学園仮面ライダー ~融汽 スターターサイクロン〜 作:大島海峡
それから、奇妙な三人(?)による、共同生活が始まった。
風雅が基礎知識より始まり、それをある程度修めてからは座学と実践を並行する。ノコは、後者の方を好み、かつ呑み込みが早かった。
フータロスは普段いないことの方が多く、前触れもなしに時折現れては当面の食料や生活必需品などを置いていき、要求すれば教材や錬金の道具などを用立ててくれる。
だが、風雅がその調達に同行することは認めず、
「学園までついてったところで、アンタの世界に戻れる保証はないぜ」
と、風雅の本音を見抜いたうえで、釘を刺す。
「偶発的に繋がった世界に、同じ時間、同じ場所、同じ状態で帰すことは難しい。いざ帰れたとしても、そこは微妙に違う世界線でほぼ同じ自分と鉢合わせ、なんてこともあり得る」
「……本当にか?」
「……さぁね。
と、未来人は宣った。
何よりも、ノコとは中々離れ難いところがある。
屈託なく、出会ったばかりで素性を知らぬ己を師と慕うその無垢さ。
だがそれは、非常識さの裏返しでもある。同世代の若者ならば知って然るべきの知識や経験が、その小さな身の中にはない。
だから問う。錬金以外のことも、風雅に。
そして外の世界への憧憬に、目を輝かせる。
「行ってみたいな」
ふとした拍子、そんなことを呟いたのを、風雅は耳にした。
「で、クドー先生の娘さんってのにも会ってみたい」
不意にそう言われ、苦笑する。
写真を取り出して、
「りんねだ」
と指で指し示す。それは、『表』の高校入学時の、親子のツーショット。校門の手前で、やや緊張で強張ってはいるが、それが心からの笑顔であることが見て取れる。
「不器用だが、良い娘だよ。友人にも恵まれた。きっと、君とも仲良くできる」
「そっかぁ……良いなぁ、学校……どんなことする場所なんだろ」
普段は天衣無縫の明るさで振る舞うノコだったが、それを肉体で味わうことのできないもどかしさが、時折、陰となって表れる。
風雅がそれにわずかに眉をひそませた時、
「そりゃ、お前の今やってることさ。オベンキョー、てヤツだよ」
フータロスが現れて、にべもなく答えた。
「だから、やってることはそれほど変わらねぇって。他所ごとに気を逸らしてないで、集中。じゃないと、一人前のライダーにはなれんぜ?」
両手を打ち鳴らしながらの彼の説教に、はぁいと間を伸ばして生返事。
ノコは再び出来合いの勉強机に向き合った。
「で、どうよ。アイツに、錬金とやらの才能はあるのかい?」
それから少し離れた辺りで、フータロスは風雅に尋ねた。
「君の言うところの『オベンキョー』は苦手だな。集中力に欠ける」
ときわめて中立的にマイナス評価を下しつつ、
「だが、天才だ」
とお墨付きを与えた。
「あの子には、独特のセンスがある。知識は持たずとも本能で理解し己のものとし、しかもそれを発展させることが出来る……ケミー達も、あの子に懐いている。それが、例の特異点という体質に由来するものかは知らないが」
異次元で、類まれな可能性を見出した風雅の、語るその口は熱を帯びていた。
ふぅん、とイマジンは適当な相槌を打った。
「俺はてっきりアイツはデンライナーなりゼロライナーなりに乗るもんだと思ってたが……きっとあんたとケミーと錬金術に出逢うことが、アイツの運命だったんだろうさ」
運命。あまりその便利な言葉で片付けるのも考え物だ。そんな思いが脳裏を過ぎりつつ、
「フータロス」
かしこまったように風雅は、イマジンと向き直った。
「あの子を、外の世界に出してやれないか」
真摯に、そう頼み込んだ。
「……」
無言で頭を掻きつつ背を向けた彼に、畳み掛けるように風雅は説く。
「あの子は、もっと広く学び、そして多くの人々、様々な価値観に触れるべきだ……何より、本人がそれを望んでいるはずだ」
「分かってるよ」
フータロスは苦渋を声に滲ませて答えた。
「でも、今は時期がまずい。アンタもご承知の通り、ディサイダーズの動きが本格化しつつある。まだ、ノコの存在を奴らに嗅ぎつけられるわけにはいかねぇの」
「だが、多感な少年期をこんな不毛な場所で送るのは、あまりにも……」
「哀れだって?」
問い返された風雅は、それ以上は何も言わなかった。
「良いよ、別に」
代わりに、口を挟んだのは、当のノコだった。
「僕はこのままで。今と変わんないんでしょ? それにきっと、辛い思いも痛い思いもしなくちゃいけないし、今以上にお勉強も頑張んないと、でしょ?」
「あ、あぁ……」
上目遣いに見つめられたフータロスは、曖昧に頷いた。
「じゃ、その時までは気長に待つよ。それよりもセンセイを先に戻してあげないと! ……あ、そういやこの間面白いモノ、外で見たから取ってくるね」
そう言って足早に洞窟を出て行った。
「……気を遣われたかな?」
「だな」
大人ふたり、子どもに配慮される自身の情けなさに顔を見合わせ、苦笑するのだった。