同窓会のために十数年ぶりに帰省した日のことだ。
会場の賑わいの中、Aは不自然な動きをする男に気づいた。白い杖――白杖を床に軽く当てながら、慎重に一歩ずつ踏み出している。
サングラスを掛けているその男は、かつて高校時代にオカルトの話ばかりして盛り上がった親友、Bだった。
「……Bか?どうしたんだよ、その……白杖なんて」
声をかけると、Bは嬉しそうに顔を上げた。
ただ、その顔の向きはAの方を正確には捉えていなかった。
「Aか!久しぶりだな。いやさ、ちょっと見えなくなっちゃって」
軽い調子で言うBに、Aは動揺して理由を尋ねた。
するとBは、まるで自慢話のように胸を張った。
「幽霊に目ぇ塞がれたんだよ」
Aは一瞬、聞き間違いかと思った。
だがBの語り口は真剣で、むしろ誇っているようにも見えた。
Bによれば数ヶ月前、地元で噂の廃墟へ行ったという。
そこは自殺した男性の霊が夜な夜な彷徨うと囁かれていた場所だ。
Bは白杖ではなく懐中電灯を頼りに、真っ暗な廃墟を奥へ進んだ。
壁紙は腐り、天井からは黒い染みが落ちていた。
そんな中、ふいに背中に生温かい息が触れた。
「……だぁーれだ?」
低い声がそう囁いたという。
驚いて振り返った瞬間――
“白い手のひら”が視界を覆うように近づいてくるのが見えた。
それが目に触れた次の瞬間、Bの視界は完全に暗黒へ沈んだ。
病院では 心因性視覚障害 と診断された。
白杖は自立支援で支給されたという。
だが、Bはむしろ楽しそうだった。
「俺さ、ずっと本物の幽霊に会ってみたかったんだよ。
証拠が、こうして目に残っちゃったわけだ!」
サングラスを触りながら、満足げに笑う。
Aは声を失った。
恐怖よりも興奮しているBの様子が、どこか危うく見えたからだ。
話し終えるとBは白杖を前に突き出しながら、
「他のやつにも聞かせてくるわ!」
と嬉々として別の同級生に向かっていった。
その背中に、Aは言いようのないざわつきを覚えた。
翌年、また同窓会が開かれた。
AはBの姿を探したが、どこにもいない。
別の友人に尋ねると、彼は暗い顔をして言った。
「……Bのあの話、覚えてるよな?“幽霊に目を塞がれた”ってやつ。あれが噂になっちゃってさ。近所でも気味悪がられて……結局、家族ごと引っ越したんだよ。どこへ行ったかは誰も知らない」
Aは呆然とした。
あの日、Bが嬉しそうに語る横顔が頭に浮かぶ。
そういえば――
あの廃墟がどこにあるのか、結局、聞かずじまいだった。
Bがどんな場所で、何を見たのか。
どんな“手”に触れられたのか。
それを確かめる手段は、もうどこにも残っていない。
とても残念だ。