【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
京都で起きた大洪水から、二週間が経過した。
光の明日は壊滅。教祖を始めとした怪異も消え、生き残った信者達も無事に人に戻り普通の生活に戻りつつあった。
そんな中、陰陽庁は教団の情報を集めつつ、京都で起きた災害の隠蔽と復旧を進めている。
そして、表向きの立役者となっている紅と蓮も、二週間は京都に残っていた。二人は、行方不明者の捜索、倒壊した建物からの救助、または廃車などの撤去なども行なっていた。
二週間経ち、京都の復旧もかなり進んでいた。
そこでようやく、紅と蓮は陰陽庁へ呼ばれた。
◆◆◆
陰陽庁長官室。
大きな机の向こうに、陰陽庁長官が座っている。紅と蓮は、その正面に並んでいた。
「まず、京都での働きに礼を言わせてほしい」
長官は二人へ頭を下げた。
「光の明日の壊滅。信者の救出。洪水時に現れた怪異への対処。君達がいなければ、被害は現在の比ではなかった」
「ワタシ達だけの力ではないですよ」
紅が答える。それもそのはず、彼女達が教団に到着した時に、既に壊滅状態だったからだ。具体的には黎明が全部終わらせていたのだが。
また、復旧については二人だけではなく、警察や消防など色んな人間の協力があった。
「警察も消防も動いていた。陰陽師も何人か来ていた。そいつらのおかげでもあるだろう」
「だが、一般人の救助をしながら、町へ出現した怪異まで倒せたのは君達だけだ」
長官の机には、京都の被害をまとめた資料が置かれている。洪水による負傷者。破損した建物。教団の本拠地の資料。
回収された封霊石。そして、紅と蓮が倒した怪異についての報告書。長官は、その中の一枚を手に取った。
「以前、君達が怪異を倒せるようになったと聞いた時、私は信じられなかった。どうせ、安倍家復興のために、大きな噂を流したとか思ってたんだろう」
長官は報告書へ目を落とす。
「人間は怪異を倒せない。それが千年以上続いてきた陰陽師の常識だ。一度や二度の報告だけで覆せるものではなかった」
美術館での異変解決。それだけでなく、あらゆる場所で二人が怪異を倒したという話が、聞こえていた。
様々な陰陽師が目撃したと、語り始めていた。それでも、長官はどこかで疑っていた。
「だが、京都では複数の陰陽師が君達の戦いを目撃した。警察官や消防隊員の証言もある。映像も残っている」
長官が資料を机へ戻す。
「私は、ようやく認めなければならない。安倍紅、安倍蓮。君達は本当に、怪異を倒せると」
「随分、時間が掛かったな。こっちは随分前から倒せたんだけどな」
長官は二人を見る。
「それについては疑ってはすまなかった。だが、それほどまでに君達がしていることは歴史を超えることであると理解して欲しい。そう簡単に信じれるほどではないんだ。だが、ようやく、君達が以前提出した要求についても、検討ができた」
机の上に、新しい資料が置かれた。表紙には、冒険者ギルド設立計画と記されている。
「支援してくれるのか?」
「そのつもりだ。怪異の調査情報。活動拠点。必要な霊具と資金。陰陽庁が保有する範囲で提供する」
「国家公認の組織として認めるってことか?」
「将来的には、そうしたいと考えている」
蓮が机の資料を取る。以前、二人が冒険者ギルドへの支援を求めた時、陰陽庁は結論を出さなかった。
怪異を倒せるという前提そのものを疑っていたからだ。だが、状況は変わった。目の前には怪異を倒せる存在がおり、革命が起きようとしている。
陰陽師の数は減り続け、これまでの方法だけでは怪異を抑えられなくなっている。それを彼もわかっていた。
だからこそ、その革命に彼も賭けようと結論をつけた。
「だが、現段階では、公表しない」
「それは、一般人にか?」
「それもあるが、一般社会だけではない。陰陽師に対してもだ」
「秘密裏に進めると?」
「ああ。陰陽庁内部に少人数の準備室を作る。表向きは京都の怪異被害を調査する部署とし、その中で冒険者ギルドの制度と拠点を整える」
「どうして、そこまで隠す必要がある」
「土御門家があるからだ」
そう言われると、確かにと、二人は納得の表情になった。
「土御門家は、現在の陰陽師社会で最も大きな力を持っている。陰陽庁の中にも、彼らと関係する者は多い」
「アンタもそうだろ」
蓮が言った。その言葉を長官は否定しない。
「私も、これまで土御門家へ何度も協力を求めてきた。彼らが各地の封印を支えているのも事実だ。それに無視できないほどの力、いや、権力と言っていいだろう」
安倍家が壊滅状態になった後、土御門家が京都の封印と陰陽師社会の中心を引き継いだ。だからこそ、現在では彼らに従う陰陽師が多いし、派閥としてもかなり大きい。
陰陽師の世界で、彼らが大きな権力を有しているのは間違いはない。
「準備が整う前に知られれば、計画を止めようとするだろう。予算、人員、施設。陰陽庁内部から妨害する方法はいくらでもある」
「確かにそうね……綾乃にも会ったけど、やっぱり仲良くできない気がしたし」
紅は、教団本部で見た綾乃を思い出していた。言動がいつもと違って、嫌味が少なかったり、急にほめてきたりキモかった。
「そう言えば、彼女も光の明日の本部に向かったんだったね」
「はい。来てましたね。やっぱり仲良くは無理かと」
「安倍家と土御門は相入れないだろう。だからこそ、組織として動ける状態を先に作る。その後、怪異を倒した実績と共に大々的に公表する」
そう語る長官・冴島の瞳は一才の偽りがなかった。陰陽庁が冒険者ギルドの設立へ向け、実際に動こうとしている。
「支援の規模は、まだ限定的になる。いきなり、陰陽師の分、全てをそちらに注ぐというのは不可能だからな」
「確かに、陰陽師として活動をする一般陰陽師もいるかもしれないしね」
長官が続ける。
「だが、結果を出せば増やせる。君達が本当に怪異を倒し続けられるのであれば、陰陽庁の役割そのものを変えることになるだろう」
「そうだな。それにこっちに来るっていう陰陽師だって増えるだろうしな」
蓮は自信に溢れていた。冴島は蓮を見て、彼は姉よりも強いと直感で感じていた。
(安倍蓮、以前はここまで自信にあふれている雰囲気ではなかった。ただ、攻撃的な性格の子供……そんな印象だったが)
(彼は、彼女もだが、一体全体、何がここまで二人を変えたというのだ)
長官が何か言おうとした時、机の電話が鳴った。続けて、扉が強く叩かれる。
「長官、失礼します!」
返事を待たず、秘書が部屋へ入ってきた。その顔はひどく動揺しており、汗がひたいからも滲んでいる。
「どうした」
「京都府内で、新たな異常事案が発生しました」
「怪異か?」
「まだ、確認できていません。ただ――」
秘書は手にしていた端末を見た。
「本日午前から、京都市内の小学校と中学校で、児童と生徒が相次いで意識を失っています」
「人数は……」
「現在確認できているだけで、二百九十三名。今も増え続けています」
「原因は?」
「不明です。外傷も感染症の兆候もありません。全員、眠っているような状態で、呼びかけにも痛みにも反応しないとのことです」
紅と蓮は、目つきを鋭くした。
「搬送された児童の一部は、昏睡状態のなのですが……」
少し早口になりながらも職員は告げた。
「──全員、額に謎の紋様が浮かんでいるそうです」
【9月12日】
書籍版『救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ』が、9月12日に発売されます!
もう今週の土曜日に迫ってますね。ぜひ、お手に取って頂けると!
挿絵もすごいのですが、手に取ったり、実際見てみるとかなり臨場感もあると思います。ぜひ!!
【9月12日発売!】
下に表紙とAmazonの予約ページへのリンクを載せておきますので、気になった方はぜひチェックしてみてください!
【Amazon予約ページ】
https://www.amazon.co.jp/dp/4815642303
そして、明日も11時更新!! お楽しみに!