新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任す ~なお地球には既に優秀な防衛チームが配備されてるので大して役には立たない模様~   作:よよよーよ・だーだだ

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9、エピローグ

 戦いは、終わった。

 プランクブレーンで、光の戦士は"私"に訊ねた。

 

「……あんたが〈光の星の裁定者 ゾーフィ〉か」

 

 ……如何にも、と私は頷く。そういう君は、かつてこの星で〈ウルトラマン〉と呼ばれていた存在だな?

 私の問いかけに、光の戦士:先代のウルトラマンは首肯した。

 

「ああ、そうだ。あんたたち〈光の星〉とは位相も違うマルチバース、その光の国の宇宙警備隊さ」

 

 そうか……まったく、君たち光の国の宇宙警備隊には迷惑しているよ。

 そう告げると、ウルトラマンは意外そうにしていた。

 

「そうか? そりゃあ悪かったな」

 

 ああ、そうとも、と私は答える。

 私たち光の星で、君たち宇宙警備隊のウルトラ戦士は大人気だ。君たちに憧れて、各マルチバースの地球へと赴任したがる若い裁定者志願者があとを絶たない……そして裁定者の実情が、そんな楽しいヒーロー譚とは程遠いものだと思い知らされ挫折してゆく者も。

 そして今回このバースに赴任した光の星の裁定者、ホタルもその一人だ。ホタルは殊に君たちウルトラ戦士への強い憧憬を抱いていた。

 故に私はホタルのことを監視していたのだが……。

 

「……ゾーフィ、あんた意外と心配性で人情家なんだな」

 

 心配性で人情家? 私が訊き返すとウルトラマンは答えた。

 

「光の星の裁定者といえば掟に忠実、そういう四角四面な奴らだと思ってたよ」

 

 ……ああ、なるほど、と私は腑に落ちた。

 その評はおそらく、正しい。我々光の星の裁定者は、各マルチバースの均衡を保つために派遣される存在だ。私情に流されず、冷徹に掟を遂行する。それが裁定者のあるべき姿だ。実際、掟に従って粛清を実行し危険な文明を滅ぼす、そういう冷酷な決断が求められることもある。

 

「だが、あんたは心配していたんだろう? ホタルのことを。掟に忠実なだけの冷徹な裁定者が、わざわざ部下を心配するか?」

 

 ……私にも、心はある。

 ホタルはまだ若い。裁定者としても未熟だ。実際君たちウルトラ戦士への憧れが強すぎて、自分の役割を見失いかけていた。

 

「それで、ずっと見守っていたわけか」

 

 ウルトラマンは頷きつつも、私を問い質した。

 

「ならば、なぜ最初から助けなかった? あんたが介入していれば、あいつがあんなに苦労することもなかっただろう」

 

 その問いに、私は首を横に振った。

 ……それでは意味がない。未熟なホタルは、自分で学ばなければならなかった。私が全てを解決してしまえば、ホタルは成長できない。裁定者としての本当の役割を、理解できないまま終わってしまう。

 だが結局ホタルが本当の裁定者の在り方を学べたのかどうか、懸念はまだ残っている……。

 

「その心配はもう無いと思うぜ」

 

 どういうことだ。私が訊ねると、

 

「こういうことさ……」

 

 そう言ってウルトラマンは、今の地球の様子を見せてくれた。

 今のホタルの様子を。

 

 

 根源破滅ウルトラマン ネメシスとの激闘から一カ月。

 世界規模の怪獣同時出現、そして勝利……あの激闘がまるで嘘のように遠い過去に感じられる。

 アースガロンの「お払い箱」の話もどこかへ消えてしまった。実戦でその価値を証明したこと、そしてネメシスが暴走した教訓から防衛軍本部も方針を見直したのだろう。アースガロンとボクたち防衛チームは今も変わらず、地球を守るために活躍し続けている。

 そんなある日のこと、ボク:ナガレヤマ=ホタルは隊長に呼び出された。

 

「……ナガレヤマ=ホタル、参りました」

「楽にして。今日は“特別な任務”の相談よ」

「特別な任務?」

 

 隊長に促され、ボクは席に着く。

 ……特別な任務、ってなんだろう。そう語る隊長の目つきは至って真面目ではあったけど、同時にどこか悪戯っぽくも思えた。なんだかサプライズでも仕込んでそうな……?

 隊長の不思議な様子が気になりつつもボクが訊ねると、隊長は手元の資料を見ながら話し始めた。

 

「……今度また、子供向けの避難訓練があるの」

「ああ、前にもやった、劇形式の避難訓練ですね」

 

 かつての記憶を思い出す。ボクは怪獣ゴロゴロンの着ぐるみを着て、子供たちに「ぶっさいく」だの「ジャガイモみたい」だの言われた。

 ……あのときは、正直、すごく屈辱的だと思っていた。本当はウルトラ戦士であるこのボクが、よりにもよってあんなダサくてカッコ悪い怪獣を演じることになるなんて、って。

 

「そうよ。それでね、」

 

 そう言って隊長が顔を上げる。その表情は、いつもの厳しさとは違う、どこか柔らかなものだった。

 

「今度からウルトラマンも登場させようということになったの」

「ウルトラマン、ですか?」

 

 ボクは思わず聞き返した。隊長はボクをまっすぐ見る。

 

「ええ。最近ウルトラマンが活躍したでしょう? それで防衛軍の広報部から打診があったの。今度からはアースガロンの仲間ってことで、ウルトラマンを出してみないかって」

 

 ……たしかに、あの戦いでボクはウルトラマンに変身して戦った。その奮闘ぶりを踏まえてのことなのだろうか。

 ボクが考えていると、隊長は続けた。

 

「どう、ナガレヤマ隊員。あなた、やってみない?」

「…………!」

 

 その言葉に、ボクは息を呑んだ。

 隊長の声が、優しく響く。

 

「あなた、ずっとウルトラマンとして活躍したかったんでしょう? これはチャンスよ。子供たちの前で、堂々とウルトラマンを演じられる」

 

 ……たしかに、そうだ。

 以前の、防衛チームに入ったばかりの頃のボクだったならきっと飛びついていただろう。カッコいい姿で、みんなから称賛される。即座に「やります!」と答えていたはずだ。

 でも――

 

「ボク、ゴロゴロンがいいです」

「……え?」

 

 ボクの答えに、隊長が少し驚いた顔をする。無理もない。あれだけウルトラマンとして活躍したがっていたボクが、その役を断るなんて。

 

「本当に? ウルトラマン役じゃなくて?」

「はい」

 

 念を押すように確認する隊長に、ボクははっきり頷いて答える。

 

「前に科学技術担当から言われたんです。子供向けの啓蒙活動も立派な任務だって。ダサい怪獣役を演じたおかげで、子供たちは避難訓練の大切さを学んだ。それは君の功績だって」

 

 あのときの科学技術担当の言葉を、ボクは覚えている。ウルトラマンとしてではなく、防衛チーム隊員ナガレヤマ=ホタルとしての功績だって、そう言ってくれた。

 それに隊長も言っていた、『防衛チームの仕事は、主役のヒーローだけいれば成り立つ仕事じゃない』。

 ……派手でカッコいいヒーローだけが大事なんじゃない。地味で笑われるような役割だって、ちゃんと意味があるんだって、今のボクは思えるようになっていた。

 ボクは続けた。

 

「それに、前回やったとき子供たちはすごく楽しそうに笑ってました。ゴロゴロンを見て、笑って、避難訓練のことを学んでくれました。たしかにウルトラマンもカッコいいし、子供たちも喜ぶと思います。でも、ゴロゴロンだって子供たちを笑顔にできるんだって」

 

 あのときの子供たちの笑顔を思い出しながら、ボクは真剣に言った。

 

「だから、ボクはゴロゴロンがいいです」

「……そう」

 

 隊長は、しばらくボクを見つめていた。その目には、何か温かいものがあるような気がした。

 やがて隊長は、小さく微笑んだ。

 

「……わかったわ。じゃあ、ゴロゴロン役、引き続きお願いね」

「はい!」

 

 ボクが元気よく返事したちょうどそのとき、警報が鳴った。

 さっきまでの穏やかな空気は即座に拭い去られ、ボクは臨戦態勢に入った。すぐさま通信をオンにして、通信をつなげる。

 

「どうしたの?」

 

 隊長の問いかけに、通信の向こうからオペレーターの緊迫した声が答える。

 

「隊長、怪獣が出現しました!」

「レジストコード決定、〈反物質怪獣 アンチマター〉!」

「アンチマター、市街地に接近中! 民間人の避難誘導を開始しています!……」

 

 隊長は「了解、すぐ行くわ」と答えたあと、ボクの方へと振り返った。

 

「……ナガレヤマ隊員、聞いてたでしょう? 行ってきなさい」

 

 ボクもまた立ち上がり、敬礼して答える。

 

「了解! ナガレヤマ=ホタル、出撃します!」

 

 格納庫に到着すると、既に他の隊員たちが準備を進めていた。

 

「すみません、お待たせしました!」

 

 ボクが頭を下げると、正規パイロットのスカガワ隊員が不満げな顔で出迎えた。

 

「遅いぞ、ナガレヤマ隊員。急いで準備しろ」

「はい!」

 

 アースガロン、起動! 全システム、オールグリーン!

 アースガロンのコクピットに乗り込み準備を終えると、アースガロンのAI EGOISSがボクに問いかける。

 

「……ナガレヤマ隊員、準備はよろしいですか?」

 

 ボクは力強く答える。

 

「もちろんだよ、アーくん!」

 

 ……もう恐れることはない。

 ボクたちには仲間がいる。アースガロンがいる。そして必要なら、ウルトラマンとして戦うこともできる。

 でも何より大切なのは、ボクが防衛チームの一員だということ。ヒーローだけじゃない、みんなで力を合わせて、この星を守るんだ。

 

「よし、出撃だっ……!」

 

◆ O(%)o < シュワッチ! ◆

 

「……見ろよ。あんなにちゃんとやってるじゃないか」

 

 ウルトラマンは言った。

 

「これからも大変なことは色々あるかもしれない。でも、あんたの部下:ホタルはきっと上手くやってゆくだろうさ。心配することなんか何もない」

 

 私は、しばらく黙ってホタルの姿を見つめていた。

 ……ゴロゴロン役を自ら選んだホタル。かつてあれほど嫌がっていた役割を、今は誇りを持って引き受けようとしている。

 ホタルは、成長した。本当の意味で、この星で共に生きる者として。

 

「ああ。万一のことがあればおれが戻ることも考えたが……あの様子なら大丈夫だろう」

 

 そうか、と私も頷いた。そして思い起こす。

 ……かつて私は、人間を滅ぼそうとした。

 

「……何?」

 

 ウルトラマンが驚いたように声を上げる中、私は続けた。

 ……とあるバースで私は掟に従い、人間の粛清を実行しようとした。『光の星が確認している知的生命体は130億近く存在する。その中の一つが消えたところで、宇宙は何も変わらない』――そう考えていた。

 

「だが、しなかった」

 

 ああ。彼らの勇気と知恵に触れ、考えを改めた。

 人間は滅ぼすには惜しい生命体だ、そう思った。だからこそ、ホタルにも学んでほしかった。掟だけではなく、心も大切だと。

 

「……なるほどな」

 

 ……ウルトラマン、一つ訊ねていいか。

 

「なんだ?」

 

 君たち光の国のウルトラ戦士は、なぜ地球を守るんだ?

 私の問いに、ウルトラマンは少し考えてから答えた。

 

「そりゃあ……人間が好きだからさ」

 

 ……ふむ。そんなに素晴らしいものなのか、人間という生き物は。

 私の問いに対し、意外にもウルトラマンは首を振るうのだった。

 

「別に素晴らしくはない。素晴らしいから好きなんじゃない、そんな陳腐な言葉で言い表せるようなもんじゃない。むしろ矛盾だらけで間違いも犯す、わからないことだらけ。だが……」

 

 ……だが?

 続きを促す私に、微かな笑みを浮かべながらウルトラマンは答える。

 

「だが、そこがいいところさ」

 

 ウルトラマンは続けた。

 

「人間は、わからない。完全に理解することなんて出来ないのかもしれない。だが、それでいいんだ。わからないからこそ見守る価値がある。わからないからこそ驚きがある。わからないからこそ――」

 

 ウルトラマンは地球を見下ろす。その目線はどこまでも温かい。

 

「――愛おしいんだ」

 

 ……人間はわからない、か。

 かつて私の“友”も同じことを言っていた。人間のことはなにもわからない、だからもっと知りたいと願ったのだ、と。

 そんな私の独白に、ウルトラマンは「ああ、そうとも」と即答した。

 

「まあ、人間の心にそこまで入れ込んでるあんたはとっくに人間が好きなんだと思うがね。あんたは生真面目すぎるんだ、ゾーフィ。いっそあんたも一年くらい、地球に滞在してみたらどうだ? もっと好きになれると思うぜ」

 

 ……ふふ。まったくユニークな存在だ、ウルトラマンというのは。

 今度は私が首を振りながら言った。

 

「やめておくよ、私は光の星の役目がある。それに今は……」

 

 そう言って私は地球の方を振り返る。

 ……ホタルは今頃、また防衛チームの仕事の準備をしているだろう。ゴロゴロンの着ぐるみを着て、子供たちに笑われながら、それでも誇りを持って役割を果たしているだろう。

 それでいい。我々裁定者の仕事は華やかなヒーローになることではない。今のホタルは、それを理解してくれたはずだ。

 私もまた微かな笑みを浮かべながら、ウルトラマンに答えた。

 

「信頼できる部下が地球にいてくれるからな」




今年もお世話になりました。よいお年を。

好きなキャラ

  • ナガレヤマ=ホタル
  • 隊長(ミネ=アンナ)
  • 科学技術担当(シルフィア=バルタニア)
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