完全に単発ネタです。なんか思いついたので書きました。
「3歩歩かずに空を飛んだらトラベリングになりませんよね?」
「はぁ?」
俺は目の前で妄言を吐きやがったバカを睨みつけた。
俺はある日突然異世界に飛ばされた中年のおっさんだ。この異世界の孤児院で子供達に気まぐれにスポーツを教えたら、それが広がって、流行りに流行ってしまったのである。
正直、滅茶苦茶嬉しかった。色んな種族がスポーツに熱狂する様は、さながらワールドカップみたいだったし、それこそ異種族間コミュニケーションにも役に立ったんだ。学もない戦えない俺でも、異世界に貢献できたんだ。これが嬉しくないわけがないだろ?
だが、その結果どうなったか。
俺の今の肩書きは、【異世界スポーツ振興部・新ルール策定室室長】である。
これがなんなのかって? それがさっきの妄言に繋がる。あくまでも俺が教えたのは元の世界のスポーツだ。ルールもそれ準拠だ。
そのルールの中に、異世界基準のバカみたいな身体能力だの、魔法だの、種族固有特性だのは考慮されているわけがない。その結果、滅茶苦茶なルールの穴のぶち抜いていく連中が現れたのである。
それこそ、最初の妄言。空を飛んだらトラベリングにならない。なんていうぶち抜き方である。
正直だ。ルールを覚えて楽しんでスポーツをやってくれてる連中をバカ呼ばわりするのはどうかと思う。思うんだがな、こんな妄言の対応をし続けて年がら年中頭痛と胃痛に悩まされてるんだよこっちは……勘弁してくれ……。最近抜け毛が増えてきた気もするし……
「確かにトラベリングではねぇな。でも、それはあとで禁止にする」
「え、なんでですか。いいじゃないですが。歩いてないんですよ!?」
目の前のバカは言い募るが、歩いてねぇからセーフなんて許してたら、お前らはどこまでだってルールぶち抜いていくだろうが! 散々理解してんだよこっちは!!
大体、バレーボールでネット際に魔法で壁貼ってブロックしたのを忘れてねぇぞ俺は。最終的にお互いにやってボールがネットの上で固定されて終わってただろうが。
それを禁止にしたら、今度は魔法でボールを操って意味わかんねぇ軌道にしたりボールを拾ったり! スパイクの威力を際限なく上げやがった結果周りがボロッボロになって俺が何度頭を下げたか……
だから俺は決めたのだ。こいつらには譲歩してはならないと。そんなことをした日には、俺の安息は消えるのだ。
「そういう問題じゃねぇんだよ。他のルールに抵触するだろうが」
「え、どのルールですか?」
とりあえず、思いつくだけで2つある。基本的に、俺は聞かれたらちゃんと答える人間だ。説明だってする。だってコイツラのことはバカ呼ばわりしているとはいえ、頭が悪いわけじゃないから説明したら理解してくれるのだ。そう
「まず、シュートしてから頂点に着くまでしかブロックをしてはいけない」
「……? それにどこが引っかかるんです?」
バカが首を傾げる。まぁ、確かにこれだけ聞くと意味分からんかもしれんな。
トラベリング対策で空を飛ぶのとシュートブロックの反則の話だしな。
「さっきの話だと、ボールつかんでそのままリングのとこまで行って、空中からシュートを打つよな?」
「まぁ打ちますね」
「となるとだ。シュートというか、ボールを落とす感じになるよな?」
「なりますね」
「ボール離した瞬間が頂点になってブロックできねぇじゃねぇか」
「あ」
「それがオーケーだとどうなると思う? ひたすら誰かがリングの上で浮いてて、ボールをリングに落とすゲームになるんだぞ? 何が面白いんだそれ」
「え、えっと……」
バカが目を泳がせ始めた。うん。そのまま聞いて引き下がってくれ。
「次に、相手に対してぶつかるのは禁止だ」
「……当たり前のルールですよね?」
「そうだ。当たり前のルールだ。これを禁止にしておかないと、血の気の多いお前らすぐに乱闘を起こしやがる! それで何度俺の休みが吹っ飛び、頭を下げまくったと思ってんだ!!」
怪我人は出るわ、周りは壊すわで大変なんだよこいつらは!! 大体、ファール取った取らないでに乱闘始めんな! 乱闘の方がファールだボゲが!!
過去のことが頭をよぎり、思わず怒鳴ってしまった。
「す、すみません……」
身を縮こませているバカを見て、俺は冷静さを取り戻した。完全に八つ当たりじゃねぇか。少なくとも今までのいざこざの苦労はこいつのせいでは、せいで……は……あるな。うん。あるわ。
バレーボールで最初に壁貼ったのこいつだわ。よし、俺は悪くねぇ。
「……話を戻すぞ。相手にぶつかるというか、物理的に止められないのに、ボール掴んで飛んでくるやつをどう止める?」
「あ」
「無理だろ? となるとだ。飛べるやつがボール持った瞬間にもうどうにもならなくなるよな?」
「終わりですね……」
「だからダメだ」
これだけちゃんと説明すりゃあ、ダメだって分かってくれるだろう。いや、本当に分かってくれ。頼む。今だってお前らから来てる意味分からん問い合わせとか質問の書類が山になってて残業確定なんだよ。
だと言うのに、目の前のバカは何やら考え込んでいる。なんだっていうんだ。
「うーん……」
「何が引っかかる?」
「いや、ボールを持って3歩歩かなきゃいいんですよね?」
「……おう、そうだぞ」
トラベリングに関して言うならその通りだ。
だが、こうやって聞いてくる時はまた別の問題を持ってくるときだということを俺は嫌と言うほど思い知っている。
「魔法使って1歩でゴールまでかっ飛ぶのはだめですか?」
何いってんだお前は。というのを飲み込む。いや、可能なんだろうコイツラなら。というか、間違いなく出来る。バレーのスパイクでクレーターを作るような連中だ。出来ないわけがない。
「…………まぁ、ルール上可能ではあるな」
「おお!」
「ただ、途中で誰かにぶつかったらその時点で反則だし、危険すぎるからダメだ。下手したら大怪我するだろそれ」
「むむむ……難しいですね……」
背中に生えた翼をパタパタさせて悩み続けている小さなバカがちょっと可哀想になってきた。異世界でも身長が大切なのは間違いないからなぁ……
それに、こういうのは対応してかねぇといけねぇんだ。コイツラがスポーツを楽しむためには。
「…………はぁ、しょうがねぇ、ある程度飛べるようにルール整えるか……」
「え、いいんですか!?」
途端に目をキラキラさせてるバカを見ると、ちょっと嬉しくなるのが難儀な性格してるよな俺も。
とはいえだ。正直、そんな大層な理由もないが、一つだけ滅茶苦茶面倒くさすぎる理由があるんだよ。
「対応してかねぇとダメなのは、よぉく分かってんだよこっちは……最近だと、種族差別だなんだとうるせぇことになるんだからな……」
そんなところは似なくていいだろうが異世界だぞここは! ふざけやがって……!
「お、お疲れ様です……失礼しますね……」
「おう、気を付けて帰れよ」
恐縮しながらバカが退室するためにドアに向かった。やっと俺の平穏が……いや、今からどのくらいまでなら飛んでいいのか考えねぇといけねぇんだった……クソ、引き受けるんじゃなかった……
ドアに手をかけたところで、あ。と何かを思いついたようにこちらに振り返る。すげぇ嫌な予感するんだが……?
「……あの、ラミアみたいに脚が無い子ならトラベリング取られないですよね? 歩数とかないし」
「お前いい加減にしろよ……!」
ふざけんじゃねぇぞ異世界人どもがよぉ……!