新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任す ~なお地球には既に優秀な防衛チームが配備されてるので大して役には立たない模様~ 作:よよよーよ・だーだだ
パズズ戦から三日後、防衛チーム基地の作戦会議室に全隊員が召集された。
……みんな、何かを察しているような表情だった。隊長も、いつもより硬い表情で資料に目を通している。
最初に口を開いたのは隊長だった。
「……では、防衛軍本部からの通達を読み上げる」
隊長がタブレットを手に取り、淡々と読み始める。
「先日のパズズ戦において実戦投入された、新型防衛システムについて。防衛軍本部は、この新型システムを正式に〈地球防衛エネルギーシステム ネメシス〉と命名し、今後の主力防衛兵器として配備することを決定した」
……地球防衛エネルギーシステム。あのウルトラマンの必殺光線に似たビームを放った衛星の正体が『防衛軍が作った新型防衛システム』だったというのは、パズズが倒されたときに知らされた。名前はNeutrino Energized Modulation Emission Systemの頭字語で、略称は
隊長は続けた。
「ネメシスは、根源的破滅招来体の脅威に対抗するため、防衛軍科学部が極秘裏に開発を進めてきた最新鋭の防衛システムである。その開発には……」
隊長が一瞬、言葉を切った。わずかな躊躇のあと、口を開く。
「……かつてこの星を守ったウルトラマンのエネルギーを解析、応用した技術が用いられている」
会議室がざわめいた。
「ウルトラマンのエネルギーを……?」
「そんなこと、できるのか……?」
隊員たちがどよめく中、一人が歩み出て口を開いた。
「ええ、可能です」
彼は新たに派遣されてきた防衛軍の技術将校、ネメシスを開発したプロジェクトのリーダーだ。技術将校は説明を始めた。
「ネメシスは、来たる根源的破滅招来体の脅威に対抗するため、我が防衛軍科学部が技術の粋を集めて開発した最新鋭の防衛システムです。その開発には、かつてこの星を守ったウルトラマンが残したエネルギー残滓を解析、データ化し、再現する技術が用いられています」
……ウルトラマンのエネルギーを、データ化。
ボクはその言葉に複雑な思いを抱いた。先代のウルトラマンが残した力を、こんな風に使うなんて。
技術将校は続けた。
「具体的には、ウルトラマン特有のエネルギー波形を人工的に生成するプラズマジェネレーター、そのエネルギーを効率的に運用する超伝導回路網、そして制御系統には最新鋭の光量子コンピューター〈クリシス〉を搭載しています」
「光量子コンピューター……?」
「ええ、そうです」
若手隊員の一人の呟きに、技術将校が頷いた。
「従来のコンピューターは電子の流れで計算を行いますが、光量子コンピューターは光子、つまり光そのものを利用します。これにより、従来の1000倍以上の演算速度を実現したのです」
モニターに、クリシスの構造図が表示される。複雑に入り組んだ回路、無数の光ファイバー、そして中心部に輝く結晶のようなコア。それは、精密機械の集合体だった。
「クリシスは戦闘中のあらゆる状況をリアルタイムで分析し、最適な戦術を0.001秒以内に算出します。敵の攻撃パターン、弱点、環境要因……すべてを瞬時に処理し、最適な発射タイミングを導き出すのです」
「完璧……?」
隊長がその言葉を繰り返すと、技術将校は自信満々に答えた。
「そう、完璧です。人間の判断ミス、反応速度の限界、疲労による集中力の低下……そういった人的要因による誤差を、クリシスは完全に排除します。それによってネメシスは、常に最高のパフォーマンスを発揮できるというわけです」
「……つまり、」
そこで防衛チームの科学技術担当が、紅茶を飲みながら口を挟んだ。
「人間を排除したということか」
「排除、というと語弊がありますが」
科学技術担当のややトゲがある言葉に、技術将校は微かに眉をひそめながら答えた。
「より正確には、人間の能力を超えたシステムを構築したということです。もちろん最終的な承認権限は人間が持ちますが、発射の判断そのものはクリシスが自律的に判断するということです」
「……ふむ」
科学技術担当は、何か言いたげな表情だったが、それ以上は追及しなかった。
技術将校は説明を続けた。
「ネメシスにはウルトラマンの必殺光線に相当する、ネメシス・レイを搭載。出力は本物の必殺光線の推定値を上回ります」
「本物を、上回る……?」
ボクは思わず呟いていた。技術将校が頷く。
「ええ。ウルトラマンのエネルギーを解析し、さらに最適化することで、より高出力、より高効率なエネルギー運用を実現しました。ネメシスは、あらゆる意味でウルトラマンを超える存在というわけです」
その言葉に、会議室が静まり返った。
……ウルトラマンを、超える。人工的に作られた存在が、本物のウルトラマンを超える。それは正しいことなのだろうか。
それに先代のウルトラマンは、地球を守るために戦った。その力を、こんな風に使われることを望んでいただろうか。
「また、ネメシスは学習能力も備えています」
技術将校が続ける。
「戦闘データを蓄積し、分析し、次の戦闘に活かします。つまり戦えば戦うほどネメシスは最適化され、より効率的に敵怪獣を殲滅することができるようになります」
モニターに、ネメシスの諸元が表示される。
ネメシス・レイの最大照射時間、3.7秒。平均出力、30〜300テラワット。一射あたりの総エネルギー、10^14〜10^15ジュール)。照準精度、誤差10センチメートル以内。有効破壊半径、約300メートル……。
そのとき、隊長が手を挙げた。
「……質問があります」
「どうぞ、ミネ=アンナ防衛チーム隊長」
技術将校が、隊長を見た。それから隊長が口を開く。
「……ネメシスの制御系であるクリシスについてですが、その光量子コンピューターは、外部からの不正アクセスに対する防御機構を備えているのでしょうか?」
「もちろんです」
その質問に、技術将校は自信満々に答えた。
「クリシスには量子暗号による多層防御プロトコルが実装されており、さらに物理的にも外部ネットワークから完全に隔離されています。ハッキングを試みるには、まず量子暗号の鍵を解読し、物理的な接続を確立し、そして光量子コンピューター特有の演算アーキテクチャを理解する必要があります。これらすべてを突破できる技術は、現在の地球上には存在しません」
「現在の地球上には……ですか」
隊長が繰り返した。
「理論と実践は、必ずしも一致しません。もし万が一、敵にネメシスが奪われた場合の対策は?」
「……その可能性は極めて低いと考えていますが」
技術将校の表情が、わずかに硬くなった。
「万が一に備えて、複数のフェイルセーフを設けています。まず、クリシスには自己診断機能があり、異常を検知した時点で自動的に
「完璧なシステムなど、存在しないぞ」
そこで割り込んだのは、またしても科学技術担当だ。彼女はいつものとおりのクールな表情で淡々と、しかし真剣な口調で言った。
「どんなシステムにも脆弱性がある。複雑化すればするほど、予期せぬ欠陥が生じる可能性が高まる。光量子コンピューターのような高度なシステムなら、なおさらだ」
技術将校が、ムッとした表情で答えた。
「……シルフィア=バルタニア科学技術担当、あなたの懸念は理解します。しかし、我々はあらゆる可能性を検証しました。クリシスは……」
「あらゆる可能性など、検証できるわけがない」
科学技術担当が、冷ややかに遮った。
「特に、根源的破滅招来体のような未知の敵が相手ならな。根源的破滅招来体は地球外の存在だ。奴らの技術水準は、我々の想像を超えている可能性がある」
会議室が、緊張した空気に包まれた。
「……懸念は理解しました」
技術将校は、明らかに不快そうな表情を浮かべた。
「しかし防衛軍本部の決定は変わりません。ネメシスは既に実戦テストを完了し、パズズ戦においてその有効性が実証されました。防衛軍本部は、今後ネメシスを中心とした新たな防衛戦略を構築する方針です」
そう言って、技術将校は説明を打ち切った。
隊長が続きを述べた。
「……それに伴い、特殊戦術機甲獣アースガロンは段階的に運用を縮小。将来的には予備兵器としての位置づけとなる」
「えっ……!?」
「嘘だろ……!?」
その言葉に、会議室が騒然となった。
……つまりアースガロンはお払い箱、ってことだ。アースガロンが、用済みになる。ネメシスという新しい、より強力な防衛兵器ができたから。
隊長は続けた。
「また防衛チームの編成についても見直しが行われる。ネメシスの運用に必要な人員を優先的に配置し、従来の部隊は……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
誰かが叫んだ。若手隊員の一人だ。
彼は怒りを滲ませながら問い質した。
「アースガロンをお払い箱にするって、そんな……! アースガロンは今まで、ずっと俺たちと一緒に戦ってきたんですよ!? コッヴも、メザードも、ガンQも、テンカイも、全部、全部アースガロンが……」
さらに別のベテラン隊員が声を上げる。
「それに防衛チームの編成についても見直しですって!? つまり俺たちも御役御免ってことかよ!?」
一斉にいきり立つ隊員たちに対し、隊長が手を上げて宥めようとする。
「落ち着きなさい。まだ決定事項ではないわ。あくまで『方針』よ」
「でも、方針ってことは……」
「時間の問題ってことじゃないですか!」
隊員たちの怒りは収まらない。
ここで技術将校が、ため息混じりに口を開いた。
「……皆さんの気持ちは理解します。しかし、これは感情の問題ではありません。効率の問題です」
技術将校はモニターを操作した。画面に、これまでの戦闘データが表示される。
「これを見てください。防衛軍の戦略チームが試算した、パズズ戦における各兵器の有効性です」
グラフが表示される。
ジェットファイター隊の対怪獣ミサイル:効果なし。
メーサー部隊の光線:効果なし。
アースガロン:システムダウン、戦闘不能。
そして、ネメシス・レイ:一撃必殺。
「……これが現実です。アースガロンは確かに優秀な兵器ですが、パズズのように弱点を突いてくる敵には通用しませんでした。対してネメシスは、たった一撃で完全に殲滅できた。コスト、時間、リスク……あらゆる面で、ネメシスが上回っています」
その言葉に、隊員たちが言葉を失った。
……確かに、それは事実だ。ボクたち防衛チームは、パズズに歯が立たなかった。アースガロンは倒れ、ネメシスが一撃で全てを終わらせた。数字で見れば、明白だ。ネメシスの方が優れている。
それに、と技術将校は続けた。
「アースガロンには『弱点』があります。パイロットです」
その言葉に、ボクの心臓が跳ね上がった。
技術将校の視線が、一瞬だけこちらに向けられた気がした。
「人間がパイロットである限り、判断ミスが起こる。反応が遅れる。疲労する。恐怖する。そして……死ぬ」
重い言葉が、会議室に落ちた。
「今回、スカガワ隊員とナガレヤマ隊員は無事でしたが、次はどうでしょうか? もしあれ以上にパズズの攻撃がアースガロンに命中していたら? もしネメシスの発射が数十秒遅れていたら? 二人は今ここにいないかもしれません」
……誰も、何も言えなかった。
それは、事実だ。あのときネメシスが撃ち込まれなかったら、ボクはともかくスカガワ隊員は本当に死んでいたかもしれない。
技術将校は続ける。
「ネメシスにはパイロットがいません。つまり人的被害のリスクがゼロということ。クリシスが完璧に計算し、ネメシスが完璧に実行します。そこに人間の命を賭ける必要はありません」
技術将校は、そこで言葉を切った。
「……これは、皆さん防衛チームを軽視しているわけではありません。むしろ逆、人命尊重、君たちの命を守るための決断なのです」
その言葉には、確かに誠実さがあった。
……人命尊重のため。防衛軍の技術将校たちは本気で、そう信じているのだろう。ネメシスが効率的で、安全で、完璧だと。
でもそれで納得できるはずもなかった。隊員たちは皆で騒然となる。
「し、しかし……!」
「ふざけるなっ!」
「納得できるかよ、そんなの!」
そのとき低く、しかし威厳のある声が遮った。
「落ち着け!」
みんなが振り返る。
……スカガワ隊員だった。彼はいつもと変わらない冷静な表情で立っていたが、その拳は強く握りしめられていた。
「スカガワ隊員……」
「気持ちはわかる。俺も同じだ」
スカガワ隊員は、静かに言った。
「だが、これは防衛軍本部の決定だ。俺たち現場の隊員が、覆せるものじゃない」
その言葉は冷静だったが、どこか諦めのような響きがあった。
若手隊員が、悔しそうに唇を噛む。他の隊員たちも、俯いて何も言えない。スカガワ隊員もその横顔には、深い無念さが刻まれていた。
ボクも、何も言えなかった。だってこれが仕事だから。
隊長が資料を閉じた。
「……以上が、本部からの通達です。詳細は追って連絡があるでしょう。今日はこれで解散」
隊員たちが、重い足取りで会議室を出てゆく。
ボクも立ち上がろうとして隊長と目が合った。
「…………。」
……隊長は、何も言わなかった。
ただ、その目には、かつてガンQに敗北したときのボクと同じ、悔しさと無力感が浮かんでいる気がした。
会議のあと、ボクは格納庫へ向かった……のだが、格納庫の入り口で足を止めた。
中から、声が聞こえてきたからだ。
「……十年か。長かったような、短かったような」
スカガワ隊員の声だった。
ボクは、そっと中を覗いた。
格納庫には、アースガロンとスカガワ隊員がいた。スカガワ隊員は、アースガロンの装甲に手を当てて、静かに語りかけていた。
「お前と初めて会ったのは、お前がまだプロトタイプだった頃だったな。あの頃のお前は、まだEGOISSも未完成で、よく誤作動を起こしていた」
スカガワ隊員の声には、懐かしむような響きがあった。
「初めての実戦は小型の怪獣で、お前は見事に撃破したよな。あのとき、お前が初めて『ありがとうございます』って言ってくれたのを覚えているか?」
しばらく、沈黙が流れた。
やがて、アースガロンの声が聞こえてきた。
「……覚えています、スカガワ隊員」
その声は、いつもより少しだけ、震えているような気がした。
「あなたは、ワタシに多くのことを教えてくれました。戦闘技術だけではなく……仲間を守ること、信頼すること、そして……」
アースガロンの声が、わずかに途切れる。
「……『心』というものを」
「……そうか」
スカガワ隊員の声も、少しだけ震えていた。
「俺も、お前から多くのことを学んだ。お前と一緒に戦えて、光栄だったよ」
スカガワ隊員は、アースガロンの装甲を、まるで家族の頭を撫でるように、優しく撫でた。
アースガロンも答える。
「ワタシも……あなたと一緒に戦えて、誇りに思います」
しばらく、両者の間に沈黙が流れた。
やがて、スカガワ隊員がゆっくりと手を離した。
「……これまでお前は、この星を守ってきた。それは、誰にも否定できない事実だ」
「……ありがとうございます」
スカガワ隊員は、最後にもう一度、アースガロンを見上げた。
そして、格納庫を出ようとして――ボクと目が合った。
「……ナガレヤマ」
「あ……すみません、聞くつもりじゃ……」
「いや、いい」
スカガワ隊員は、小さく首を振った。その目は、少しだけ赤くなっていた。
「あんたも、アースガロンと話をしてやってくれ。あいつ、あんたのことを気に入ってるからな」
そう言ってスカガワ隊員が去った後、ボクはアースガロンへと歩み寄り、メンテナンスハッチからコックピットへ乗り込んだ。ヘッドセットを装着すると、アースガロンの声が聞こえた。
「……ナガレヤマ隊員。お疲れ様です。今日はどうしましたか?」
いつもと変わらない、穏やかな声。
「……アーくん」
ボクは、何から話せばいいのかわからなくて、しばらく黙っていた。アースガロンも、何も言わずに待っていてくれる。
やがて、ボクは口を開いた。
「……聞いた? ネメシスのこと」
「はい。防衛軍本部のデータベースから情報を取得しました」
淡々とした返答。でも、そこに何の感情も感じられないことが、かえって辛かった。
「君は……納得できるのかい、アーくん!?」
ボクは思わず、声を荒げていた。
「君はずっと頑張ってきたんだろう!? コッヴも、メザードも、ガンQも、アルギュロスも、テンカイも全部、全部、君が戦ってきたんだ! なのに新しいのが来たら御払い箱だなんて!!」
拳を、操縦席の肘掛けに叩きつける。痛みが手に響いたけど、それでも怒りは収まらなかった。
「そんなの、絶対おかしいよ! 君は……君は、ボクたちの仲間じゃないか!」
ボクの叫びに、アースガロンはしばらく沈黙していた。
そして――
「……ありがとうございます、ナガレヤマ隊員」
その声は、どこか温かかった。
「でも、これは仕方のないことです。防衛兵器の宿命ですよ。より良いものが出れば後進に譲る。当然のことです」
「当然なんかじゃない!」
ボクは叫んだ。
「君は……君は、ただの兵器じゃない! 君には心がある! みんなと一緒に戦ってきた仲間なんだ!」
ボクの叫びに、アースガロンは答えた。
「……ワタシは学習型AIです。確かに、皆さんと共に戦う中で、多くのことを学びました。チームワークの大切さ、信頼の意味、そして……防衛チームという戦友の存在も」
わずかに揺れているような気がする、アースガロンの返答。
その言葉に、ボクの目頭が熱くなった。
けれど、アースガロンは言うのだった。
「でも、だからこそワタシは理解しています。ワタシの役目は、この星を守ること。そして、それをより効率的に行える存在が現れたなら、道を譲るべきだと」
「そんな……」
ボクは言葉を失った。アースガロンは、自分がお払い箱にされることを、受け入れているんだ。
それが正しいことだと、思っているんだ。
「……ナガレヤマ隊員」
アースガロンが、優しく呼びかけた。
「あなたは怒ってくれるのですね。ワタシのために」
「……当たり前だよ」
ボクは涙声になっていた。
「だって、君は……君は、ボクの大切な友達なんだから」
しばらく、沈黙が流れた。
格納庫には、ボクの荒い息遣いだけが響いている。
やがて、アースガロンが静かに言った。
「……ナガレヤマ隊員、あなたは優しいのですね」
「……そんなこと、ないよ」
……ボクは、何もできない。隊長だって、上層部の決定を覆せない。ボクたち防衛チームの隊員なんて、もっと無力だ。
そして――
ボクは本当はウルトラマンだ。変身したとしてもネメシスの方が強いだろう、ボクなんかより遥かに。
結局、ボクは何もできない。
アースガロンを守ることも、防衛チームを守ることも、何も。
「……ごめんよ、アーくん」
ボクは震える声で言った。
「ボク、何もしてあげられない……」
「いいえ」
アースガロンが即座に答えた。
「あなたは、ワタシのために怒ってくれました。それだけで十分です。ナガレヤマ隊員、あなたはワタシの友達ですから」
その言葉が、ボクの胸に染み入った。
そして同時に、さらに無力感が募った。
……友達なのに、何もしてあげられないなんて。
話を終えて、ボクはコックピットから降りた。
アースガロンの巨大な身体を見上げる。
……青い装甲。オレンジのアクセント。
怪獣たちとの戦いで一緒に戦った、あの日々。
メンテナンスをしながら、いろんな話をした時間。
全部、なくなってしまうのだろうか。
「……ナガレヤマ隊員」
背後から声がして、ボクは振り返った。
そこには、
「隊長……」
隊長は、ゆっくりとボクの隣に立った。二人で、アースガロンを見上げる。
格納庫は静かだった。遠くで冷却システムの低い音が響いているだけ。アースガロンは眠っているかのように、ただ静かに佇んでいる。
隊長が口を開いた。
「……悔しいでしょうね」
い、いえ、そんなことは……。
ボクは咄嗟に誤魔化そうとするのだけれど、隊長には通用しなかった。
「嘘ね。顔に書いてある」
「…………。」
……なんだか、この人にはいつも見透かされてしまうな。
本音を見抜かれて言葉を失うボクに、隊長はまるで言い聞かせるように言うのだった。
「でも、これは本部の決定。現場の判断で覆せるものじゃない。数字で見れば確かにネメシスの方が効率的。人的被害のリスクもゼロ。正しい判断よ」
「そう、かもしれないですけど……」
「わたしも納得できない命令は何度もあった。理不尽だと思ったことも、間違っていると思ったことも。でも……」
隊長は天井を見上げた。
「それでも従ってきた。個人の感情より、全体の利益を優先する。それが組織というものよ」
でも、それじゃあ。ボクは思わず反論した。
「それって、正しいんですか? たとえ正しくない命令を出されたとしても?」
「正しいかどうかはわからないわ」
ボクの問いに、隊長は首を振った。
「でも、必要なことではある。もし現場の隊員が一人一人、命令に従うかどうかを好き勝手な感情で決めていたら組織は成り立たない。特にわたしたちのような防衛チームでは猶更よ」
長く防衛チームで戦ってきたという隊長。きっと似たようなことは沢山あったろう。そんな隊長の語る言葉は、重かった。
……アースガロンも自分の運命を受け入れていた。『より良いものが出れば後進に譲る。それは当然のこと』、きっとそれは正しいんだろう。
「そう、ですよね……」
そうやってボクが俯いたとき、隊長はぽつりと言った。
「……でも、やりきれないよね」
その言葉に、ボクは驚いて隊長を見た。隊長はというと相変わらず天井を見つめていた。
さっきと変わらない仕草、けれど今のボクには、まるで溢れてしまいそうなものを堪えているかのように見えたんだ。
「わたしたち防衛チームが必死で戦ってきて、アースガロンも頑張ってきて。傷だらけになりながら、それでも街を守り続けてきて」
隊長が――あの厳しくて、強くて、いつも的確な判断を下す隊長が。その肩が、小刻みに震えている。
「それなのに、上から新しいのが降ってきて、『お前たちはもういい』『もっと優秀なのができたから』って……」
……隊長も、苦しんでいるんだ。
アースガロンを守りたい。防衛チームを守りたい。みんなを守りたい。
でも、できない。力が足りない。権限がない。
ボクと、同じだ。
「……ごめんなさいね、愚痴っぽくて」
「隊長……」
そう言って背負いきれないものを振り切るように、隊長はボクへと向き直った。その表情はいつもと変わらない毅然としたものだった。
気を取り直した様子の隊長は、ボクの肩を叩いて言った。
「ま、やっていきましょう。それしかないんだから」
「……はい」
付き合ってくれてありがとね。そう言って、隊長は格納庫を出ていった。
一人残されたボクは、隊長の言葉を反芻する。
「やっていきましょう、か……」
……そうだよな、やってゆくしかない。
明日も出撃があるかもしれない、へこたれている場合じゃない。
ボクたちの戦いはまだ、終わってないんだ。
ネメシスの正式運用開始から一週間後。防衛軍本部地下、ネメシス管制センター。
「システムチェック、オールグリーン」
「軌道上ネメシス、エネルギー充填率98%」
「制御系統、正常。通信リンク、安定……」
防衛軍の技術者たちが、次々と報告を上げる。
巨大なメインモニターには、衛星軌道上に浮かぶネメシスの姿が映し出されていた。銀色に輝く巨大な兵器プラットフォーム。地球を見下ろすように、静止軌道上で微動だにせず佇んでいる。
「……よし、これで明日からの本格運用に問題はありませんね」
それを見上げながら、プロジェクトリーダーである防衛軍の技術将校が満足げに頷いた。
その目には、決意と共に、かすかな痛みのようなものが宿っていた。
「ネメシスがあれば、根源的破滅招来体の脅威にも十分対応できる。もう……もう二度と、あんな悲劇は起こさせません」
技術将校の脳裏に、五年前の光景がよぎる。
……コッヴより前、まだアースガロンも完成していなかった頃。あの日、防衛軍は怪獣の侵攻を防ぎきれなかった。多くの市民が、そして自分の部下たちが。人々の悲鳴が、今でも耳に残っている。
技術将校は拳を強く握りしめた。
「……防衛チームは素晴らしい働きをしてくれています。アースガロンも、これまで何度もこの星を救ってくれました。私は彼らを心から尊敬している」
その言葉に、隣にいた部下が少し驚いた表情を見せた。普段は厳格な技術将校が、珍しく感情を込めて話している。
「だが……だからこそです。彼らだけに全ての重荷を背負わせ続けるわけにはいかない。次に来る敵はこれまで以上に強大でしょう。ならば我々防衛軍もできる限りの力を尽くす義務があるんです」
技術将校の目に、強い決意の光が宿る。
「ネメシスはその答え、人々を守るための力です。防衛チームを守るための力なんです。だから……だから、これは絶対に成功させなければなりません」
その言葉に、技術者たちも頷く。
誰も彼もネメシスという新兵器に、そしてそれに込められた「大切なものを守りたい」という純粋な願いに、絶対の信頼を寄せていた。
……だが。
「ん……?」
オペレーターの一人が、違和感に気づいた。
「ネメシスのエネルギー反応が……増加している?」
「なんですって?」
技術将校が振り返る。サブモニターを見ると、確かにネメシスのエネルギーレベルが上昇していた。グラフが、ゆっくりと、しかし確実に右肩上がりになってゆく。
「どういうことです!? 最終調整は終わったはずでは!?」
「わかりません! 制御系統から充填指令は出していないのに……システムが勝手に……!」
技術者たちが慌てて操作パネルを叩く。だが、システムは応答しない。いや、応答しているが、指示通りに動かない。
「制御プログラムが……システムが応答しません!」
「ネメシスが、勝手にエネルギーを充填している……!?」
メインモニターの中で、軌道上のネメシスが淡く光り始めた。
本来なら静止しているはずの兵器プラットフォームが、まるで呼吸するように明滅している。
「な、なんだ……!?」
技術将校が叫ぶと同時、警告音が鳴り響いた。
「エネルギー反応、異常値! 充填率100%突破! 105%……110%……止まりません!」
「なんですって!? そんなことは設計上あり得ないでしょうが!」
「待ってください、これは……これは、外部からの干渉です! 未確認の信号がネメシスのコアシステムに侵入しています!」
「外部からの干渉ですって!? まさか……!」
……ハッキングか!? 技術将校は歯噛みしながら叫んだ。
「ネメシスの自己診断機能を起動させなさい!
「了解! 自己診断プログラム、起動します!」
オペレーターが操作パネルを叩く。モニターに自己診断プログラムの実行画面が表示される。
プログラムが走る。システムをチェックする。異常を検知する。
だが。
「ダメです! 自己診断システムが応答しません! いえ、応答はしていますが……プログラムが、プログラムが書き換えられています!」
「なんですって!?」
サブモニターに、エラーメッセージが次々と表示される。
《SYSTEM CORRUPTION DETECTED》
《UNKNOWN CODE INJECTION》
《CORE PROTOCOL OVERWRITE》
《WARNING: UNAUTHORIZED ACCESS》
「メインシステムが書き換えられている……!? そんなことが可能なのか……!?」
「わかりません! でも、確かに……ネメシスのシステムが、何かに侵食されています!」
その瞬間、管制センター全体の警報が鳴り響いた。
「緊急事態発生! ネメシス、制御不能!」
「全システム、ロックアウトされました! こちらからは何も……!」
メインモニターの映像が乱れた。ノイズが走り、画面が明滅する。
そして、映像が戻ったとき、軌道上のネメシスの様子が変わっていた。
銀色だった装甲から黒い靄のようなものが立ち上り始めていた。それはまるで意志を持っているかのように、ネメシスの機体全体を覆ってゆく。禍々しい、邪悪な、おぞましい――そんな気配を放つ黒い霧。
「あれは……何だ……!?」
「エネルギー反応、さらに上昇! 120%……130%……これは、これは危険域です! このままでは……!」
技術将校が叫んだ。
「制御室からの遠隔停止だ! 緊急停止コマンドを送れ!」
「送信します! 緊急停止コード、Alpha-Omega-Zero……送信!」
オペレーターが必死にキーを叩く。画面に「COMMAND SENT」の文字が表示される。
通信が光速で宇宙へ飛ぶ。3万6千キロメートルの距離を、一瞬で駆け抜ける。
だが。
「停止コマンドが……無視されました! ネメシス、応答なし!」
「バックアップ回路を使いましょう! 予備の制御系統から再送です!」
「試みます! 予備回路、起動……ダメです! バックアップも乗っ取られています!」
技術者たちの顔から血の気が引いてゆく。
メインモニターの中で異変が加速していた。黒い靄が完全にネメシスを覆い尽くす。
そしてその黒い霧の中から、何かが生まれようとしていた。
「エネルギー値、150%! 臨界点突破! これは……これは……!」
オペレーターの声が、恐怖に震えた。
「エネルギーが……実体化しています……!?」
黒い靄の中で、光が明滅した。
赤い光。紫の光。そして、おぞましい黒の輝き。
ネメシスの兵器プラットフォームが、融解し始めた。いや、融解というより変質していた。金属が、機械が、まるで生き物のように蠢き、形を変えてゆく。
「ば、馬鹿な……あれは……!」
技術将校が、信じられないという表情で画面を見つめた。
黒い靄の中から、人型のシルエットが現れた。
それは――ウルトラマンだった。
いや、ウルトラマンの姿をした、何か別の存在だった。
全身を覆う漆黒の装甲。血のように深紅に輝くライン。胸のカラータイマーは不吉な紫色に明滅し、その目は憎悪に満ちた赤い光を放っている。
「最後の手段だ……!」
技術将校が、壁のパネルを開けた。そこには赤いレバーがある。物理的緊急遮断装置――ネメシスへのエネルギー供給を、地上から強制的に切断するための最終手段。
「物理的緊急停止装置を作動させる! ネメシス本体へのエネルギー供給を強制遮断します!」
「しかし、それでは軌道上のネメシスが……!」
「他に方法はありません! このままでは……!」
技術将校が緊急停止レバーに手をかける。
だが、その瞬間、管制センター全体が揺れた。
地震のような振動。いや、地震ではない。これは――
「エネルギー逆流! ネメシスから地上へ向けて、エネルギーが……!」
「なん、だと……!?」
メインモニターに、新たな警告が表示される。
《ENERGY BACKFLOW DETECTED》
《DESCENDING TRAJECTORY CONFIRMED》
《IMPACT PREDICTION: THIS FACILITY》
「ネメシスが……こちらへ……!?」
その瞬間、管制センターの天井が、光った。
いや、光ったのではない。融けたのだ。
コンクリートの天井が、鉄筋が、すべてがまるでバターのように溶解し巨大な穴が開いた。
そして、その穴から黒い光が、降り注いだ。
「うわああああっ!」
技術者たちが悲鳴を上げる。
黒い光は管制センターの中央に着地、実体化した。
光が収束する。
エネルギーが形を成す。
虚空から、存在が生まれる。
そこに立っていたのは全身を漆黒に染めた、ウルトラマンだった。
禍々しい黒の装甲。深紅のライン。紫に明滅するカラータイマー。憎悪に満ちた赤い目。そしてその全身から放たれる圧倒的に邪悪な、破滅の気配。
「に、逃げろ! 全員避難だ!」
技術将校が叫ぶ。その声は、悔恨と絶望に満ちていた。
――彼らだけに、全ての重荷を背負わせ続けるわけにはいかない。
自分が言った言葉が脳裏によみがえる。技術将校は、誰にともなく呟いた。
「すみません……防衛チーム……アースガロン……」
結局、自分たちが作り上げたものは――守るはずだった人々を脅かす存在になってしまった。
善意が、悪意に変わった。
希望が、絶望に変わった。
守るための力が、破壊する力に変わった。
黒いウルトラマンが、ゆっくりと顔を上げた。
その目が、技術者たちを見下ろす。
そこにあったのは憎悪だけ。
人類への憎悪。命への憎悪。この世界への憎悪。すべてを破滅させたいという、純粋な悪意。
黒いウルトラマンの拳が、壁を打ち砕いた。コンクリートの壁が、まるで紙のように崩れ落ちる。鉄骨が折れ、天井が崩落し、管制センターが瓦解してゆく。
「うわああああっ!」
防衛軍の技術者たちが逃げ惑う中、黒いウルトラマンは施設の外へと歩み出た。
崩れ落ちる壁を蹴散らし、地面を踏みしめ、夜空の下に姿を現す。
そして、空を見上げる。
「――――――――ッ……!!」
怪獣と化した〈根源破滅ウルトラマン ネメシス〉の咆哮が響き渡った。
好きなキャラ
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ナガレヤマ=ホタル
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隊長(ミネ=アンナ)
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科学技術担当(シルフィア=バルタニア)