冬の空気は澄み切り、スキー場の斜面は白銀に輝いていた。坂本、森、松山、吉田の4人は大学の冬休みを利用してスキー旅行に来ていた。ゲレンデには笑い声が響き、リフトの音が遠くで鳴っている。雪は柔らかく、足元で軽く軋む。冷たい風が頬を刺すが、若さの熱気がそれを打ち消していた。
昼過ぎ、林の近くのコースに差し掛かった時、吉田が視線を止めた。林の隙間に、白い影が見えた。雪の色と同化するような毛並み。だが、形が異様だった。足が三本。丸い節のような足先が雪を押し、ゆっくりと動いている。体は細長く、毛が逆立っていた。
他の3人も視線を向けた。確かに何かがいる。だが、雪の反射で輪郭が曖昧だ。生物は彼らに気づいたのか、突然動きを速めた。雪を蹴り、林の奥へ消えていく。その後には、三つの丸い足跡が並んでいた。人間でも動物でもない、不自然な跡。
雪の静けさが、異様な光景を際立たせていた。4人は言葉を失い、ただその足跡を見つめていた。
宿に戻ったのは夕暮れ時だった。窓の外では雪が静かに降り続き、街灯の光が白い粒を淡く照らしていた。スキー場での出来事は、4人の頭から離れなかった。林の隙間に見えた白い影、三本足の生物。雪の上に残された三つの丸い足跡。あれは何だったのか。笑い話にするには、あまりにも現実感があった。
部屋の暖房が効き始め、冷えた体がようやく緩む。坂本は自分のスマートフォンを取り出し、昼間撮影した動画を確認し始めた。ゲレンデで滑る様子を記録したものだ。画面には雪景色と仲間の姿が映っている。だが、再生を進めるうちに、視界の端に異様なものが現れた。
白い影。林の奥、雪の反射に紛れるようにして、細長い体が動いている。毛並みは白く、足は三本。丸い節のような足先が雪を押し、ぎこちない動きで進んでいた。影は一瞬だけ画面に映り、すぐに消えた。だが、確かに存在していた。
部屋の空気が重くなる。暖房の熱があるはずなのに、背筋に冷たいものが走った。動画を何度も再生しても、同じ影が映っている。偶然ではない。雪の反射でも、撮影のブレでもない。そこに「何か」がいた。
4人は言葉を失った。笑い声は消え、沈黙だけが部屋を満たした。窓の外では雪が降り続いている。林の奥で見た白い影が、今もどこかで動いている気がした。
翌朝、空は薄曇りで、雪は夜の間にさらに積もっていた。スキー場は静かで、ゲレンデの白さが一層際立っている。4人は昨日と同じ林の近くへ向かった。冷たい空気が頬を刺し、吐く息が白く漂う。雪面は新雪に覆われ、足跡はほとんど消えていた。
林の隙間を覗く。昨日の白い影はどこにもいない。雪の反射がまぶしく、視界は澄んでいる。だが、よく見ると、雪の奥に不自然な跡が残っていた。三つの丸い足跡。昨日よりも薄く、雪に埋もれかけている。それでも形ははっきりしていた。人間でも動物でもない、異様な並び。
4人は黙ったまま、その跡を見つめていた。風が林を揺らし、枝から雪が落ちる音が響く。周囲には他のスキーヤーの姿もなく、静けさが重くのしかかる。昨日見たものは幻ではなかった。だが、証拠はこの足跡だけ。白い影はどこへ消えたのか。何だったのか。
雪面に残る三つの丸い跡が、答えを拒むように沈黙していた。
「昨日見たものは、何だったんだろう。」
誰かが呟いたその問いだけが、冷たい空気の中に残った。
と言う話を食堂で聞いた