新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任す ~なお地球には既に優秀な防衛チームが配備されてるので大して役には立たない模様~ 作:よよよーよ・だーだだ
「敵の名前が〈根源的破滅招来体〉と命名されたわ」
防衛チームの作戦会議室。大型モニターには、これまで現れた怪獣たちの画像が時系列で並べられている。
まずはこれまでの経緯を整理しましょう、と隊長は隊員皆の前でおさらいを始めた。
「最初に現れたのは〈宇宙戦闘獣 コッヴ〉。ワームホールから隕石に偽装して地球に飛来、物理的破壊力による侵攻を試みた」
モニターにコッヴの戦闘記録が映し出される。アースガロンの急降下キックで蹴り倒され、アースファイアで木っ端微塵にされたあの怪獣だ。
……コッヴ。ボクの初出動だった。あのときボクはジェットファイターの中で変身しようとして、その前にアースガロンが全部片付けてしまった。
あの頃のボクは、自分自身がウルトラマンとして活躍することしか頭になかった。自分も防衛チームの一員だなんて、これっぽっちも自覚していなかった。
隊長は続けた。
「次に現れたのが〈超空間波動怪獣 メザード〉。異次元からの一方的な攻撃を利用した侵略だった」
「あれは厄介だったな……」
「ああ、科学技術担当がパイロットウェーブ発生装置を開発してくれなかったら、手も足も出なかった……」
隊員たちが当時を思い出して顔をしかめる。
メザード戦でも、ボクはやっぱり何もできなかった。防衛チームと科学技術担当が全部解決してくれた。
そして次の画像が表示される。
「三体目、〈奇獣 ガンQ〉。不条理の塊と称された、エネルギー吸収能力を持つ怪獣」
……ガンQ。あのときのことは今でも思い出すと胸が痛む。
ボクが焦って変身して、かえって状況を悪化させてしまった。アースガロンと防衛チームに助けてもらった、あの屈辱的な戦い。あれはボクの大失敗だった。憧れのウルトラマンどころか、ウルトラマンの面汚しだった。
そしてあのあと、隊長に呼び出されて――
ボクが俯きかけたそのとき、隊長の視線がちらりとこちらを向いた。その目には叱責ではなく、何か別の感情があるような気がした。
隊長はすぐに視線を戻して、次へ進んだ。
「四体目、〈金属生命体 アルギュロス〉。ウルトラマンに擬態し、心理的攪乱を狙った侵略者」
「あのニセウルトラマンか……悪趣味な」
「ウルトラマンの評判を貶めようとしたのかもしれないな」
「それだけではないだろうな」
隊員たちが口々に言う中、科学技術担当――今日は珍しく最初から会議に出席していた――が紅茶を飲みながら補足した。
「アルギュロスは単なる擬態ではなく、高度な情報収集能力を持っていた可能性が高い。ニセウルトラマンに変身することで、地球人や我々防衛チームの出方を確認していたと見るべきだろう」
「つまり……?」
若手隊員の問いかけに、科学技術担当は淡々と答える。
「偵察。アルギュロスは次の侵略のための下調べをしていたということだ」
その言葉に、会議室の空気が張り詰めた。
隊長が頷いて、次の画像を表示する。
「そして五体目、〈自然コントロールマシーン テンカイ〉。超大型台風を操り、自然災害を兵器化した侵略兵器」
あの巨大な台風、秒速80メートルの暴風……。
……でも、あのときはボクも役に立てた。アースガロンと一緒に戦って、勝利を掴んだ。
ボクが思い出に浸っていると、隊長がモニターを切り替えた。画面には五体の怪獣が並んで表示され、それぞれの特徴が箇条書きで示される。
「……さて、ここからが本題よ。これら五体の怪獣に共通するパターンが見えてきたの」
隊長がレーザーポインターで画面を指し示す。
「まず第一に、すべて『段階的に高度化』している。コッヴは単純な物理攻撃、メザードは次元干渉、ガンQは不条理なエネルギー操作、アルギュロスは擬態と情報収集、そしてテンカイは自然現象の制御。明らかに、わたしたち防衛チームの対応能力を試しながら、戦術を変化させている」
……なるほど。
改めて並べられてみると、たしかにそうだ。一体ごとに、どんどん厄介になっていった。ボクたち防衛チームの対応も、毎回ギリギリだった。
コッヴは力押しで勝てた。でもメザードは外星人である科学技術担当の頭脳がなければ勝てなかった。ガンQは科学的な分析が通用しなくなって、そしてテンカイはボクの計算とアースガロンとの連携、そして全部隊の協力があって初めて勝てた。
まるで敵は、ボクたちがどこまでできるか試しているみたいだ。
科学技術担当が補足する。
「つまり、相手は我々を『研究』している。単に攻撃するだけではなく、人類という種族、そして我々防衛チームという組織を分析し、最も効果的な攻略法を探っているということだ」
そして、と隊長は言う。
「第三の共通点。すべて『計画的に配置されている』。出現位置、時期、頻度……いずれもランダムではない。わたしたちに対応する時間を与えつつ、しかし油断させない絶妙な間隔で現れている」
隊長の言葉と共に、モニターに時系列のグラフが表示される。怪獣の出現間隔、被害規模、対応時間……すべてが綺麗な曲線を描いている。
「まるで……実験データね」
「その通りだ」
科学技術担当は紅茶のカップを置いて、立ち上がった。
「我々は観察されている。相手は我々がどこまで適応できるか、どこで限界を迎えるか、それを見極めようとしているのだろう」
……ボクたちは、見られている。試されている。まるで実験動物みたいに。
相手は本気じゃなかった。ただボクたちを試していただけ。ボクたちがどんな武器を持っているのか、どんな戦術を使うのか、どこまで耐えられるのか、それを見極めていただけ。
隊長が腕を組んで言った。
「これは単なる怪獣の群れじゃない。明確な意志を持った、組織的な侵略者。地球という惑星を、人類という種族を、根源から破滅させることを目的とした存在」
「だから根源的破滅招来体……」
モニターの表示が変わり、五体の怪獣の画像の背後に、大きな疑問符が表示された。
「問題は、この根源的破滅招来体の“狙い”よ」
「狙い……ですか?」
ボクが思わず訊ねると、隊長が頷いた。
「ええ。ここまで計画的に侵略を進めているということは、必ず何か『狙い』があるはず。単に地球を破壊したいだけなら、もっと効率的な方法がある。でも相手はそうしない。段階的に、計画的に、わたしたち防衛チームを追い詰めている」
それから、科学技術担当が分析結果のデータを表示した。
「……現時点での仮説は三つ。一つ、地球そのものを何かの目的で利用しようとしている。二つ、人類という種族を研究対象としている。三つ……」
科学技術担当が一瞬、言葉を切った。その表情は珍しく、何かを躊躇っているように見えた。
「三つ目は?」
隊長が促すと、科学技術担当は小さく息をついてから言った。
「三つ目の仮説は……『ウルトラマンを誘き出すことが目的』という可能性だ」
ボクの心臓が、激しく跳ね上がった。隊員たちがざわつく。
「どういうこと?」
「文字通りの意味だ」
科学技術担当はモニターを操作した。画面に先代ウルトラマンの記録映像が表示される。
「……この星にはかつて、ウルトラマンがいた。そして今、新たなウルトラマンが現れている」
……ボクのことだ。
科学技術担当の視線が、一瞬だけこちらを向いた気がした。でもすぐに画面に戻る。
周りの隊員たちは気づいていない。科学技術担当が何を言っているのか、その真意を理解しているのは隊長と科学技術担当、そしてボクだけだ。
「根源的破滅招来体はウルトラマンの存在を知っている可能性がある。そしてウルトラマンこそが、自分たちの侵略における最大の障害だと認識しているかもしれない」
だから、と科学技術担当は続けた。
「段階的に脅威を高め、ウルトラマンが登場せざるを得ない状況を作り出そうとしている。そしてウルトラマンの力を分析し、それに対抗する手段を編み出そうとしている……というのが三つ目の仮説だ」
ボクは思わず拳を握りしめていた。爪が掌に食い込む。
……もしそれが本当なら。
ガンQ戦で、ボクが変身したこと。あれは相手の思う壺だったってこと?
ボクの戦い方、エネルギーの使い方、そしてボクの未熟さ――全部、全部、相手に知られてしまった。ボクのせいで、防衛チームが、地球が、危険にさらされているかもしれない。
そんなボクの動揺を察したのか、隊長がちらりとこちらを見た。その目は『大丈夫』と言ってくれているような気がした。でもすぐに視線を戻す。
科学技術担当が結論を述べる。
「……これはあくまで仮説だ。確証はない。だが、可能性として排除すべきではないとわたしは考える」
「……わかったわ」
隊長が深く頷いた。
「その三つの仮説、すべてを想定して対策を立てる必要があるわね」
そして隊長は会議室の全員を見渡した。
「いずれにせよ、これまでの戦いは序章に過ぎなかった。根源的破滅招来体の本当の狙いは、これから明らかになるでしょう。そして恐らく……」
隊長の表情が、これまで見たことがないほど厳しくなった。
「恐らくこれから来るのは、これまでとは比べ物にならない規模の侵略よ。相手は十分にデータを集めた。次は『本番』になる」
その言葉に、会議室の空気がさらに張り詰めた。
……本番。つまり今までは、全部リハーサルだった。そしてこれから来るのが、本当の戦いだ。
若手隊員の誰かが、不安そうに呟いた。
「……俺たち、勝てるのかな」
「勝つしかないでしょ」
隊長は即座に、しかし優しく答えた。
「わたしたち防衛チームは、この星を守るために存在している。どんな敵が来ようと、わたしたちは戦うわ。そして……」
隊長は微かに笑った。
「これまでだって、わたしたちは勝ってきたじゃない。コッヴも、メザードも、ガンQも、アルギュロスも、テンカイも。全部、わたしたちの勝利よ」
その言葉に、隊員たちの表情が少しずつ明るくなっていく。
……そうだ。ボクたちは、負けたことがない。
いつだって、チーム全員で力を合わせて、勝ってきたんだ。
コッヴは、アースガロンが倒した。
メザードは、科学技術担当の発明と隊長の作戦で倒した。
ガンQは、ボクが失敗したけど、最後は防衛チーム全員で倒した。
アルギュロスも、アースガロンが倒した。
テンカイは、ボクとアースガロン、そして全部隊で倒した。
全部、ボクたち防衛チームの勝利だ。
「シルフィア、引き続き根源的破滅招来体の分析を続けて。新たな情報が入り次第、すぐに報告してちょうだい」
「了解した」
「それと全隊員、警戒態勢を維持しなさい。次の攻撃は、いつ来てもおかしくない」
「了解!」
隊員たちが一斉に答える。
ボクも、声を合わせた。
「了解!」
……正直、怖い。
次に来る敵は、これまで以上に強いかもしれない。ボクの力では、役に立たないかもしれない。また失敗するかもしれない。
でも、ボクは一人じゃない。
隊長がいる。科学技術担当がいる。アースガロンがいる。そして、防衛チームの仲間たちがいる。
みんなで力を合わせれば、きっと――
隊長が会議を締めくくろうとしたそのとき、オペレーターから緊急通信が入った。
「隊長! 気象庁から緊急連絡です! 太平洋上空にワームホールを確認! 高度2万メートル、速度マッハ3で日本列島に接近中!」
会議室が一瞬で緊張に包まれた。
……来た。
ボクの心臓が激しく鳴る。これが、次の敵だ。
隊長が即座に指示を飛ばす。
「映像を!」
モニターが切り替わり、気象衛星が捉えた映像が表示される。
そこには雷を纏いながらワームホールから出現する、巨大な怪獣の姿があった。
直立した牛を思わせる巨躯。筋骨隆々とした四肢は人間のように二足歩行し、巨大な角が二本、頭部から天を突くように生えている。
オペレーターの声が響く。
「レジストコード決定……〈宇宙雷獣 パズズ〉!」
「電磁波の観測値が異常です! 周囲10キロメートル圏内の電子機器に深刻な影響が出る可能性があります!」
「このままの進路だと、15分後に首都圏に到達します!」
次々と報告される観測データ。そのすべてが、新たな怪獣の脅威を物語っていた。
……パズズ。根源的破滅招来体が送り込んできた、次の刺客だ。
ボクは立ち上がった。周りの隊員たちも、一斉に動き出す。
隊長が号令をかけた。
「総員、戦闘配置! アースガロン、出撃準備!」
「了解!」
会議室から、みんなが駆け出してゆく。
ボクも走り出そうとして、ふと、隊長と目が合った。
……隊長は何も言わなかった。ただ、小さく頷いた。
その意味は、わかった。
――行きなさい。防衛チーム隊員として。
ボクも頷き返して、格納庫へと走り出した。
不穏な雷鳴が、大気を震わせている。
「全部隊、これより〈宇宙雷獣 パズズ〉迎撃作戦を開始する! 目標を撃破し、市街地への侵入を阻止せよ!」
「「「了解!」」」
モニター越しに、パズズの姿が見えてきた。
アースガロンに同乗している正規パイロット:スカガワ隊員がつぶやいた。
「……あれが、パズズか」
青白い雷がパズズの体表を這い回り、大気を裂き、周囲の地面を焦がしている。その雷光は数百メートル先まで届き、まるでパズズそのものが歩く雷雲と化しているかのようだった。
一歩、また一歩と、重い足取りで街へ向かって歩いてくる。その足跡には焦げた地面が残り、パズズが通った場所には雷撃の痕跡が刻まれていた。
「ジェットファイター隊、援護射撃!」
通信回線から隊長の指示が飛ぶ。上空からジェットファイター隊が急降下してきた。
「了解! 対怪獣ミサイル、発射!」
複数のジェットファイターから、次々とミサイルが放たれる。ミサイルの軌跡がパズズへ向かい――
途端、パズズが双角を振った。
瞬間、双角から放たれた雷撃が、すべてのミサイルを撃ち落とした。空中で次々と爆発するミサイル。その爆炎をものともせず、パズズは侵攻を続ける。
「ミサイルが効かない……!?」
「電撃で迎撃されました! あの双角、対空防御も兼ねてます!」
ジェットファイター隊が報告する。
……やっぱり、厄介な相手だ。
そのとき、地上のメーサー部隊から光線が放たれた。複数の光線がパズズへ集中するのに対し、パズズは全身から電撃を放出した。まるでバリアのように電撃の壁が光線を散乱させ、メーサー光線はパズズに届く前に拡散し効果を失った。
「メーサー光線も効果なし! 電磁バリアで防がれました!」
「くそっ、あの化け物……!」
防衛チームの攻撃が、ことごとく通用しない。
隊長の声が通信に響いた。
「アースガロン、
「了解!」
スカガワ隊員が操縦桿を握りしめる。アースガロンが加速し、パズズへと肉薄する。
「CQCモード、起動!」
アースガロンの全身の関節が展開し、格闘戦用の構えを取る。
距離500メートル、300メートル、100メートル――
「スカガワ隊員、接近します!」
「落ち着け、ナガレヤマ隊員。焦るな」
スカガワ隊員の声は、戦闘中でも驚くほど冷静だった。
「敵の攻撃パターンを読む。電撃の発射間隔は約3秒。タイミングを合わせれば、隙が生まれる」
「でも、バリアが……!」
「バリアにも限界がある。連続攻撃には対応しきれない。CQCで畳み掛ければ……」
スカガワ隊員の分析は、いつも的確だった。
距離100メートル――
「今だ! EGOISS、最大出力!」
「了解!」
アースガロンの鋼鉄の拳が、パズズへ向かって振るわれた。
だが効かない。まるでカウンターのようにパズズの全身から、凄まじい電撃が爆発的に放出される。
「うわああっ!?」
アースガロンの装甲に、無数の雷撃が叩きつけられる。コックピットが激しく揺れ、警告音が鳴り響く。
「被弾! 装甲にダメージ!」
「電磁波も検出! システムに影響が……!」
計器のいくつかが明滅し始めた。電磁波の影響で、一部の電子機器が誤作動を起こしている。
「距離を取りなさい! 一旦退避!」
隊長の指示に従い、アースガロンが後退する。
だがパズズは追ってきた。ドシン、ドシン、ドシンと重い足音を響かせながら、じりじりと距離を詰めてくる。
パズズの双角から、再び雷撃が放たれる。アースガロンは必死に回避するが、完全には避けきれない。装甲に雷撃が直撃するたびに、システムへの影響が大きくなってゆく。
「EGOISSシステムに異常! 動作が不安定です!」
「ナガレヤマ隊員、手動制御に切り替えを!」
「わ、わかった……!」
ボクは慌てて操作パネルを叩く。システムが手動モードへ移行し、より繊細な操作が求められるようになった。
……これは、ヤバい。パズズの電磁波攻撃は、明らかにアースガロンの弱点を狙ったものだ。強力な電磁波で電子機器を無力化し、システムを破壊するために。
そして、それは成功しつつある。
「メインシステム出力、80%……70%……低下が止まりません!」
「冷却システムも異常! このままでは……!」
次々と報告される、システムの不調。アースガロンの動きが、明らかに鈍くなっている。
ボクは歯を食いしばった。
……このままじゃ、負ける。
ボクの脳裏に、ウルトラマンへの変身アイテムの存在がよぎった。
今も懐に忍ばせているあれを使えば、ボクはウルトラマンに変身できる。隊長からは変身禁止令を出されているが、もはやそんなことを言っていられない。ウルトラマンに変身する、そうすればこの状況を覆せるはずだ。
でも、科学技術担当の言葉を思い出す。
『ウルトラマンを誘き出すことが目的』
……もしボクが変身したら、それこそ根源的破滅招来体の思う壺かもしれない。
それにボクは思い出す。ガンQ戦での大失敗を。
あのとき、ボクは焦って変身して状況を悪化させてしまった。あのときはアースガロンと防衛チームに助けてもらったけれど、もし今また同じことが起きたら? ボクの失敗で、みんなを危険に晒してしまったら?
一瞬、ボクは迷ってしまった。
「……ナガレヤマ隊員!」
「しっかりしてください、次の指示を!」
……はっ!?
スカガワ隊員とアースガロンの呼びかけで我に返る。
だが遅い。
「しまった……!」
スカガワ隊員が、初めて焦りの声を上げた。
パズズが放出した雷撃、球状に広がる雷の壁がアースガロンへと直撃した。
凄まじい衝撃。コックピット内の計器が次々と破裂し、火花が散る。警告音が鳴り響き、システムが次々とダウンしてゆく。
「うわああああっ!」
「メインシステムダウン! 制御不能!」
スカガワ隊員が必死に操作パネルを叩く。その顔には、これまで見たことがないほどの焦りが浮かんでいた。
「EGOISS! 応答しろ、EGOISS!」
「……アーくん!」
二人して呼びかけるが、アースガロンの声は聞こえない。
スカガワ隊員の拳が、操縦席の肘掛けを叩いた。
「くそ……! こんなところで……!」
その声には、悔しさと――そして何か、別の感情が混じっていた。
「システム再起動を! 早く!」
スカガワ隊員が必死に操作パネルを叩く。だがシステムは応答しない。
アースガロンの声も聞こえない。EGOISSも、ダウンしてしまったのか。
「……アーくん!」
ボクも操作を試みる。だが何も反応しない。計器は真っ暗で、制御系統が完全に停止している。
そしてパズズが、こちらへ向かって歩いてきた。倒れたアースガロンに向かって、ゆっくりと、確実に。
こちらへ歩み寄りながら、パズズの双角が明滅し始める。トドメを刺すつもりだ。
「……っ!」
ボクは変身アイテムに手を伸ばしかけた。このままじゃアーくんが――みんなが――今度こそ迷いを振り切ろうとした、その時。
空が、光った。
いや、光ったという表現では生ぬるい。空が裂けた。天が割れた。宇宙そのものが引き裂かれたような――そんな錯覚を覚えるほどの、圧倒的な光が天頂から降り注いだ。
「なっ――!?」
スカガワ隊員が目を見開く。ボクも、思わず上を見上げた。
衛星軌道上はるか上空、大気圏の彼方にある宇宙の漆黒から、一筋の極太の光線がまるで天使の剣のように真っ直ぐに、パズズへ向かって撃ち込まれてきた。
それは雷撃でも、メーサー光線でもない。もっと純粋で、もっと強大な、まるで星そのものを凝縮したかのような光の奔流だった。大気を引き裂きながら降下してくるその光は、周囲の空気をプラズマ化させ、青白い稲妻を無数に発生させながら地上へと迫ってくる。
光線の軌跡が、夜空に眩い一本の線を刻む。
その光は、あまりにも強烈で、あまりにも禍々しく、そしてあまりにも美しかった。。
光線が、パズズに直撃した。
轟音というよりも、咆哮。いや、悲鳴。大気そのものが悲鳴を上げているような、耳を劈く凄まじい爆音が世界を揺るがした。
衝撃波が同心円状に広がり、大地を震わせる。まるで巨大な隕石が落下したかのような振動が、地面を這い、空気を伝わり、アースガロンのコックピットにまで届く。
パズズの体表を這い回っていた青白い雷撃が――あの強力な電磁バリアが――光の前では何の意味も持たなかった。雷撃は吹き飛ばされ、電磁バリアは蒸発し、パズズの巨体に光線が直撃する。
瞬間、パズズの体が白く染まった。
パズズが咆哮を上げた。それは苦痛の叫び、断末魔の咆哮だ。
光線はパズズの巨体を貫いた。いや、貫くどころではない。パズズの体が、光の中で文字通り溶けてゆく。
雷を纏っていた筋骨隆々の四肢が、まず膝から崩れ落ちる。皮膚が剥がれ、筋肉が溶け、骨格が露出し、そしてその骨格さえも光の熱で融解してゆく。
天を突く巨大な双角が、根元から赤熱し、白熱し、そして蒸気と化して消えてゆく。
パズズの巨躯すべて光の中で粒子となり、エネルギーとなり、無へと還ってゆく。
その光景は、まるでスローモーションのようにボクの目に焼き付いた。
怪獣が死ぬ。消える。存在が消滅する。
そういう光景を、ボクは今まで何度も見てきた。でも、これは違う。これは違った。
これは殺戮、処刑だ。
光線の直撃地点を中心に、凄まじい衝撃波が放射状に広がる。
大気が押しのけられ、音速を超えた衝撃波が地表を這う。木々が根こそぎなぎ倒され、岩が砕け、土が舞い上がる。地面に巨大なクレーターが刻まれ、その周囲数百メートルが一瞬で焦土と化した。
熱波が襲来する。光線の余熱で大気が加熱され、灼熱の風となって周囲に広がる。気温が急上昇し、湿気が一瞬で蒸発し、乾いた熱風がすべてを焼き尽くす。
倒れたままのアースガロンにも、その衝撃が届いた。
「う、うわあああああっ!」
機体が激しく揺れる。いや、揺れるなんてものじゃない。まるで巨人に殴られたかのような衝撃が、アースガロンの装甲を叩く。
「掴まれ!」
スカガワ隊員がボクの肩を掴む。コックピットが激しく揺れる中、二人でシートに必死にしがみついた。
警告音が鳴り響く。計器が明滅し、システムが悲鳴を上げる。外部センサーが熱波を検知し、装甲温度の急上昇を知らせる。
窓の外が、白く染まった。
光が、すべてを呑み込んだ。
それは、恐らく数秒間のことだったのだろうが、ボクにはまるで永遠のように感じられた。
やがて光が消えた。視界が戻る。
後に残ったのは、深々とえぐられた大地だった。
直径200メートルはあろうかという巨大なクレーター。その中心部は、まだ赤熱している。ガラス質に変質した地表が、マグマのように鈍く光を放っていた。
クレーターの周囲は完全な焦土と化している。木々は炭と化し、岩は砕け、すべてが灰色の世界になっていた。空気中には、焼け焦げた臭いと、何かが溶けた時の金属臭が立ち込めている。
そしてパズズは、跡形もなく消滅していた。
あの圧倒的な存在感を放っていた宇宙雷獣が、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、完全に、徹底的に、消し去られていた。
残っているのは、ただ蒸気だけ。
地中の水分が蒸発した水蒸気が、白い霧となってクレーターから立ち上っている。その光景は、まるで地獄の釜の蓋が開いたかのようだった。
「嘘、だろ……」
スカガワ隊員が呆然と呟いた。
その声には、これまで一度も聞いたことがないほどの動揺が滲んでいた。いつも冷静で、どんな戦闘でも決して取り乱さなかったベテランのスカガワ隊員が今、完全に言葉を失っている。
「一撃……たった一撃で……あの化け物を……?」
通信回線が、沈黙に包まれていた。
誰も、何も言えなかった。ジェットファイター隊も、メーサー部隊も、そして隊長でさえも、誰一人として言葉を発することができなかった。
ただ、ただ、圧倒されていた。その圧倒的な破壊力に。
ただ一人、科学技術担当だけが冷静に分析を続けている声が聞こえた。
「……エネルギー出力、計測不能。いや、計測限界を超えている。発射地点、衛星軌道上……高度約3万6千キロメートル。静止軌道だ。照射時間、正確に3.7秒。ビーム径は約50メートル、収束率99.8%……これは……これは……」
科学技術担当の声が、震えていた。
「照準精度は誤差10センチメートル以内、出力は推定で……テラワット級、いや、それ以上……こんなものを地球人が……?」
言葉が途切れる。日頃はマイペースな科学技術担当でさえも、この光景の前では冷静さを保てないようだった。
誰もが唖然としていたそのとき、通信端末に別の回線が繋がった。
――Prr、Prr!
防衛軍本部からの、最高機密通信回線。その着信音が、静まり返った通信回線に不気味に響く。
〈――こちら防衛軍本部作戦司令室。防衛チームのミネ=アンナ隊長に繋いでくれ〉
低く、重く、そして威圧的な男性の声。
ボクは聞いたことがない声だったが、その冷たさ、その無機質さ、その絶対的な威圧感だけは、通信越しにも痛いほど伝わってきた。
隊長が応答した。
「……こちら防衛チーム隊長のミネです」
そう応える隊長の声には、明らかな警戒と抑えきれない怒りが滲んでいた。
そんなことに構うことなく、防衛軍本部の声が言った。
〈状況は把握している。先ほどの攻撃は、我が防衛軍が極秘裏に配備していた衛星兵器によるものだ〉
「……衛星兵器?」
隊長が、その名前を繰り返す。
周囲の隊員たちも、通信を聞いている全員が、その名前に反応した。
ボクも初めて聞く名前だった。
〈地球防衛エネルギーシステム、ネメシス。根源的破滅招来体の脅威に対抗するため、防衛軍上層部の決定により極秘裏に開発・配備された戦略兵器だ〉
ボクは息を呑んだ。
……戦略兵器。つまり、最終兵器。切り札。
地球の防衛軍はすでに、根源的破滅招来体の存在を把握していた。そしてその脅威を分析し、対抗手段を用意していたのだ。
防衛軍は、ボクたち防衛チームにも知らせずにこんな恐ろしい兵器を配備していたというのか。
「……なぜ」
隊長の声が、低く響いた。
「なぜ、今まで我々に知らされていなかったんですか? わたしたち防衛チームは最前線で戦っています。このような兵器の存在を知る権利があるはずです」
〈必要なかったからだ〉
明らかな不満が、いや、怒りが込められていた隊長の詰問。それに対して冷たく事務的な、まるで機械のような答えが返ってきた。
〈君たち現場の部隊は、目の前の敵と戦うことに専念すればいい。我々上層部は、全体戦略を管理し、必要な判断を下す。それぞれに役割がある。情報の共有は、必要最小限で十分だ〉
……なんて、冷たい言い方なんだろう。まるでボクたち防衛チームを駒としてしか見ていないようだ。
「ですが……!」
〈いいか、ミネ隊長〉
隊長が言い返そうとした。だが、相手はそれを遮るように続けた。
〈ネメシスは今後も必要に応じて使用する。次に防衛軍がネメシス使用を決定した場合、その時点で、君たちは即座に戦闘区域から退避しろ。いいな、"即座に"だ〉
その言葉には、有無を言わさぬ強制力があった。
〈ネメシスの照射範囲は半径300メートル。その範囲内に留まれば、君たちアースガロンも、ジェットファイターも、地上部隊もすべて巻き込まれる……理解したか?〉
巻き込まれる――その言葉が、通信回線に重くのしかかった。
つまり味方も敵も関係ない。ネメシスの照射範囲に入っていれば、すべてが消し飛んでしまうということだろう。パズズのように、跡形もなく。
「……了解、しました」
隊長が答える。
その声は短く、そして抑えきれない苦々しさに満ちていた。
〈では、現場の後処理を頼む。残留放射線の測定、クレーターの安全確認、周辺住民への避難指示の解除。すべて君たちの仕事だ。以上〉
通信は、一方的に切れた。
「…………。」
しばらく、誰も何も言えなかった。
重苦しい沈黙だけが、通信回線を支配していた。
やがて隊長が深く、深く息をついて言った。
「……総員、聞こえているわね」
その声は、いつもの隊長の声だった。
でも、どこか疲れているような、どこか諦めたような、そんな響きが混じっているような気がした。
「これより作戦区域の安全確認と、残留エネルギーの測定を行う。ジェットファイター隊は周辺の警戒を。メーサー部隊は放射線測定を。そしてアースガロンは……」
隊長の声が、一瞬柔らかくなった。
「システムが復旧次第、基地へ帰還しなさい。スカガワ隊員、ナガレヤマ隊員……お疲れ様」
「……了解しました」
スカガワ隊員が答える。
その声は、いつもの冷静さを取り戻していた。でも、その声の奥底には、何か――疲労とも、虚無ともつかない感情が滲んでいた。
ボクは、窓の外を見た。
パズズが消滅した場所には、まだ蒸気が立ち上っている。白い霧が、ゆっくりと空へ昇ってゆく。
地面には巨大なクレーターが刻まれ、その中心部はまだ赤熱している。周囲の地表は完全に焼け焦げ、何もかもが灰色の世界になっていた。
ボクたちが必死に戦っていた怪獣パズズ。アースガロンが倒れるほどの強敵が、たった一撃で消し飛ばされてしまった。
それは、ある意味では「勝利」なのかもしれない。
怪獣は倒された。街は守られた。人々は救われた。
目的は達成された。
だけど――
ボクの胸には、勝った喜びなんてこれっぽっちもなかった。
達成感も、安堵感も、何もなかった。
ただ、何か大切なものを、何か、本当に大切なものを失ったような――
窓の外では、まだ蒸気が立ち上っていた。
白い霧が、空へ昇ってゆく。
まるで、パズズの魂が天へ還ってゆくかのように。
ボクはただ黙って、その光景を見つめていた。
どっちかっていうと八つ裂き光輪の方が殺傷力は高い気がする。
好きなキャラ
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ナガレヤマ=ホタル
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隊長(ミネ=アンナ)
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科学技術担当(シルフィア=バルタニア)