学園仮面ライダー ~融汽 スターターサイクロン〜 作:大島海峡
乾いた風の音で、風雅はうっすらと意識をもたげた。
じんわり、色彩と輪郭を取り戻していく視界。その中で、動く複数の影を認めた。
視覚のみで判断するに、彼が寝かせられていたのは、はどうやら何処かの洞窟らしい。そこは居住スペースらしく、焜炉や、雑器の類が用途の明不明を問わず散乱していた。
そしてそこの主らしいのは、まだ年端も行かない、子どもである。十代前半から半ばぐらい。愛娘よりは、華奢で幼く見える。
茶褐色の
〈ホッパー!〉
〈ターイム!〉
その子は、風雅が伴っていたケミーのたちの、声ならぬ声に、真摯に耳を傾けているようだった。
「えーと、コレとコレの組み合わせ……? 詳しいんだね、キミ!」
弾む声を、宙を周遊するドクターコゾーにかけながら、やや錆びた色合いの薬研を腿に抱え込んで数種の植物を擦っていた子どもは、風雅が上体をもたげたのを認めた。
「あっ! 気がついたんだ!」
頭から被っていたゴーグルを外すと、日焼けから逃れた目元が覚醒直後の風雅には眩く見えた。
「良かった〜! 生きた人拾ったのなんて初めてだったからさ! このコらのコトも、聞かなきゃいけないし! ねね、一体何なの? キミたちどっから来たの!?」
薬研を置きつつ座ったまま、カエルのように跳ねて寄って来た彼もしくは彼女の目は、好奇に輝いていた。
「おーい、ノコ。残りの奴らが入ったカード拾って来たぞ。ったく、イマジン使いが荒いんだよ」
ふいに、くたびれた調子の男の声が、穴の入り口から聞こえて来た。
その口に掛けられた帳を払って現れたのは、尖った目鼻と、赤黒い肌を持つ小鬼か、あるいは天狗の如き怪物だった。
異形そのものとも言うべき姿に、咄嗟に身構え警戒する。子どもを庇うような位置を取る風雅に、その小鬼は「あー」と抜けた鳴き声と共に身を屈め、遠慮なく洞窟内に侵入してくる。
「心配すんな。俺はそいつの保護者……みてーなモン。危害を加えるつもりなら、とっくにやってる」
背を無造作に晒しながら、落ち着き払った調子で説く。なるほどその言動に、邪気は無い。言わずもがな、ノコと呼ばれた子どもの方にも。そも、悪意があれば周囲に浮遊するケミーたちが良くも悪くも反応するはずだ。
「ここは……一体。君たちは、何者だ?」
興奮状態にあるこの子よりかは、見た目はとっつきにくいが、この怪人の方が訳を理解しているらしい。その背の向こう側にある果てなき砂原と、極彩色に揺蕩う空を見つつ、風雅は尋ねた。鋭い鼻の下から、間を置かず答えは返って来た。
「ここは、時の砂漠。時空と次元の狭間だ」
〜〜〜
そしてその赤鬼――
だが、それで先方には十分だったようだ。
「……自分らに何が起こったのか、分かってないってトコか?」
不見識を揶揄するように、フータロスは言った。錬金の長者ではある風雅だが、今は情けなくも首肯するほかない。
「じゃ、まずはそこから説明していくか」
人間で言うなら、頭を掻くような所作と共に、フータロスは言った。
「アンタらの世界を襲ったのは、おそらくディサイダーズ。世界と時空を超えて、仮面ライダーとその世界を喰らって回ってる、正真正銘のバケモンどもさ。で、命惜しさに奴らの軍門に降って、その手先となるライダーが最近増え始めている。そいつも、その類だろうさ」
「君たちは、その彼らと戦う者たちか」
「戦う? バカ言え、そんなステージにさえ立ててねぇよ」
そう言って彼は手を左右に振った。
「……だが、そのための準備は進めてる。ヤツらに対抗できるような、見込みのあるガキどもを色んな世界から一つの学園に集めて、育てる。まぁーおたくらの言うところの、錬金アカデミーのような組織さ」
「……ということは、あの子も?」
ケミーたちと戯れているノコを盗み見ながら、風雅は問うた。
「あぁ、アイツは『特異点』っつー、ちょい変わった体質でな。だから自分の世界が滅んでも、アイツだけは生き残った。どういう世界に住んでたかは俺も知らんが、学園長からのお墨付きでな。いずれ来るべき運命のため、ノコの存在はここに隠しておけとよ。で、俺はそのお目付け役を仰せつかったって訳よ」
どうやら見かけによらず、素朴で篤実な性分らしい。
偽りなくそう答える彼に、微笑と共に風雅は納得の相槌を打った。
だが、悠長にしてはいられない。
そのような危険な連中がいる中で、まだ多くの錬金術師たちは、自分たちの世界を守るために戦っている。
「世話になった……だが……私は、救いを求める子たちのために……グッ」
よろめきながら立ち上がろうとする風雅だったが、その身体は本人の意思に反して、大きく左右に揺れる。
フータロスとノコが支え止める。その意外な軽さに、フータロスの方は軽く息を呑んだが、直接それを言葉として上らせることはしなかった。
「まぁ待ちなよ。ここは時間と隔絶された空間だ。アンタみたいなのは時折紛れ込んで来るが、そう言うヤツば元の時間と場所に出るのはカンタンじゃねぇんだ。急ぐ気持ちは分かるが、今は腰据えて、しっかり養生しときな」
というフータロスの横で何度もノコは頷いてみせる。
そう忠告されても、容易に承服も納得も、できることではない。自然、風雅の反応は、あまりに鈍く、渋いものとなる。
……だが。
「もっと、教えてよ! 外のこととか、錬金のこととかさ!」
そう希うノコの表情は、無邪気のようでいて、瞳の奥底にある光はあまりにも切実で、苦しそうで――
(嗚呼)
きっとこの子は。
否、この子とて。
「……世話になっている間だけで良ければ」
ほろ苦く笑ってみせた後、風雅はゆっくりと腰を下ろし直したのだった。