは続けた。
「特にガンQ戦では、ワタシたちの作戦が行き詰まったタイミングで変身されました。あれは『ワタシたちだけでは無理だ』と判断されたからですよね?」
「そ、それは……」
「ワタシは学習型AIとして、人間の心理についても日々学んでいます。そしてあなたの行動パターンから、ひとつの仮説を立てました」
アースガロンの声は責めるような調子ではない。ただ、事実を確認しているだけだ。だけど、それがかえって辛かった。優しく問い詰められることほど、苦しいものはない。
そしてアースガロンは言った。
「ナガレヤマ隊員、あなたは……ワタシのことが嫌いなのではないでしょうか?」
その問いかけに、ボクは思わず目を見開いた。
そんなボクの様子を見てか、アースガロンはさらに言う。
「いえ、『嫌い』という表現は正確ではないかもしれません。ただ、ワタシの存在が、あなたにとって何か不都合なのではないかと」
そう付け加えるアースガロンの声は、どこか申し訳なさそうだった。
……嫌い、か。ボクは、本当はどう思っているんだろう。この巨大なロボットを、ボクはどう見ているんだろう。
ボクは少し考えてから、正直に答えた。
「……わからない。嫌いってわけじゃ、ないと思う。でも……」
「でも?」
声が震える。自分の本音を口にすることが、こんなにも怖いなんて。
「でも、君を見てると……ボクが要らない気がしてくるんだ」
「…………。」
沈黙が流れる。アースガロンは何も言わなかった。
ボクは慌てて付け加えた。
「あ、いや、その、君が悪いってわけじゃなくて……君はちゃんと仕事してるし、強いし、皆を守ってるし……だから、その……」
言葉が上手くまとまらない。ボクは自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。
やがて再び沈黙が続いた。もしかしてアースガロンを傷つけてしまったんじゃないだろうか。せっかく「仲間だ」なんて言ってくれたのに。
「あの、ごめん……さっきのは……」
「いいえ」
謝ろうとしたその時、アースガロンが口をはさんだ。
「正直に話してくださって、ありがとうございます」
「え……?」
予想外の言葉に、ボクは顔を上げた。ヘッドセットから聞こえてくる声は、穏やかで、どこか安堵しているようにさえ聞こえた。
アースガロンは言った。
「ワタシは学習型AIとして、データからしか物事を判断できません。でも、今あなたが話してくださったことは、どんなデータよりも価値のある情報でした」
コックピットの計器類が、静かに明滅している。その光の中で、ボクはただアースガロンの言葉を聞いていた。
「あなたは『ボクが要らない気がしてくる』とおっしゃいました。それは……ワタシが活躍することで、あなたの存在意義が脅かされると感じているということですね」
「う、うん……そう、なのかも」
ボクは小さく頷いた。認めるのは辛かったけれど、それが現実だった。
ところが、アースガロンは思いもよらないことを言った。
「実は、ワタシも同じことを考えていました」
「え……?」
ボクが目を見開く中、アースガロンは語り続けた。
「ワタシは、前のウルトラマンがこの星を去ったあと、その『後継』として開発されました。ウルトラマンという絶対的な守護者を失った地球。その穴を埋めるために、人類が総力を挙げて作り上げた特殊戦術機甲獣。それがワタシ:アースガロンです」
ボクは息を呑んだ。アースガロンの開発に、そんな経緯があったなんて。
「だから、ナガレヤマ隊員がウルトラマンだとわかったとき……ワタシのシステムは、ずっと考えていました。ワタシの存在意義は『ウルトラマンがいないこと』が前提になっている。では、ウルトラマンが再び現れたら……ワタシはもう、必要なくなるのではないか、と」
その言葉を聞いた瞬間、ボクの胸が締め付けられた。
……同じだ。アースガロンも、ボクとまったく同じことを考えていたんだ。
「でも……でも、君は凄いじゃないか!」
ボクは思わず叫んでいた。
「君はコッヴを倒したし、メザードも倒したし、ガンQやアルギュロスだって最後は君が倒したじゃないか! 君がいなかったら、街は、人々は、守れなかったんだよ!」
なぜだろう、涙声になっているのを自分でも感じた。でも、止められなかった。胸の奥から、何かが込み上げてくる。
「それなのに、どうして君が『必要ない』なんて思わなきゃいけないんだよ! 君は、君は……」
「……ありがとうございます」
ボクの言葉が詰まる中、ヘッドセットの中でアースガロンの声が温かく響いた。
「でも、それはあなたも同じです。ナガレヤマ隊員、あなたも防衛チームの一員として役目を果たしています」
「あ……」
アースガロンの声が、淡々と続く。でも、その淡々とした調子の中に、何か特別なものを感じた。
「ワタシはワタシにできることをする。あなたはあなたにできることをする。それぞれが自分の役割を果たすことで、チーム全体が上手く機能する。それが、チームワークというものではないでしょうか」
「…………。」
ボクは深呼吸をした。冷たい空気が肺に入り込み、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「……君も悩んでたんだね、ずっと」
「……ええ」
そう答えるアースガロンの表情に、わずかな「照れ」のようなものを感じた気がした。いや、ロボット怪獣に表情はないのだからそれは錯覚かもしれない。でも、なんだかそんな気がした。
「ナガレヤマ隊員。一つだけ、お願いがあります」
さらにアースガロンは、少しだけ躊躇うような間を置いてから言った。
「次に戦うときは、一緒に戦えたら嬉しいです。あなたがウルトラマンとして変身するときが来たら、ワタシもあなたと共に戦いたい」
「でも、ボクは変身禁止令を……」
「いいえ、そういう意味ではありません」
隊長からの命令が脳裏をよぎったけど、アースガロンは優しく遮った。
「"ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、どうにもこうにもならない"、そんなときが来たら。そのときは、あなたの力を貸してください。でもそれまでは、一緒に防衛チームの仲間として、頑張りましょう」
「…………!」
その言葉を聞いた瞬間、ボクの中で何かが弾けた。
胸の奥に溜まっていたモヤモヤが、少しずつ晴れていくような感覚。それは完全に消えたわけじゃない。まだ不安も迷いもある。だけど、前よりも軽くなった気がした。
「……うん」
ボクは頷いた。涙声になっているのを自分でも感じたけれど、もう隠さなかった。
「わかった。一緒に、頑張ろう」
コックピットの薄暗がりの中で、ボクは目を擦った。指先が濡れている。いつの間にか、涙が溢れていた。でも、それは悲しい涙じゃなかった。
「……ありがとうございます、ナガレヤマ隊員」
アースガロンの声が響いた。機械的な声なのに、確かに何か温かいものを感じた。
「ワタシも、あなたと一緒に戦えることを……そうですね、楽しみにしています。『代わり』としてではなく、戦友として」
ボクは深呼吸をした。そして、改めてアースガロンのコックピットを見回した。
無数の計器類、精密に組み合わさったシステム、そして……この巨体を動かすために、どれだけの人々が関わってきたのだろう。設計した人、組み立てた人、整備する人、操縦する人。
アースガロンは「ウルトラマンの代わり」として作られたのかもしれない。でも今は、たくさんの人々の想いが込められた、かけがえのない仲間だ。
そして……ボクも、その一部になれるんだ。
ボクは立ち上がり、タブレットのチェックリストを確認した。まだまだやることはたくさんある。
「じゃあ、残りの点検、しっかりやらなきゃね。“アーくん”」
「はい。お願いします、ナガレヤマ隊員!」
そのとき、遠くから整備班の隊員が声をかけてきた。
「ナガレヤマ隊員ー! 次は関節部の点検お願いしまーす!」
「あ、はい! 今行きます!」
ボクは慌てて返事をして、コックピットから降りた。
……お互いに、相手がいるから自分が不要だと思っていた。
でも、違った。
お互いに、相手がいるから自分も必要なんだ。そんなふうに思えた。
それからというもの、ボクはどうしたらいいかなんとなく見えてきたような気がした。
ウルトラマンとして怪獣を倒すんじゃない。防衛チームの一員として、ナガレヤマ=ホタルとして、自分にできることをやる。それがボクの役割なんだ。
……とはいえ、具体的に何をすればいいのかはまだよくわからなかった。だから、とにかく目の前のことを一つずつこなしていくしかない。 そんなボクに、隊長が新しい任務を言い渡した。
「ナガレヤマ隊員、アースガロンの操縦訓練を受けてもらうわ」
「操縦……ですか?」
アースガロンを、ボクが操縦するの?
思わず聞き返してしまうボクに隊長が答えてくれた。
「正確には副操縦士としての訓練ね。いざというとき、正規パイロットのサポートができるようにしておいてほしいの」
隊長はタブレットを操作しながら続けた。
「アースガロンには高度なAIが搭載されているとはいえ、複雑な戦況判断や細かい操作には人間の補助が必要になる。特に緊急時にはね。あなたもメンテナンスでアースガロンの構造を理解してきたんだし、次は実際の操作を覚えなさい」
「は、はい……!」
アースガロンの訓練用シミュレーターは、基地の地下訓練施設にあった。
そこには実物大のアースガロンのコックピットが再現されていて、全方位モニターには仮想の街並みが映し出されている。本物のコックピットとまったく同じ操作パネル、計器類、そして操縦桿。
「すごいな、これ……」
感心しながら操縦席に座ると、ヘッドセットから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……ナガレヤマ隊員、お疲れ様です。本日の訓練を開始します」
「あ、アーくん!」
シミュレーターにもアースガロンのAI、EGOISSが接続されているようだ。その声を聞いて、ボクは少しだけ緊張が和らいだ。
アースガロンによるイントロダクションが始まった。
「今日は基本的な移動操作から始めましょう。まずは前進です。右手の操縦桿を、ゆっくり前に倒してください」
「わ、わかった……」
ボクは言われた通り、慎重に操縦桿を前に倒した。
モニターの中で、視点がゆっくりと前に進み始める。画面の中のアースガロンが歩き出した。
「お、おお……! 動いた……!」
「はい、よくできました。では次に、左に旋回してみましょう。左手のサブスティックを左に倒してください」
「う、うん……」
ボクは左手のスティックを操作した。
その瞬間、急激な揺れと共に、警告音が鳴り響いた。モニターの中で、アースガロンが建物に激突している。
「あわわわっ!?」
「ナガレヤマ隊員、操作が急すぎます! もっとゆっくり、優しく操作してください」
アースガロンの声は落ち着いていたけれど、ボクの方はパニックだった。慌てて操縦桿を戻そうとして、今度は逆方向に倒しすぎてしまう。
そうこうしているうちに反対側の建物にも激突。シミュレーション画面に【DAMAGE】の文字が点滅する。
「あ、あああ……ごめん、ごめんっ……!」
「大丈夫です、落ち着いて。深呼吸しましょう……」
……とまあ、こんな感じで最初の一週間は散々だった。
「うわっ、また転んだ!」
バランスを崩して転倒するアースガロン。モニターには無残に倒れた巨体が映し出される。
「関節の動きを意識してください。人間が歩くのと同じように、重心移動が大切です」
「そんなこと言われても、むずかしいよ……ボクの身体より何十倍も大きいのに、どうやって感覚を掴めばいいのさ」
「大丈夫です。ワタシがサポートします。まずは右足を上げて……はい、そのまま体重を左足に乗せて……そう、いい感じです……次に右足を前に出して……」
最初は基本的な移動操作すら上手くできず、何度も何度も失敗を繰り返した。転倒する、壁にぶつかる、バランスを崩す。
でもアースガロンは決して責めることなく、丁寧に指導してくれた。
「あーっ! またぶつけた!」
「今のは前回より0.5秒早く回避行動に入れていました。確実に上達していますよ」
「でも、結局失敗しちゃったじゃん……」
「ええ、でも『以前より良くなっている』というのは重要なデータです。成長は一歩ずつですから」
……そうだよね。すぐに完璧にできるわけじゃない。少しずつでも、前に進んでいればいいんだ。
「……もう一回、やらせて」
「はい、何度でも。一緒に頑張りましょう」
そして一ヶ月後。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
シミュレーターでの模擬戦闘訓練を終えて、ボクは息を切らしていた。モニターに結果が表示される。
【模擬戦闘成績:B+】
【命中率:73%】
【被弾回避率:81%】
【総合評価:良好】
やった……!
思わずガッツポーズをとると、アースガロンが祝福してくれた。
「お見事です、ナガレヤマ隊員。一ヶ月前のあなたからは想像もできない上達ぶりです」
「これも、アーくんが教えてくれたおかげだよ。ありがとう、アーくん」
「いいえ、ワタシは指示を出しただけです。実際に操作して、学んで、成長したのはあなた自身ですよ」
その言葉を聞いて、ボクの胸が熱くなった。
……そうか。ボクは、ちゃんと成長してるんだ。ウルトラマンとしてじゃなく、防衛チーム隊員として。
それから数日後。チームの緊急招集を受け、ボクは作戦会議室へ向かった。
そこには隊長をはじめ、防衛チームの主要な隊員たちが集まっていた。
「……何かあったんですか?」
ボクの問いかけに、隊長は大型モニターを指差した。
「……15分前、気象庁と宇宙観測センターから緊急連絡が入ったわ。東シナ海上空で、季節外れの超大型台風が突如発生した」
モニターに映し出されたのは、気象衛星が捉えた台風の映像だった。
……だけど、それは普通の台風じゃなかった。
ボクは思わず息を呑んだ。
画面に映る台風は、あまりにも巨大すぎた。渦の直径は通常の台風の倍以上、いや三倍近くあるように見える。雲の渦が恐ろしいほどくっきりと形作られていて、まるで巨大な生き物が蠢いているかのようだ。
「中心気圧は850ヘクトパスカル、最大風速は秒速80メートル以上。観測史上最大級よ」
隊長の言葉に、会議室がざわめいた。
「850だって!?」
「秒速80メートルって、もはや竜巻じゃないか……!」
「こんな台風、ありえない……」
隊員たちの声が重なる中、隊長が冷静に分析結果を読み上げた。
「しかも問題はそれだけじゃない。気象庁の分析によれば、この台風の発生過程は明らかに自然現象の範疇を超えているの」
隊長がタブレットを操作すると、モニターに気象データのグラフが表示される。
「通常、台風は海水温が高い海域で数日かけて発達する。だがこの台風は……突如として、ほぼ完成された状態で出現した。発生から現在まで、わずか30分よ」
「30分……!?」
「ええ。気象学的にありえない。これは明らかに『人為的』、いや『人為的』ですらない。もっと高度な技術による『作られた台風』」
それに、と隊長が厳しい表情で続けた。
「進路も異常よ。見て」
画面が切り替わり、台風の予想進路図が表示される。
その進路はまっすぐ、一直線に日本列島を目指していた。自然の台風のように蛇行することもなく、まるで意志を持っているかのように。
隊員の一人が呻くように言った。
「まるで……狙い撃ちだ……」
その通りだった。この台風は『意図的に』この国を、この都市を狙って向かってきている。
……また、『あいつら』だ。コッヴ、メザード、ガンQ、アルギュロス……そして今度は自然災害を武器にしてきたのだ。
「接近速度から計算すると、上陸までの猶予は24時間。もし上陸を許せば……」
「被害予測は……」
「……想像したくもないわ」
隊長は再びモニターを見た。
「そして、問題はこれだけじゃない。気象衛星の高解像度カメラが捉えた映像がある。これを見て」
画面が再び切り替わる。
今度映ったのは台風の目。その中心部を拡大した映像だった。
超巨大台風の目は、直径50キロメートルほどの巨大な空洞。普通なら穏やかな青空が見えるはずのその空間には、巨大な影があった。
雲の渦の中心、台風の目のど真ん中に浮遊する、明らかに人工物と思しき巨大なシルエット。全高は少なくとも40メートル以上。古代の銅鐸を思わせる、禍々しい形状。
これは、ひょっとして……
「ロボット怪獣……!?」
「ええ」
隊長は続けた。
「レジストコードは〈自然コントロールマシーン テンカイ〉。科学技術担当のレポートによれば、こいつが台風を操っているらしいわ。こいつが台風の目の中心に陣取っている限り、こちらからの攻撃は全て暴風に阻まれる。ミサイルは軌道を逸らされ、ビームは拡散され、航空機は接近すらできない」
「じゃあ、アースガロンは……?」
ボクが思わず訊ねると、隊長は首を横に振った。
「アースガロンのアースファイアでさえ、おそらく届かない。秒速80メートルの暴風は、荷電粒子の軌道すら曲げてしまうでしょうね。そして接近戦は論外。アースガロンが台風の外縁に近づいた瞬間、機体が暴風に巻き込まれて制御不能になる」
つまり、手も足も出ない。
そういうことだった。
「このままでは……」
若手隊員の一人が、絶望的な声で呟いた。
「防衛チームの総力を挙げても、あの台風を止められない。そして24時間後、この国は……」
会議室に、重苦しい沈黙が流れた。
誰も彼も、俯いている。隊長でさえ、厳しい表情で腕を組んだまま何も言わない。
……ダメだ。こんなところで諦めちゃダメだ。
ボクは必死に考えた。何か方法があるはずだ。テンカイを倒す方法が、台風を止める方法が――
そのとき、ボクの頭の中で何かが繋がった。
台風。気象制御。熱帯低気圧。エネルギー極性反転システム。ガンQ戦での経験。熱力学。アースガロンとの訓練で得た操縦技術――
それらが、パズルのピースのように、一つに繋がった。
「……あ」
小さく声が漏れた。
もしかしたら。
「……あ、あの!」
気づいたら、ボクは立ち上がって声を上げていた。
会議室の全員が、一斉にボクを見た。驚いた顔、怪訝な顔、期待する顔――様々な表情がボクに向けられる。
隊長が、真剣な眼差しでボクを見つめた。
「……ナガレヤマ隊員、何か?」
ボクは唾を飲み込んだ。喉がカラカラだ。心臓がドキドキと鳴っている。
でも、言わなきゃ。今、ここで。
「あの、もしかしたら……テンカイを倒す方法を、思いついたかもしれません」
その言葉に、会議室がざわめいた。
「本当か!?」
「ナガレヤマ隊員が……?」
「どんな方法だ!?」
隊員たちの声が重なり、隊長がボクをまっすぐ見つめて訊ねた。
「……説明してちょうだい」
《center》◆ ( ノo
12時間後。
改造されたエネルギー極性反転システムがアースガロンに搭載され、全ての準備が整った。
「システムチェック、オールグリーン……」
操縦席で、正規パイロットを務める〈スカガワ隊員〉から声を掛けられる。スカガワ隊員は四十代前半の落ち着いた男の人。防衛チーム歴十年以上のベテランパイロットで、アースガロンの正規パイロットだ。
そして副操縦席には、ボクが座っていた。
「ナガレヤマ隊員、準備はいいか」
「は、はい!」
スカガワ隊員の落ち着いた声に、ボクは少し緊張しながら答えた。
アースガロンの副操縦士として、初めての実戦だ。ボクが頭を下げると、スカガワ隊員は笑って肩を叩いた。
「……まあ、気楽にやれよ。初めてだしな」
「は、はい……!」
スカガワ隊員は、ボクが防衛チームに配属されてから何度も訓練に付き合ってくれた先輩だ。厳しいけれど、的確な指導をしてくれる。そして何より――
「EGOISS、調子はどうだ」
「良好です、スカガワ隊員。いつでも出撃できます」
「よし。今日も頼むぞ、相棒」
――アースガロンを、誰よりも大切にしている人だ。スカガワ隊員がアースガロンを「相棒」と呼ぶとき、その声には特別な温かみがある。
続いて装着したヘッドセット。ヘッドホンから、アースガロンの声が聞こえる。
「……ナガレヤマ隊員、あなたの作戦、信じています」
「……うん。一緒に、頑張ろう、アーくん」
同時に、通信回線から隊長の声が響いた。
「アースガロン、出撃!」
「了解! アースガロン、出撃します!」
格納庫のハッチが開き、飛行用のMod.3ユニットを搭載した〈アースガロンMod.3〉が飛び立つ。
眼下には日本列島が見える。そして遥か彼方には、巨大な雲の渦……テンカイによる超大型台風が迫っていた。
モニターに映る光景は、まさに地獄絵図だった。黒い雲が渦を巻き、稲妻が走り、風が唸りを上げている。
「いよいよだぞ……ナガレヤマ隊員、ルート計算を!」
「わかった……!」
スカガワ隊員から促され、ボクは必死にデータを読み取る。風速、風向、気圧配置、センサーが観測したすべてのデータが画面に表示される。
台風の中には複雑な気流がある。でも最適なルートを計算すれば、比較的安全な経路で台風の目まで到達できるはずだ。
地球にやってきてから学んだ気象学、この一ヶ月の訓練……そのすべてを今ここで使う。
「現在位置、北緯30度42分、東経128度15分……風速データ読み取り……次の安全ルートは……右に15度旋回! そのあと上昇、高度500メートル!」
「了解!」
アースガロンが機敏に動く。ボクの計算通り、比較的穏やかな気流の中を進んでゆく。
だが、それも束の間だった。突然、激しい乱気流に巻き込まれた。
「うわああっ! 揺れが激しいっ!」
「落ち着け、ナガレヤマ隊員! 次のルートを!」
画面に表示されるデータが激しく変動する。風速が急上昇している。このままじゃ……
〈落ち着きなさい。深呼吸よ〉
隊長の声が通信で聞こえた。
〈あなたは訓練でできてた。本番でもできる。信じなさい、自分を〉
「……っ!」
ボクは深呼吸する。そして、冷静に判断する。
風速、風向、気圧……すべてのデータを頭の中で処理する。最適なルートが見える。
「下に急降下! 風を利用して加速、そのまま螺旋飛行!」
「了解!」
スカガワ隊員の操縦で、アースガロンが華麗に回避。乱気流を抜け、次の安全な気流へと移る。
「やった……!」
「さすがです、ナガレヤマ隊員! この調子で行きましょう!」
そして10分後。
激しい暴風を抜けた瞬間、視界が開けた。
「……これが、台風の目……」
そこは嘘のように穏やかだった。青空が見え、風もほとんどない。
そしてその中心に“目標”が浮遊していた。
「あいつが、テンカイ……!」
全高40メートル。その姿は古代の銅鐸を思わせる奇妙な形状をしていた。釣鐘のような本体、その中央部分には篆書体で
異様なのは、その胴体部分に取り付けられた巨大な回転機構だ。スクリュー状の部品が高速で回転し、凄まじい風を巻き起こしている。
まるで巨大な洗濯機みたいだ。
テンカイの巨大なスクリューが、ゴウゴウと音を立てて回転している。その回転が生み出す気流が、台風全体をコントロールしているのだ。
そして――
ゴゴゴゴゴッ……!
テンカイのスクリューが加速した。回転速度が上がり、新たな暴風が生み出される。
……あそこが奴の急所かもしれない。だが攻撃はまだだ。ボクはアースガロンを操作し、次の段取りに移った。
「エネルギー極性反転システム、熱吸収モード、起動します!」
アースガロンの身体から、仄暗い紫色の光が放たれる。
アースガロンの口から、周囲の熱エネルギーを吸収し始める。台風の目の温度が、数値として下がっていくのがモニターで確認できた。
……ボクの立てた作戦は、『テンカイが起こした台風の目に入り込んで、海水温を下げる』というものだ。
テンカイは台風をコントロールしている。でも台風は『熱帯低気圧』、つまり海水温が高いからこそ発生するものだ。台風が通過すると強力な風と渦運動によるアップウェリング効果で海水温が下がり、台風は力を失うことがある。
おそらくテンカイも海水温を操作する機能を持っているのだろうが、何らかの方法で台風の目で海水温を低下させればテンカイの台風も力を失うはずだ。
海水温を下げるには、科学技術担当が開発した『エネルギー極性反転システム』を使わせてもらった。ガンQ戦ではプラスとマイナスのエネルギーを中和するために使ったけれど、同じ原理で『熱エネルギーを吸収する』ようにも出来る。
エネルギー極性反転システムを使って熱を吸収すれば、急速に温度が下がる。そうすればテンカイの台風はエネルギー源を失って崩壊するはずだ。
そして作戦は成功した。
「温度低下、確認! 台風、崩壊を開始!」
「やるじゃねえか、ナガレガワ隊員!」
スカガワ隊員の感嘆する声が届いたとおり、海水温が低下したことで巨大な雲の渦がみるみるうちに解け始めた。
テンカイの『盾』が消えてゆく。
テンカイが怒りと焦燥の咆哮を上げ、スクリューの回転が狂ったように加速するが、もはや台風を維持することはできない。
そしてついに、台風が完全に消滅した。
「台風消滅! テンカイ、完全に無防備です!」
ボクが合図すると同時、隊長の声が通信回線に響き渡った。
〈全部隊、聞こえているわね! 第二段階開始! テンカイへ総攻撃、開始ィーッ!!〉
「了解!」
隊長の号令と共に、待機していた防衛チームの全戦力が一斉に動き出した。
「ジェットファイター第一小隊、攻撃開始!」
「第二小隊も続きます!」
「メーサー艦隊、斉射用意!」
空からはジェットファイターの編隊が、海上からはメーサー砲の大艦隊が、四方八方からテンカイへ攻撃を仕掛ける。
ミサイルが、光線が、砲撃が、次々とテンカイへ叩き込まれる。
盾を失ったテンカイは、防衛チームの猛攻撃を真正面から受けることになった。銅鐸の装甲に無数の爆発が生じる。スクリューが損傷し、回転が乱れる。
「こりゃ俺たちもうかうかしていられねえな!」
「そうですね!」
スカガワ隊員とそう言いあっていたちょうどそのとき、隊長が通信で指示を飛ばす。
〈アースガロン、トドメを刺しなさい!〉
「了解! アースファイア、発射準備!」
スカガワ隊員の操縦で、アースガロンが体勢を整える。そして喉の奥に青白い光が集まり始める、その瞬間。
「ギギギギギッ!!」
テンカイが最後の抵抗とばかりに、損傷したスクリューを狂ったように回転させた。不規則な竜巻が四方八方に放たれ、さらに銅鐸の表面から無数の雷撃が迸る。まるで断末魔の悪あがき、死に物狂いの反撃だ。
刹那、ボクは分析する。
「……見えたっ!」
最適な回避ルートが、ボクの頭の中に浮かび上がった。まるでパズルのピースが一つに繋がるように、明確に。
「行くよ! 右に3度旋回!」
「了解!」
ボクの合図でスカガワ隊員が操縦桿を切り、アースガロンが滑らかに旋回する。その動きは訓練で何百回も練習したかのような、完璧な連携。
次の瞬間、さっきまでアースガロンがいた空間を、竜巻が通り過ぎていった。
「上昇200メートル!」
「了解!」
急上昇するアースガロン。直後、雷撃がその下を通過する。
まるで舞うように、踊るように、アースガロンはテンカイの攻撃を次々とかわしてゆく。ボクの計算通り、完璧なタイミングで、完璧な軌道で。
「そこから急降下! スクリューの隙間を抜ける!」
「了解!」
アースガロンが急降下する。テンカイのスクリューが生み出す竜巻の隙間、わずか数メートルの空間を針の穴を通すように飛び抜ける。
……訓練でやった。何度も何度も、シミュレーターで練習した。あの時の経験が、今ここで活きる。
「いける……いけるぞ……!」
ボクとスカガワ隊員、そしてアースガロンの息がぴったりと合っている。まるで一つの生命体のように、完璧に同調している。
そして、最高の射撃ポジションに到達した。
狙うはテンカイの中心部。回転するスクリュー機構のコア。あそこを破壊すれば、テンカイは完全に機能停止する。
「ナガレヤマ隊員、最適射撃角度の算出を!」
「わかった……距離300メートル、角度は……」
ボクは素早く計算する。テンカイの装甲の厚さ、スクリューの回転速度、コアまでの距離……。
「……現在位置から、仰角15度! そこからなら、確実にコアを撃ち抜ける!」
「了解! 角度調整、完了しました!」
そのとき、ちょうど隊長の声が重なった。
「全部隊、アースガロンの射線を確保! 一斉射撃、準備!」
周囲を飛んでいたジェットファイター隊が一斉に散開する。海上のメーサー艦隊も砲口をテンカイへ向ける。
そして――
「「「発射ァーッ!!」」」
アースガロンの荷電粒子砲アースファイアから、青白い雷轟が放たれた。荷電粒子の奔流が、竜巻のように渦を巻きながら真っ直ぐテンカイへ向かう。
同時に、全部隊からの一斉射撃が炸裂した。ジェットファイターから放たれる無数のミサイル。メーサー艦隊から発射される光線の束。
それらすべてが一点に集中する。テンカイの中心部、スクリューのコアへ。
テンカイのスクリューが火花を散らしながら停止する。回転軸が折れ、巨大な機構が崩壊してゆく。銅鐸の表面に無数の亀裂が走り、そこから内部の光が漏れ出す。
青白い雷轟、無数のミサイル、メーサー光線、それらすべてがテンカイへ集中し、その中心部分を打ち砕いた。
「――――――――ッ……!!」
巨大な爆発。衝撃波が空気を震わせ、爆炎が空を焦がす。
テンカイが断末魔の咆哮を上げながら爆散したあと、雲一つない綺麗な空だけが静かに広がっていた。
「……やった」
ボクは呟いた。
続いて通信回線から、防衛チームの歓声が聞こえてくる。
「やったぞーっ!」
「作戦成功だ!」
防衛チームの誰もが叫び、誰もが喜びを爆発させている。
ボクは操縦席で、胸がいっぱいになるのを感じていた。
「ボクたち、やったね……!」
「はい、ナガレヤマ隊員」
アースガロンの声も、いつもより少しだけ弾んでいるように聞こえた。
「でも、ワタシたちだけの勝利ではありません。防衛チーム全員の勝利です」
……そのとおり。これはボクたちアースガロンパイロットだけの勝利じゃない。
隊長の的確な指揮、科学技術担当の発明、ジェットファイター隊の支援、メーサー部隊の砲撃、そして防衛チームの全員が力を合わせたからこその勝利なんだ。
通信回線に、隊長の声が響いた。
〈……総員、お疲れ様〉
その声は、いつもの厳しさとは違う、温かな響きを持っていた。
「見事だったわ。特にアースガロンのパイロット、あなたたちの活躍がなければ、この勝利はなかった。よくやってくれたわね」
その言葉を聞いた瞬間、ボクの目から涙が溢れた。抑えきれない感情が、胸の奥から込み上げてくる。
これは、ボクが防衛チーム隊員として、初めて掴んだ本当の勝利なんだ。
アースガロンとスカガワ隊員の声が、優しく響いた。
「ナガレヤマ隊員、泣かないでください。まだ帰還作業が残っていますよ」
「そうだぞ、泣くのはまだ早いぜ」
「う、うん……そうだね……」
ボクは涙を拭いながら、小さく笑った。
そうだ。まだ仕事は終わってない。ちゃんと基地まで帰らなきゃ。
「……じゃあ、帰ろうか。アーくん」
「はい。一緒に、帰りましょう」
アースガロンが旋回し、基地への帰路につく。
その背後には、すっかり晴れた青空が広がっていた。
好きなキャラ
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ナガレヤマ=ホタル
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隊長(ミネ=アンナ)
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科学技術担当(シルフィア=バルタニア)