学園仮面ライダー ~融汽 スターターサイクロン〜   作:大島海峡

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3.

「お、見つけた」

 ある岩場の隙間。そこに挟まっていた一本の帯状の装置を、ノコは拾い上げた。

 所々塗装の剥げ落ちた、黒いベルトに金のバックル。その中で、赤い輝きが炭火の熾のように仄かな明滅を繰り返しているが、すでにその役割を手放しているのは明らかだった。

 

 それ何処からともなく流れ着いた所以が、持ち主自らが手放したものか、それとも主人を失ったがゆえかは知らないが、今、実験材料として自分のものとしても問題はあるまい。

 かつてはその矮躯のために、奥まった打ち捨てられたその場所へは手が届かなかったが、今は助けを借りられる。

 

「ありがとね、スタッグバイン」

 さらに小柄で平たいことを利用して、そこからベルトを挟み掴んで回収してくれたクワガタのケミーに礼を言う。

 

 そうして回収してきた異世界の物品は数知れず。だがそれらを見て、触れるたびに、想いを馳せる。

 これはどう言う名前で、どう作られたもので、どういう世界で生まれ、どういう人々の営みを支えて来たのか。

 ……自分の世界でも、そうだったのか。

 

 もちろん、見出した全てが全て、善き事、幸福のために創られたわけではないと、分かっている。

 九堂風雅やフータロスに教わったことだ。こと、錬金術や魔術(オカルト)の類はすなわち欲望の歴史だ。

 無や屑鉄より金銀財宝を生み出し、富喜を求める大小の支配者。

 水銀を不老不死の仙薬と信じ、愛飲する皇帝。

 永遠の若さを求めるあまり心の統制を失い、幼児や処女の血を求め続けた女王。

 

 何事も、欲すれば毒となる。技術の粋、才能や力を究めれば禍となる。

 ならば、どうあるべきか。

 

 『学園』とやらが見出したらしい、この見に眠る資質が、そしてその上に集積されるべき学の、向かうべき先とは。

 

「……あー、ヤメヤメ。考えるだけで頭痛くなってくる」

 ケミーをカードへと収めた後、頭を振りかぶる。

 すくっと立ち上がったノコは、ふいに分厚い衣を通過し、肌がひりつく感覚を覚えた。電流のごときそれは、その首を否が応にも上へと向かせた。

 

 上空に浮かぶのは、鉄の鳥。周囲の空間を捩れさせながら強引に全身を抜き出してきたそれは、緩やかに下降して、その腹より照射された光線が傘状に広がりながら、地表の砂、ノコの前方に降り注ぐ。

 やがてその光線の中に、影が生じた。膝を降り、背を曲げた細い人体の影。やがて実体化したそれは、毒々しい赤味スーツに白いスカーフ巻いた、若く美しい男の姿となった。

 

「九堂風雅……まさかこんな場所に逃げ込んでいたとはね。おかげで座標を絞るのに時間を食った」

 

 緩慢な所作で起き上がり、身体を捻り、濃い闇と魔の奥底に潜む瞳がノコを捉えた。

 

「君が、この奇妙な世界の『核』って訳かい? 

 と、要領を得ない問いかけをしてくる。元より、相手も明答など期待していないのだろう。戸惑いと共に口を開きかけたノコを左手で制しつつ、その右手で小型のデバイスを握っている。

 

 ……実物を見るのは初めてだが、すでに知識として知っている。

 ガイアメモリ、その中でも、仮面ライダーダブルの片割れが使っていたと言う疾風の記憶を持つ一本。サイクロンメモリ。

 今、それを行使する者は。

 その腹腰に据えた単挿しのドライバーは。

 九堂風雅の存在を感知し、かつそれを追って来た者とは。

 

〈スチームッッ!!〉

 瞬間、懐中に納めていたカードから、蒸気機関車型のケミー、スチームライナーが、荒々しい唸り声と蒸気をあげながら飛び出した。

 

「スチームライナー!?」

 その声が警鐘であることを汲んだノコは、すかさず彼に飛び乗った。

 その上で、線路を敷き、砂地を走行するケミーに問い掛ける。

「アイツなんだな! アレが()()なんだなっ!?」

 

 園崎来人。仮面ライダーサイクロン。

 ダブルの片割れの並行同位体。

 そして、ディサイダーズの尖兵にして、風雅の故郷(せかい)を破壊した――悪魔。

 ついにここまで、やって来た。

 そのことを、伝えなければ。

 

 だが、変身した彼は、ノコたちを追撃して来ている。

 若草色の怪人へと化し、何処からともなく呼び出した、黒と赤をかみ合わせたバイクを駆って。

 

 そして片手で持ち上げた銃器(マグナム)を絞り、弾丸を撃ちかけてくる。

 着弾と同時に吹き上がる砂塵が、急走するノコ達の進路と視界を塞ぐ。

 蛇行することによってそれを回避するスチームライナーに振り落とされまいと、両足と片手で懸命に踏ん張ってそこ車体の側面にしがみつきつつ、あえて空けた右手を後背に向けて突き出した。

 その中指に嵌めた指輪が、紫色に閃く。

 

 ――万物は、これなる電者(いかずちもの)の王道として繋ぎ紡ぐ

 

 自らが編み出した術式(コード)を、念波に乗せて飛ばす。

 それに呼応した大地が、にわかに隆起した。

 山となったそれは波へと姿を変え、また巨拳に変じて追走するマシンに襲いかかった。

 

「ほう?」

 短く嘆を発した来人はしかし、欠片の動揺も見せない。何度か撃ちつけた弾丸が、その分厚さに跳ね除けられても、なお。

 

 マグナムを胸に貼り付け納めつつ、そのマシンに格納していた剣を抜き取った。その中途が折れ露わとなった装填口に、銀色のメモリを送り込む。

 

〈エンジン! ジェット!〉

 元の角度に戻したその切先から噴出する気流の渦が、砂の攻勢を穿つ。その孔から、風に乗って小動物を模した小さな機械(ガジェット)たちが、踊り込んでくる。

 

「なんだ……こいつら!?」

 コウモリやクワガタの飛行ユニットを腕で振り払っている隙に、二足歩行の恐竜や黒い犬のようなものがスチームライナーの前面に飛び込み、その顔面を喰らい、齧る。

 

 野太い悲鳴を揚げるライナーはその進路を乱し、速度を緩める。その横に、追いついて来たサイクロンが、再びマグナムを構え、そして紅蓮の『弾丸』を押し込める。

 

〈ボム! マキシマムドライブ!〉

 という音声と共に多数射出された多数の火球が、一瞬間、宙に留まった後にスチームライナーの側面に叩きつけられた。

 

 その衝撃で、彼は横転し、乗っていたノコは中空へと投げ出された。

 体勢を整えることもままならず、頭から落下しようとする。死の冷たい予感が、頭と背の後ろを過ぎる。よしんばそれを免れたとしても、そこにはサイクロンが銃口を向けて待ち構えていた。

 

 だがその時だった。

 駆動音が響いて、ノコの鼓膜を突く。瞬間、小柄で華奢なその腰は、しっかりと男の腕に巻き取られていた。

 

 ゴルドダッシュに跨りながら跳躍した九堂風雅は、ノコを救い出して片脇に抱き抱えたまま、緩やかに着地して、円弧に轍を刻む。

 そして園崎来人を睨み据えたまま、ノコを下ろして自らも砂の上に立ったのだった。

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