学園仮面ライダー ~融汽 スターターサイクロン〜 作:大島海峡
「クドー……先生」
かすれた声で彼の名を呼ぶノコの頭を撫でつけながら、風雅は庇うように前へと進み出た。
「狙いは私のはずだ。この子は関係ない」
そう言い切る風雅を、
「そうはいかない」
と、仮面の奥から冷笑を滲ませながら来人は返した。
バイクから降りざま、右回りにぐるりと捻った背と首は、走って追いついてきたフータロスへと向けられた。
両の膝に手をつき、息を整えていた彼は、サイクロンの赤目が向けられた時、ギクリと総身を揺らした。
「どうやら、ディサイダーズに対する不審な動きが水面下であるみたいだね……こんな砂漠で育つ芽など無いだろうが、ボクは完璧主義でね。彼女たちの障りとなりかねない要素は、取るに足らない存在であっても排除させてもらう」
そう宣告しながら右の半身を傾けた来人はノコに指を突きつけた。
「誰しも完璧にはなれない」
彼の言い分に対し、風雅は淡々と返し、
「そして、完璧な旅立ちもまた存在しない。何も持たず、嵐の中を巣立たねばならない時もある」
そして背後で身体を丸める若者に、横顔を向けた。
「ノコ」
と、その名を呼ぶ。
「君は、この砂の牢獄を出なさい。そして、友人たちと実りある日々を送り、そして学ぶことだ」
誠心と共にそう言う師に、ノコの瞳が、一瞬星の閃きを宿した。
「ずいぶん勝手なことを言うじゃないか」
指先をノコから風雅に移して、来人は哄笑した。
「そもそも君がここに流れ着かなければ、こんなことにはならなかったろうに」
「そんなことは分かっている」
その揶揄の声に、澱みなく、風雅は呑んで受け入れる。
「だからこそ、その責任として、そして大人として……若者の道遮る暗雲は、私が払う!」
〈アルケミスリンク〉
気焔を吐いたその丹田に据えるは、幻獣の翼を想わせるドライバー。
そこに、自らの中指のリングを押し当てて後、
〈ギガバハム! クロアナ!〉
所持のケミーカードを二枚組み合わせ、その左右にセットする。そして結んだ両手の印の間で闇が渦巻き、光子球がその背に広がり、その輪の内にブラックホールが形成される。
「変身……!」
〈ダークインフィニティ! ブラックバハムート!〉
宇宙の暗黒が、風雅の身を前後からを呑み込んだ。その帳を黄金の六爪が引き裂き、歴戦の黒衣に身を包んだ、竜頭の仮面を戴く錬金術師が現れた。
「我が字は、仮面ライダーウインド!」
そう名乗る彼に、首を傾けるような所作と共に、サイクロンは身をよじった。
「面白い。では、『風』の吹かせ合いと洒落こもうか?」
そう揶揄するや、彼はウインドへと飛び掛かった。
即座に屈んだウインドは、彼の瞬間的な攻勢を掻い潜る。丸めた背のマントの上を、サイクロンの身体が滑り、転がされていく。
そして互いの位置を入れ替えるや、ウインドの手刀が周囲の風を巻き取りながら、その胴へと叩き込まれた。
つんのめった来人は、それでも間を置かずに反撃に転ずる。
だが、またも不意打ち気味に仕掛けられた裏拳は、空を切るのみ。ウインドは己の身柄を預けるように、四肢を投げ出すが如き自然体で中空を浮かび、そして上下逆しまになったウインドは幾度も掌底を叩き込んだ。
「クッ」
息を詰まらせつつ、来人は応戦する。だが、ブラックホールに我が身を取り込ませた風雅は、次の瞬間には彼の眼前に現れて、神速の拳を振るう。
あらぬ場所、思いも寄らぬ方角より目にも留まらぬ速さで剛柔織り交ぜた打撃を加えていく彼に、さしものサイクロンも防勢に回る。
「こっちだ、ノコ!」
と、フータロスが手を引いて退かせようとするも、ノコは脚が棒のようになって動かない。目前の戦いに、忘我していた。
その烈しい力と技の応酬に、腰が抜けたわけではない。
ただ心奪われていた。
これが、本物の錬金術師。
これが、本来の九堂風雅の姿。
これが、真の仮面ライダーの力。
これが……
「いずれ僕が進まなきゃいけない……
恐怖はない。
だが、心の奥底に熱のようなものが疼く。無限とも思える砂に覆われた行く手に、光の環が差し込んだ心地だった。
「なるほどね、あの世界の『核』なだけはあるということか」
苦戦をしているはずなのに、妙に悟ったような調子で来人は言った。
「じゃあ、こんなのはどうだい?」
その文句を合図として、周遊する鉄の鳥が、件の光をサイクロンの手に落とす。
神からの啓示がごとく、そこから送られてきたのは、一枚の
ケミーのそれではない。イマジンのパスでもない。まして、ガイアメモリなどとも。
だがそこに封じられたものが面に押し出されていることは共通している。
すなわち、銀角を研ぎ澄ました真紅の戦士の顔写真と、ことさらに大きく打ち出されている名が、何者を象徴とし、かつ力を写し取ったものかを示している。
〈Attack Verse:Accel!〉
サイクロンは、自らの胸部にその一枚を押し当てた。すると、緑碧の身の内にそれが取り込まれていくと、タコメーターのものが彼の眼前に生じ、やがてそれもまた赤光となって取り込まれていく。
〈サイクロン! アクセル! エクストリーム!〉
砂を黒く焦がし、熱波であらゆるものを退かせ、しかして周遊していたその鳥は吸い寄せられて飲み込まれていく。
それが収まった時には、サイクロンは別の姿。似て非なるライダーへと変異していた。
そのドライバーは鳥型のガジェットが取りつき左右対称に。緑一色だったその総身には中央に白水晶の輝き左半身に真紅のボディ。両目には、LEDの青い閃きが宿る。
そして地面に突き立った巨剣の抜き取り、もう一方の手に円形に十字を組み合わせた盾を転送してくる。
「これが、仮面ライダーダブル・サイクロンアクセルエクストリーム。イーラブ様より授けられし、ディサイダーズとミュージアムを守護する、完全にして究極の兵器の姿だ!」
両腕を広げるや、園崎来人は高らかに宣言を轟かせたのだった。