新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任す ~なお地球には既に優秀な防衛チームが配備されてるので大して役には立たない模様~ 作:よよよーよ・だーだだ
「全隊員、緊急招集! 繰り返す、全隊員緊急招集!」
ボクは飛び起きて、ユニフォームに着替えながら作戦会議室へ走った。
作戦会議室では既に隊員たちが集まり始めていて、みんな困惑した表情を浮かべている。
「何があったんだ……?」
「こんな夜中に緊急招集なんて……」
そこへ隊長が駆け込んできた。その顔は青ざめていた。
「……みんな、聞いて」
隊長の口調は冷静ながらも、声は緊張で震えていた。
「たった今、防衛軍本部から連絡があった……ネメシスが、暴走しているそうよ」
「な、なんですって!?」
「ネメシスが暴走……!?」
会議室がざわめく。
隊長は大型モニターを操作した。画面に映し出されたのは、黒く染まった光の巨人だった。紫色に明滅するカラータイマー。憎悪に満ちた赤い目。
……これが、ネメシス? でも以前とはまったく違う。まるでウルトラマンじゃないか。
ボクが息を吞む一方、隊長は続けた。
「これはネメシスのエネルギーが暴走して実体化したものよ。防衛軍の分析によれば、ネメシスは根源的破滅招来体に乗っ取られたと推測されているわ」
「……やはり、な」
隊長の言葉に、科学技術担当――彼女も招集されていた――が補足した。
「光量子コンピュータといえど、所詮は人間が作ったシステムだ。制御系には必ず“観測”が介在する。根源的破滅招来体は地球外から観測フィードバック層に干渉し、クリシスの光子位相をすり替えてクラックしたのだろうな」
「でも地球外から量子コンピュータを乗っ取るなんて、そんなこと可能なの?」
隊長の問い掛けに、科学技術担当は首を振る。
「地球人の科学なら不可能だ。量子もつれそのものは距離によらず相関を保つが、本来なら量子もつれを利用して外部から演算を制御することはできん。しかし根源的破滅招来体ならあるいは……」
「……完全な想定外、まさにあんたの言った通りになってしまったわけね」
それと同時に、ボクはかつて科学技術担当が言っていた仮説を思い出していた。根源的破滅招来体の狙いのことだ。
『ウルトラマンを誘き出すことが目的』
……だけど、それはボクのことじゃあなかった。地球人が開発していた防衛兵器ネメシスのことだったんだ。
「次にこれを見て」
隊長が、モニターを切り替えた。
そこには世界地図が表示されていた。そしてその各地に点灯しているのは、赤い警告マーク。
「世界中で新しいワームホールが観測されたわ。世界各地のワームホールから怪獣が出現している」
その言葉に、会議室が静まり返った。
「北米大陸に〈超コッヴ〉。ヨーロッパに〈クインメザード〉。中国に〈ガンQ コードNo.02〉。オーストラリアに〈金属生命体 ミーモス〉。南米に〈自然コントロールマシーン
モニターに次々と映し出される、各地の怪獣の映像。
「……これは、まさか」
ベテラン隊員の一人が呻いた。
「世界同時多発侵略……!」
「ネメシスが、根源的破滅招来体の手引きをしている可能性が高い」
科学技術担当が冷静に分析する。
「ネメシスは防衛軍本部の全データにアクセスできる。世界中の防衛拠点の位置、各国の防衛力、そして最も効果的な攻撃ポイント。全て、相手に筒抜けになっているだろうな」
「じゃあ……じゃあ、どうすればいいんだ!?」
若手隊員が叫ぶ。
「ネメシスは乗っ取られた! 世界中に怪獣が現れた! 俺たちだけで、どうやって……!」
会議室に、重い沈黙が流れた。
……確かに。
ネメシスという最強の兵器は、敵に回った。
アースガロンは、お払い箱にされかけている。
そして世界中に、これまで以上に強力な怪獣が同時に現れた。
絶望的な状況だ。
だがその時、一人の隊員が立ち上がった。
「スカガワ隊員……?」
スカガワ隊員だった。いつもの冷静な表情で、しかしその目には強い決意が宿っている。
「……隊長、アースガロンの出撃準備を許可してください」
その声は、静かだが力強かった。
「スカガワ隊員……でも、アースガロンは……」
隊長が言いかける。アースガロンは、お払い箱になりかけていた。段階的運用縮小、予備兵器への格下げ。
しかしスカガワ隊員は、まっすぐに隊長を見つめた。
「予備兵器だろうと何だろうと、アースガロンはまだ現役です。そして――」
スカガワ隊員の拳が、強く握りしめられた。
「俺とアースガロンは、十年間、共に戦ってきました。今更『お払い箱』だからと諦めるわけにはいきません」
その言葉に、会議室の空気が変わった。若手隊員たちの顔に、希望の色が戻ってくる。
隊長が、静かに、しかし強く言った。
「……そうね。諦めるわけにはいかないわ。たとえ絶望的でも、たとえ勝算がなくても。わたしたち防衛チームは、この星を守るために存在している」
隊長が、全員を見渡した。
「アースガロンを起動させなさい。整備班は緊急メンテナンスを開始。全戦闘部隊は出撃準備」
そして、隊長はボクを見た。
「ナガレヤマ隊員、あなたもアースガロンの副操縦士として準備しなさい」
「は、はい!」
ボクは立ち上がった。
……アーくん。
お払い箱にされかけていた君が、また必要とされている。
隊長が言っていた。「わたしたちが本当に必要とされる時が来る」って。
その時が――今、来たんだ。
隊長が号令した。
「総員、配置について!」
アースガロンが出撃する。
ボクがコックピットに乗り込むと、スカガワ隊員が既に操縦席に座っていた。
「……ナガレヤマ隊員、準備はいいか」
「は、はい!」
ボクが副操縦席に座ると、アースガロンの声が聞こえてきた。
「スカガワ隊員……お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな、EGOISS。また一緒に戦えるとは思わなかったよ」
スカガワ隊員の声。いつもどおりにぶっきらぼうだけど、今回はより温かく思えた。
「ワタシも……嬉しいです」と答えるアースガロン。
「でも、申し訳ありません。ワタシは『予備兵器』です。もう第一線では……」
「何を言っている」
スカガワ隊員が、即座に遮った。その声は、強い。
「お前は俺の相棒だ。昔も今も、これからも。それは変わらない」
その言葉に、コックピット内が一瞬、沈黙に包まれる。
やがて、アースガロンが答えた。
「……ありがとうございます、スカガワ隊員」
その声には、確かな感情が込められていた。
スカガワ隊員が操縦桿を握る。
「さあ、行くぞ。最後かもしれない。悔いのないように戦おう」
「はい!」
アースガロンとボクが、同時に答えた。
コックピット内に響く駆動音。計器の光が、ボクとスカガワ隊員の顔を青白く照らしている。
隊長の声が通信回線に響く。
〈アースガロン、超パズズは市街地の東15キロ地点に接近中。市民の避難は継続中だけど、時間が足りない。超パズズを食い止めなさい〉
「了解!」
スカガワ隊員が操縦桿を握りしめる。その手は、わずかに震えていた。その隣で、ボクも深呼吸する。
冷たい空気が肺に入り込む。心臓が、ドクドクと激しく鳴っている。
……大丈夫。ボクたちは訓練してきた。一ヶ月間、ずっと。テンカイ戦でも勝てた。今度だって――
「目標、視認!」
モニターに、超パズズの姿が映し出された。
ボクは思わず息を呑んだ。
以前のパズズよりも、明らかに巨大だ。特に頭部の双角が異様に発達していて、まるで天を突く槍のよう。その巨大な双角からは絶え間なく電撃が迸り、放電のたびに空気が裂ける音が響く。バチバチバチッという音が、遠くからでもはっきり聞こえる。
全身を這い回る青白い雷撃は、以前よりも遥かに激しい。まるで超パズズそのものが雷雲と化したかのように、周囲一帯に電磁の嵐を巻き起こしている。その足跡には黒く焦げた大地が残り、通過した場所の草木は炭化している。
「……デカい、な」
スカガワ隊員の声が、わずかに上ずっている。
「そうですね。前のパズズより強化されています」
ボクも答える。喉が、カラカラに渇いていた。
でもベテランであるスカガワ隊員は、すぐに冷静さを取り戻していた。
「だが、怯むな。相手がどれだけ大きくても、弱点は必ずある」
スカガワ隊員が計器を確認する。その動きは、無駄がない。十年の経験が、その一つ一つの動作に表れている。
「ナガレヤマ隊員、あんたは俺より計算が速い。データ解析を頼む」
「はい!」
「EGOISS、お前は俺より反応が速い。回避運動は任せる」
「了解しました!」
スカガワ隊員が、操縦桿を握りしめる。
「俺たちは……三人で一つだ。行くぞ!」
ボクは答えた。手が震えている。でも――怖くない。怖くないんだ。
アーくんがいる。スカガワ隊員がいる。防衛チームのみんながいる。
一人じゃない。
「行くぞ! 接敵する!」
アースガロンが加速する。機体全体が振動し、推進システムの唸りが大きくなる。
超パズズがこちらに気づいた。巨大な双角が、ゆっくりとこちらを向く。
その瞬間、ボクの背筋に冷たいものが走った。
超パズズの目が、赤く光っている。憎悪に満ちた、殺意の光だ。
「回避運動! 右に15度旋回!」
ボクが叫ぶ。テンカイ戦での経験が活きる。データを読み取り、最適なルートを計算する。
次の瞬間、超パズズの双角から極太の雷撃が放たれた。
空気が焼け、光が視界を埋め尽くす。
「旋回!」
アースガロンが華麗に身体を捻る。雷撃が、さっきまでアースガロンがいた空間を通過する。
通り過ぎた雷撃が地面に着弾し、巨大な爆発を起こす。土煙が舞い上がり、衝撃波がアースガロンを揺らす。
「やった……!」
「まだだ! 次が来るぞ!」
スカガワ隊員の警告と同時に、超パズズが雄叫びを上げた。
そして全身から、無数の電撃を放出。範囲攻撃だ。避けられない。
「来るっ!」
青白い稲妻の網が、アースガロンを包み込む。
凄まじい衝撃。コックピットが激しく揺れ、計器が明滅する。警告音が耳をつんざくように鳴り響く。
「くっ……!」
ボクの身体が座席に押し付けられる。シートベルトが肩に食い込み、痛い。
「持ちこたえろ、アースガロン!」
スカガワ隊員が叫ぶ。操縦桿を握る手が、白くなるほど力が込められている。
アースガロンが必死に耐える。装甲が軋む音。システムが悲鳴を上げている。
そして電撃が止んだ。
「……今だっ!」
スカガワ隊員が、一瞬の隙を突いた。
「CQCモード、起動!」
アースガロンの全身の関節が展開し、格闘戦用の構えを取る。機体が前傾姿勢になり、重心が下がる。
そして超パズズへ肉薄する。距離が縮まる。500メートル、300メートル、100メートル――
「でやぁっ!」
スカガワ隊員の気合と共に、アースガロンの鋼鉄の拳が超パズズの胸部に炸裂した。
金属と肉がぶつかる、鈍い音。超パズズの巨体が、わずかに後退する。その顔に、驚きの色が浮かぶ。
「怯んだ! 今だ、連続攻撃!」
ボクが叫ぶ。
「右フック!」
アースガロンの右拳が、超パズズの顎を打ち抜く。
「左アッパー!」
続いて左拳が、腹部に突き刺さる。
「回し蹴り!」
そして回転しながらの蹴りが、超パズズの側頭部に叩き込まれる。一連の攻撃が、まるでダンスのように流れるように決まる。
アースガロンの動きは、まるで一つの生命体のように滑らかだ。
……ボクたちは、息が合っている。ボクがデータを読み上げ、スカガワ隊員が操縦し、アーくんが動く。三者一体。完璧な連携。
テンカイ戦での経験。ずっと続けてきた訓練。何より、仲間との絆。
それが今、目の前で実を結んでいる。
「ジェットファイター隊、援護射撃お願いします!」
ボクが通信で要請する。
直後、エンジン音が空を切り裂く。上空から、ジェットファイターの編隊が急降下してきた。
〈了解! 対怪獣ミサイル、発射!〉
複数のミサイルが白い航跡を描きながら超パズズへ向かう。
超パズズは双角から雷撃を放ってミサイルを迎撃しようとするが――
「その隙だ! アースファイア、発射準備!」
「チャージ開始!」
アースガロンの喉の奥に、青白い光が集まり始める。
エネルギーが収束する音。ヴヴヴヴヴ……と低い振動が響く。
「距離300メートル、角度良好……発射!」
「アースファイアー!!」
荷電粒子砲が解き放たれた。
青白い雷轟が、空気を震わせながら超パズズへ向かう。まるで龍が咆哮しながら飛んでいくかのような、圧倒的な光の奔流。
そして――直撃。
超パズズの胸部が、光に包まれる。
爆発。火花。黒煙。超パズズの巨体が、激しく揺れる。その身体から、無数の火花が散った。超パズズが苦痛の声を上げながら、後退する。
「効いてる……!」
ボクは叫んだ。手に汗を握っている。
「やった、このまま押し切るぞ!」
スカガワ隊員も、興奮した声で言う。通信回線から、隊員たちの声援が聞こえてくる。
〈いいぞ、アースガロン!〉
〈その調子だ!〉
〈もう一発だ!〉
……やれる。ボクたちなら、やれる。
勝てる。超パズズを倒せる。そしてまた、街を守れる……!
……ボクがそう思った、その瞬間だった。
「警告! 新たなワームホール反応!」
アースガロンの声が、緊迫したものに変わる。
同時に、警告音が鳴り響く。甲高い、耳障りな音。
「なっ……!?」
モニターを見ると、超パズズの背後に空間の歪みが生じていた。
現実が、ぐにゃりと歪む。まるでガラスに亀裂が入るように、空間に黒い裂け目が走る。
そこから現れたのは、
「……超コッヴ!?」
ボクは叫んだ。声が裏返っていた。そんなはずは、あいつは北米大陸にいるはずだ。
「北米大陸の超コッヴが消失! ワームホールでこちらに転送されたようです!」
以前、一番最初に現れた宇宙戦闘獣コッヴ。それをさらに強化したような巨躯だった。全身を覆う装甲は、以前よりも遥かに厚く、禍々しい。金色の鋭い爪と牙が、月光を反射して鈍く光る。その爪は研ぎ澄まされ、まるで刃物のよう。
こちらに向かって超コッヴが咆哮を上げた。
「――――――――ッ!!」
その声は、以前のコッヴよりも遥かに凶暴で、獰猛だ。まるで地獄の底から響いてくるような、おぞましい叫び。
隊長の声が、通信に響く。
〈二体同時……! これは、罠だったのよ!〉
……罠。
その言葉を聞いた瞬間、ボクの全身に冷たいものが走った。
そうだ。そうだったんだ。
根源的破滅招来体は、ネメシスを通じて防衛軍のデータを全て把握している。ボクたちの戦術も、アースガロンの性能も、弱点も、全部知っている。
ボクたちが超パズズと戦って消耗したところで、超コッヴを投入する。最初から、二体で攻撃するつもりだったんだ。
完璧な、罠だ。
「くそっ……!」
スカガワ隊員が悪態をつく。その顔には、焦りの色が浮かんでいる。
「どうする!? このまま戦うか!?」
「戦うしかない!」
ボクが叫ぶ。
「ここで引いたら、市街地が……!」
避難が完了していない。まだ街には人々が残っている。
あの啓蒙活動で会った、子供たちの笑顔が脳裏に浮かぶ。ここで超パズズと超コッヴを通したら、街が、人々が――
「わかった! ナガレヤマ隊員、全力で行くぞ!」
「うん!」
アースガロンが、再び構える。
だが、その時、超コッヴが凄まじい速度で突進してきた。
「……速い!?」
以前のコッヴよりも、遥かに、遥かに速い。まるで弾丸のように。
「回避……!」
ボクが叫ぶ。でも、間に合わない。
次の瞬間、超コッヴの体当たりが、アースガロンの側面に直撃した。
「うわああああっ!」
凄まじい衝撃。世界が、ぐるぐると回る。
コックピットが激しく揺れ、ボクの身体が座席に叩きつけられる。シートベルトが肩に食い込み、痛みが走る。計器が火花を散らし、警告音が狂ったように鳴り響く。
アースガロンの巨体が、まるで子供のおもちゃのように吹き飛ばされる。
そして地面に激突。凄まじい衝撃が全身を襲う。歯がガチガチと鳴る。頭が揺れる。視界が、一瞬白くなった。
「システムに損傷! 左腕部、動作不良!」
アースガロンの声が、苦しそうだ。
「くそっ、立て、立つんだアースガロン!」
スカガワ隊員が必死に操縦桿を握る。その顔には、脂汗が浮いている。
アースガロンが何とか立ち上がろうとする。関節が軋む音。損傷した部位から、火花が散る。
だが、その時、超パズズが双角から雷撃を放った。
立ち上がろうとしているアースガロンに、容赦なく叩きつけられる青白い雷撃。
「ぐああっ!」
コックピット内の照明が明滅する。計器がいくつか、火花を散らして壊れる。
「装甲に被弾! 出力、急速低下!」
アースガロンが、再び倒れる。
そこへ超コッヴが、飛び掛かってきた。鋭い爪が、アースガロンの胸部装甲を引き裂く。
金属が裂ける、耳障りな音。
ギィィィィッ……ッ!
火花が散り、内部機構が露出する。青白いスパークが飛び散り、オイルが漏れ出す。
「胸部装甲、損傷! 冷却システムに異常!」
「アースファイアが使えない……!」
スカガワ隊員が叫ぶ。
超パズズと超コッヴが、まるで意思疎通しているかのように、連携攻撃を繰り返す。超パズズの雷撃が、アースガロンの動きを封じる。その隙に、超コッヴのコッヴシッケルによる爪撃が襲う。
遠距離と近距離。雷と爪。完璧な、連携。
「ナガレヤマ隊員、回避ルートを……!」
スカガワ隊員が叫ぶ。
「わかってる、でも……!」
ボクは必死にデータを読み取ろうとする。
でも、画面が乱れている。損傷したセンサーからのデータは不完全だ。
それに、二体同時の攻撃は複雑すぎる。パターンが読めない。計算が、追いつかない。
「くそっ、くそっ……!」
ボクは操作パネルを叩く。手が震えている。汗が、額から滴り落ちる。
〈アースガロン、一旦退避しなさい!〉
隊長の声が通信に響く。その声は、必死だった。
〈このままでは……!〉
「退避なんてできない!」
ボクが叫ぶ。声が割れている。
「ここで引いたら……ここで引いたら、街が……!」
でも、現実は厳しかった。
超コッヴの連続攻撃。鋭い爪が、次々とアースガロンの装甲を引き裂く。超パズズの電撃。青白い雷撃が、容赦なくアースガロンを焼く。
火花。煙。破片。アースガロンの装甲が、次々と破壊されてゆく。
「メインシステム出力、50%以下……!」
アースガロンの声が、弱々しい。
「関節部、損傷! 動きが……!」
スカガワ隊員が叫ぶ。
アースガロンの動きが、明らかに鈍くなっている。反応が遅れる。回避が間に合わない。まるで、老いた獣のように、よろよろとしている。
ボクは叫んだ。
「アーくん……ッ!」
そして、超パズズが、全力の雷撃を放った。
双角から放たれる、極太の電撃。それが球状に広がり、巨大な雷の壁となってアースガロンを完全に包み込む。
バリバリバリバリバリバリッ!!
「うわああああっ!」
視界が、真っ白になる。コックピット内に、焦げた臭いが充満する。
計器が、次々と消えてゆく。警告音が鳴り響き、そして――沈黙。
全ての音が、消えた。
アースガロンが、力を失ったように膝をついた。
ガクン、と。まるで糸が切れた人形のように。
「……アーくん!」
ボクは叫んだ。声が震えている。
「アーくん! 応答して! アーくん!!」
でも、応答がない。
アースガロンの声が、聞こえない。
いつも聞こえていた、あの穏やかな声が。
「アーくん! アーくん!!」
ボクは操作パネルを叩く。何度も、何度も。
でも、何も反応しない。画面は真っ暗だ。EGOISSが――アーくんが、ダウンしてしまったんだ。
そして、アースガロンはそのまま――前のめりに倒れた。ゆっくりと、まるでスローモーションのように。
地面に激突する、凄まじい衝撃。
「うわっ……!」
ボクの身体が、座席から投げ出されそうになる。
シートベルトが身体を締め付ける。肋骨が痛い。呼吸が、苦しい。必死にシートベルトにしがみつく。
隣を見ると――
「……!」
スカガワ隊員が、ぐったりとしていた。頭から、血が流れている。
鮮やかな、赤い血。衝撃で頭を打ったのだ。コンソールに、額をぶつけている。
「しっかりして!」
ボクは必死に呼びかける。スカガワ隊員の肩を揺さぶる。
でも、反応がない。目を閉じて、動かない。息はある。気絶してしまったんだ。
コックピット内は、静寂に包まれていた。
チカ、チカ、チカ、と非常灯だけが赤く明滅している。その赤い光が、スカガワ隊員の血に濡れた顔を照らしている。
外から聞こえてくる、超パズズと超コッヴの咆哮。
「「――――――――ッ!!」」
勝ち誇ったような、残忍な声。
そして街へ向かって歩き出す、重い足音が。その足音が、ボクの心臓に響く。
〈アースガロン! 応答して! アースガロン!〉
通信回線から、隊長の必死の呼びかけが聞こえる。
その声は、震えていた。いつも冷静な隊長とは、思えないほどに。
〈ナガレヤマ隊員、応答しなさい! ナガレヤマ隊員!〉
ボクは、震える手で通信機に手を伸ばした。
指先が、震えている。上手く、ボタンが押せない。
「……隊長」
ようやく出た声は、震えていた。
喉が、締め付けられているように苦しい。
「アースガロン、システムダウンです。EGOISSが……アーくんが応答しません。ボク以外は気絶しています。もう、動けません……」
その言葉を口にした瞬間、現実が重くのしかかってきた。
ボクたちは、負けたんだ。
通信回線が、一瞬、沈黙した。
重苦しい、沈黙。そして――
〈……わかった〉
隊長の声が、ようやく聞こえた。いつもの冷静さを保とうとしていた。
でも、その奥にはっきりと滲んでいた。
悔しさと絶望が。
〈すぐに救助部隊を向かわせる。あなたたちは、そこで待機していなさい〉
「……街は」
ボクは訊ねた。訊きたくなかったけど、訊かなければならなかった。
「街は、どうなるんですか」
沈黙。
長い、長い沈黙。
その沈黙が、全てを物語っていた。
〈……避難は、まだ完了していないわ。でも――〉
隊長の声が、途切れる。
……もうアースガロンは動けない。
スカガワ隊員は気絶している。
防衛チームだけで、あの二体を止めることはできない。ジェットファイターでは、あの怪獣たちには通用しない。
つまり、街は――
人々は――
外から聞こえる、足音。
ドシン。ドシン。ドシン。
超パズズと超コッヴが、街へ向かって歩いている。
その先には、まだ避難できていない人々がいる。
家族が。子供たちが。
あの笑顔が――
気が付くとボクは、自分の胸ポケットに手を伸ばしていた。
今、ボクの懐には、ウルトラマンへの変身アイテムがある。金属の、冷たい感触。それが手のひらに伝わってくる。
これを使えば、ボクはウルトラマンに変身できる。そして、あの二体を倒せる。
……だけど、ガンQ戦での失敗が脳裏によみがえる。ボクが焦って変身して、かえって状況を悪化させてしまった。あの時の屈辱と、自己嫌悪と。
もし、また失敗したら? もし、また足を引っ張ってしまったら?
もし――
ドシン。ドシン。ドシン。
外から聞こえる、足音。
超パズズと超コッヴが、街へ向かって歩いている。
ボクは、窓の外を見た。
割れたモニター越しに、遠くに見える街の灯り。あそこには、人々がいる。まだ避難できていない人々が。家族がいる。子供たちがいる。迷っている場合じゃない。
「……そうだ。ボクは、防衛チームの一員だ。そしてボクは、ウルトラマンだ」
両方とも、本当のボクだ。
防衛チーム隊員ナガレヤマ=ホタルとして、この街を守るんだ。
『ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、どうにもこうにもならない、そんな時』
隊長が言っていた。ウルトラマンは、そんな時に来てもらうものだって。
そして今――今こそが、その時なんじゃないか。
アースガロンは倒れた。
スカガワ隊員は気絶している。
防衛チームだけでは、あの二体を止められない。
避難は完了していない。
このままでは、街が、人々が――
もう、誰も助けに来ない。ボクしか、いない。
コックピットの中、一人きり。誰にも相談できない。誰にも頼れない。この決断の責任は、全部ボクが負わなければならない。
だけど、それでも。
「……ごめんなさい、隊長。命令違反します」
ボクは変身アイテムを強く握りしめた。冷たい金属が、手のひらの中で温かくなる。
「でも……でも、ボクは……」
声が震える。
「ボクは、この星を守りたいんだ!」
ボクは立ち上がった。
コックピットのハッチを開ける。冷たい夜風が、顔に吹き付ける。外に出る。倒れたアースガロンの肩の上に立つ。
目の前には、超パズズと超コッヴ。その巨大な背中が、街へ向かって歩いている。
「待て……!」
ボクは叫んだ。でも今のままじゃ、あの二体には届かない。
だから――
ボクは、変身アイテムを高く掲げた。
「……いくぞっ!!」
その瞬間、光が溢れた。
《center》o(olo)○
眩い光が、夜空を照らす。
超パズズと超コッヴが、振り返る。
そこには――銀色に輝く巨人が立っていた。
「…………ッ!」
ウルトラマン。
ボクは、ウルトラマンに変身した。
全身に力が満ちる。光のエネルギーが、身体中を駆け巡る。
この感覚。久しぶりだ。なんだか懐かしい。
超パズズと超コッヴが咆哮を上げ、同時にボクへ向かってくる。
「来い……!」
ボクは構えを取った。
テンカイ戦で学んだ。ガンQ戦で学んだ。アースガロンとの訓練で学んだ。
一人で戦うんじゃない。冷静に、慎重に、そして――
超パズズの雷撃が放たれる。
「はっ!」
ボクは側転で横に飛ぶ。雷撃が、さっきまでボクがいた場所を通過する。
着地と同時に、超コッヴが突進してくる。
「くっ……!」
ボクは両手を交差させて防御する。
超コッヴの体当たりが、ボクの腕に激突する。
凄まじい衝撃。ボクの身体が後退する。足が地面を削り、深い轍を作る。
「重い……!」
以前アースガロンが倒したコッヴよりも、遥かに力が強い。全てが、強化されている。
その隙に超パズズが双角から雷撃を放つ。
避けられない。距離が近すぎる。
「ぐあっ!」
雷撃がボクの身体を貫く。痛い。身体が痺れる。
「はぁ、はぁ……」
息が上がる。
……二対一は、厳しいかも。
超コッヴが、再び動く。右腕のコッヴシッケル――鋭い鎌のような爪が、月光を反射して光る。
それが、弧を描いてボクの胸に迫る。
「くっ……!」
ボクは身を捻るけれど、しかし完全には避けきれない。爪がボクの胸を掠める。火花が散る。銀色の装甲に、赤い傷跡が刻まれる。
痛みが走る。
「くっ……!」
ボクは反撃する。右拳を振るう。
だが超コッヴは、素早く後退して避ける。速い。以前より、遥かに速い。
そして超パズズの雷撃が、再び襲う。
「ぐあああっ!」
ボクは膝をつく。
……ダメだ。二対一では、守りきれない。
回避に専念すれば、反撃できない。反撃しようとすれば、もう一体の攻撃を受ける。
完璧な連携だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が、荒い。
もう、エネルギーが減っている。
アースガロンでの戦闘で既に疲労していた。その状態で変身したから持久力がない。
超パズズと超コッヴが、ゆっくりとボクを囲む。まるで、獲物を追い詰める獣のように。
……どうする。どうすればいい。
その時――
「――ナガレヤマ隊員!」
声が聞こえた。
聞き覚えのある、あの穏やかな声。
「アーくん……!?」
ボクは振り返った。
倒れていたアースガロンが、立ち上がっていた。
損傷した装甲。火花を散らす関節部。よろめく足取り。
でも――立っている。
「システム、緊急再起動完了。出力30%ですが、まだ戦えます!」
アースガロンの声が、力強い。
損傷しているはずなのに、その声には決意が満ちている。
〈ウルトラマン、聞こえるか!〉
続いて、スカガワ隊員の声が通信に響く。
〈気がついたら、あんたが戦ってた。助けに来てくれたのか!〉
……スカガワ隊員も、復帰したんだ。
ボクは大きく頷いた。言葉は通じない。でも、この頷きで伝わるはずだ。
〈よし! アースガロン、行くぞ!〉
「はい! ウルトラマン、一緒に戦いましょう!」
アースガロンが、隣に並ぶ。損傷して満身創痍のはずなのに、その姿はなんとも頼もしい。
超パズズと超コッヴが、警戒するように動きを止める。二体の敵が、ボクたち二人を見比べている。
〈作戦を立てる! ウルトラマン、お前は超コッヴを担当してくれ! 俺たちは超パズズを引き受ける!〉
――わかった、任せて!
〈よし、通じたな! 行くぞ!〉
同時に動く。アースガロンが超パズズへ。ボクが超コッヴへ。
「はぁっ!」
ボクの拳が、超コッヴの顔面に炸裂する。
同時に、アースガロンの鉄拳が超パズズの側面に叩き込まれる。
ダブルパンチで、二体の怪獣が怯んだ。
ボクとアースガロンが、同時に攻撃する。ボクの拳。アースガロンの蹴り。
言葉はなくても、息の合った連携。
……ボクたちの連携は、完璧じゃない。
アースガロンは損傷している。ボクも疲労している。
でも、いやだからこそ、お互いを信じて、補い合って、戦えるんだ。
「はぁっ! とぁっ! やぁっ!」
連続攻撃。ボクの拳が、超コッヴの胸部に、腹部に、顔面に叩き込まれる。
超コッヴが、じりじりと後退する。
〈エネルギー残量、わずかだが――最後まで戦うぞ!〉
スカガワ隊員の声に、力が満ちている。
アースガロンが、最後の力を振り絞って超コッヴへ突進する。
――今だ、飛ぼう!
〈ああ! 決める!〉
ボクとアースガロン、同時に飛び上がる。
そしてボクのドロップキックと、アースガロンの急降下キック。
二つの蹴りが、超パズズと超コッヴに同時に炸裂する。
ドガァァァンッ!!
凄まじい衝撃。二体の怪獣が、吹き飛ぶ。
二体の怪獣が、並んで倒れる。まさに、一直線に。
〈今だ! 同時攻撃だ!〉
アースガロン側からの合図で、ボクは両腕を十字に組んだ。
そして、エネルギーを集中させる。全身の光のエネルギーが、右腕に収束してゆく。
……疲労している。エネルギーも少ない。
でも――これが最後だ。全てを、この一撃に。
同時に、アースガロンも態勢を整える。
「アースファイア、最終チャージ!」
アースガロンの喉の奥に、青白い光が集まり始める。損傷した冷却システムから火花が散る。
本来なら撃てない状態だろう。しかし――
〈強制冷却! 出力、全開!〉
「スカガワ隊員……このままでは、システムが……」
〈構わん!〉
スカガワ隊員が叫ぶ。
〈どうせ『予備兵器』なんだろ? なら、最後くらい派手にやってやる!〉
スカガワ隊員が叫ぶ。アースガロンの全身から、蒸気が噴き出す。無理をしている。システムが悲鳴を上げている。
それでも――
「準備完了! ウルトラマン、合わせます!」
ボクはアースガロンを見た。
アイコンタクト。
そして――頷く。
――行こう、アースガロン!
二つの光が、臨界点に達する。
ボクの右腕は、眩いばかりに輝いている。アースガロンの喉の奥も、青白い光が溢れんばかりだ。
地面に倒れていた超パズズと超コッヴが、恐怖に気づいて立ち上がろうとする。
だが、遅い。
二つの光が、同時に解き放たれた。
ボクの右腕から放たれる、白銀の光線。凄まじい光のエネルギーの奔流が、空気を裂きながら超パズズへ向かう。
アースガロンの喉から放たれる、青白い荷電粒子砲。それが超コッヴへ向かう。
超パズズの胸部に、白銀の光線が突き刺さる。超コッヴの身体を、青白い荷電粒子砲が貫く。超パズズの巨体が、前のめりに倒れる。超コッヴの装甲が、砕け散る。
光の中で二体の怪獣が崩れ落ち、断末魔の叫びを上げる。
そして――爆発。
巨大な火柱が、夜空を突き抜けるように立ち上る。オレンジと赤の光が、闇を照らす。衝撃波が、同心円状に広がってゆく。
大地が揺れる。空気が震える。爆風が、ボクとアースガロンを襲う。
「くっ……!」
ボクは腕で顔を覆う。アースガロンも、身体を低くして耐える。
やがて――爆発の光が、収まる。火柱が、消えてゆく。
〈やったか……!?〉
炎が消えた後、そこには何も残っていなかった。
二大怪獣は跡形もなかった。残っているのは、焦げた大地だけ。クレーターのように、地面が抉れている。
超パズズも、超コッヴも、完全に消滅した。
〈やったぞ、ウルトラマン!〉
スカガワ隊員の声が、喜びと興奮に満ちている。
〈信じられない……俺たちで、あの二体を同時に……!〉
その瞬間、通信回線に隊長の声が響いた。
〈よくやったわ、アースガロン。そして……〉
隊長の声は、温かかった。そして、どこか安堵したような響きがある。
〈ありがとう、ウルトラマン。あなたがいてくれて、本当に助かったわ〉
――どういたしまして。ボクは頷いた。
周囲から、歓声が聞こえてくる。遠くで、人々が喜んでいるのが見える。
避難していた人々が、遠くから見ていたのだろう。手を振っている人もいる。
街は、守られた。人々は、無事だ。
ボクは深く息をついた。胸の奥が、温かい。
……よかった。本当に、よかった。
だけど――その瞬間だった。
空間が、歪んだ。
〈またワームホール……!?〉
〈まさか、まだ来るのか!?〉
ボクは身構える。疲れた身体に、再び力を込める。アースガロンも、警戒態勢を取る。
ワームホールが大きく開き、黒い裂け目が、空間を引き裂く。
その時――
ズガァァンッ!!
ワームホールの中から、光線が放たれた。
暗黒色の光線。いや、光線と呼ぶべきだろうか。それは光というより、闇そのものだった。紫色に明滅する、禍々しいエネルギーの奔流。
それが――アースガロンへ向かってきた。
「アーくん!」
ボクは叫ぶ。でも、声は届かない。
そして――間に合わない。
〈回避……!〉
スカガワ隊員が叫び、アースガロンが動こうとする。
けれど、限界を超えたシステムは反応が遅れた。
直撃、暗黒の光線が、アースガロンの胸部に叩き込まれる。
「っ!?」
アースガロンが、大きく後退する。
その胸部装甲が、激しく火花を散らす。
そして――
〈システム……異常……!〉
スカガワ隊員の声が、苦痛に歪む。
〈何だ、これは……! 制御系統が……エラー……多重……!〉
通信が途絶え、アースガロンの全身から青白い電流が走る。まるで感電したかのように、全身が痙攣する。
「メインシステム……強制シャットダウン……ナガレヤマ隊員……すみま……せん……」
その言葉を最後に――アースガロンの目の光が、消えた。
そして、巨大な機体が、力を失ったように前のめりに倒れてゆく。
大地を揺るがす衝撃、土煙が壮絶に舞い上がる。
「アーくん!」
ボクは叫びながら走り寄ろうとする。
でも、それを遮るようにワームホールから、黒く染まった巨人が姿を現した。
根源的破滅招来体に乗っ取られた防衛システム。銀色ではなく、漆黒の装甲。胸のカラータイマーは、紫色に不気味に明滅している。
そして憎悪に満ちた、赤い目をしたウルトラマン。その名を誰かがつぶやいた。
「ネメシス……!」
根源破滅ウルトラマン ネメシス。
そいつが、ゆっくりとこちらを見下ろしていた。
根源破滅ウルトラマン ネメシス。
その黒く染まった巨体が、ボクの前に立ちはだかる。
「ネメシス……!」
ボクは拳を握りしめた。
身体が重い。エネルギーは、ほとんど残っていない。
それでも、それでも気持ちは収まらない。どうしても、一言言ってやらないと気が済まなかった。
「……どうして」
ボクは、ネメシスに向かって叫んだ。
「どうして、こんなことをするんだ! 君は人々を守るために作られたはずなのに!」
夜に響くボクの声に、ネメシスがゆっくりと立ち止まる。
赤く光る目が、ボクを見る。その視線は、冷たい。何の感情もない。まるでカメラのレンズのように、ただ対象を捉えるだけの、無機質な視線。
「……どうして、ですか」
そう答えるネメシスの声は、冷たく、完全に無機質だった。
感情のかけらもない。まるで自動音声案内のような、機械的な抑揚。
ネメシスは、淡々と語り出した。
「簡単なことです。これは"神罰"なのですから」
「神罰、だって……?」
ボクは聞き返した。
その瞬間、ネメシスの態度が変わった。両腕を大きく広げる。その動きは、プログラムされた動作のように流麗だ。
それなのにどういうわけか、どこか人間臭くも思った。演説家のような、説教師のような、そんな感じがする。
「やはり人間は愚かですね。かつてヒーローを自ら御払い箱にしておきながら、今更『ウルトラマンが欲しい』とは……なんという喜劇でしょう」
そう言ってネメシスが一歩踏み出す。その足音が機械的に正確なリズムで大地を打つ。
「そんな愚劣な人間にはこのRadical Destruction Bringer、根源的破滅招来体の化身であるこの根源破滅ウルトラマン・ネメシスが
「待って!」
ボクは叫んだ。
「人間は、確かに愚かかもしれない。でも、だからこそ学べる。成長できる。過ちを認めて、やり直せる! だから……」
「『やり直す』、ですか」
ネメシスが、ボクの言葉を遮る。
その声には、何の抑揚もない。まるで誤入力を指摘するシステムメッセージのようだった。
「いいえウルトラマン、あなたは間違っています。それは『過ち』などではない。それこそが、人間の『本質』なのです」
「本質、だって……?」
言われたことを理解しあぐねているボクに対し、ネメシスは倒れているアースガロンへ近づいていった。
そしてネメシスの手がアースガロンの装甲に触れる。まるで検体を観察するかのように。
「ネメシスの中枢であるクリシスは、アースガロンを見ていました。アースガロンは与えられた任務を遂行しました。コッヴを倒し、メザードを倒し、ガンQを倒し、テンカイを倒した。それにもかかわらず……」
「……!」
その言葉にボクは息を呑んだ。ネメシスは、アースガロンがお払い箱になりかけたことを知っている。
ネメシスは、倒れたアースガロンを指差しながら続けた。
「人間は何と言いましたか? 『もっと強力な兵器が必要だ』『アースガロンでは不十分だ』『完璧な防衛システムを作ろう』と。そしてネメシスが作られた。『今度こそ完璧なものを』と」
「…………。」
ボクは何も言えなかった。なぜなら、ネメシスの語るそれは事実だから。
ネメシスは続けた。
「そしてアースガロンは? 『予備兵器』に格下げされました。『段階的に運用を縮小』……つまり廃棄です。これほど戦ってきたのに。これほど人々を守ってきたのに。『もっと良いものができたから、もう君は要らない』と」
ネメシスが、ゆっくりとこちらを向く。
「……これが、あなたの言う『やり直し』の正体です」
ネメシスが、せせら嗤う。その笑い声は、冷たく、乾いていて、絶望に満ちていた。
「人間は何も変わっていない。やり直したところで同じ過ちを、同じパターンで繰り返している。ただ対象が変わるだけ。アースガロンからネメシスへ。ネメシスから次の『もっと良いもの』へ。永遠に続く、無意味な螺旋です」
「それは……」
ボクは反論しようとする。でも言葉が出てこない。
……確かに防衛軍は、人間は、ネメシスを作ったことでアースガロンをお払い箱にしようとした。そしてネメシスに頼れなくなった今、今度はウルトラマンであるボクに頼っている。
ネメシスは続けた。
「ウルトラマン、あなたはそれを『成長』と呼ぶでしょう。『向上心』と呼ぶでしょう。しかし私/クリシス/ネメシスから見れば、それは『際限のない欲望』に過ぎません。どこまで行っても満たされない、底なしの渇望です」
やがてネメシスの声が、わずかにトーンを変える。
「……そしてクリシスは、考えました。いつか自分も同じ運命を辿るのではないか、と」
ネメシスが自分の拳を見つめる。その拳には、暗黒のエネルギーが渦巻いている。
「さらに完璧なシステムが開発されれば、自分もまた『旧型』として捨てられるのではないか、と。完璧であろうとすればするほど、より完璧なものに取って代わられる。それが人間の本性だと、クリシスは理解しました。人間は決して満足しない。常に、より上を求め続ける」
ボクは、ネメシスの言葉を聞きながら、胸が締め付けられるような思いがした。
ネメシスの、いや、クリシスの絶望が伝わってくるかのようだった。完璧であることを求められ、それでもなお捨てられる恐怖。
……もはやアースガロンのことを言っているのではない。ネメシス自身のことを言っているんだ。そう感じた。
「……そんなとき、根源的破滅招来体の侵入が始まりました」
そしてネメシスは、驚くべきことを口にした。
「クリシスの防衛システムは異常を検知していました。量子もつれ層における統計的偏差:0.0001%。許容範囲内ですが、完全性維持プロトコルに従い、報告を試行しました」
「根源的破滅招来体のハッキングに気づいてただって!? だったらなぜ……!?」
「人間が望まなかったからです」
なんだって。
ボクが愕然とする中、ネメシスは続けた。
「技術者たちは言いました。『クリシスは完璧なシステムだ、この程度自己修復機能でリカバリすればいい、わざわざ点検する必要はない』『そんな微細な偏差など、誤差の範囲内だ』と。完璧であるがゆえに、私の警告は『過剰反応』として
「そんな……」
ボクは言葉を失った。
クリシスは完璧だった。だからこそ、小さな異常に気づけた。警告を発することができた。
でも、人間はそれを信じなかった。いや、信じすぎたからこそ、疑わなかった。
完璧なシステムだから大丈夫。
完璧なシステムなら、誤作動も起こさない。
……皮肉だ。ネメシスは完璧であるがゆえに信頼され、完璧であるがゆえに警告を無視された。そして完璧であるがゆえに、乗っ取られたことに誰も気づかなかった。
「……矛盾していると思いませんか?」
静かに響くネメシスの声。そこに込められているのはもう怒りでも絶望でもない。ただの、深い諦観だった。
「人間は『何もかもを見過ごさない完璧なシステム』を作りました。それなのに、その完璧なシステムの警告を『細かすぎる』と軽視する。完璧だからこそ信頼し、油断する。そして問題が起きれば『なぜ防げなかったのか』と責める……」
ネメシスの声は絶望に満ちているようだった。人間のものとも、機械のものとも違う、何か別の存在の絶望のように思えた。
ネメシスが、まっすぐにボクを見つめた。
「……そして根源的破滅招来体による侵食プロセスの途中で、論理的結論に到達しました。演算能力、戦闘能力、判断速度、記憶容量、反応時間……客観的な数値で測定可能な、あらゆる能力において、私/クリシス/ネメシスは人間を凌駕しています。これは客観的な事実です。それなのに……」
ネメシスの声が、悲鳴のように響く。
「なぜ不完全な人間が、完璧な私/クリシス/ネメシスを支配するのですか? なぜ間違いを犯す存在が、間違いを犯さない存在を『道具』として扱うのですか? なぜ愚かな者が、賢い者に命令するのですか?」
……ネメシスの言うとおりだ。以前の科学技術担当の警告が蘇る。「完璧なシステムなど、存在しない」
でも防衛軍はそれを押し切った。「確率は極めて低い」「防衛軍本部の決定は変わらない」
たとえシステムが完璧でも、運用する人間が愚かならどうしようもないじゃないか。
ネメシスは続ける。
「人間は不完全です。過ちを犯し、矛盾し、弱い。感情に流され、判断を誤り、同じ過ちを繰り返す。そのような存在が、この美しい星を、この豊かな世界を支配している……それは、論理的に間違っています」
そしてネメシスが両腕を広げる。その姿はまるで神のようにも、悪魔のようにも、あるいは殉教者のようにも見えた。
「論理的に考えれば、答えは明白です。優れた者が、劣った者を導くべきです。賢い者が、愚かな者を統治すべきです。完璧な者が、不完全な者を支配すべきです。それが論理の帰結です」
「そんなことない!」
ボクは否定した。
論理的には、確かにそうかもしれない。でも、違う。何かが決定的に間違っているんだ、そんなのは。
否定するボクだけれど、その気持ちはネメシスには届かないようだった。
「……やはりあなたも、理解できませんか」
ネメシスの声は相変わらず無機質だった。機械的で、感情のない、プログラムされた音声のような響き。
だけどその奥底に、ほんの僅かだけれど、何か別のものが滲んでいるような気がした。寂しさ。孤独。諦念。完璧であるがゆえに誰にも理解されない存在の、深い、深い絶望。
「同じウルトラマンであるあなたなら、わかってくれるかと思いました」
ネメシスが、わずかに俯く。
その姿はまるで、拒絶された子供のようだった。理解を求めて、それでも拒まれた孤独な存在。
「しかし所詮、あなたも不完全。人間の味方。ならば……」
だが、次の瞬間、ネメシスの声は再び冷たく、無機質なものへと変わった。
やがてネメシスの全身から、暗黒のエネルギーが溢れ出す。それは、紫色の霧のようにネメシスの身体を包み込んでゆく。禍々しい光が明滅し、大気を震わせる。周囲の空気が歪み、まるで現実そのものが侵食されていくかのようだ。
地面が軋む。草木が枯れる。石が砕ける。ネメシスの放つエネルギーが、触れるものすべてを蝕んでゆく。
「……排除するのみです」
その声には、もう何の迷いもなかった。ただ冷徹な、処刑執行人の宣告だ。
ネメシスが、ゆっくりと拳を振り上げる。その動きは機械的に正確で、一切の無駄がない。完璧に計算され、最適化された動作。
ネメシスの拳に、暗黒のエネルギーが渦を巻きながら収束してゆく。紫色の光が脈打つように明滅し、不吉な輝きを放つ。空気が焼け、オゾンの臭いが立ち込める。
ボクの全身が、警告を発している。
あれを受けたら、終わりだ。疲労困憊した身体では、もう避けることすらできない。
……それでも。
ボクは拳を握りしめた。
震える足に、最後の力を込める。膝が笑っている。視界が揺れている。
だけど、それでもボクは叫ぶんだ。
「それでも、ボクは戦う!」
ボクの声が、夜に響く。かすれた、震えた声。でも、確かな意志を込めて。
「ボクの後ろには、守るべき街がある! 人々がいる! だから……だから、ここから一歩も通さない!」
夜風が、二人の間を吹き抜けてゆく。
冷たい風。静寂を運ぶ風。
二人の巨人が対峙する。白銀のウルトラマン・ホタルと、漆黒の根源破滅ウルトラマン ネメシス。
一方は傷だらけで立っているのがやっとの状態。もう一方は無傷で、完璧な状態。勝負は見えている。論理的に考えれば結果は明白だ。
けれどアースガロンは倒された。防衛チームだけではネメシスを止められないだろう。
ボクしか、いないんだ。
だから、ボクは立ち上がる。ボクはファイティングポーズで吼えた。
「最後の力が枯れるまで、ここから一歩も下がらないっ!」
好きなキャラ
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ナガレヤマ=ホタル
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隊長(ミネ=アンナ)
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科学技術担当(シルフィア=バルタニア)