【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
罔象大神は川を下り、そのまま海へ流れ込んだ。
水となった体は海水へ溶け、気配が一気に広がっていく。黎明も遅れて海岸へ到着した。背中には、まだ教祖を乗せている。
目の前には、どこまでも続く海があった。罔象大神の姿は見えない。
しかし、海全体から同じ霊力を感じる。
「MPは感じるけど、広すぎるな。海と一体化でもした感じかな?」
「罔象大神は、触れた水へ自らの霊力を移すことができます。海へ入ったことで、一気に支配する範囲を広げているのかと」
「ふーん。あらゆる場所からMPは感じるのはそういうわけね。これって、普通に攻撃しても倒せなそうだな」
黎明が海面へ近づく。その瞬間、沖の海が持ち上がった。巨大な波が壁となり、海岸へ向かって押し寄せる。
『■■■■■■■■――ッ!!』
罔象大神の咆哮が、波の中から響いた。黎明は片手を前へ向け、炎を放つ。迫っていた波が一瞬で蒸発した。大量の水蒸気が周囲へ広がり、海岸を白く覆う。
しかし、その奥から二つ目の波が現れた。
一つ目よりも高い。黎明は教祖を背負ったまま空へ跳び、頭上を越えていく波を避ける。
「……へぇ、いいじゃん」
だが、その避けた黎明に海面から何十本もの水の槍が伸びた。正面、左右、足元。さらに黎明の背後へ回り込むように、水の槍が空中で軌道を変える。
「ぜ、全部の水が罔象大神の目であり、手です!」
「それは便利だね」
水の槍が一斉に黎明へ向かう。黎明は空中で体を捻り、次々と避けた。教祖の顔の横を水の槍が通過する。
「ひっ!」
「静かに」
「す、すいません」
黎明の周囲へ、十を超える炎玉が作られた。その全てが海へ向かって放たれる。そこから連続した爆発が海面で起こり、海水が蒸発。だが、負けんと言わんばかりに何本もの水柱が空へ吹き上がる。
それも黎明により蒸発させられる。だが、罔象大神の気配は消えない。いくら攻撃をしても響いてないようだった。
「あれ、全然効いてないね。当たってるはずなんだけど。まぁ、水さえあれば無限に再生もできるんだっけ?」
「は、はい」
「水をMPに変えられて、水があれば再生可能、水に紛れることも可能か。恐らくだけど、どこかに核みたいなのはあると思うけど。それ当てれば会心の一撃で勝てそうだけど、紛れられてわからないなぁ」
『■■■■■■■■■■――ッ!!』
海のあらゆる場所から咆哮が重なる。それと同時に海の水があらゆる箇所から天に昇る。
それらが腕や大蛇のような形になって黎明の方に向かう。その全てを黎明は炎で吹き飛ばすが、キリがないと黎明は気づいていた。
(海全部蒸発、とかすればいけなくないけど。そんなことしたら、魚食べられなくなるし。人間が滅びる可能性もあるな)
(うーん、一瞬やろうか迷ったけど。やっぱりやめよう)
黎明は集めかけていた炎を消した。海を全て蒸発させることは、できるかもしれない。
しかし、罔象大神を倒す前に人間まで被害を受けてしまう。それでは意味がない。
「海を消さずに、モンスターだけ倒すしかないか」
「それって無理じゃ……安倍晴明はだからこそ、封印をすることにしたのです」
「なるほどね」
黎明は海面へ降り立った。足元の水からも、罔象大神の霊力を感じる。その水へ、試しに自分の霊力を流し込んだ。直後、海面が激しく揺れる。
黎明の霊力を押し出そうとするように、周囲の水が一斉に離れた。
「お?」
「どうしました?」
「この水、俺が操ろうとしたら抵抗した。なるほど、すでに相手が支配権を置いてる感じか」
「そ、そうですね。支配権を置いて、自由自在に操る感じかと」
「なるほどね」
罔象大神は、海へ霊力を流し込み、水を自らの命令で動かしている。そして、支配した水を霊力に変えたり、体を構築したりすることが可能なのだ。
その支配が広がりすぎているため、海全体から罔象大神の気配がしていた。
「……さっき見たし、支配と操作はいけるか?」
──この海、全ての箇所から支配権を強奪する。
そんな発想が黎明の頭の中に浮かんだ。発想の元は教祖が使っていた金色の糸である。
あれと同じで、あらゆる対象を意のままに操る。一度見て、真似もした。ならば、その規模を広げるだけなのである、その程度は、黎明からしたら簡単である。無論、一般的な陰陽師からしたら、理解不能の所業である。
(これ以上時間をかけるのも面倒だし、かと言って海を全て消すのも不可能。なら、これしかないかな)
水があらゆる形を持って、襲いくる。全てを炎で吹き飛ばしつつ、黎明は海面に触れた。
「
黎明の霊力が一斉に広がっていく。ばちばちと雷が海面を走るような現象が起こり始める。
しかし、罔象大神の霊力と黎明の霊力が、海中で衝突した。
「そりゃ、そっちが先約か」
『■■■■■■■■――ッ!!』
「ただ、とりあえず太平洋くらいまではもらうよ」
互いの支配権の奪い合いが、海に大きな波を起こす。神も支配を奪われまいと、何百本もの腕が海面から現れ、黎明へ向かって伸ばした。
「支配を奪われると分かったようです!」
「嫌がるよね」
だが、水の腕が黎明へ届く直前、その動きが止まった。罔象大神の命令と、黎明の命令。二つの異なる力が、一つの水へ同時に流れ込んでいる。
支配権の奪い合い。それが衝突したことにより、矛盾が生まれたのだ。両者共に自身の命令を送るが、互いに違うため、水もそこで止まるしかない。
「俺の方がMP多いし、いけると思うんだよね」
黎明が、さらに霊力を流した。止まっていた水の腕が震える。支配権の奪い合い、互いの命令、これはより強い方の命令が優先される。
結果、ゆっくりと罔象大神の気配が濃い海へ向きを変えた。
「ここ付近は、もらった」
水の腕が、海面へ拳を振り下ろす。巨大な水柱が上がり、そこに潜んでいた罔象大神の霊力が砕けた。
『■■■■■■■■■■――ッ!!』
海全体から咆哮が上がった。だが、罔象大神はすぐに別の海水を支配し、黎明から距離を取ろうとする。
「多少取ったとしても、他の水があるわけね。それに水はあっちの十八番、少し骨が折れそう」
「罔象大神の支配は、すでに広い海域へ伸びています。近くの水を奪っただけでは、別の場所へ逃げられます」
「まぁ、俺のMPと魔法なら、初見でも太平洋くらいはいけそうな気がするんだよね」
黎明は目を閉じた。既に彼は水を操る技術は初見ではない。一度やったのだから、二度目、すでに彼は水を操る心理を掴んでいた。
「大体、今のでコツは掴んだ」
罔象大神は、すでに海へ支配のため一度霊力を広げている。だが、それは一瞬で全てを支配下に置いているわけではなく、少しずつ広げていく感じだ。
ただ、その速さは異様。このままいけば、半日で太平洋を我が物としていただろう。
だが、黎明は更にその上をいく。
黎明の脅威的なセンスは一瞬の目視をするだけで、相手の術や御技を模倣を可能とする。さらに、凄まじいのは、そこから、模倣元すら安易に超えてしまえるほどであるということ。
既に神格との水の支配権の奪い合いを制している。
無限に水を吸い込むスポンジのように、黎明は技術を吸収すかの如く。あっさりと、彼は海の支配権を手に入れることができる。
「太平洋は、もらった」
水面が激しく揺れ続ける。黎明は面倒なので、いっそのこと太平洋くらいまで支配しちゃえばいいだろ支配権を拡大。しかし、神の支配権もそこに含まれており、小さな小競り合いが生まれていた。
だが、次第に、波が一斉に止まった。
『■■■■■■■■――ッ!!』
すると、罔象大神が抵抗し、海面から姿を現す。どうやら、僅かな水を持ち、黎明の支配権から逃れていたようだ。
だが、それも徐々に黎明の色に染まっていく。
「ま、まさか、罔象大神から全ての水を……奪い去ったんですかッ」
『■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!』
罔象大神が新しい大蛇を作ろうとする。すると海水が一度は持ち上がったかと思われた。
だが、形になる前に崩れ、そのまま海へ戻った。
『■■■■■■■■■■――ッ!!』
罔象大神の怒りの咆哮が響き渡る。しかし、その声も次第に聞こえなくなってきた。
それどころか、罔象大神は自らの姿を表し、水面の上で、ただ佇んでいる。まるで無防備の姿、もはや活動を停止したロボットのようだ。
「な、なぜ動かないんですか?」
「あれを俺が支配してるからでしょ。水からMPを得て、水で体を再生できるならほぼ水じゃん。だから、ここあたり、全てを操るついでに、あれも操ったってわけでしょ」
「……」
──簡単にいうが、それができたら苦労はしないだろ。
教祖は思わず、そんな発想を持った。水を全て操り、水の神すらも操れる。
いとも簡単に。自身も神を復活させて、操作しようとしていた。しかし、いざ目の当たりにしてそれは不可能であると悟った。
だが、その不可能が可能になる瞬間を見てしまった。
「──そのまま自害しろ」
黎明がそういうと罔象大神は自らの心臓に手を突き刺し、そのままゆっくりと水に溶けていった。
すると、罔象大神から溢れた霊力が黎明達の元へと還元される、霊力の器が広がっているのだ。
「結構、経験値が手に入ったな。さて、帰るか」
教祖はこれには絶対に逆らってはいけないと、完全に屈服した。だが、何かを思い出したかのように黎明は教祖を海岸に背中から落とす。ずっと、背負っていたが、もう戦闘は終わったので当然とも言える。
「そう言えば、あと一匹倒してなかった」
黎明はそう言って、教祖を見る。その時、教祖は前身から汗が飛び出る感覚があった。
次は、お前だ。
そう言われた気がした。
「ま、待って、く、ください。わ、ワタシは、さ、逆らいません」
「あ、そう」
「悪事もしません!」
「ほほう? もう人に迷惑をかけないと?」
「そ、そうです、それどころから、人のために尽くします!!」
「あー、なるほど。それならねぇ」
「そ、そうです。なので、み、見逃してくれませんか?」
頼むから、見逃してくれ。そう懇願する教祖。もう悪さもしないし、人に迷惑もかけない、これからは罪を償うと誓った。
なるほど、それならばと黎明は考えるそぶりをする。
「確かに、もう悪さもしないし人に尽くすのか」
「は、はい」
「それに、さっきも色々モンスターについて教えてくれたしね」
「そ、そうですよ!」
──黎明は少しだけ遠くを見た。
「──でも、お前、人殺したろ?」
黎明はスッと、無表情で教祖を見た。
「勘違いするなよ。お前は人を殺した。これでそれがチャラになったわけじゃない。マイナスが元に戻っただけ。いや、元に戻ってもない。マイナスが少し小さくなっただけだろ」
人を殺した時点で、それは大罪。それを彼は理解している。自分の境遇と澪の境遇を、どこか重ねているところもあったのかもしれない。
どこか、黎明は許せていないかもしれない。だが……
「それに、さっきあのモンスター倒した時、経験値がそっちに分配されちゃったんだよね」
「え、え……?」
「あれがなければねー。もうちょっと考えてあげても良かったんだけど。まぁ、どっちにしろ、悪いモンスターだしね。だから、経験値にするしかない」
──こいつ、あの神よりも話が通じない。
教祖はそう思った。そして、その思考を最後に上半身が、吹き飛んだ。辺り一面に教祖の霊力が舞った。
「よし、経験値だ。さてと、京都の方が雨すごかったし、復興の手伝いとか行こうかな」
そう言って、黎明は走り出した。空には既に黎明が作った太陽は消えており、本物の太陽が辺りを照らしていた。
【9月12日】
書籍版『救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ』が、9月12日に発売されます!
もう今週の土曜日に迫ってますね。ぜひ、お手に取って頂けると!
挿絵もすごいのですが、手に取ったり、実際見てみるとかなり臨場感もあると思います。ぜひ!!
【9月12日発売!】
下に表紙とAmazonの予約ページへのリンクを載せておきますので、気になった方はぜひチェックしてみてください!
【Amazon予約ページ】
https://www.amazon.co.jp/dp/4815642303
そして、明日も11時更新!! お楽しみに!