【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
第85話 Vチューバーとして成り上がるスザク
登録者百五十万人を超える、ステラライブ所属の天羽ルナ。
デビューして間もないにもかかわらず、占い配信で何度も話題になっているスザク。
事務所同士の話し合いは、驚くほど簡単にまとまった。配信内容は、二人でホラーゲームを遊びながら雑談するというもの。
ただし、スザクがまともにゲームの進行へ従うのか分からない。そのため、本番の数日前に、顔合わせを兼ねた打ち合わせが行われることになった。
◆◆◆
「初めまして。ステラライブ所属の天羽ルナです。本日はよろしくお願いいたします」
通話画面の中で、淡い金髪の少女が頭を下げた。普段の配信で使う、甘く柔らかな声。
しかし、今は配信中ではない。初対面の相手との仕事の打ち合わせということもあり、話し方は普段より落ち着いていた。
「炎魔導士のスザクよ。よろしく」
「はい。以前から配信を拝見していました。今回、ご一緒できて嬉しいです」
「そう」
開始から十秒で、会話が途切れた。スザクは椅子へ深く座り、既に帰りたそうな顔をしている。
普段とは違い、アバターではなく生身の人間同士の話し合い。スザクを一目見た時の彼女の印象は……苛烈であった。
燃えるような瞳に、紅蓮の髪。どことなくオーラも燃えたぎるような何かを画像越しですら感じてしまうほどだ。何より、その太々しい態度。
(こ、これがスザクさんかぁ、なんか、すっごい大物みたいなオーラ感じる。あれ、新人のVチューバーじゃなかったっけ? 貫禄とかもすごいし、年齢とかも若そうなのに見た目とは真逆の印象かも)
初対面の大物配信者を前にしているという緊張が全くない。それどころか、太々しい態度が目立っていた。
「えっと……スザクさんは、ホラーゲームの配信は何度か経験されていますよね?」
「あるわよ」
「今回のゲームについては、もう確認されましたか?」
「少しだけ見たわ。敵を倒せないやつでしょ」
「はい。追いかけてくる怪物から逃げながら、古い家を探索するゲームです」
「なんで倒せないの?」
「そういうゲームですので……」
「そう……知り合いはすぐ倒そうとするから、こういうのあんまり納得できないのよね。やりづらいというか」
スザクが、心底納得できないという顔をする。ルナは困ったように笑うしかなった。
「スザクさんは、前のホラーゲームでも怪物へ殴りかかろうとされていましたよね」
「癖でね。知り合いがすぐ倒そうとするから」
「知り合いすごい倒そうとする人なんですね」
互いに軽く雑談を終える。すると同席している双方のマネージャーが、配信の進行表を共有することにした。
開始から十分ほど雑談。
その後、ホラーゲームを開始する。軽くテストなどをしたりして、途中で休憩を挟み、配信時間は三時間前後を予定していた。
「それでは、配信中の呼び方も決めておきましょうか」
ルナのマネージャーが言った。
「私は、スザクさんとお呼びしても大丈夫でしょうか?」
「好きに呼べばいいわ」
「ありがとうございます。スザクさんは、私のことをルナと呼んでください」
「分かったわ、ルナ」
名前を呼ばれただけだ。それなのに、ルナは僅かに姿勢を正してしまう。スザクが名前を呼ぶ時……どこか、冷めたような物言いに少しだけ、緊張感が走った。
「どうしたの?」
「い、いえ、別に何も。その、スザクさんは、普段どのようなゲームをされるのですか?」
「RPGが多いわね」
「配信でもしていらっしゃいますよね」
「配信外でもしてるわね、まぁRPGは面白いし。人間にしては大したものを作ったと思ってるわ」
「人間にしては……な、なるほど。配信外でもキャラを徹底されてるんですね」
「……あぁ、そういうことでいいわ」
スザクは、それ以上説明しなかった。人間にしては、なんてまるで人間ではないと言っているようなものなのだが、ルナはそれを彼女が配信の外でもキャラ設定を遵守していると勘違いをした。
(人間にしては……まるで人間じゃない存在が人間を表する言い回しに聞こえるけど。まぁ、キャラの徹底だよね。すごいなぁ)
やがて、ルナのマネージャーが一つの提案をした。
「今回、ゲームを始める前に、短い占い企画を入れるのはいかがでしょうか」
「私を占っていただく、ということでしょうか?」
「はい。スザクさんの占いは注目されていますし、今回のコラボを楽しみにしている視聴者も多いと思います」
ルナはスザクを見る。
「お願いしてもよろしいですか?」
「別にいいわよ。生年月日は?」
あまりにも簡単に聞かれ、ルナは少し戸惑った。誕生日は公式プロフィールでも公開している。ただし、生年までは出していないのである。
しかし、今は配信中ではない。そのため、本当の生年月日を伝えた。
「生まれた時間も分かる?」
「申し訳ありません。朝だったとは聞いていますが、詳しい時間までは覚えていません」
「それくらいなら、なくてもいいわ」
「何か道具は必要ないのですか?」
「何の道具?」
「カードや水晶などを使われるのかと」
「いらないわよ」
スザクが黙った。カードも、水晶も、占いに使いそうな物は机へ出ていない。ただ画面越しに、ルナを見ているだけだ。
(占いっていうから、それっぽい動画とか使うと思ったんだけど。違うんだ。なんか、こっち見てるだけだし……でも、なんか、本格的な感じがすする。あの赤い瞳が全部見透かしてるような……)
その瞳に、ルナは自分の内側を覗かれているような気分になった。
「仕事は、しばらく順調ね」
数秒後、スザクが口を開いた。
「近いうちに、大きな企画へ参加する。歌か、舞台か。その辺り」
「えっ……」
ルナは思わず声を上げた。まだ公表されていないが、半年後にステラライブの大型ライブが予定されている。
ルナも中心メンバーの一人として参加することが決まっていた。
「健康も大きな問題はない。ただ、寝不足ね」
「それについては、心当たりがあります」
「もう少し寝なさい。そのままだと、健康を害するわよ」
「気をつけます」
「それと……あぁ、最近なんか、あったでしょ」
ルナの表情が、僅かに止まった。
「何か……?」
「えぇ。心当たりあるでしょ。別にとぼけても構わないけど」
「……あ、えと、その」
「言い淀むなら、別に言う必要はないわ。ただ、アンタの周りに影がある。何かにつけられてるでしょ。つけてるのは人間ね。これはまぁ、運がいいとも言えるわ」
ルナは何も答えなかった。隣で聞いていたマネージャーも、表情を変える。
「つ、つけられてる?」
「えぇ、人間の男ね」
心臓が、大きく鳴った。ルナは表情を崩さないようにした。配信者である以上、自分の顔を守ることには慣れている。予想外の事故や失言があっても、画面の前では笑える。
それでも、今は少し難しかった。
「……それは、どんな人なんですか? 私とわかってつけてる、ということはファンということでしょうか?」
「ある意味では、そうとも言えるかもね」
スザクは興味を失ったように椅子へ背を預けた。
「で、こっから本題だけど、あんたの知り合いの誰かが、その男と通じてる」
ルナは息を呑んだ。最近起きていることを、スザクへは話していない。
自宅へ送られてきた大量の手紙のことも、玄関前へ置かれた山積みの菓子も……そして、外から撮られた自分の写真。
(なんで……もしかして、知ってるの? 私がずっと……誰かにつけられてるのをッ)
それらについて知っているのは、事務所と警察。そして、ごく少数の身近な人間だけだった。だが、彼女は一目見ただけで、何かを掴んでいるような言動である。
「……他にも、何か見えますか?」
「さぁ、大雑把しか見えないし。ただ、アンタそんなに知り合い多いタイプじゃないでしょ。その中で一番縁が高い人間が怪しいかしらね」
「……一番縁が高い人間……?」
「あぁ、でも横にいるマネージャーは問題ないわよ。それがつけてる犯人ではないみたいだけど。まぁ、一番仲のいい人間でも疑ってみたら?」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
ルナは頭を下げた。そこで、マネージャーが配信の話へ戻す。
「えっと、本番では、仕事運の部分を中心に扱いましょう。まだ発表できない企画もあると思いますので、詳しい内容には触れない形で」
「承知しました」
ルナも笑顔を戻した。そのまま打ち合わせは終了した。最後まで、ストーカー被害について詳しく話すことはなかった。
(さっきの占いは本当……それとも、誰にでも当てはまることを言っただけ?)
有名な配信者なら、人間関係の問題くらい抱えている。友人や仕事仲間に悩まされている人も多い。
男に見られているという話も、女性配信者には当てはまりやすいだろう。それらしいことを言い、相手の反応を見ている可能性もある。
占いとは、そういうものなのかもしれない。
そう考えれば、何も不思議ではなかった。しかし、通話を切った後も、その彼女の占いの結果は頭に残った。
◆◆◆
天羽ルナの周囲で異変が始まったのは、三か月前だった。
最初は、手紙から始まったのだ。
事務所宛てのファンレターではない。自宅マンションの郵便受けに、直接入っていた。
封筒に宛名はなく、切手も貼られていない。そして、中には、短い文章だけが書かれていた。
いつも見ています。
君が悪い文章。しかし、何かの間違いかと思い、その時はそこまで気に留めなかった。
だが、それでは終わらない。次は、一週間後。玄関の前へ、小さな紙袋が置かれていた。中には、ルナが配信中に好きだと話した菓子が見える。
「これ……私が好きって言ったやつ……?」
買おうと思えば、どこでも買える物だった。だが、その商品の話をしたのは、前日の配信。
そこまでで、流石に察してしまった。送り主はルナの配信を見ており、自宅まで知っている。
その事実に、すぐに管理会社へ連絡した。防犯カメラも確認し、あらゆる事を調べた。しかし、怪しい人間は映っていない。
(どうやって……そもそも、誰がやってるの)
不安な気持ちが彼女に溢れた。何もかもが分からないまま、だからだろう。
このマンションは、入口で鍵を使わなければエレベーターを動かせない。廊下にも複数の防犯カメラが設置されており、管理人も常駐している。
住民か、正式に中へ入った人間でなければ、玄関まで来るのは難しい。ある程度は推測できても、決定的な証拠はない。
──そして、そこからも異変は続く。次々と家の前に何かが置かれている。
あまりに続く不審な出来事に、彼女は事務所と警察へ相談した。そこから、引っ越しもした。
住所を知る人間は、家族と事務所の一部スタッフ。それから、ごく少数の友人だけに絞った。
それでも、二週間後には新しい郵便受けへ手紙が入っていた。
引っ越したんだね。
前より静かで良さそう。
その文章を読んだ時、ルナは玄関へ鍵を掛けた。
「だ、誰、誰なの? 誰が、私の、ことを……?」
既に掛かっていることを確認し、もう一度鍵を回した。チェーンも掛け、カーテンを閉じ、全ての窓を確認する。
それでも、見られているような感覚は消えなかった。
◆◆◆
「また来たの?」
電話の向こうから、友人の声がした。
「うん。今度は写真」
「警察には?」
「持っていった。でも、相手が誰か分からないから、しばらく警戒してくださいって」
「それだけ?」
「巡回は増やしてくれるみたい」
ルナはソファへ座り、膝を抱えた。電話の相手は、
そして、友人の奈々美も個人で配信活動をしている。ルナがまだ視聴者百人にも届かなかった頃、同じゲームへ参加したことがきっかけで知り合った。
そこから、二人はずっと友人として過ごしている。ルナが人気配信者となり、そこからステラライブへ所属した後も、関係は変わらなかった。
ずっと、ずっと仲のいい友達。それが二人の関係だ。趣味も合うし、趣向も同じ、二人はまさに親友とも言えるだろう。二人は、どこか似た者同士だった。
ただ、違うことがあるとすれば奈々美のチャンネルは、まだ登録者一万人に届いていないくらいだろうか。
しかし、登録者の大きさなど関係ない。ルナはそう思っていた。
「ルナ、位置情報はまだ私と共有してるよね?」
「うん」
「何かあった時のために、そのままにしておいて。すぐ警察へ連絡できるから」
「ありがとう」
「当たり前でしょ。友達なんだから」
その言葉を聞くと、少しだけ安心できた。そして、ふと思い出したスザクから言われたことも伝える。
「身近な人を疑え、か」
「……適当に言っただけかもしれないけど」
「占いなんて、大体そういうものでしょ。誰にでも当てはまることを言って、相手の反応を見てるんだよ」
「でも、男のことまで言われた」
「ルナが女のVチューバーだからじゃない? 男のファンに狙われるなんて、想像しやすいでしょ」
「そう、だよね」
「気にしすぎない方がいいよ。そんな占いより、警察と事務所を信じな」
そう言われて、ルナは素直に納得をした。知らない占い師よりも、ずっと付き合いのある友達の言葉を信じるのは当たり前なのだろう。
◆◆◆
数日後。
ルナは仕事の帰りに、駅前の店へ立ち寄った。
帽子と眼鏡、マスクをつけて、ばれないように心がけた。なにより配信で使っている声も出さない。徹底した身バレ防止。
だが、それでも店を出てから十分ほど歩いた頃、同じ男が後ろにいることへ気づいた。
黒い上着を着た大きな体。顔は帽子で隠れている。その男はどこまでもどこまでも彼女を追い続ける。
(やっぱり、あの人。前にも見たことがある気がするッ。あの人がストーカー? 分からないけど、早く距離取らないと……)
右に曲がれば曲がり、左に曲がれば曲がり追い続けてくる。次第に距離が小さくなっているような気がして……人通りの多い通りまで出て、すぐにタクシーへ乗る。
「どちらまで?」
自宅の住所を言いかけ、やめた。
(この人も信用が出来ない……)
彼女は疑心暗鬼になっていたのだろう。誰を信じていいのか、逆に誰を信じないべきなのか、それが混濁している。
「このまま、しばらく走ってください」
乱れた呼吸を整えて、後ろを見る。流石に男は追ってこなかった。それでも、体の震えは止まらない。自宅へ戻った後、すぐに奈々美へ連絡をする。
「もう、そこに住むのはやめた方がいいよ」
「引っ越したばかりだよ」
「でも、住所がばれてるんでしょ?」
「事務所が、また別の場所を探してくれてる」
「決まるまで、私の家に来たら?」
ルナは返事をしなかった。いや、すぐには出来なかったというべきだろう。
(奈々美は大丈夫、だよね。本当に安心ができる人なんだよね……親友だもんね……? でも、スザクさんは親しい人を怪し目って言ってた。でも、スザクさんも本当に信用できる人……?)
頭の中で誰が信頼できるのか。分からなくなっていった。だが、親友である奈々美と電話をしていると、安心するの事実だった。
「私の家なら、その男も知らないでしょ。ルナがうちに来たこともないし」
「……そっか、そうだよね。でも、迷惑じゃない?」
「一人増えるくらい平気だよ。配信機材しか置いてないから、寝る場所もあるし」
何を信じていいのか迷い続けるルナ。だが、最後に選んだのは……
(うん、大丈夫。奈々美は親友だし……大丈夫、大丈夫。大丈夫)
「……じゃあ、お願いしようかな」
「うん。今日来なよ」
「今から?」
「早い方がいいでしょ。住所を送る」
すぐにメッセージが届いた。駅から少し離れた場所にある、古いアパートだった。奈々美は最近引っ越したと言っていたので、まだ遊びに行ったことはない。
「分かった。準備して向かうね」
「待ってる」
そう言って、通話を切る。
そして、ルナは最低限の荷物を鞄へ入れた。さらに玄関を出る前に、防犯カメラの映像をスマホで確認する。
廊下には誰もいないようだ。マンションを出て、駅へ向かう。そして、あえて人通りの多い道を選ぶ。
そして、駅についてから、改札を抜けてホームで電車を待つ。奈々美の家まで、三駅ほどで到着する。あと数分で電車が来るだろう、その時スマホが鳴った。
──知らない番号だった。
(誰、これ……ストーカー、から? 出ない方が、いいかな)
出ないようにしよう、そう思った。だが、着信は止まらなかった。周囲に人がいることを確認してから、通話へ出る。
「……もしもし」
『出るの遅い』
それは男性とは正反対な甲高い声だ。なにより聞き覚えのある、気怠そうな声。
「あ、え、えと、スザクさん?」
『そうよ』
「ど、どうして、私の番号を?」
『アンタのマネージャーに頼まれた。最近、ストーカーが多いから、占いで何か分かれば教えてあげてって』
「ま、マネージャーに……?」
『面倒だけどね』
「す、すいません」
『まぁ、コラボ前に死なれちゃ……困るし』
電車がホームへ入ってくる。金属音に、スザクの声が重なった。
「……え?」
『だから、そのまま行ったら死ぬって言ったの』
「どういう意味ですか?」
『そのままよ。アンタが善意で塗装された地獄の道を歩いてるから、知らせてあげたの』
──死ぬ。
その事実に、彼女はしばらく放心状態になってしまう。
『それで、今どこ?』
「い、今は――」
ルナは反射的に、駅名を答えてしまった。
『ふーん。そっちね』
「スザクさん、待ってください。私はどうすれば――」
『あー、そうね。まぁ、とりあえず、ちょっと待ってなさい。別件で用事があって、ついでに会ってあげるから』
通話が切れた。目の前で電車の扉が開く。
もう、何を信じていいのか分からない……ルナは、電車に乗ることができなかった。
お久しぶりです! 一巻発売して一ヶ月が経ちました。買ってくれた方々本当にありがとうございます!
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こちらの新作の枠とかに話題として入れると、もうちょっと売り上げとかも変わるかなと思ったりするので、是非ともお願いします!!
さて、暗い話ばかりでもあれなので現在コミカライズも視野に入っております。かなり漫画としても素晴らしいので是非とも楽しみにしていただけると。それまでは週1回、くらいでは更新を続けていこうと思います。
元々、第一部は日本編みたいなイメージでしたのでそこまではちゃんと完結をさせていこうと思ってます。
そして、最後に、買ってくれた方応援してくれた方、本当にありがとうございます、これからもお付き合いください。それじゃ、また来週くらいに!!