学園仮面ライダー ~融汽 スターターサイクロン〜   作:大島海峡

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5.

 サイクロンの姿が変わった。

 否、それだけではない。

 肌身で感じるほどに力が増し、纏う雰囲気に圧が加わり、存在そのものが強化された。

 

 だが、

(あれは本来、混ざらなかったはずの色だ)

 なるほど技術系統は、おそらく同類のもの、ガイアメモリ由来だろう。

 だが、おそらくは世界を異とする。でなければあのような奇怪なカードを自らの内に取り込むものか。

 

 その半端な歪さが、ノコの背に怖気のようなものを奔らせた。

 

「……ッ、『汝、全世界の栄光を得たりて一切無名は』」

「『散ずべし』……かい?」

 

 風雅の言葉を遮り、そこに続いたであろう文句を揶揄と共に、来人は継ぐ。

 しかしてウインドが突き出した両拳から起こる黒き竜巻が、その彼の姿を呑み込んだ。

 だが、それをエンジンの取付けられた剣のデバイスが、一斬にて払う。

 

「ガッチャード世界に類するライダーの検索はすでに完了している。『彼女たち』ほど絶対的なものではないが、既存のライダー、フォームにはほぼ全て対応出来る」

 その嘯きを証するかのように。

 緩慢な所作で水晶室のフレームとディスプレイを持つメモリを、刃の後ろへと装填し、把手のトリガーを弾く。

 

〈プリズム! マキシマムドライブ!〉

 輝く片刃が縦横に振り回されれば、竜巻は寸断され、さらにその断裂を抜けて飛んだ斬撃が、ウインドの戦装束へと叩きつけられた。

 

「ぐっ!」

 飛躍と共に優位を保とうとする風雅に、さらに旋回する盾が投擲され、その初動を制された。駆動音を総身から立たせて、見た目の重量感を感じさせない機動力で追いついてきたダブルは、ターンしてきた自らの盾を速度を落とさず掴み取り、さらに追い討ちを畳みかけていく。

 

 機械的な回転と疾風の直線的な剣筋。それを織り交ぜた攻撃に、ウインドは対応する。

 今なお、単純なスペックも、そして技量も、拮抗しているように思える。

 だが、紙一重の太刀筋は正確にウインドにヒットして確実にダメージを与えていく。

 逆にその反撃には完璧な対処でもって制している。

 まるですべての攻め方や、得手不得手を読み切られているように。いや、彼の言葉をそのまま受け入れるのならば、まずそうなのだろう……今までは、小手調べに過ぎなかったのだと。

 

「無論、()()()()弱点があることも把握済みさ」

 浮ついた口調でそう告げた来人は、曰くありげに視線を横へ逸らした。合わせて振り向けられた剣の先にはノコと、それを退かせようとするフータロスの姿があった。

 

 そしておもむろに。ダブルはウインドへ向けて剣を投げつけた。

 弾丸を想わせる威力と速度である。まず免れ得まい。

 ノコは、駆け出し、飛んだ風雅に手を伸ばす。

 

 助けを求めてのことでは無い。むしろその逆の意図による。

 この攻撃は、本気で刺し殺す気のものだが、同時に偽装であり……罠である。彼を誘い出すための。

 

 風で砂を切り裂きながら、風雅は投げつけられたブレードに追いつき、間に割って入る。その上で両手で挟み込むようにしてドライバーを操作する。

 

〈ブラックバハムート・ノヴァ!〉

 槍のごとく窄めた手先に生じた旋風が、その切っ先を正面から迎え撃つ。

 しばしの拮抗の後、勝ったのはウインドだった。手刀へと形を変えたそれが、ブレードの突破力を完全に相殺し、その刃を上から叩き割る。

 

 ――だが、仮面ライダーダブルには狙いがあった。

 その足元の砂地が隆起し、中から自走砲のごとき、青いボットが現れた。盾から直剣を分離させるや、その砲口に盾を押しつけ、さらに足で抑える。そして、カタパルトがわりに自らを射出した。

 

 飛翔、急追。その中で、赤いメモリを剣の柄頭へと押し込み、鍔元のボタンを押す。

 

〈アクセル! マキシマムドライブ!〉

 さらに速度を増したダブルが、必殺技の直後で態勢の整わぬ風雅の胴を、すり抜けざまに払う。

 赤光が、そこからウインドを侵す。ほどなくして、爆発を招いた。

 

 業火の中、くぐもった声と共に、風雅が吐き出され、地に臥した。

 

「先生……先生ッ!」

 あわてて、ノコはその彼に駆け寄り、抱え起こす。その軽さに、今にも息絶えんばかりの憔悴の表情に、言葉を失う。

 

「愚かな男に相応しい、未熟な末期だな」

 スライディングと共に、盾をスノーボードのように操りながら着地、減速した来人は、冷ややかに評した。

 だが、勝者としての優越が、彼の内で膨張していく。それが小さな笑声より兆しとして表れ、やがてそれは肩を震わせた大笑に至る。

 

「見たか! これが、ディサイダーズの力! 技術! 知識! ボクは、あの方達からのその全てを与えられ、街や組織を脅かすものを薙ぎ倒してきた! 組織に楯突く馬鹿な探偵も! 裏切者の母親たちも! NEVERも! 裏風都も! ディサイダーズの偉大さを理解できないクズな家族も! まさにこのボクこそが! 彼らに選ばれるに相応しい、完璧なライダーだ!」

 

 熱に浮かされたように、高らかに、自負と共に宣告する魔青年に、

 

「――可哀想に」

 ノコは俯きながら、静かに返した。風雅の姿がではない。より痛ましいのは、今手前で陶酔に浸る園崎来人だった。

 

「たとえ世界が本来の時の流れと違っていても、君に手を差し伸ばす人々がいただろうに。それなのにディサイダーズに出会って『全て』とやらを与えられてしまったばかりに、君は自分で何も考えられず、決断もできない哀れな悪魔に成り果てたんだ」

 

 その言葉に、来人は反応に窮したようだった。

 不快やショックというより、その所感や同情そのものが、理解できないがための、沈黙と間だった。

「だったらどうだって言うんだい? 我々の世界を蝕む『悪』を倒すためなら、悪魔だろうと人形だろうと構うものか」

 いよいよもって分かり合えない、そんな段階は、とうに過ぎている。

 そう察したノコは、

「……わかったよ、クドー先生」

 何かを訴えるように、細めた目に、意思の光を宿した風雅の手を、一度強く、握り返す。

 それから、そっと体を横たえさせながら、その小柄な体を、ノコはもたげた。

 

「きっと、君のようにならないために、学びがある。君のようにさせないために、友人がいる」

 それが、外の世界へ出るように促した、風雅の意。  

 

「僕は……僕自身の意志で、この砂の牢獄を出て、ライダー学園へ行くっ!」

 たとえそこが、この園崎来人のような怪物が跋扈する無慈悲な現実であったとしても。

 自分の心が求めるままに。自分の運命に求められるままに。

 

「ノコ……」

 その覚悟の裏に控えていたフータロスは、その名を呼び、そしてあらためて問うた。

「それで良いんだな!? きっと目一杯にしんどい目に遭う。それでも、お前はそれを選ぶんだな!」

 最後の一線ともいうべきその念押しに、ノコは澱むことなく、強く頷く。

「――契約だ! フーさん!」

 と、彼に手を差し出した。

 

「じゃあ、もう誤魔化しはナシだ! 好きに使え!」

 そう声を張り、フータロスの仮初の肉体が、人魂のごとく縮小し、ノコの肉体へと吸い込まれていく。

 

 その服の隙間から砂があふれ出すとともに、髪の一房と瞳の色が、朱色に変ずる。イマジンが、フータロスが憑依した証だった。

 ノコが拾得したベルトを腰に巻き、自らのライダーパスを大きく掲げるとともに、時を得て赤く明滅を繰り返すバックルへと読み取らせる。

 

「変身……!」

 同口同音。一つの肉体を共有する二人の魂が、多くの先達に倣い、覚悟の(ことば)を口にする。

 

〈ウインドフォーム〉

 砂塵を巻き上げ、光の粒子を帯びた風が唸る。

 黒い素体が、下地としてノコのボディを舗装する。

 線路のごときラインが奔る。

 その上を忍者を想わせる、朱色と褐色の装束が黒き髷のごとき頭のパーツと組み合わさった。

 

 そして腰の複合武器――デンガッシャーを放り投げるとともに組み上げ、巨大な十字手裏剣を形成するとともに、腰を沈めて構えたのだった。

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