【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第83話 海外

 アメリカ合衆国、マサチューセッツ州。

 

 ボストン郊外に建つ大聖堂教会。

 

 一般の信徒が祈りを捧げる礼拝堂の地下には、エクソシスト以外の立ち入りを禁じられた区画が存在していた。

 

 悪魔を封じた聖遺物。歴代のエクソシストが残した記録。世界各国で発生した、表の社会へ出すことのできない事件の資料。

 

 その最奥にある司教室へ、一人の女が呼び出されていた。

 

 

「エレノア・アッシュダウン、参りました」

「入りなさい」

 

 

 扉を開ける。エレノアは白と紺を基調としたロングコートを身につけていた。その内側には銀色の軽装鎧を着込んでいる。

 

 腰には一本の剣。しかし、鞘だけで中身が存在しないように見えた。

 

 刀身には認識を逸らす術がかけられている。一般人から見れば、エレノアが剣を持っていることすら分からない。

 

 部屋の奥には、灰色の短髪をした男が座っていた。

 

 

 

 大聖堂教会北米教区司教、マティアス・コールドウェル。

 

 

 

 左目には古い傷があり、右手には黒い手袋をしている。机へ立てかけられた杖の内部には、複数の封印具が仕込まれていた。

 

 

「掛けなさい、エレノア」

「失礼します」

 

 

 エレノアが椅子へ座る。机の上には、何枚もの写真と報告書が並んでいた。

 

 

 

 倒壊した美術館。

 海に囲まれた小さな島。

 洪水に襲われた京都。

 黒い雨雲の中へ浮かぶ、巨大な炎の球体。

 海面が大きく変動した日本海。

 

 

 

「日本で起きている異常について、君はどこまで知っているかね?」

「一般へ公開されている範囲だけです」

「聞かせなさい」

「京都で、天気予報になかった豪雨が発生。広い範囲で洪水と土砂災害が起きました」

 

 

 エレノアは机に置かれた写真を見る。

 

 

「豪雨の最中、京都上空へ太陽に似た発光体が出現。それとほぼ同時刻に、日本海でも異常な海面変動が観測されています」

「アメリカの観測機関も捉えている」

「日本政府は、異常気象と海底活動によるものだと発表しています」

「君は、その発表を信じているのか?」

「いいえ」

 

 

 エレノアは即答した。

 

 

「複数の異常が、同じ時間帯に集中しています。通常の自然現象とは考えられません」

「その通り」

 

 

 マティアスは一冊の資料を差し出した。表紙には、日本語で陰陽庁機密資料と記されている。

 

 

「日本から正式に提供された資料ですか?」

「一部はね。それ以外の入手経路については答えられない」

 

 

 エレノアは資料を開く。そこに記されていたのは、安倍家の末裔についての情報だった。

 

 

 安倍紅、安倍蓮、二人の活躍。おもに、怪異を倒せる事実について書かれていた。

 

 

「……再封印ではないのですか?」

「日本側の報告では、討伐となっている」

「それは……あり得ません」

 

 

 エレノアは資料から顔を上げた。

 

 

「肉体を破壊したとしても、悪魔……日本で言えば、怪異は再生します。人間に倒し切ることは難しく、封印する以外に対処法はありません」

「我々も、そう信じてきた」

「報告の誤りでは?」

「同じ報告が一件だけなら、その可能性も考えただろう」

 

 

 マティアスは資料をさらに増やす。そこには先ほどと同様に、二人の日本人について記録されている。

 

 

 安倍紅(あべべに)。

 安倍蓮(あべれん)。

 

 

「安倍……安倍晴明。日本の陰陽術を作りあげたとされる人物でしたか」

「二人は、その直系の子孫らしいが、どうにもその二人が怪異を倒せると広まっているらしい」

「確か……安倍家は四年ほど前にとある悪魔の封印が解けて、壊滅したのでは? そこから急成長をしたと?」

 

 

 四年前の事件で、安倍家は壊滅。現在、直系で生き残っているのは双子だけ。この二人は人間としては高い霊力を持つ。

 

 術の扱いにも優れている。それでも、怪異を倒すことはできなかった。

 

 

 

「だが、数か月前から状況が変わったようだ」

 

 

 他の陰陽師の意見。美術館。京都での豪雨。そこから、二人が怪異を倒したという報告が、複数の陰陽師から提出されている。

 

 

 

「京都では、複数怪異を討伐。それについて警察官、消防隊員、一般人にも目撃者がいる」

「……本当に、消滅させたのですか? やはり、信じられないですが」

「私も疑問だ」

 

 

 エレノアは報告書を読み直す。

 

 

 

「二人は、突然この力を得たのですか」

「そうとしか考えられない。真実であれば」

「何か、違法な実験とかをしているとかの可能性は?」

「したところで、悪魔に勝てるわけがない。法から逸脱する程度で悪魔を倒せるなら我々も苦労はしない」

「確かに、そうですね」

「……そして、二人は新しい組織を作ろうとしている」

「組織ですか?」

「冒険者ギルド、と名乗っている」

 

 

 エレノアの動きが止まった。

 

 

 

「……冒険者? 日本後の翻訳ミスか何かですか? 陰陽師と大分毛色が違いますが」

「翻訳の間違いではない」

「何を目的とする組織なのですか」

「悪魔を封印するのではなく、発見して倒す。それだけのようだ」

「……なぜ、冒険者という名前にしたのですか? 神々の補助を受けやすくするために、陰陽師という役職を作り、言霊や狩衣を身につけたと聞いたのですが。我々とて、エクソシストという役職を作り、神への補助を高めたのですが」

「それは私に知る由もない」

 

 

 

 そう語り、司祭は再び資料に目を通した。しかし、どこか納得できていないのか、何度も二人の情報を読み取る。

 

 

「司教はどう考えているのですか」

「判断できない。だから、君を呼んだ」

 

 

 マティアスは一通の封筒を机へ置いた。大聖堂教会の印章で封じられている。

 

 

「日本へ行ってもらいたい」

「共同調査ですか」

「表向きは、大聖堂教会による陰陽庁の補助。そして、情報交換となる」

 

 

 

 エレノアは封筒を手に取る。任務内容が事細かに記された書物を彼女は頭に叩き込む。

 

 

 

「任務内容を確認させてください。一つ目。安倍紅と安倍蓮が、本当に怪異を倒せるのか確かめる。二つ目。日本で連続する怪奇現象と、双子の間にどのような関係があるのか調査する」

「その通り。ああ。出発は三日後だ」

「承知しました」

 

 

 

 エレノアは封筒を持って立ち上がった。

 

 

「一つ、質問してもよろしいでしょうか」

「何かね」

「なぜ、私を選んだのですか。他にも適任がいるかと思うのですが」

「君は北米でも最高水準のエクソシストだ。アーサー王の血統を持ち、日本側も君を無視できない」

「それだけでしょうか?」

 

 

 

 マティアスは、少しだけ沈黙した。その後、ゆっくりと口をひらく。

 

 

「もし、悪魔を倒せるのであれば、その技術を持ち帰りたい。安倍晴明、英雄の子孫である二人が悪魔を倒せる領域に至った。ならば……アーサー王の直系である君も、その可能性があるかもと思っただけだ」

「……そうでしたか。なるほど、理解しました」

 

 

 

 

 そう言って、エレノアは一礼をしその場をさっていった。

 

 

 そして、怪異を倒せる双子、冒険者ギルドという新たな組織。それらが人類の希望なのか、ただのペテンなのか。

 

 

 判断するには、一つの視点だけでは足りなかった。

 

 

 三日後。エレノアは、日本へ向かう。しかし、その頃、日本では眠りから醒めない子供が大量に発生するのだが、今は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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