ある日、ある朝、それは全くの偶然であった。
それぞれの事情を抱えた三人の男は、それぞれ別方向から、何の変哲もない交差点でばったりと鉢合わせた。
「あっ……よ、よう!」
再会した二人に、とりあえず手を挙げる少年——白上虎太郎。
「龍星! コタロー! お前、この辺に住んでたのか!」
驚きの声を上げる男——玄野武宏が、二人に話しかける。
「住んでたっていうか、仕事で通りかかっただけだけどな。奇遇だな、タケヒロ」
巨漢の瞳に、いつかの夜中のような冷たさは微塵もない。
むしろ、この3年ぶりの再会による暖かい空気に、安堵するように微笑んでいた。
巨漢の名は、青山龍星。冷静寡黙にして剛健な男。
少年の名は、白上虎太郎。見た目のまま少年と呼ばれがちだが、二人と同い年の立派な大人(ただし少しおバカ)。
そして男が、玄野武宏。さっぱりした性格の好青年だ。
三人はかつて、『昼暮寮(ひぐれりょう)』というシェアハウスで、それぞれの事情を抱えながら共同生活をしていた幼馴染である。
そしてこの三人は、偶然にも3年ぶりの再会に、半ば呆然としながらも喜びを分かち合うのであった。
「……ボイボ寮?」
「そ! 最近格安で住人を募集してるんだってさ! 見なよこの家賃、格安だろ?」
虎太郎が、その辺の電柱から剥がしてきたと思しきクシャクシャのチラシを二人に見せる。そこに書かれた数字を見て、二人は唸り声を上げた。
「いやいや、安すぎるだろ。やめとけコタロー、事故物件だぞ絶対」
そう虎太郎に忠告した瞬間、だった。
龍星はふと思い返す。
(あ、いや、幽霊くらいだったら並大抵のは俺が祓えるな)
虎太郎も考える。
(俺なら多少の祓魔術も心得があるしな)
そして武宏も思い至る。
(俺の炉心の霊子とかいうエネルギーって、確か幽霊とかにも有効だよな)
それぞれが、幽霊に対する明確な有効打を持っている。
その事実が、三人の思考から「事故物件への忌避感」を一瞬にして消し去った。
その結果、三人の思考は、この偶然の出会いという運命(?)を短絡的に許容するのであった。
「「「ま、いっか! 住んでみるのも!」」」
「いっそ朱司も呼ぶ? 俺、連絡先聞いてねんだけど」
虎太郎の問いに、他二人も「俺も知らない」「あいつは無理だろ」と首を振る。
なら仕方ないか、と。
虎太郎はポケットから携帯を取り出し、チラシに書かれた不動産屋の番号を打ち込み、シェアハウスの住み込み案内を予約するのであった。
三人は、内見も何もなくすんなりと住居登録の手続きが済んでいくことに、何の違和感も覚えていなかった。
なぜなら三人とも、流浪の旅人として時に他人の家を間借りし、時には自分の協力組織のサポートで安易に借りれる住居をセーフハウスとしたりしていたため、通常の入居登録というものに全く慣れていなかったのである。
考えたところで——
(なるほど、最近の不動産システムって随分と手軽になったんだな)
……としか考えなかったのである。
これは波音リツのような、事情を知らない異能者も引っかかったのと同じ流れであった。
だが、この三人の場合は、お互いがお互いを何も知らない『一般人』だと思い込むことによって——
(まぁ、他の二人が疑問に思ってないし、これが普通か)
と、その思い込みを相互に補強してしまった部分も大きかった。
そうして三人は、それぞれの決して少なくない——しかし一般人から見れば明らかに少ない荷物をまとめ、あの魔窟へと帆を進めたのであった。
「ボイボ寮、どんなところだろうなぁ」
「可愛い女の子がいるといいな」
虎太郎がぼそりとつぶやいた、いかにも彼らしい言葉を茶化すでもなく、他二人も「確かに……」と真顔で同意するあたり、三人は確かに親友であった。
「そういえばお前、職場の女の子の先輩に振られたんだろ? 落ち着いたら三人で残念会でもするか」
「よせよぉ……」
武宏のからかいに、虎太郎が本気でへこむ。
そんなくだらない、3年間のブランクを感じさせない会話を交わしながら、最初に異常に気づいたのは、龍星であった。
(なんだ……やけに、雑霊が少ない?)
彼は対魔師の修行を積んでいる。
その中には仏教系の魔術の心得も含まれていたため、彼の知覚は対霊戦にもある程度の心得があった。
そんな彼の知覚は、日常において、常に小鳥や羽虫と同じくある程度の「雑念」や、その辺で死んだ動物霊などもノイズとして含まれるのだが……それが、この『ボイボ寮』に近づくにつれ、異常に少ないのである。
彼にはまるで、サバンナで暮らしていた猛獣が、なんの脈絡も境目もなく、完璧に整えられた環境である動物園の檻に、自ら踏み込んだかのような強い違和感に襲われていた。
違和感は、次第に確信に近づいていく。
(何だ、この圧倒的な霊気——!)
ただのアパートだ。近くでは奥様方が談笑し、併設された小さな公園では子どもたちがキャッキャと無邪気な笑い声を奏でている。
ふざけるな、と龍星は思う。
こんな霊圧、周囲に悪影響を及ぼすレベルの悪性幽鬼が棲みついた『入ったら死ぬ系の幽霊屋敷』でさえも感じた覚えはない。
なのに、噂になっている予兆すらない。
滝のように噴き出す冷や汗を隠し、龍星は、震える声で、勇み足で前に出ようとする虎太郎を止めた。
「なぁ、二人とも……この玄関、俺に開けさせてもらえないか?」
何があっても、二人は守る。
龍星の思考は、感じたことのないレベルの危機感と焦燥で、どうにかなりそうだった。
「んぉ、いいよ? タケヒロは? ……タケヒロ?」
「……」
武宏にも霊感があるのか、それはわからないが、明らかに何かに『あてられて』硬直している——龍星はそう判断した。
もうここまで踏み込んだのなら、去ろうとすれば即座に捕まってしまう。幽鬼とはそういうものだ。
龍星は意を決して、その玄関の戸を開けた。
「頼もう!」
「ちょ、頼もうって、道場破りじゃないんだからさぁ」
呑気に声をかける虎太郎。
その声とは裏腹に、龍星が目にしたのは……普通の、やけに広いシェアハウスのリビングだった。
しかし。
壁にかかった大きなテレビの前……に、居る。
何か、強大な——
龍星は全身の産毛が泡立ち、体感時間が異常なまでに間延びするのを、確かに感じた。
「なにぃ……?」
紫色のジャージに身を包んだ素足が、パタパタと音を立てて、寝起きの不機嫌な声をあげて……そんな呑気な情報、龍星の脳内には一切入ってこなかった。
ただ、未知。
みし、バキッ。
目の前に渦巻く、この世全ての霊魂を煮詰めてミキサーにかけたかのような、吐き気を催しても吐くための筋肉すら動かない、そんな『極限まで圧縮された霊の煮凝り』いや『小型のあの世』。
メキメキメキ、バコン。
それが、彼女自身の物理を超過したレイヤーの向こうに、確かに在る。
動く。その前に、殺さなければ、二人が殺られ——
「……あぶねぇ、龍星!」
虎太郎の切羽詰まった叫びが、耳に届いた。
振り返る前に、頭に影が重なる。
なんだ、気づかなかった。目の前の『煮凝り』に集中しすぎていた。
目の前に迫る、二階の踊り場から落ちてきた、女の、尻。
ゴシャア!
大地を揺らすかのような凄まじい衝撃が、ボイボ寮の広い玄関を襲った。
「ああ、やっちまった——ったく取手も合金じゃないのか、っいてて」
二階の踊り場から落下した赤い髪の女性——波音リツが、砕け散った床材の瓦礫をガラガラと押し除けながら、同じ瓦礫に埋もれた「肉塊」を拾い上げる。
そして、それが先ほどまで玄関に立っていた巨漢——龍星であったことを認識し、少し間を置いて青くなった。
「はう!」
「はいはーい怪我人ですね任せてくださーい」
リツが声をあげると、呆然と瓦LECと惨状を見つめている虎太郎の後ろから、女子大生のはうがやってきた。
彼女は、さも当たり前のように、手足や首の向きがありえない方向に折れ曲がり、噴水のように血を流す「巨漢だったもの」をひょいと肩に担ぎ上げる。
そして、『雨晴はう♡』と書かれた自室へと、有無を言わさず効率的に運んで行って、最後に一言、釘を刺した。
「決してのぞかないでくださいねぇ?」
ばたむ、と静かにドアが閉められる。
「な、え、龍星、く、首が、折れて」
完全に硬直した虎太郎を、武宏が突き飛ばすように押し除けた。彼はすでにベルトのバックルを展開している。
「逃げろ、虎太郎! あいつは駄目だ、このプレッシャー——大首領の野郎と同類だ!」
『Unit Open.Start Up GENBU!!』
変身の待機音楽さえも省略し、改造人間としての一瞬にして本性を表した武宏が、背中の甲羅の全ブースターを解放。
全身全霊の力を以て飛び上がり、ソファーで「ふぁあ」と背伸びをし、あくびを漏らすひまり目掛けて、必殺兵装を起動する。
『Ultimate Drive! Flare Kick!』
「何ですかもう」
ひまりが寝ぼけた眼を開いた瞬間。
びちゃっ!
と、リビングの床に、巨大なクラゲが転がった。
武宏の姿は何処にもない。まるで、そこに転がって、びくん、びくんと痙攣する巨大な半透明のクラゲこそが、武宏であったかのように。
「なに、大首領? ダゴン坊やあたりがまた秘密結社建ててそんな遊びしてたわね?」
ひまりが、呑気にくらげを向いて首を傾げている。
その、あまりにも常軌を逸した光景の中、彼女の認識を超える速さで動いたのは虎太郎だった。
(やばい、やばいやばいやばい! 何かこの家やばい、助けなきゃ、助けられるだけでも!)
虎太郎は、はうが閉めたばかりの部屋のドアを、躊躇なく蹴り開けた。
「龍星!!」
虎太郎が部屋の中を覗き見る。
そこは真っ暗だった。灯りは、部屋の中央で怪しく光るものだけ。
裸の龍星が、緑色の培養液に満たされたカプセルに浮かんでおり、そのカプセルは、部屋の半分を占拠する、何らかの人類には到底理解しえない機械類に繋がっていた。
そして、その前で彼を『看護』する医療大生のはう。
だが、その容姿が異常だった。
服装ではない、頭だ。
彼女の頭部は、人間の頭部がやってはいけないような複雑な変形によって機械的な内部を曝け出し、その脳髄が収まるべき場所から、何かが身を乗り出している。
異形の機械類を、慣れた手つきで操作する、何か。
——まるで、灰色と肌色の中間色をした異形の脳髄のような、滑(ぬめ)り毛を帯びた菌類。
それが、先ほどまでの快活な女子大生の声で——
「……はう?」
そう、虎太郎の呼びかけに、ゆっくりと振り向いたのである。
一瞬の間をおいて……
「うわーーーーーー!!」
楳図かずおの劇画タッチになった虎太郎の悲鳴と、
「はううううう!?」
と、真っ赤になったはう(菌類)の悲鳴が、同時に昼間のボイボ寮に響き渡ったのであった。
「ただいまーなのだ! みんな、新しい住人と仲良くしてるのだ?」
夕暮れ時、赤いランドセルを背負ったずんだもんが、元気に玄関のドアを開けて帰宅した。
あれほど派手に破壊された玄関と二階の踊り場の取っ手は、すでに『大家さん』の組織によって完璧に修繕されている。
しかし、リビングの光景は、ずんだもんの想像した「仲の良い日常」とは程遠いものだった。
三人の新しい男たちが、リビングの中央にきっちりと正座させられていたのである。
「はは、は、知ってるか? 人間って過剰な圧力を加えられると破裂するんだぜ? 水風船みたいに、ポフって音立てて。両親も星の吸血鬼にあんな殺され方したけど、俺もあんな死に方になるとはなー、あははあはあはは」
どこを見てるかもわからない虚ろな目で、しかし肌はやけにツヤツヤになった龍星が、乾いた笑いと共に譫言のように話している。
「なんかふわふわして、お母さんに抱かれているみたいな安心感があって、海に、海に帰りたい、海に……」
武宏は、完全に虚脱状態で涎を垂らし、幼児退行したかのように呟いている。
「肌色と灰色の中間色が滑り毛を帯びて触手を滴らせその頭のひだの隙間から伸びる末端の触手はテレパシーの反応を表すのか七色に光り羞恥によって赤く発光を繰り返しプルプルのひだが」
虎太郎に至っては白目をむき、ただただ遭遇してしまったショッキングな物体の外見情報を、早口でブツブツと繰り返している。
その虎太郎の横で、はうが顔を真っ赤にして、その肩をポカポカと殴っていた。しかし、腕力はそんなに強くないのか、虎太郎は全く堪えていない。
「やめてください! ヒトの裸の感想を! そんなツラツラと! えっち、変態! はうう!」
リビングの惨状の中心で、波音リツが申し訳なさそうに頭をかいている。
「あー、ごめんずんだもん。あたしのミス。まさか踊り場から落ちた先に人がいるとは」
対照的に、ソファでスマホをいじっていたひまりは、悪びれた様子も一切なく顔を上げた。
「リビングで寝てたらなんかいきなり襲われたから『還した』だけだもん。正当防衛よ、こっちは」
混沌と化したリビングの新人歓迎会(?)を前に、ずんだもんはランドセルを下ろしながら、困ったように眉を下げた。
「えーっと、とりあえず……三人をどうにかして正気に戻すのだ?」
「「「……はぁっ!」」」
頭に被せられたVRゴーグルから溢れ出る、サイケデリックな視覚・音楽的刺激によって、三人の男の意識は強制的に現実へと引き戻された。
「よっし、電子ドラッグの応用効いた! 戻ってきたよ、ずんだもん先輩!」
春日部つむぎの元気な声が、三人の新鮮なトラウマを無慈悲に刺激する。
「な、何だ、何が起こった!?」
「女、女怖い……」
「なんだよぉ……」
まだ朦朧とする三人に、間をおいて、つむぎの声が気を効かせるように囁いた。
「あー……何なら、トラウマとかさっきの記憶も除去する?」
「勘弁してください!」
虎太郎が悲鳴のようにそう言って、三人はおずおずとゴーグルを外した。
その眼前に広がるのは。
紙のリースや『かんげい!』と手書きされた旗で、歓迎の意を全体で伝える装いになったリビング。
そして、彼らを迎える美少女たちによる、盛大な歓迎パーティの現場であった。
「「「ようこそ、ボイボ寮へ!!」」」
パーン!と盛大にクラッカーが鳴り、色とりどりの紙吹雪が、まだ状況を掴めない三人を包んだ。
皆が皆、順番に自らを紹介していく。
「まずは潰しちゃってごめんな。アタシは波音リツ。体重含むステータスが乱数化する異能者だ。乱数を扱う能力もあるんだけど、体重は特に制御できなくて」
「わ、私は雨晴はう、です。本名は——(人類には発生不可能な金属音ノイズ)で、看護医療を学ぶために地球に留学してます。
冥王星のミ=ゴっていう知的菌類です、はう」
「冥鳴ひまり。ウボ=サスラ……あー、神様の知性体よ。日本でローカルな死神達の仕事をしながらここに住んでる。うぇーいよろしくぅ」
「あーしは春日部つむぎ! VRサービス『バーチャル埼玉』で生まれた情報生命体で、義体で学校に通ってる女子高生だよ! 三人の正気定義摩擦(サニティフリクション)を直したのもあーしだから、感謝してねぇ」
「まーくつーは九州そらmk2と申しますぅ。大家さん達『世界統合防衛局』に造られた、対魔法・対異次元戦闘対応の戦闘人形でございますぅ」
「私は漆黒のめたん! 竜脈を操り魔法を秘匿せし古の賢者が末裔! よく厨二病と呼ばれるけど、ガチだからそこんとこよろしく!」
そして、全員の前にずんだもんが小さな胸を張って進み出た。
「そして、このボイボ寮のまとめ役、魔法使いの願望器! 大家さんには『最強最悪の天使種』とか呼ばれてるけど、可愛いずんだの妖精、ずんだもんなのだ! 皆、複雑な事情を持った子達だけど、これからよろしくなのだ! おにーさん達!」
それぞれが順に、よく考えると——いや、考えなくてもとんでもない経歴の自己紹介を、当たり前のようにしてくる奇妙な光景。
その最前列に立ってにこやかに話しかけるずんだもんは、暗に、この中の誰が暴走しても即座に鎮圧できるという絶対的な自信がある故の『まとめ役』なのだろう。
龍星、武宏、虎太郎の三人の男から見れば、もはや、何処から突っ込んでいいのか、そもそも突っ込んで大丈夫なのか、全くわからなかった。
「あのぉ……」
恐る恐る、虎太郎が手を挙げた。その声は、まだ僅かに震えている。
「なんで、いきなりそんな……正体まで、自己紹介をするんだ? 普通、隠したり、誤魔化したりするんじゃない?」
虎太郎の質問は、半ば自殺行為に等しかった。先ほど記憶も消去するかと聞かれたばかりである。
それが可能な存在であることを、身をもって知ったばかりだ。だが、その根源的な疑問が、どうにも気になって聞かざるを得なかった。
ずんだもんは、いつもの笑顔を少し改め、真摯な眼差しで三人の男を見た。
「僕らはそれぞれが世界を終わらせることも守ることも可能な『特異点』なのだ」
龍星も、武宏も、その言葉の重みに息を呑む。
「だから、それを隠して生きるのにもう疲れちゃってる人がほとんどなのだ。君たちも、そうなんじゃないのだ?」
はにかむような笑顔で投げかけられたその言葉は、三人の男の胸に、それぞれの理由で深く突き刺さった。
龍星は、両親を怪異に殺され、昼暮寮に住む頃にはもう裏でハンターを始めていた。
傷を隠し、弱みを見せないように偽る罪悪感に苛まれてきた。
武宏は、皆と別れてから秘密結社に捕まり、改造された。
もう巻き込まないために、再会した幼馴染たちとも、何かあれば自分が抜ける形で、すぐ別れようと心に決めていた。
そして虎太郎もまた、その出自を偽って昼暮寮で他の皆と暮らしていたことに、僅かながらもずっと罪悪感を抱えてきていた。
全員が何らかの異能や秘密を抱えていた。その事実を知り、三人の幼馴染は互いの顔を見合わせる。
そして、最初に声を上げたのは、秘密を隠すことに最も疲れていた、虎太郎だった。
「——二人とも、ごめん! 俺、忍者の末裔だったんだ。昼暮寮に住んでたのも、現代社会を知るためで……ずっと、俺も騙してたんだ」
「謝るな虎太郎。俺も、隠れて怪異ハンターで稼いでたんだ。武宏が金欠で困ってた時だって、本当は助けてやれたのに、バレるのが怖くて……助けてやれなかった。すまん」
龍星が、長年の罪悪感を吐き出すように謝罪する。
その重い告白を、武宏は軽く受け流した。
「ふたりは良いじゃんか。俺なんて昼暮寮から出た後、秘密結社に捕まって改造されたんだぜ? 変身とかできるようになっちまって、どんな特撮ヒーローだよって」
武宏の言葉に、龍星と虎太郎の目が、先ほどの恐怖とは違う、少年のような好奇心で輝く。
「何それ超見てえ!」
「俺も俺も! あれ後でじっくり見せてくれ! 俺もああ言うの目指して作ったんだ忍び装束!自慢するわ!」
三人の男は、まるで少年時代に戻ったかのように、過去に凝り固まっていた秘密を、笑いと興奮で溶かしていく。
先住の女性陣達は、その重い秘密が解けていく温かい光景を、ただ微笑ましく見守るのであった。
『Unit Open.Start Up GENBU!!』
けたたましい変身待機音と共に、今度はスキップなしの「完全尺」での変身シークエンスがリビングの中心で繰り広げられた。
蒸気と光の演出、装着されるアーマーの機械的な駆動音。
その特撮番組顔負けの光景に、男女の垣根を超えて周囲の皆がやんややんやと盛り上がる。
「うおー凄え! 理解(わか)ってやがる! ここの『溜め』が重要なんだよなぁ!」
「音楽の軽快さがテンポ良くて癖になるのだぁ!」
目をキラキラと輝かせる虎太郎と、特等席で拍手をするずんだもん。
男のロマンを解する者たちの歓声が上がる一方で、部屋の隅では理系組が冷静かつ熱狂的な視線を注いでいた。
「スペードスーツに類する霊子(サイコ・パーティクル)を観測……これは解析すれば、地球のエネルギー問題のブレイクスルーが期待できますね」
「霊子技術系統ってそんなに珍しいんですか?
多少構造は違いますが、小型版のサンプルなら私の部屋にありますよ?」
技術的な視点から話を弾ませる、そらとはう。
そんなあまりにもカオスで、あまりにも賑やかになった歓迎会の喧騒の中で、龍星、虎太郎、武宏の男子三人は、一様に冷や汗をかきながら心を一つにしていた。
(……でも、このメンツと恋愛とか、絶対無理だな)
(ああ、無理だ。命がいくつあっても足りない自信がある)
(首が折れるか、クラゲになるか、脳みそを見せられるか……ハードルが高すぎる)
とりあえず此処は生活の場、淡い希望に関しては……命の危険のない「外部」に期待することにしよう。
秘密がなくなる事と引き換えに、諦観を得た男子勢であったとさ。