【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

106 / 110
第84話 大洪水の後始末

 京都での洪水から、何日か経った。

 

 罔象大神は倒され、雨は止んだ。だが、町には大量の泥が残り、道路には壊れた車や木が流れ着いている。家の中にも水が入り、家具や電化製品が使えなくなっていた。

 

 

 ゲームではない現実は、ただ怪異を倒して終わりではない。

 

 

「お兄ちゃん! そっち持ち上げられるか!」

「これ?」

 

 

 黎明は目の前にある瓦礫を指さした。崩れた建物の屋根が転がっている。

 

 木材や瓦が重なり、その下には折れた柱もある。作業員の人達が何人かで動かそうとしたが、重機が入れる場所ではない。

 

 

 

「全部は無理だ! 手前の柱だけでいい!」

「あ、そうなの。全部いけそうだけど」

「は?」

 

 

 瓦礫の下へ両手を入れ、そのまま持ち上げた。木材と瓦が擦れ、大きな音を立てる。途中で崩れそうになったので、黎明は霊力を薄く広げて全体を固めた。

 

 

 屋根が一つの塊になって持ち上がる。

 

 

 

「これ、どこに置けばいい?」

「ちょ、ちょっと待て!」

「そこの空き地でいいの?」

「いや、待てって! 下に人がいないか確認するから!」

 

 

 

 黎明は瓦礫を持ち上げたまま、その場で待った。作業員達が、黎明にドン引きしながら、人がいないかを確認。代わりに、潰れた自転車と冷蔵庫が見つかった。

 

 

「大丈夫です!」

「じゃあ、運ぶね」

 

 

 瓦礫を頭の上へ持ち上げ、指定された空き地まで歩く。周囲にいた警察官や消防隊員が、一斉に道を開けた。

 

 瓦礫を置くと、さっきの作業員が黎明に駆け寄った。

 

 

 

「君、何者なんだ? 力持ちのボランティアとは聞いていたが」

「勇者ですね」

「……なんじゃそりゃ?」

 

 

 作業員は、よく分からないという顔をした。

 

 

 

「建設会社の人じゃないのか?」

「違います」

「随分と若い顔だな。まだ高校生か?」

「十六歳です」

「卒業したら、うちへ来ないか?」

「うち?」

「建設会社だよ。今から資格を取れば、絶対に食いっぱぐれないぞ。いや、その力なら資格がなくても仕事には困らないと思うが」

「転職の誘い?」

「転職っていうか、就職だな」

 

 

 

 

 黎明は少し考えた。

 

 

 

(勇者から建築士。うむ、どうなんだろうか。今までやったことない職業もありだけど。モンスター討伐メインではないだろうし)

 

 

 

「建物も作れるようになる?」

「最初から作らせる会社はないけど、覚えればな」

「面白そう」

「だろ? 給料もちゃんと出す。うちは若い奴が少ないからな」

 

 

 

 作業員はポケットから名刺を出し、黎明に渡した。それをポケットに入れて、黎明はまだ頭の中で思考を巡らせる。

 

 

 

(いっそのこと、建築を学んで俺が冒険者ギルドを作っちゃうのはありか? いやでも、経験値が欲しい。モンスターから離れるとなぁ。でも、こういう学びってある意味で成長では?)

 

 

 

 

「高校を卒業したら連絡してくれ」

「あ、うん」

「おい! 勝手に勧誘するな!」

 

 

 

 

 別の場所にいた作業員が声を上げた。

 

 

 

「その子は、こっちの地区も手伝うことになってるんだぞ!」

「今の話じゃない! 卒業した後の話だ!」

「なら、うちの会社でもいいだろ!」

「お前のところ、給料安いじゃねぇか!」

「最近上がったわ!」

 

 

 

 何人かが集まり、会社の条件について話し始める。彼には違いが分からなかった。

 

 

「それより、次は何を運べばいい?」

 

 

 俺が尋ねると、全員が話を止めた。

 

 

「ああ、そうだった。次は倒れたトラックだ。なんて冗談だ。流石にトラックはな、無理だよな」

 

 

 

 しかし、黎明はあっさりと持ち上げた。

 

 

 

「いけるのかよ……お前、うちの会社に来いよ。時代は転職だぜ」

「うーん、考えておくね」

 

 

 

 そう言って、黎明はトラックを運びながら返答した。

 

 

 

 

◾️

 

 

 

 

 

 その後も、黎明は町のあらゆる場所へ呼ばれた。

 

 倒木を運び、道路を塞いでいた車を動かし、崩れかけた家を霊力で支える。重機が入れない細い道では特に重宝された。人間では何時間もかかる作業が、黎明なら数分で終わるからだ。

 

 

 ただし、復旧作業だけをしていたわけではない。

 

 罔象大神は消滅したが、その霊力から生まれた怪異が町に残っていた。泥の中に潜む魚のような怪異。

 

 

 水没した家へ入り込み、住民を待ち伏せている四本腕の怪異。側溝に溜まった水へ同化し、近づいた人間の足を引き込もうとする怪異もいる。

 黎明は復旧作業をしながら、その気配を見つけるたびに狩っていた。

 

 

「おい、兄ちゃん。瓦礫の下から変な音がするぜ。大丈夫か?」

「あ、それ多分モンスターだね」

「……モンスター? よく分からないが」

「ちょっと離れてて」

 

 

 

 黎明は運んでいたトラックを道路脇へ置いた。瓦礫へ近づくと、濡れた木材の隙間から透明な腕が伸びる。作業員の足首を掴もうとしたが、その前に黎明が手首を掴んだ。

 

 

 

「いた」

 

 

 腕を引っ張る。泥と一緒に、水で作られた怪異が引きずり出された。大きく裂けた口から水を吐き、黎明の顔へ浴びせようとする。

 

 

「な、なんだその魚!?」

 

 

 作業員が叫んだ。しかし、黎明は怪異の頭を掴み、そのまま地面へ叩きつける。その余波で道路が僅かに陥没した。

 

 それと同時に水の体は弾け、怪異の気配が消える。

 

 

 

「よし。これでこの辺にはいないかな」

「……今の、なんだ?」

「ボスモンスターの残党」

「……なんだって?」

「水属性のボスが作ったモンスター」

「全然分からんが、危ないものなんだな?」

「あー、人を殺すので、結構危ない」

「先に言ってくれ! て、てか、坊主何者……」

 

 

 

 作業員達が周囲の水溜まりから距離を取った。同時に黎明の異質さに気づき始める。だが、黎明が悪い人間ではないことはわかっていたため、引き続き黎明と共に復旧に勤しんだ。

 

 流石に黎明がただ者ではないと、多くの作業員がわかっていたがそれ以上に忙しかったため、スルーされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、復旧現場にもう一人応援が来た。

 

 

 

「こんなところにいたのね」

 

 

 赤い髪を左右で結んだ女が、泥に覆われた道路へ降り立つ。赤と白の服は、周囲の作業着や消防服の中ではかなり目立っていた。

 

 

 

「あ、スザク。来たんだ」

「詩に頼まれたのよ。かなり広範囲で戦闘があって、その後始末をね」

「わざわざありがと。新幹線で来たの?」

「そうよ。わざわざね」

 

 

 

 スザクは周囲を見た。町には罔象大神の霊力が僅かに残っている。空気も湿っており、建物の中にはまだ水が溜まっていた。

 

 

 

「随分と派手にやられたものね」

「ボスが雨を降らせて、洪水を起こしたんだよ」

「それで、そのモンスターは?」

「倒したよ」

「知ってるわ。アンタなら倒せるでしょうし」

 

 

 

 スザクは、罔象大神がどのように倒されたのか聞いていない。なので状況についてそこまで知っていないのだ。

 

 だが、詳しく聞こうとはしなかった。黎明なら、どうせ最後には勝つと思っているからだ。

 

 聞いたとて、参考になるわけもなく、だから何も効かないのである。

 

 

 

 

「それで、ワタシは何をすればいいの?」

「お嬢ちゃんもボランティアか?」

 

 

 作業員の一人が声をかける。スザクはお嬢ちゃんと呼ばれたことに少し眉を寄せたが、言い返さなかった。

 

 

「アンタより百回りくらい年上だけど。まぁ、今はいいわ」

「とりあえず、瓦礫とかを一緒に運ぶ感じで」

「……はぁ、こんな仕事。なんでワタシが」

 

 

 

 彼女はため息を吐いた。

 

 

「おいおい、なんか可愛い子が来たぞ」

「ちょっと良いところ見せるか、俺筋トレしてるんだよね」

「仕事ができる男の魅力を見せていくか」

 

 

 スザクは人間に擬態してる。しかし、その外見は可愛らしいものなので、周りから見れば目の保養になるのだろう。

 

 そのスザクが片手を上げる。可愛らしい外見から驚愕の光景が広がる。彼女は片手で車を拾い上げたからだ。軽自動車であったが、冷静に考えればありえない光景。

 

 

 

 

「え、軽自動車持ってるんだけど。片手で」

「どんな筋肉してるんだよ」

「か、かわいい……けど、なんか怖い」

「もう片方の手でミニバン持ってるぞ。どうなってるんだ?」

 

 

 

 スザクはそれを運んで、端に寄せた。その後も、次々とモノを運ぶ、倒木を肩へ担いだまま、別の手で壊れた自動販売機を持ち上げる。

 

 最初は見た目の可愛さで盛り上がっていた作業員達は黙って、その姿を見送った。そんな彼女に一人の作業員が近寄った。

 

 

「なぁ、嬢ちゃん」

「何?」

「仕事、探してないか?」

「探してないわ」

「うちの会社、女性も歓迎してるぞ。今は現場も男女関係ないからな」

「悪いけど、ワタシ普段仕事してるの。これ以上は沢山よ」

「何してるんだ?」

「Vチューバー」

「えぇ……格闘家とかじゃないのか? 女子のプロレスとか」

「してないわ」

 

 

 

 そうは言いつつ、作業員が名刺を二枚持ってくる。

 

 

 

「とにかく、気が変わったら連絡してくれ。二人揃って来てくれるなら、給料は相談する。二人で十人分でも安いくらいだ」

「黎明。アンタ、何を勧誘されてるの?」

「建築系の職業。スザクもどう?」

「行くわけないでしょう。愚か者」

「建物を作れるらしいよ」

「……作る方は少し興味あるけど。でも、クラフト系のゲームはもうやったことあるのよね」

「あ、そうなんだ。じゃ、やめておこうか」

 

 

 二人はその後も町を回った。黎明が瓦礫を運び、その下に隠れていた怪異を倒す。スザクも同じように、怪異を倒したり、ミニバンを片手で運んだり。

 

 夕方になる頃には、二人が担当した地区から大きな瓦礫と水の怪異はほとんど消えていた。

 

 

 

「明日も来てくれるか?」

「俺はいいよ」

「ワタシも、他に用事がなければ来てあげるわ」

 

 

 

 そう答えながら、スザクは道路脇に残っていたトラックを片手で起こした。やれやれと言った表情だが、なんだかんだ協力的な彼女だった。

 

 

 

 その後、驚異的なスピードで作業は進む。わずか三日ほどで全てが撤去された。黎明とスザクは建築界でその名を轟かせたり、しなかったりするらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。