「あーっ!! アースさぁん!!」
「おお、デンジくん。なんだかご機嫌だね」
書類をまとめるために特異課に向かっていたアースは、デンジの呼び掛けに足を止めた。分かりやすく機嫌の良いデンジに、アースは口角を上げる
「へへへっ!! マキマさんにデートに誘われてさ、アンタに礼を言おうと思ってたんだ」
「マキマちゃんにはそれとなく『デンジくんが2人で出掛けたがってる』って話しておいたけど、随分と行動が早いなぁ」
「いやー、こんな早くにマキマさんとのデートが叶うとは…!! マジありがとーございまっす!!」
「それほどのことを私が頼んだ訳だからね、当然の対価だよ」
「一切合切任せてくれ!!」
マキマと出掛けるというだけで、ここまで浮つくデンジを微笑ましく思いながらも、アースは『そう言えば』と辺りを見渡した
「今日はパワーちゃんは一緒じゃないのかい?」
「なんか血抜き? …とか言われて、マキマさんにどっか連れられてった」
「あらら……」
パワーが前に相当血抜きを嫌がっていたことを思い出し、アースは心の中で同情した。ゾンビと戦ったときに血を飲み過ぎてしまったのだろう。
可哀想だと思わないことはないが、悪魔は公安で制御できないくらいに『強過ぎる』のも良くないのだ。
「アース様」
「! ビーム」
「パワーがいない間は、こいつとバディを組めって…… なんか俺の言うことは何でも聞く、らしい」
「なるほどね」
床から顔を覗かせたビームは、そのまま地中を泳いでアースの足元まで移動した。
アースは少し屈むと、ビームの顔に鼻血の跡と殴られた痕を見つけた
「ははは、さてはビームいきなりデンジくんに飛びついたな? そりゃ、これくらいは殴られる訳だ」
「いきなり『チェンソー様』とか言って抱き着いてきたからよ…」
「あっははは!! 相変わらずビームは、『チェンソー様』が好きだねぇ」
ビームの頭を軽く撫でながら、アースは腹を抱えるほど笑った
「しかし寂しくなるね、せっかくビームとまた公安で会えたと思ったのに……子供が家から出ていくときの親って、こんな気持ちなのかなぁ」
「えぇ…そういうもんなん?」
「オレ アース様、言ったことも 守ります」
「……うん、ありがとう」
「じゃー俺そろそろ行くんで、ドーンと期待しといてくれよな!」
「またね、ありがとう」
「行くぞー、ビーム」
「ハイ!!」
デンジの後ろを嬉しそうについて行くビームに、アースは幸福感と共に僅かばかりの寂しさを感じていた
数日後、対魔2課訓練施設──
訓練施設前にて、血まみれのビームがデンジを抱えていた。命からがら逃げてきたのが、ひと目で分かるほど、2人とも怪我だった。
その2人に気付いた2課の野茂に呼ばれ、訓練場に来ていたアキが駆け寄った
「ボムが来る…!! ボム……銃の悪魔の…仲間!」
「なんでお前がそんな情報を知っているんだ?」
「う、あ…」
「答えろ、ここでお前を殺すことだってできるんだ」
「話したら殺される……! マキマ様と、約束…!」
「マキマさん…?」
「押し問答は後だ、アキくん」
「アースさ、──ッ!!?」
「……ッ」
アキだけでなく、野茂も押し黙るほどアースからは怒気と殺気が溢れていた。最早、アース本人にそれらを隠そうという気もなかった
「…ボム、と言ったね? ビーム」
「ハ、イ……」
「……来てるって言うのか、レゼが」
「ご存知なんですか?」
「存じて…そうだね。クソッ、まずいよこれは……
まぁ、ともかく無事でよかったよ、ビーム。取り敢えず血を飲みたまえ」
アースはナイフで腕を切り、傷口から垂れた血をビームに飲ませた。そして、これから来るであろう脅威に顔を顰め、奥歯を軋ませた。
「あ! キタ、キタ! ボム来た!!」
「思ったより早かったな……!」
「そこの美女!! すまないが、それ以上近づくな!! ここは対魔2課の訓練施設だ、民間人の立ち入りは禁じられている!!」
「レゼ…!」
デンジは怪我に苦しみながらも、
「意識が戻ったか、デンジくん…! 無理するな、君にも血を……」
「すいませ〜ん!! 助けてくださ〜い、悪魔に襲われてま〜す!!」
「ほー…随分な笑顔で襲われてるもんだな」
「野茂さん」
「ああ、お仲間連れて後ろに下がってろ」
「気を付けたまえ野茂くん、気を抜けば死ぬぞ」
「…了解、任せといてくださいよ」
「ここは頼んだよ…──天使くん、いるだろ!? どこだ!」
デンジをアキに任せ、アースはビームを抱えて裏手の駐車場に回った
「アキ、本部と副隊長に連絡。ここにいる2課全員呼べ、それと………
……あの美女どこかで見たことないか?」
「こんな時にナンパ癖はつまんないですよ」
「いや本当に………まさかな、そんな訳ないか」
「ダメみたいだな〜、そりゃダメか〜
レゼと呼ばれた彼女は、自身の首のピンに指を掛けた──