スペースオペラ世界でダンジョン攻略して成り上がる少年の話 作:ウォーリア
「――アスラ、大丈夫か?」
「……は?」
目が覚めるとアスラの前にラルがいた。
相変わらずニコニコと笑っている姿を見せた彼を見て、アスラは何がなんだかわからなかった。
(どこだ……ここ……)
辺りを見渡せば、白い花が地平線の彼方まで咲き誇る美しい大地が広がっていた。空には幾つもの星々が輝き、とてもこの世とは思えない世界だった。
「くはっ、なんだその顔! そんなに驚かなくても良いだろ」
「……いや、だってラル。俺の前で――」
死んだんだぞ――と言う前にラルは口を開いた。
「アスラ、俺の為とか……あんま気にしなくていい」
「……ラル」
「だけど……いつか皆が求めるようなヒーローみたいになってくれたら、俺も報われると思う。あそこで死んだ意味も……生まれてくれたら嬉しい」
ラルの姿が段々とぼやけていく。
アスラは何とか手を伸ばすが、届くことはない。
「ラル……!」
「後は頑張れよ、アスラ」
死ぬなよ――そう言ってラルは消えていったのと同時に、アスラは意識が浮上していった。
◆
アスラが目を覚ますと、柔らかく暖かい光が部屋を満たしていた。ベッドの感触は今まで経験したことのない心地よさで、体の痛みもいつの間にか消えていた。周囲を見回すと、白い壁に囲まれた清潔な空間が見えた。機械的なモニターや計器が整然と並んでいる事から、高度な医療設備を備えた病院だと分かる。
「目を覚ましたか!」
少し高めの声が耳に届く。アスラが目を向けると、異星人の看護婦が笑顔を浮かべて立っていた。肌は淡い青緑色、細く長い耳が後ろに伸びていて、目には優しい光が宿っていた。
「人を呼んできますから、大人しくしていてくださいね」
そう言うと、彼女は静かに部屋を出ていった。後ろ姿に揺れる長い白衣は、どこか穏やかな存在感を放っていた。アスラはしばらくその後ろ姿を見つめ、呼吸を整える。
(ここは……どこだ……)
窓の外には視界いっぱいにそびえる摩天楼群が見えた。光り輝くビル群は天を突き、空には大小様々な宇宙船と反重力機構を搭載したホバービーグルが飛び交っていた。
(……多分、首都惑星のどこかか……)
アスラが窓から目を離すと、部屋の扉が軽く開き、穏やかな足音と共に誰かが入ってきた。背の高い人物がゆったりとした歩調で近づいてきた。
「やぁ、目を覚ましたか」
その声にアスラの心臓が跳ねた。瞬間的に脳裏にあの戦いの光景がフラッシュバックする。ラルが、あの怪物が――
「あ、あなたは……俺を助けてくれた――」
「エスティラだ、名前は覚えていたか?」
「……今ちょうど言おうとしてました」
アスラの声は自然と震えていた。目の前の人物は、ダンジョンで自分を助けてくれたシーカー、エスティラだった。彼女は微笑みながら頷き、ゆっくりとベッドのすぐ横にあった椅子に座る。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「礼には及ばないさ。所で少年の名前は何という」
「アスラです」
「アスラ……良い名前だ。所で目覚めていきなりで悪いが……何故あんな場所にいた? よっぽどの理由がないとダンジョンの中に入らないだろう」
そう言われたアスラは素直に自分の出自を答えた。
物心ついた時から宙賊の奴隷として買われ、親友ラルと一緒にいつか脱出しようと計画していたら、それがバレてダンジョンの中に放り込まれた事まで、事細かく教えた。
「――そうか……アスラの親友はすでに……」
「はい……、アイツのおかげで生かされました。だから俺はアイツの死が無駄にならないように、あいつの分まで背負って生きなきゃいけない」
ギリっと歯噛みしながらも、アスラは言った。
「でも……やっぱり、ラルには生きて欲しかった。俺が強かったら……こんな事にはならなかったかもしれない……!」
ポロポロと涙を溢しながら、アスラは顔を俯かせるとエスティラは優しくアスラの頭を撫で始めた。
「よく頑張ったな」
「……っ!」
「君は強いよ、少なくとも普通の子供よりはずっとね。親友が目の前で亡くなったら、精神的にも潰れておかしくない。失う辛さは味わって初めて理解するからな」
かつて同じような辛さを味わったのだろう。
彼女の言葉には重みがあった。
「本当によく頑張って生きてくれた、アスラ」
「うぅぅ……」
「私は君の勇気と強さを褒め称えるよ」
それから暫くアスラは泣き続けた。
初めて大人の優しさに触れたアスラは、やっと得られた平穏に噛み締めた。
◆
「ごめんなさい……号泣しちゃって」
「いやいや構わないさ、むしろ泣いた方がすっきりする。それだけ辛くて苦しい思いをしてきた訳だからね」
エスティラは変わらず優しい笑みを浮かべる。
アスラは命の恩人を前に、いきなり情け無い所を見せたと反省していた。
「さて、色々落ち着いてきたタイミングだ。アスラ……ここがどこかという事、そしてこれからどうして行くかを簡単に話そう」
「……はい」
「少し話は長くなってしまうが……わからないことがあったらいつでも聞いてくれ」
そう言った後でエスティラは説明を始めた。
「まず今いる惑星はノヴァリク、カデリオン銀河共和国の首都惑星の1つだ」
カデリオン銀河共和国――その名前を聞いて、アスラは少し思い出す。憎きブラッド・ラットの船員たちが掠奪行為をする際に、共和国の連中に見つかったら終わりだと焦るように言っていた。
「名前は知っています。ただ……具体的には……」
「まぁ無理もないさ。簡単に言えばこの宇宙――と言っても既知領域内では最大規模の銀河文明になる。他にもいくつかあるが……今は割愛する。この惑星はそんな大きな国の中心にいる星だ」
道理で街の栄えっぷりが半端じゃない訳だ。
文明の中心地に来たのが初めてなアスラは少しテンションが上がっていた。
「そして私はそんな共和国にて、正式に認められたシーカーだ。歴としては15年ぐらいかな? やっと中堅のシーカーになってきた辺りだ」
「15年もやってるのに……ですか?」
「ああ、上はもう数百年はザラにいる。シーカーのトップは個人戦力としては宇宙最強と言っても過言じゃないからな」
知られざるシーカーの実情にアスラは理解しきれなかった。まさかそこまで凄まじい強さを持つとは思わなかったからだ。
「私の主な仕事は未踏のダンジョンを見つけて調査し、そのダンジョンのランクを査定する仕事だ。ちょうどアスラがいたダンジョンは私が2週間前に発見したものになる。すでに何人かがダンジョン内に入って行方不明になっていることがわかっていたから、私が実地踏査して入れないようにする前のタイミングだった」
「……だからもう死んでいる人が……」
「よくある話だ……中にはまだ見ぬ宝があると思って、勝手に入る奴が多いからな……」
とエスティラはため息を吐く。
どうやらアスラとラルが放り込まれてしまったのも、ちょうど調査をしに来ていたエスティラが、周辺宙域に警戒を出すために不在だった。その間にロスドがやってきて、アスラとラルをダンジョンに放り投げた。
ただその間に誰か入ってしまったら反応するようにと、エスティラはセンサーを仕掛けていた。
すぐに駆けつける事は出来なかったものの、何とかアスラを助け出す事は出来たという訳だ。
「あと少し早ければ……アスラの友人も助けられたかもしれなかったのに、申し訳ない事をした」
「い、いや! 悪いのは宙賊です。アイツらが俺たちを殺そうとしたからですよ」
そう、全てはロスドが悪い。
奴らのせいでラルは死んだのだから。
「君を奴隷としてこき使っていた連中は、確か元シーカーと言っていたな。名前はロスドとも教えてくれた」
「……はい、まだ俺と同じ孤児たちが捕まったままです」
「奴らの足取りは我々と共和国の捜査局が探している。いかんせん……大悪党というほど、目立つ犯罪者じゃないから捜査は中々時間がかかるかもしれないが、責任を持って捕まえようとは思う」
「ありがとう……ございます」
そう言われてアスラは心強かったが、同時にモヤモヤした気持ちもあった。出来る事なら……この手で奴に引導を渡したい気持ちがあったからだが、言わずにグッと堪えて聞く事に集中する。
「そこでだ」
するとエスティラは真剣な表情を浮かべた。
「身寄りのないアスラの処遇をどうするかだ」
そう言ってエスティラは指を3つ立てた。
「1つ、養子にしてくれる人を探す。これが一般的でもある。引き取ってくれる家族を共和国に加盟している全ての国の中から探せる」
そして2つ目――指を1つ曲げながら言う。
「肉親が見つかるまで孤児院で過ごす。場合によっては成人になって自立するまでいる事も出来る。ちなみに学力に関しても全力でサポート出来る体制もある」
「……なるほど」
「3つ目……これが1番険しい道のりだが……」
見習いのシーカーとしてウチに来るか――そう言った瞬間、アスラは目を見開く。
「ある意味……アスラにとって1番夢に近づく選択肢だ。だけどすでに何となくわかっている通り、シーカーになれば……決して平穏な人生は送れない」
エスティラはあえて厳しい現実をアスラに教える。
「まずシーカーの仕事はダンジョンに潜る事だけじゃない。個人としての戦力が凄まじく高い故に、共和国軍だけじゃ対応出来ないような大事件にも駆り出される事もある。簡単に言えばとある星や文明が滅ぶような危機とかね」
更に――と彼女は続けた。
「アスラを陥れたような、元シーカーでありながら犯罪に手を染めた者を捕まえたり、ダンジョンの内部にあるモノを使って悪事を働く奴らとも戦う機会もある。まぁ……まとめて言えば宇宙で1番死に近い仕事をしていく事になる」
シーカーの仕事内容を悪い一面だけを切り取って伝えたエスティラだったが、これは彼女なりの優しさでもあった。シーカーというのは確かに名誉のある仕事だが、甘い世界ではない。どんなに強くても予期せぬトラブルが原因で死んだりなど、本当に厳しい世界だからだ。
この説明を聞いて怖気付くならそれで結構。
そんな奴は遅かれ早かれ死ぬ。
ここで篩にかける事で、死ぬ必要のない命を救う事が出来るのだ。
(さて……色々と言ってみたが、アスラはどうかな?)
エスティラはここでアスラがシーカーを選ばなくても構わないと考えていた。だってこの仕事は憧れだけじゃうまくいかない内容だ。生半可な気持ちなら、びびってならない方が絶対にいい。
「……俺は約束したんです」
「亡くなった友人と?」
「はい」
アスラは真っ直ぐにエスティラの目を見て言った。
「ラルは自由を知らないまま死にました。本当ならあいつと一緒にシーカーになって……今みたいな最底辺から抜け出すつもりだったんです」
「……亡くなった友人の為にも、シーカーになると?」
「はい、でもそれだけじゃないです」
彼の脳裏に浮かぶのはいまだ捕らわれている仲間達、そしてラルを死に追いやったロスドの姿だった。
「俺は……力がなかったから助けられなかった。もうあんな思いはしたくない! 今生きている仲間達と再会して、宙賊も倒す! 誰かに任せるんじゃなくて……自分の手で運命を切り開ける力を手に入れる為にも、俺はシーカーになりたい!」
アスラは本心を吐露した。
誰かに任せればいい――そんな考えは払拭し、自分で動いて友人を救えるようになりたいと思った。
「強くなる過程で……死ぬより辛い目に遭うかもしれなくても、諦めずに戦えるか?」
「はい、諦めてしまうより……俺はやっぱり立ち向かいたい。何もしないまま……素直に従う事は奴隷の頃と変わらない。やっぱり変えたかったら……冒険が必要だと思いました」
齢15とは思えないほど、強い輝きを放つ青い目を見てエスティラは思った。
(ここまで言っているんだ、無碍にするのも違うな)
シーカーになるのに、年齢というのはあまり関係ない。
勿論乳飲子を中に入れたりはしないが、アスラと同い年……もしくはちょっと下からシーカーになる奴はいる。
「わかった、アスラ……君の覚悟は聞いた」
「……っ」
「今から君の身柄は我々が預かる。宣言したからには……きっちりと訓練はしてもらうし、きつい仕事も任せるぞ」
エスティラはウィンクして加入を歓迎すると、アスラはプルプル震えながら喜びを噛み締め、すぐに頭を下げた。
「ありがとう……ございます!!」
厳しい世界が待ち受けている事だろう。
だけど夢に少し近づいたのは確かだ。
アスラはその日から、いつ頃退院になるかなとソワソワしながら過ごしていく事となった。
◆
――その日の夜。
『――まさか救出した子供が新しく加入するなんてねぇ』
「すまないなリオ、私としても……ちょっと断るには勿体ない子だと思ったんだ」
エスティラは自分の装備を整理しながら、同じチームを組んでいる仲間とホログラム越しに話していた。内容はもちろん新しく加入する事になったアスラについてだ。
『それはどういう意味で? 精神的なものか、それとも能力的なものか』
「どちらかというと実は能力だったりする。彼の精神はまぁ普通よりは全然強い、シーカーを目指す理由はよく聞く理由でもあったが……嘘はない」
エスティラはこれまでに何人もシーカーを目指す人を見てきた。稼いで成り上がりたい、持て囃されたい、家族がダンジョンで死んだから、自分が代わりに踏破してやりたいなどなど……だ。
だからその中でアスラのシーカーになりたい理由というのは、割とよく聞く部類ではあった。勿論それだけで全てを判断する事はないが、珍しい理由でもない。
ただ1番興味惹かれたのはアスラの立ち回りだった。
「宙賊に無理矢理ダンジョンに放り込まれて、ブラスターピストルを片手に持ち、致命傷を負わずに3日生き残った。しかも未知の空間にある仕掛けを駆使して、クリーチャーを倒そうとしていた」
『すさまじいな、事前知識もないのにそんな動きが出来たんでしょ? センスある奴だ』
アスラを救出した後、エスティラは現場を軽く検証していた。その際にわかったのは、アスラがダンジョン内にある
「ただがむしゃらに足掻いたわけじゃない、状況を見極めて動ける力がある。まだまだ未熟で……自分でもわかっていないだろうが、丁寧に教えれば化けるかもしれない」
『なるほど、こりゃウチの見習いと一緒に訓練したらいい刺激になりそうだ』
「でしょ? だから私としてはアスラがシーカーに来る事は大賛成だ」
何も教えてないのにこれが出来るなら、あとは伸ばすだけだ。エスティラは久々にワクワクした気持ちになっていた。
『最近の新人は恐ろしいね、最初から何かしらの才能を持つ子が多い』
「私たちも負けてられないよ、うかうかしてるとすぐに抜かされる」
こちとら初めてダンジョンに潜ってから15年だ。
そう簡単に抜かされる訳にはいかない。知識は授けるが活かすかはその人次第だ。
「ああそうだ、アスラを奴隷にしていた宙賊達についても調べてくれるかい?」
『わかってるよ、そっちもしっかりやっておく。元シーカーなら恐らく何者かはすぐ分かる』
「頼んだよ」
そんな才能溢れる子供のためにも、大人であるエスティラは出来ることはしてやろうと決め、水面下で動き始めた。
◆
「さて、心の準備は?」
「い、いや……まだです。今までこんな立派な建物を目にしたことなくて……」
二日の入院期間を経て、アスラはエスティラに連れられて「それ」を目の前にしていた。
ノヴァリク中心区――高層ビル群が天を突くようにそびえ、複合交通管制網の輝きが昼夜の境なく都市を縫うこの首都惑星。その中でも異彩を放つ巨大建築物があった。
シーカーズ・ユニオン本部。
数多もの文明が関わる銀河規模のダンジョン探索者たちを登録・管理し、依頼を斡旋し、情報を統合するための巨大機関だ。その中心地は、共和国政府の大議事堂群と肩を並べるほどの威容を誇っている。
アスラは思わず息を飲んでいた。
建築素材は見たこともない素材で出来ており、深藍色の外壁は淡く光を反射し、美しい光沢を作り出している。外周に沿って走る巨大なリング状の装飾は、まるで惑星軌道上にあるリングのようだ。中央には宇宙を模したような球体ホールがあって、そこを構造体全体が包み込むように建てられていた。
まさに「歴史」と「威厳」を形にしたかのような建造物だった。
「……すげぇ……」
「初見はみんなそうなる。シーカーって泥臭そうなイメージがあるが、結構ちゃんとした見た目の建物を本部にしているぞ」
「ちゃんとしてる……なんてもんじゃないです……」
アスラの世界は、宙賊の船と、汚れた貨物室と、冷たい檻だけだった。不衛生で、教育も施されず、子供達は単なる道具だった。
だからこそ目の前の文明の中心地は、まるで異世界に来たような感覚をもたらした。
「ふふふ」
エスティラはそんなアスラの視線を横目で見て、小さく笑った。
「今日はね、登録したら、ウチの拠点に向かうよ。装備の整備、それに住む部屋も確保したいだろ?」
「……部屋……ですか!」
「そう。奴隷じゃないんだから、当たり前さ」
その言葉が、アスラの胸の奥をじんわりと温めた。
「さて……中に入るよ」
建物の入口は、自動で静かに展開し、内部へと続くエントランスホールが広がった。
「ここが受付だよ。新規登録はあそこで――」
エスティラが指さしたその時だった。
「エスティラさん?」
澄んだ声がホールに響くと、アスラも釣られて声のする方へ向くと、そこにはアスラと同じくらいの年齢――大体15〜16歳ほどの少女が立っていた。
(あの子も……シーカーって事だよね)
かなり目を引く見た目だ。
金糸のような輝く髪に、紅玉を思わせる赤い瞳。
背丈はアスラより少し低いが、よく鍛えられているのか体格は引き締まっている。装備もしっかりしているし、同い年ぐらいとは思えないほど洗練された雰囲気があった。
「やぁ、ソルナ。君もいたとは」
エスティラが手を軽く上げて挨拶すると、ソルナは近くまで来て言った。
「はい、といっても装備登録に関する相談なんで、大した内容じゃ――って、」
するとソルナはアスラの存在に気づき、赤い瞳でジロジロと観察しはじめた。
(な……なんだろう、匂うとか? 一応風呂は入ったけど)
アスラは自然と背筋が固くなる。
そんなアスラの緊張を楽しむかのように、ソルナはエスティラへ問いかけた。
「その子、どうしたの? 見ない顔だけど」
「今日から加入予定の新人だよ。アスラって言うんだ。仲良くしてくれよ」
その瞬間、ソルナの表情がわずかに変わった。
「あんたが新入り……ふーん」
「な、なんだよ……?」
「……うーん」
ソルナはアスラを上から下まで見渡し、ため息をつくように肩を落とす。
「何か弱っちぃ感じしかしないわね」
「ぇ」
初対面でディスられるとは流石に思わなかったアスラは、唖然とする。
「い、いきなり何を言って――」
だがソルナは構わず続ける。
「こんなのを今日から新人って言われても……エスティラさん、正気?」
「正気だよ。むしろ今のうちに鍛えがいがあるってやつさ」
「鍛えがい、ねぇ……」
ソルナはため息をつきながら腰に手を当てるとエスティラは笑って肩をすくめた。
「でもねソルナ。彼……素質はあるよ。もしかしたらソルナより伸びがいいかも」
「――は?」
ソルナの赤い瞳がカッと開かれた。
「ちょ、ちょっと待ってエスティラさん! あたしより伸びがいい? この弱そうなのが!?」
「ああ、そうさ。この子――アスラはきっといい刺激になる。だから虐めたりは絶対にするなよ」
「そんな真似はしないわ、でも……うーん」
するとソルナは腕を組んだまま、アスラに顔を近づけると挑発するように笑った。
「アスラって言ったわね、あたし、やる気のある奴にしか合わせるつもりはないから」
「……!」
「情け無いことしたら、すぐにやめて普通の人生を送った方がいいわ。わかった?」
まるで宣戦布告のような言葉だった。
正直に言って腹が立ったアスラは拳を握りしめた。
でも――怒りなんかより胸の奥で、負けたくないという純粋な気持ちが湧き出た。
「上等だよ、絶対喰らいつくから」
「……なら期待するわ」
ソルナは不敵な笑みを浮かべて答えた。
シーカーになると決めて早々に、何だか面倒そうな事態になったとは言え、アスラはずっと熱い気持ちが激っていた。
(必ず強くなってやる)
こうしてアスラの新しい人生の第一歩が踏み出されるのだった。