【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
雨は、さらに強くなっていた。
光の明日の居住区では、安倍紅と安倍蓮が信者達を礼拝堂の二階へ運んでいる。黎明と教祖の戦いの影響で、町にいた者達はほとんどが意識を失っていた。
なので、自分で歩ける者はいない。双子と綾乃は信者達の保護を続ける。
しかし、間に合わない。山の斜面から流れ込んだ水は、すでに全員の足首を越えていた。
「とんでもねぇ雨だ……」
「えぇ、こんな天変地異を起こせる怪異だったなんてね」
紅は空を見つめる、異様なほどの雨がどんどん降り、町の中へ流れ込んでいる。畑は完全に沈み、停められていた車が横倒しになっていた。
外の様子も見えない。それほどまでに雨が強いのである。先の景色など、見通しができない。
二人には見えないが、外は雨水と山から流れ出した濁流が合わさり、大きな川へ変わっていた。
「このまま降り続いたら、ここが沈むだけでは済まないわね」
「京都まで流れるな」
「それだけじゃない。川が全部溢れたら、周辺の町も沈む。雨の範囲がどこまであるか分からないけど……下手したら、日本が──」
紅は、その先を言わなかった。この雨がどこまで降っているか、それはわからない。
しかし、仮に、この雨が京都全体だけでなく、日本全体に影響を及ぼす可能性があるのはいうまでもなかった。
「まぁ、黎明くんならなんとかできる気もするけど」
「今頃、ボス戦か。悔しいがこの規模の雨を降らせるならオレじゃ倒せないな」
黎明は教祖を引きずり、一人で封印場所へ向かっている。追いかけようにも、澪と両親、それに意識を失った信者達を置いていくことはできなかった。
何より、純粋に倒せない。
そんな様子を見て綾乃が冷たく言った。
「これで世界が終わったら、笑えるわね」
「お終わらねぇよ」
「どうかしら。案外あっさりと終わるかもしれないわよ」
「ねぇな。オレ達冒険者が時代を終わらせない」
「……そう、随分と過剰な自信があるのね。でも、この雨が降り続けたら、日本なんてすぐ沈みそうだけど」
「──てか、お前急に嫌味言ってくるじゃねぇか。なんだよ」
「ふん、別に……」
綾乃が急に饒舌になったので、蓮が違和感を持つが原因はわからなかった。
だが、綾乃が嫌味を言った直後、山の上から大量の水が押し寄せた。
白い外壁へ衝突し、三メートルを超える壁を砕く。崩れた石と木々を巻き込みながら、濁流が居住区へ入ってきた。
「結界を張るわ!」
紅がそう言って、術を発動する。外壁より高く結界を張ることで、水の侵入を防ぐことに成功する。
濁流が透明な壁へぶつかる。
「一時的にはなんとかなったけど、このままだと……」
死の予感が全員の頭に浮かぶ。空からの莫大な雨、それを防ぐことは人にはできない。徐々に、着実に歩み寄ってくる死の気配。
だが、それらを吹き飛ばすように、唐突に周囲が明るくなった。
最初は雷かと思うほどの煌めき。しかし、光は消えない。
黒い雨雲の向こうに、赤い何かが浮かんでいる。そして、雲の内部が燃え上がった。
そして、暗雲が全て吹き飛ばされるように空が割れた。黒雲を内側から吹き飛ばし、巨大な炎の球体が姿を現す。
まさに太陽。直径は三十メートルを超えており、膨大な霊力によって作られた炎が、雨雲を焼き払った。
新しい雲が生まれようとしても、太陽から放たれる熱に触れた瞬間、形を保てず消えていく。
一瞬で雨が弱くなり、数秒後には、完全に止まる。
「なに、あれ……」
綾乃が呆然した表情で、空を見上げた。彼女は、あれほど巨大な陰陽術を知らない。
炎を球体にする術は存在する。空へ光を打ち上げる術もある。だが、あれはどちらとも違った。
空に留まり続け、周囲の雨雲を消滅させている。少しでも制御を間違えれば、山も町もまとめて焼き払う熱量だった。
それなのに、地上にいる人間へ熱は届いていない。雨水だけを蒸発させ、雲だけを焼いている。
「……どういう、ことなの……?」
「あれは黎明の魔法だ」
綾乃の脳は理解を拒んでいた。それほどまでに、空に浮かぶ太陽衝撃的なのだろう。唐突に太陽が現れたかと思えば、奥にもう一つ太陽がある。
さらに、現れた太陽からは異様な霊力が漏れ出していた。
それに対し、蓮が説明をするが、それでもすぐに理解はできないようだ。
「
「……意味、分かんない。太陽作るって……」
綾乃は信じられないものを見るように空を見続けた。まず、あれほどの規模で術を人間が発動できるわけがない。
そして、それを維持して、ずっと空に浮かび続けるのにどれほどの霊力が必要か。
(豪雨にも驚いたけど……世界が滅亡する予言がついに始まったのかと思った。どこか、諦めがあったのに。そこから、急に太陽が現れてそれを吹き飛ばした……)
(豪雨降った時は、世界が終わったと思ってやさぐれた感じになっちゃったけど……いや、どうしようかしら)
(てか、あいつ太陽作れるくらいすごいの……? ますます、双子に嫌味言ってたの問題になってた気が)
綾乃の両腕が震えていた。
封霊石の中で半人半魔を一撃で倒し、数百人から霊力を集めた教祖を、逆に信者を操りノックアウト。
さらに、今度は、離れた場所から天候そのものを変えている。
そして、何よりもそんな化け物と知り合いだった双子に、ずっと嫌味を言っていたこと。
特にこれが問題だと思っていた。
「ねぇ。紅」
「は? なによ」
「……アンタ達って、結構頑張ってるのね。尊敬するわ」
「きも」
今更、媚を売るように紅を褒めたが、ものすごい嫌な顔でキモいと言われた。
そんな彼女達を太陽は明るく照らしていた。
◾️
大雨の中、黎明と罔象大神は向かい合っていた。
道路はすでに冠水し、雨粒が水面を激しく叩いている。周囲にある建物の一階へ水が流れ込み、停められていた車も僅かに浮き始めていた。
罔象大神は、人間と同じほどの大きさまで姿を縮めている。そして、透明な体の中には、何人もの泣いている顔が浮かんでいた。
男、女、老人、子供。顔は水の中から現れ、口を大きく開けながら再び沈んでいく。
その透明な頭部が黎明へ向く。直後、体の中に浮かんでいた顔が一斉に口を開いた。
『■■■■■■■■――ッ!!』
幾人もの悲鳴を重ねたような咆哮が、雨の中へ響く。罔象大神の周囲で、水が大きく波打った。
「うるさっ。なんか怒ってる?」
黎明の背中から、苦しそうな声が聞こえた。
「れ、黎明さんが、清泪村のオロチを倒したからだ……」
「え、俺?」
黎明は教祖を背負っていた。
教祖の長い腕は黎明の肩から前へ回され、力なく垂れている。落ちないよう、破れた法衣を縄の代わりにして体へ巻きつけていた。
教祖の体は黎明より遥かに大きい。普通の人間が背負えば、その場に潰れてしまうだろう。
しかし、黎明は重さを感じている様子もなく、水面の上に立っている。
「……オロチって、あのドラゴンだよね」
「あれは罔象大神から分かれた水の依代なのです。そこへ人間が術などを施し、あのオロチとなりました」
「じゃあ、子供みたいなもの?」
「そ、そうですね。そうとも言えるかもしれません」
『■■■■――ッ! ■■■■■■■■――ッ!!』
罔象大神が両腕を広げる。すると、さらに雨が強くなった。その様子を見て、黎明は霊力を高める。
「フレアボムで雨雲を吹き飛ばすのは無理だったみたいだし。他に手を考えないと……雲は何度でも出てくるね」
「は、はい。このままだと全部流されるかと」
「他の方法を試すか」
気づけば、黎明に逆らってはいけないと教祖は思っていた。だから、腰の低い姿勢で黎明をサポートし続ける。
黎明は両手を空へ向ける。背負われている教祖の体が、僅かに浮いた。
それまでとは比較にならない量の霊力が放出されたためだ。
大気が震える。上空へ集まった霊力が炎へ変わり、巨大な球体を作り始めた。
一気の膨張し、その大きさは三十メートルを越した。
炎が膨張するたび、地上へ落ちてくる雨粒が蒸発する。黒雲も内側から赤く染まり、やがて巨大な炎の球体が雲を押し退けて姿を現した。
「ば、馬鹿な……」
黎明の背中で、教祖が呟く。
「
二つ目の太陽が、京都の空へ浮かんだ。そこから放たれる光と熱が、周囲の雨雲を焼き払う。
罔象大神の霊力が、新しい雲を作ろうとする。しかし、形を保つことさえできない。
水が集まった直後に蒸発し、黒雲へ変わる前に消えていく。わずか数秒後には、一滴も降らなくなる。
『■■■■――ッ!!』
罔象大神が空へ腕を伸ばした。
炎の球体へ向かって、何度も手を握る。それに合わせて周囲の水分が空へ集まるものの、擬似太陽へ触れる前に蒸発した。
「これなら、作ったそばから消えるね」
「雨を、止めた……」
「結構簡単だった」
「簡単なんですか!?! 罔象大神の御技! 天候そのものへ干渉する神の力を、力任せに抑え込むなど……す、すごいですね。流石です兄貴」
「兄貴って言わないでちょっときもい」
「あ、はい」
教祖は空に浮かぶ太陽を見続けた。あれほどの術を使いながら、黎明は教祖を背負ったまま平然と立っている。
霊力を使い果たした様子もない。これに逆らえば、簡単に命がなくなるのは理解できた。
『■■■■■■■■■■■■――ッ!!』
罔象大神の咆哮がさらに大きくなる。
体に浮かんでいた顔が口を開き、空へ向かって叫び続けていた。次の瞬間、周囲の水が動き始める。
雨が止まったことで流れが弱くなっていたはずの水が、罔象大神へ向かって集まり始めた。
道路を覆っていた水、建物へ入り込んだ水、山を流れていた濁流、川から溢れた水。
あらゆる水が動き、さらに、地面の下から轟音が響いた。
「今度は何をするつもり?」
「わ、分かりません……」
「分からないの?」
「た、ただ、罔象大神は、水を取り込むことで霊力を増幅させます。なので、自然や人間社会、あらゆる場所から水分を集めているのかと」
次の瞬間、道路に亀裂が走った。地下水が引き上げられ、何本もの水柱となって地面を突き破る。マンホールの蓋が飛び、水道管も内側から破裂していく。
この影響で京都の広い範囲で、蛇口から水が消えた。
「人間社会から水を……まさか、水道の水とかも取れるの?」
「いけます。ある程度、水で繋がるのが必要ですが。おそらく、先ほどの雨、地面に落ちた水などが連なり、京都の水道とかに繋がった可能性はあるかと」
「無茶苦茶じゃん」
「いや、あなたの方が」
教祖はツッコミかけた。しかし、余計なことは言うまいと黙った。
罔象大神へ集まった水が、いくつもの大蛇へ変わった。巨大な頭が建物より高い位置まで持ち上がる。
「先に取り巻きを倒すか」
そう言って、黎明はフレアボムを何個も作り出しそれぞれを大蛇へと激突させて、一瞬で水ごと蒸発させる。
「な、なんて熱力」
教祖が恐怖の顔に染まるが、罔象大神も驚愕の顔をしていた。あれほどの術を使う人間が存在するのかと、理性ではなく、本能で脅威を悟ったのだろう。
このままでは、勝てないと神は悟ったのだ。だからこそ、何かを探すように辺りを見渡した。
そして、どこかに視線を向ける。それは目の前の黎明とは違う方向に向いていた。
「どこ見てるの」
「まさか……海の方を見てるのかもです」
教祖の声が震えた。何かを確信したような表情に変わる。
「やっぱり、海へ向かうつもりなのかもしれません!」
「海に入ったら、どうなる?」
「分かりません。だが、罔象大神が水を霊力へ変えられるのなら……海には、限界などない霊力があると言うことになるかと」
「じゃあ、その前に倒した方がよさそうだね」
黎明が一歩踏み出す。同時に、罔象大神が片腕を振り下ろした。
その動きに合わせ、あらゆる箇所から集めた水が動き出す。
『■■■■■■■■――ッ!!』
一瞬で、数十メートルまで膨れ上がった大津波が、教祖を背負った黎明へ向かって倒れ始めた。あらゆる箇所から集めた水の圧力は、想像以上であり、一瞬で一つの街を滅ぼすほどの威力がある。
「うわぁあああああああ!!! つ、津波が!? 兄貴!!」
「兄貴って言わないで」
目の前に迫る津波、それを見て、黎明は霊力を高めた。
「
──津波の水が全て凍った。
【9月12日】
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書籍といえば、やはりイラストですね。
なんと、見本誌が届いたので載せますね。是非見てください。
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そして、明日も11時更新!! お楽しみに!